~第2幕~
東京の赤坂。いや、港区といったほうがいいのだろうか。ここに芸能界のドンと謳われる男がいた。彼は真っ赤な高級ソファーに腰掛けて太い葉巻を口に咥えその機関誌を読んでいる――
「失礼します!」
眩しいぐらいのシャンデリアがビシッと張りつめている天井。
その目下。緊張するように入室してきたのは日本芸能事務所トップ5の社長に鎮座する大浜秀明と歌池悟志。彼らが目の前にするのはこれまで芸能界のドンと崇められて恐れられた男。
「ご苦労。闇岡はどうした?」
ドレッドにして束ねている赤い髪は父親がポーランド系移民であり、その息子である証。目には三本の切り傷があり、何よりその日本人離れした大きな図体は彼が今の彼でなくとも畏怖させてしまう雰囲気を醸しだしているだろう。
藤崎武来庵。
日本一の演歌歌手と謳われた富士ひばるの一人息子だ。彼は母のマネージャーとしての仕事をひばるの母、陽代美が亡き後に担った。当時レコード会社で最強とされたポニータと同社に所属していた母が対立。彼女の歌手活動を支える為に遅咲きながら大学をでて芸能事務所を設立した。
ひばるを慕う芸能関係者は多い。ひばるがポニータを退社すると彼女についてゆくように多くの芸能プロダクションから有名どころの歌手や俳優が移籍をする。数年後に武来庵が立ち上げたギャロップは日本で最高額の収益をだす芸能事務所となった。遂には母の面倒をみていたポニータ買収までもやりとげる。そして昭和から平成、平成から令和と日本最高の芸能事務所を率いて立つことに。
意外に思われるが、令和の今となってギャロップ所属タレントは少ない。今や国民的女優と慕われている山田エヴァ万桜をはじめ、その母やバラエティ番組等で司会を務める大御所述べ16名ほどだ。
ではその16名だけで最強の芸能事務所となったのだろうか? これは違う。ギャロップは最強の芸能事務所となってゆくなかで傘下となる子会社をドンドン作ってゆく。新たに立ち上がった芸能事務所を支援するという事にして事実上の買収や傘下入りをさせていく形をとっているのだ。
武来庵は思春期より暴れん坊と恐れられたヤンチャ坊主だった。高校を中退し、遂にはヤクザ入りも果たす。ところが目に大きな傷を負う事で何の出世もすることなく引退。母を追うように演歌歌手としてのデビューもするも全く売れず。
彼は母のことを幼少時より嫌っていた。豪邸の家にいても酒を呑んでばかりで息子のことなど何にも気にしてないのだ。この目に傷を負ったのも母からの差し金がキッカケだったと知り尚更に。
「アンタ、ひばるの母さん、長くないんだよ。向き合ったらどうなんだい」
演歌の師匠からそう言われて知る。ひばるはポニータとの確執がはじまった頃より重病に侵されていた。
「おふくろ、もういいんじゃないか?」
「何が?」
「充分稼いできた。最後は息子の俺と世界でもまわってみないか?」
バチン!
武来庵の頬は激しく叩かれた。
「このドラ息子が!! お前に何が分かる!! 私にとって歌は命なんだよ!! あのしょうもないポーランド男と同じことを言いやがって!! お前はアイツと同じで男らしくもねぇんだ!! 二度と私の目の間にくるな!!」
「おふくろ……すまん……じゃあ、おふくろが最後の最後に命散るまで、息子の俺はおふくろとおふくろの歌を支えたい……それは駄目か……」
「庵……」
「え……」
いつぶりだろうか。きっとまだ背丈が今の半分にも満たないほどに小さなガキだった頃以来だ。母から「庵」と呼ばれたのは。
彼は一大決心をした。その心は誰よりも強いものだと信じられた。
「いいかい。頼ってくれる奴の面倒は死んでもみなよ。私はそうしてきた」
病室で母が自分に残してくれた言葉はこうだ。
閉じていた目を開ける。
機関紙には「ムーンライト上場で即ダテケン侵攻」とある。
顔をあげると誰よりも自分を慕ってくれる子分が2人。
「何か言ったらどうだ?」
「…………」
「…………」
「お前らも吸ってみるか?」
「いえ。私は非喫煙者です」
「僕も……お酒も駄目です」
武来庵は「はぁ」とため息をつく。そして再び太い葉巻を咥える。
目の前にいるのは芸能事務所トップ5の虚・ミゼラブル社長である大浜秀明とトップ4のレッドカーペット社長である歌池悟志。
だけど今目の前にいる彼らはどこかそんな肩書きもないようだ。
ギャロップグループの新鋭ながらも一大勢力を築いているムーンライトはその企業価値を高める為に上場企業へ名乗りでた。それから間もなくしてクリスタルエデンの伊達賢治が完全な買収をすると公明正大に宣言したのである。
「何者なんだよ? このダテケンって奴はよぉ?」
「分かりません。ただ、僕はこういう事もあり得るから上場はやめろと助言しました。あの吉原買収騒動からまだ数年経ったばかりですし」
「私も。でも、あの姉弟は言う事を聞かなくって」
「俺のところにも来ないからな。ビビっているのかどうか知らねぇけど。それでダテケンっていうのを俺のところへ呼べるのか?」
「えっ?」
「あの、闇岡じゃなくて? ですか?」
「当たり前だ。こんなもん、俺が白い騎士になれば済む話だろうが? そういうふうに闇岡にも言え。お前らのどっちかがどっちをやる。お前らの取り分はその内容を俺がみてから決める。それでどうだい?」
「わ! 分かりました!」
「ただちに!」
武来庵は「可愛い奴らめ」と口にはださず、心の内にとどめる事にした。伊達賢治。気になっていた存在だが彼との対面は如何様になるか――
読了ありがとうございます(*´ω`*)
庵ちゃんがモデルの藤崎武来庵が登場しました(笑)ろっくタケシと違った芸能界の大御所ですが、この章で重要人物となるキャラクターです。大浜英影は名高達夫さんのイメージ。歌池悟志は光石研さんのイメージです。武来庵は誰だろうね……誰でしょう(笑)次号(*´ω`*)m9




