真実のはじまりーⅡ
腕に装着した検査ユニットに青いLEDが点灯してモニタリングの完了を知らせる。
「今日の簡易検査は大丈夫みたいね。あとは、昨日の全身精密検査の結果待ちになるわね。多分、あと2時間位で本土の医療センターからデータが届くと思う」
「じゃあ、あと2時間で開放かー、やった!」
「やった、じゃないの。午後からは防衛訓練をやるからね」
検査機器を片付けながら、アマノさんは、さも当然のように言った。
「えっ、そんなの聞いてないよ!」
「ええ、今言ったんだもの。じゃあ、検査データが届いたらまた来るわね」
アマノさんは、すました顔でそう言うと病室から出ていった。
僕は、その後姿を見ながらため息をつく。防衛訓練は好きじゃない。
アタッカーから身を守るための防衛訓練は、緊急時の避難方法や武器の扱い方、アタッカーの行動パターンなどの習得と身体訓練をするものだ。
僕は子供の頃から武器や軍用機などには興味があり、現在この島や本土にある軍装備は、ほぼ頭に入っている。本土の学校の友だちからは、軍事オタクと言われることもある。
しかし、実際の訓練となると、運動が苦手なせいもあり、苦痛でしかない。
小学生の頃から嫌々続けてきたのだが、最近ではそもそも防衛訓練なんて、本当に必要なのだろうかと思うようになっていた。
ニュースアーカイブで検索しても、島の人に聞いても、17年間、つまり僕が生まれる前から、アタッカーは世界中のどこにも出現していない。
それに、50年前から突然現れて、正体不明で、ただ人間を襲い続ける巨大ロボットなんて…、子供の頃には信じていたけど、最近ではあまりにも現実離れしている気がしていた。
僕はもう一度深くため息をついて、憂鬱な気分で窓の外を見た。先程よりも雨が激しくなっていて、漁港に停泊している船は灰色の膜がかかったように、ほとんど輪郭だけしか見えない。
ほかにすることもなくぼんやりと漁港を見ていると、少し奇妙なことに気づいた。船影とは明らかに別の輪郭をした影が海面から岸壁へと移動しているのだ。のそのそと蠢く灰色の影は、最初はイノシシかと思った。たまに近隣の島から泳いでくるヤツもいるからだ。
しかし、停泊している船と比較すると、明らかにもっと巨大な何かだった。
灰色の影は岸壁に這い上がると2本脚で立ち上がった。その大きさは漁港の建物と比べると、10メートルはあるかもしれない。煙るような雨の中、シルエットしか確認できないが、頭部は小さくて、胴体がそれに比べて異常に大きく、脚はそれほど長くない。
僕はその異様な灰色の影をさらに観察しようと思い、窓に顔を近づけて目を凝らす。
すると次の瞬間、灰色の影の胴体部分からオレンジ色の炎が吹き上がり、激しい振動とともに診療所のすぐ手前で何かが爆発した。
金属片のようなものが2階にある病室の窓を直撃して、聞いたこともないような大きな音を立てる。
僕は驚いて反射的に窓から身を引いた。窓の強化ガラスが少しヒビ割れている。
何が起こったかわからずに、窓から距離を置いて外の様子を窺うと、灰色の影が2足歩行でこちらに向かって来る。