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31 大広間の誓い

姫を追いかけて、王の間を出ると、王の間に続く階段下の踊り場で、佇んでいる姫を見つける。


近づけば、姫が声もなく泣いていた。


「……………姫様。」


「!………すいません。突然飛びだしたりして……。」


俺が追いかけてきた事に気づき姫が謝る。


やはり辛かったのかと心配になる。


決別したって、そんなスッパリ気持ちは切り替えられるものではないだろう。


「それは構いませんが、お一人で行かれるのは危ないです。

もし………時間が必要なら……俺も一緒にいさせて下さい。」


そう言うと姫が首を横に振る。


「もういいんです……。

ごめんなさい、あんな大口叩いておいて恥ずかしいです…。もう大丈夫です。

ただ…あの人達に、これ以上泣いている姿を見られたくなかっただけですから………。」


そう言って悲しげな顔をあげた。


「……………帰りましょうか。ここは何処もかしこも辛い思い出しかなくて、見ていると苦しくなります…。


それに………早く戻らないとロイルさんの事も心配です…。」



ロイルさんと言われて俺の心に苦いものが広がる。


襲撃された日、俺達を逃がす為に必死に戦ってくれたロイルさん。

ロイルさんは瀕死の状態で見つかった。


意識不明の重体で、俺達が王城に出発する時にも目が覚めておらず、

助かるか助からないか分からない危険な状態だったのだ。


「…………すいません。私が我が儘を言ったせいで………。」


姫が申し訳なさそうに俯く。


「いえ……姫様はロイル殿が目を覚まされてからでいいと仰っていました。

それに姫様のご希望とは別に俺達も王家に用がありましたから………。」


正直ロイルさんが心配で心配で堪らなかったのだが、イケメン眼鏡に言われたのだ。


『お前がここにいたからって、ロイルの意識が戻るわけでもない。

行くならさっさと行って、王の顔に三行半(みくだりはん)を突きつけてこい!』


そう言われどうしようかと逡巡していると、他の護衛騎士たちにも背中を押された。


『王家に決別の意思を示すなら、王国軍を撃破した今が一番効果的でしょうな。

ロイルには我々が付いております故、ご心配召されるな。』


『ロイルは強い男です。今まで何度も死地から生還しております。

何これくらいで、くたばる様なやわな男ではございません!』


『今なら王宮も手薄ですしな。自分のせいで好機を逃したなどと知ったら、

ロイルなら悲しみますぞ!ですから気にせず行って下され!』


そう言って、送り出してくれたのだ。


本当に辺境の騎士達の格好良さが半端ない。



チラリと踊り場の階段上にある王の間の方を見る。



『きっと今頃、姉が辺境の独立を、王達に突きつけている事だろう………。』


勅命があり辺境伯様から相談したいと連絡があった時、辺境及び辺境周辺の独立についての打診があった。


『もはや辺境に住まう者たちの気持ちは王家から離れてしまっている。

今回の王国軍の進軍で、領民の心は完全に王家から離れ、これ以上王家に従属することは不可能となるだろう。

それ故、王国軍を撃破した(あかつき)には、王家に対し辺境の独立を宣言するべきだ。』


辺境伯様の意見に俺も姉も賛同した。


だから姫様がここに来たいと言わなかったとしても、

最初から俺と姉は独立宣言の為にここに来る予定だったのだ。



今はもう独立宣言も姫の決別も済んだ。


確かにもうここには用はない。


姫ももう帰ろうと言っている。


ロイルさんのことを考えたら、正直すぐにでも侯爵領へ帰るべきだろうし、帰りたい。



でも………………。




「少しだけ…………王宮を散策しませんか?」


「えっ!?」


突然の俺の申し入れに、姫が驚きの声をあげる。


「実は俺、王宮に入ったの、姫様と初めて会ったあの式典が初めてだったんですよ。

だけどあの時はバタバタしていて、ゆっくり見るなんてこと出来なかったでしょう?

もう二度とここに来ることはないんだし、折角だから姫と一緒に見て回りたいなと思って。」


そう言った俺の言葉の意図が汲み取れず、姫が困惑の顔を向ける。


「えっ、えっ?で、でも…早く帰ったほうが……。

それに誰かに見つかって、騒がれてしまうかもしれませんし……。」


「大丈夫ですよ。姫の守護者に選ばれてから前より魔力に敏感になったみたいで、

誰か近づいて来たら直ぐ分かりますから。

ちょっとだけ見たら直ぐ帰ります。お願いします。」


渋る姫に懇願する。


「それに王宮にいた頃の姫様の3年間も知りたいんです。」


このまま帰ったら、王宮の辛かった思い出にただ蓋をする事になる。

辛かった思い出をそのままにしておくのは、あまり良くない事に思えたのだ。


『出来るなら、嫌な思い出は全部吐き出してもらいたい。』

『叶うなら、ほんの少しでも良い方へ上書き出来たらいい。』

そんな気持ちで姫に提案してみる。


「俺に、教えてもらえませんか?」


「……………ダルシオン様。」


困惑していた顔から少し困った顔になって、姫は頷いた。


「……………分かりました。」





それから俺達は王宮内を見て回った。


対外的な場所から王族の暮らすプライベートな部屋まで

余すことなく見て回る。


驚いたのは、先程いた王の間はとても豪華絢爛だったのに、

家具すら置いていない部屋が幾つもあったことだ。


補修もされずに穴が空いた場所まであった。


絵画や銅像などがあったのかも知れない跡が壁や床にあったので、かつてはもっと綺羅びやかな場所だったのだろう。


『私がいた頃は、もっと色んな物が置かれていたのに………。』


王宮の落魄ぶりに、姫も驚きを隠せないようだった。


最初は戸惑いがちだった姫も、見て回るうちに色々話してくれるようになった。


怒られたり虐められると隠れていた小さな隙間、お腹が減った時に忍び込んだ食糧庫、閉じ込められたリネン室などなど。


色んな場所をそこで起きた事を話しながら案内してくれた。


そして俺は、その場所その場所で色んな事をやらかした。


隠れていたと言う隙間には、ギチギチに挟まってみたり、食糧庫では、摘み食いをしたり、リネン室ではシーツをグチャグチャにして床を泡だらけにしてみた。


物を壊したり、落書きしたり、まるで子供のような悪戯を、行く先々でやって回ったのだ。


目をまん丸にしていた姫も、誘えば徐々に、一緒に悪戯してくれた。


そうして、二人で壁に落書きをしていると、


『私、まさか王宮の壁に落書きする日が来るとは思いませんでした。』


そう言って笑ってくれた。


途中から、俺の意図に気づいたのだろう。


『ありがとうございます。楽しいです。』


そう言ってくれた。



そうして、上手いこと見つからないように王宮を回っていたが、悪戯しすぎたのか王宮内が騒がしくなってくる。


使用人やメイド達の叫び声や悲鳴が聞こえて来た。


流石にそろそろ潮時かと思い、姫に最後に行きたいところはないか聞いてみた。



「それなら……大広間に行きたいです。」


「大広間ですか?」


大広間は数ヶ月前、あの勇者の式典をした場所だ。


姫様と初めて会った場所でもある。


少し離れた場所にあり、大きな式典等がない限り、普段は閉ざされ入れない。


扉の入り口にいた衛兵を、眠らせてしまえば誰も来ないので見つかる心配も少ない。


衛兵から失敬した鍵で扉を開ければ、あの式典のざわめきが嘘だったかのように、シーンとした静まった広々とした空間に窓から光が差し込んでいて、とても(おごそ)かだった。


「うわっ、こんな広かったんですね……。」

人気(ひとけ)のない大広間に自分の声が響き渡る。


二人でコツコツと大広間を歩いて行く。


王族席のある大広間の奥まで行けば、姫が懐かしそうに目を細める。


「ここで、ダルシオン様がプロポーズして下さいましたね。」


「そうですね…。何とも情けないプロポーズでしたが………。」


あの気絶してしまった公開プロポーズを思い出して苦笑する。

(正直もう一度やり直したいです。(泣))



姫がふるふると首を振る。


「私にとっては、ここだけが、王宮内で幸せな思い出がある場所です。」


そう言われて顔に熱が集まる。


「…………………ダルシオン様は、どうしてあの時、結婚を申し込んでくれたのですか?」


「えっ!!??」


不意に聞かれて戸惑う。


「私へ結婚を申し込めば、王妃様に、王家に睨まれるのは分かっていたでしょう?

それなのに良く知りもしない、結婚しても何の得にもならない娘に求婚してくれた。

いくらヴァレリアが言い出した事でも、そこまでしてくれる理由が分からないです。」


そう言われて困る。


だって俺にも良く分からない。



黒曜石の綺麗な瞳が俺をじっと見つめている。


あの時も、姫と目が合ったなと思い出す。




「………………………正直に言うと、俺にも良く分からないんです。」


そう言って姫の目を見つめ返す。


「ただ………姫様と目が合ったとき……思ったんです。もっとしっかり見たいなって………。」


そう、俺はちゃんと姫の瞳が見たいと思った。

 

「それで……何となく予感がしたんです。この人は、きっと俺にとって大事な女性になるだろうって……。」


俺が、守らなければならない大切な人になると思った。


「………だからきっと、姫様は俺にとって、"運命" なんだと思います。」


「………………………運命。」


俺を見つめる姫の美しい瞳が震えて、ポロリと一粒涙が落ちる。


「……姫様こそ、どうして俺の求婚を受けてくれたんですか?

…………………ちょっと(かなり)、迷ってましたよね?」


姫の涙をすくいながら、気になっていた事を思い切って聞いてみる。


「私は…ヴァレリアから受けるよう言われていて……。」


そう言われてガクッと来る。


すいません、ちよっと期待しました。悲しい。


「でも………私が受けてしまったらダルシオン様に迷惑がかかると思って、

最初は…………断るつもりでした。」


断るつもりだったと聞いてギョッとする。


『ずいぶん長い()があると思ってたけど断る気だったの!?』


驚きで、赤くなっていた顔が、サーッと青ざめる。


「だけど………真っすぐ私に向けてくれる手を見ていたら

……いつの間にか掴んでしまって………。」


ふふっと少し困ったように笑う。


「でも、いまは…………その "運命" に感謝しています。」


そう言ってから、花がほころぶように笑ってくれたので、ホッとする。




さてそろそろ本当に帰ろうか、そう思っていると


突然姫が俺に跪く。


「ええっ!!!ちょっと、姫様!!!????」


あまりのことにギョッとして姫を見れば、


真っ直ぐな美しい瞳の真剣な顔が、俺を見上げる。


「………………ダルシオン様。


私は、もう王家の王女ではありません………。


それに、神の愛し子なんて呼ばれても、私自身には何の力も有りません。


世間知らずで、役立たずの娘です。


私にあるのはこの身一つで、今はまだ何も持ってはいません。


それでも………私の全てを懸けて、貴方を幸せにすると誓います。



だから、だから私と…………………………………結婚して下さい。」


そう言うと右手をスッと俺へと差し出した。



姫の指先が、小刻みに揺れている。


数ヶ月前は目を合わせることも出来なかった姫が、


見つめ合う瞳を逸らすことなく俺を見つめている。


覚悟を決めた強い黒曜石の瞳が煌めいている。


「ひ、姫様………………。」


本当、反則だと思う。


『いや、これ格好良すぎでしょ!!!』


マジ、何なの姫様。


可愛くて、格好良いとか、どれだけ俺を恋に落とす気なんだろか?


(おれ)の面子は丸つぶれだけど、そんな事はどうでもいい。


姫の手を取り、指先に口づけを落とす。

 

「もちろん!お受けします!」


そのまま手を引き上げて立たせ、ギュッと姫を抱きしめる。


「愛しています。ダルシオン様。」


俺は完全にノックアウトだ。



『ああ、本当この気持ちをどうしたら良いんだろうか?』


姫を見つめれば、可愛らしい桃の花びらのような唇が目に入って、口づけした事を思い出し、ドキドキする。





コレ、イイカナ?イインジャナイカナ?ムシロイマナンジャナイ?


ゴクリと喉仏を鳴らし。


姫の顔に手を添える。







「………………………………………………………………………愚弟。」


地の底を這うような姉の声が真後ろから聞こえて、肩が跳ねる。


それからどうなったかって?


もちろん強制連行です………………。




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― 新着の感想 ―
そこは見逃してやれよ姉ちゃんwwwww
お姉さまの姫様察知能力が凄すぎて…!!! 強火担なら仕方ない
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