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7 姉の襲来

執務室に備えられている来客用のソファーには穢らわしいものを見るような目つきで姉が座り、その横にはモジモジと顔を赤らめている姫がいる。


対する俺はテーブルを挟んだ反対側の椅子に腰掛けるのではなく、床に正座していた。

ノアールは、『紅茶の準備をしてまいります。』とさらっと逃げた。



あの野郎!!!







「お前、どういうつもりなの?どう落とし前つけるつもりなの?」

姉が射殺さんとするような目を俺に向ける。

もう勇者と言うよりヤクザかなにかじゃないんだろうか。


「すいません……あの…ちょっとフザケてただけで……別にノアールとは何とも……」

縮こまりながら弁明する。


「そんな事を聞いているんじゃない!!!」

ベシッとテーブルを叩かれて、俺の肩が跳ねた。

俺は昔から姉に頭が上がらない。だって勝てた事が一度もないから。


「先ほどの見苦しい姿はさておき、お前………この一ヶ月一度もフォルティナ様に会いに来なかったそうじゃない。」


「それは…………領地の仕事が忙しくて…………。」

姉の温度の感じない冷たい瞳に見つめられ心の底から寒くなる。

恐ろしいほど整った美貌が凄む様は凍えるほど迫力があるのだ。


「ご挨拶に伺うくらいの時間は取れたでしょ!!!」


「………………………………………………………。」


領地の仕事が忙しかったのは本当だ。

特にこの一ヶ月は "冬どうやって越そう問題" で毎日毎日忙しく駆けずり回っていたんだから。


でも、フォルティナ姫を避けていたのも本当だった………………。


子供のように黙り込んでしまった俺に姉が大きなため息を吐く。


「本当にこの愚弟は!本来であれば至上の宝玉たるフォルティナ様を娶る事が出来た栄誉に打ち震えながら神々…、いいえ女神フォルティナ様に感謝し、身を粉にして尊き御身の為に働き、死に物狂いで愛を乞うのが筋と言うもの!!それをお前ときたら!!!」


「ヴァ、ヴァレリア、わ、わたしはそんな、大丈夫だからっ!お、お仕事が忙しいって、わ、わ、わかっているから!」


フォルティナ姫がどもりながらも一生懸命に姉をなだめている。


申し訳ない。


「フォルティナ様!なんとお優しい!

しかしこの愚弟をかばう必要などまったくございませんわ!!

フォルティナ様を無視するなどと身の程知らずも甚だしい!!

なにゆえの愚行なのか申し開き出来るものならしてみなさい!!!」


ビシッと効果音がつきそうな勢いで俺を指差す。


一方的にまくし立てる姉の態度に段々と腹がたってくる。


『いったい誰のせいだと思ってるんだ!!!』

叫びたい衝動を抑えて恨めしげに姉を見据える。


「……………何です、その恨みがましい目は………。」

姉のこめかみがピクリと動く。


姉と睨み合うこと数秒。



「ヴァレリア様……どうぞそれくらいでご勘弁下さい。」


先程俺を裏切って逃げた親友(心友から格下げだ)イケメン眼鏡が紅茶の乗ったワゴンを押して部屋に入ってきた。


「ダルシオンは連日の業務が忙しく3日寝ておりませんゆえ。」

優雅な手つきでテーブルにお茶をセッティングし、姫に向かって胸に手を当て礼をすると執事然とした態度で俺の脇に控えた。


『さっきまでの俺への態度と随分違うな!このやろう〜!!』


心の中で悪態をつく。



「はぁ、まったく……お父様とノアールが甘やかすから。」

ムッとしてもう一度姉を睨んだ。


俺だってフォルティナ姫への態度が褒められたものじゃないことはわかっている。

分かってはいる、分かってはいるが……………………気まずいのだ。



半年前の公開プロポーズの後、フォルティナ姫との婚姻は姉のゴリ押しと驚くべき行動力であっと言う間に執り行なわれた。


その日の内に王都の教会の司祭をおど………説得し婚姻の承認を認めさせると、あっという間に手続きを終わらせて王家からもぎ取った侯爵領へと俺達を送り出した。自身は王都での処理を済ませてから行くと言って。


結婚式は侯爵領が落ち着いたら改めてと言うことになり、婚姻届一枚にフォルティナ姫と俺は署名をするだけで夫婦となった。


目を白黒させながら慌ただしく到着した侯爵領の城で、はじめて妻となったフォルティナ姫と二人きりで向き合う時がやってきた。


初夜だ


謁見の大広間で覚悟を決めたつもりだったし、最後は気を失う情けないプロポーズではあったがフォルティナ姫に求婚するのを決断したのは最終的には自分だ。


自分に出来ることは精一杯頑張ってフォルティナ姫を守ろう、心が通じ合えるように一生懸命努めようと思っていたが、フォルティナ姫はどう思っているだろうかと不安だった。


結婚に了承してくれたが、状況的に頷くしかなく本当は俺のような冴えない男と(めあわ)せられて嫌なんじゃないだろうか?


手を取ってくれるまでだいぶ間があったし………などなど候爵領に着く道すがら悶々と悩んだりしていた。


領主の部屋の寝室で、ひと足早く入室した俺は心臓がバクバクになりながらフォルティナ姫が来るのを待っていた。


コンコンと控えめなノックがして、返事をすると湯浴みを終えたフォルティナ姫が顔を出す。


緊張でおかしくなりそうな心を抑えつけ、俺に出来る限りの丁寧な所作で丁重にフォルティナ姫を寝室のベットへと導いて姫の足元に片膝をついた。


「このように急なことになり、満足な準備も整わず姫君には色々とご不快なことかと存じます。卑賎な身ではございますが、フォルティナ姫様にお認めいただける夫となれるよう誠心誠意努めて参る所存です。


本日は初夜でこざいますが、無理強いするつもりは毛頭ございません。

姫様のお心が整いますまで、御身に触れるようなことは致しませんのでどうぞご安心下さい!」


ずっと考えていた口上を一気に口にして頭を下げた。


縁あって夫婦になったのだ。俺も男だしいつかはと思うが無理矢理なんてしたくない。姫だってよく知りもしない俺に抱かれるなんてきっと嫌だろう。ゆっくりゆっくり距離を縮めていけたらいい。


下げた頭の頭頂部に姫の視線を感じる。


しばし沈黙が寝室を支配する。


ややあって姫が口を開く。



「あ、あの………、もしかして…後悔…されているのでしょうか…?」


「はっ………?ええっ!?」

想定外の返答に素の声をあげてしまう。


「あっ!だ、大丈夫です、気を使って頂かなくても分かってます。

わ、わたしったら勘違いして、恥ずかしい。

そうですよね!嫌ですよね!すいません!す、直ぐに部屋を出て行きますので、わたしのことはお気になさらずゆっくりお休み下さい。」

何を勘違いしたのか姫はさっと立ち上がると部屋を出ていこうとドアに向かっていく。


「ええええっ!!!ちょっ、ちょっと、ちょっと待ってください姫様!!?」

理由わけがわからず慌てて追いかけて手首を掴んで引き留める。


「ご、ごめんなさい気がつかなくて、成り行きでこんな烏を押し付けられただけなのに、厚かましく、つ、妻気取りで寝室にまで、お、おしかけて………。」

尻すぼみに小さくなっていく声を聞きながら王城の大広間で聞いた姫が浴びせられていた侮蔑の言葉の数々を思い出す。


『  無様な烏  』     


『  薄汚れた烏  』


………………………そうだった。


この人はいつもそんな悪意のある言葉や視線に晒されてきたのだ。

きっと今まで沢山の皮肉や当て擦るような悪口を言われてきたのだろう。


自分が好かれる事などないと思い込むほどに。


貴族はもって回った言い方で相手を貶める事が多いから俺の言葉も曲解してしまったのかもしれない。

小さく、縮こまっていた姫の姿を思い出し、ツキンと胸が痛くなる。



なら


両手で姫の両肩に触れ、目線が合うように少しかがんでハッキリと、しかしゆっくりと言い聞かせるように話しかける。


「違います!俺は、姫との婚姻に、1ミリも後悔なんてありません!!」


「姫に、触れないといったのは、俺が嫌なんじゃなくて、姫が、嫌なんじゃないかと思ったからです!」

覗き込んだ長い前髪の隙間から、見開かれた姫の黒い瞳が見えた。


黒曜石のように美しい瞳。綺麗だ。目が、釘付けになる


本当の意味で、初めて目が合った。


姫の顔をちゃんと見れたのも、この時が初めてだった。


心を込めて、姫の心に届くように、正直に気持ちをぶつける。



「俺は!姫と、本当の夫婦に、なりたいと思っています!!!」

ポポポっと姫の顔色が朱色に染まっていく。俺の顔もきっと真っ赤だろう。


可愛いなと思った。


「わ、わたし、わたしも…」

真っ赤に染めたまま、動揺したように視線を彷徨わせてから、


決心したように俺の瞳を見つめ返して



「ダ、ダルシオン様の、……妻に、なりたいです。」

潤んだ瞳に、はにかんだような、へにゃりと笑った笑顔。


ズドンッと心臓に稲妻が走った!


うん、我ながら単純だと思う。





コレイイカナ?コレイイヨネ?オユルシモデタシオーケーダヨネ?


「…………………………触れても?」


なけなしの理性で確認する。


恥ずかしそうにコクンと頷いた姫を抱えてベットに向かい



そして








そして







そして、いざ挑もうとしたその時、



ガシャーンという轟音と共に、



何かが寝室の窓ガラスを蹴破り、



その勢いのままに、その何かが俺にぶつかり、



ベットから俺を転がり落とし、



「こぉぉぉこの穢らわしい愚弟がぁぁぁぁぁぁ!!!


純真無垢なフォルティナ様に触れるなど10年早いわ!!


せめて己の血を一滴残らず捧げるくらいの覚悟を持ってから出直してこぉぉぉぉい!!!」





何かは遅れて侯爵領に到着した勇者な俺の姉で、


ベットから転がり落ちた時に無様にボロンと出てしまった俺の俺はヒュンっと縮んだ。


そんななっさけない姿を姫にばっちり見られた……………。


そこから立ち直るメンタルは俺には無かった………………。



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― 新着の感想 ―
コレは姉ちゃんが悪いな!!
お姉様…これはさすがに可哀想なのでは…弟さんも…姫も…
姉に初夜に邪魔されてスタンバイできる弟はこの世にはいないであろうな…… 大抵の世の姉の弟は姉に奴隷のように従わされる事を骨無に染み込まされているので、妻との夜を継続するのは無理でしょうね…。
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