~第2幕~
綺羅めくるは一時代を築いたトップアイドル。
ただ、何でも言ってしまう彼女の性格が誤解を生じさせてトップアイドルの座から急落した。これには諸説あり、彼女のマネージャーが変わったことによって彼女のメンタルやマインドに悪影響を及ぼしたという見方も世間ではある。
しかし、彼女の代表曲ともなった「うっせぇよ」の歴史的な特大ヒットにより日本のトップアイドルどころか日本のトップミュージシャンとしての地位を確立。その後も2~3カ月おきに新曲をだしてオリポン1位を次々と樹立。
あの華崎鮎美が成し遂げようとしたピンクガールの記憶を塗り替えようとした矢先の引退宣言。事情は違うが華崎鮎美の引退をまるで彷彿とさせる。
賢治のスマホが鳴る。クリスタルエデン専務の松井からだ。
「もしもし」
『もしもし。社長。報道は観られましたか?』
「ああ、テレビをつけたらやっていて驚いた」
『私のほうへ連絡がありまして。新田という例のマネージャーからもですが』
「そうか。これって女優業の引退までするっていう話か?」
『いや、それはないようです。ですが、彼女の声を聴いたら分かるでしょ?』
「声」
ニュースの内容が衝撃過ぎて聴きそびれたが、彼女の声は確かに掠れ声だった。
めくるは『うっせぇよ』の歌唱を一生懸命し続けたせいで声帯に障害を負ったとの事。
「それで? そうなるとどうなる?」
『社長、お忘れですか? ドロップアウトで彼女が歌を歌うってパートがあったでしょう?』
あ。という声がでそうになる。そうだ。第2章で彼女は「MUGEN」という歌を歌うのだ。その新曲をリリースして、オリポン1位を獲ることで彼女は女性アーティストとしてのオリポン歴代1位取得数を獲るということになるのだが――
「先方の出方を伺おう。彼女の事務所トップそして彼女の近くにいるスタッフ、何より彼女の意向があるだろう。彼女と直接話せるのがいいが……どうだ?」
『まず私に新田というマネージャーから面会の申し出がありまして』
「そうか。状況を把握しろ。どのようなことを言われても否定をするな。頷いて寄り添え。そしてそのまま俺に報告しろ。いいな」
『わ、わかりました!』
電話を切る。そして再びウィスキーを手に持ってグッとそれを飲む。
「呑み助の割には冷静沈着じゃないか。あんちゃん」
「そうでなくちゃ俺は俺でいられないのよ」
ドロップアウトの製作を揺るがす出来事に賢治は立ち向かうしかなかった――
松井はクリスタルエデン本社で綺羅めくるのマネージャーである新田を迎えた。丁寧に挨拶を交わし彼女から事情を伺う。それは思った以上に深刻なものであり、ドロップアウトの製作にも当然影響を与えるものだった。