真実のはじまりーⅢ
豪雨の中を接近してくるにつれて、徐々に灰色の影の実態が見えてくると、僕はその姿に驚愕した。
「アタッカー!」思わず声が出た。
それは子供の頃から何度もVR映像で刷り込まれてきた姿そのものだった。
あまりにも突然の出来事に、僕の頭の中はこれは現実なのかと疑う気持ちと、目の前の危険をどう逃れるかでパニックに陥っていた。
それでも、子供の頃から嫌というほど詰め込まれたアタッカーの行動パターンシミレーションが頭に浮かぶ。
おそらく先ほどの爆発はアタッカーが装備している、内蔵型無反動砲から発射された砲弾だろう。そして、こちらに向かってきて至近距離から攻撃するなら、非可視型レーザーシステムの可能性が高い。レーザーであれば、災害シェルターも兼ねているこの繊維補強コンクリート製の建物でも、あっけなく破壊されてしまうだろう。
死ぬかもしれない。
身体中が恐怖に支配され、僕は緊急時マニュアルも忘れて床に座り込んでしまった。
建物内には不快な警報音が響き渡り、その音がさらに恐怖を駆り立てる。
震える身体をなんとか動かして窓外に目をやると、アタッカーはすでに診療所のすぐ近くまで迫っていた。3階建ての診療所とほぼ同じ大きさをした銀色の躯体からは、滝のように雨水が流れ落ちている。
頭部に設置された単眼光学式カメラが忙しなく周囲を探知していたかと思うと、突然、建物が揺れて、身体中に小石のようなものが飛んできた。
思わず目をつむる。
すると、今度は身体に冷たいものが打ちつける感覚があった。恐る恐る目を開けると、灰色の空が見える。
雨だ。室内に雨が降っていた。
診療所の建物が、アタッカーの非可視型レーザーで両断されてしまったのだ。切断されたもう一方の建物は、ガラガラと自重で崩れていく。
もうダメだ。アタッカーに殺されるなんて…、これは現実、なのか?
まるで模型のように大きく開放された室内を、アタッカーの頭部カメラが小刻みに動きながら探索する。
そして、その動きはすぐに止まった。
見つかった!
そう思った瞬間、金属同士がぶつかる大きく鈍い音と爆発音がして、同時に建物が大きく揺れた。周囲には白い煙が立ち込める。
僕は何が起こったかわからずに周囲を見回すと、アタッカーの姿が見当たらない。
だが、視線を下方に移すと、アタッカーが地面に仰向けに倒れている姿が見えた。胸の部分に損傷を受けているようで、そこから白煙が上がっていた。