21 混迷の王国軍
王都より派遣された王国軍の騎士や兵士達は困惑していた。
今回彼らの使命は "魔王軍の残党狩り" を名目にした、侯爵領及び辺境に隠された
王国民の食糧の奪還と制圧だ。
各辺境領をまわり、禁止の輸入貿易をして得た大量の食糧を差し押さえ、王都に全て送り、辺境領を制圧して行く。
調査に少しでも抵抗をするようであれば、即座に反逆とみなし蹂躙する。
そんな任務だったはずだ。
ところが、予想に反して王国軍は歓迎された。
まず勇者自ら辺境領の最南の領地まで出迎えに来て、魔王軍の残党討伐地である魔王領との国境まで、王国軍を道案内すると言う。
しかも、何故か他国の官僚がちょうど旅行で来ているからと挨拶される。
『なんでもこのたびは辺境伯領と魔族領の国境まで、魔王軍の残党を討伐されに行かれるとか?100万もの大軍を派遣されるということで我が国でも話題になっておりますぞ。王国軍の勇姿を一目みようと他国の高官も数名来ているときいております。』
他国の話題になっている、他国の高官が来ていると聞かされギョッとする。
辺境領の制圧が完了してからならともかく、現在進行系で他国から注目されているとなるとヘタなことが出来なくなる。
『食糧でしたら既に辺境伯様の命令で辺境伯領と魔族領の国境にあたる本陣に兵糧として移送してありますわ。領民たちはこたびの魔族討伐に感謝し冬の備蓄全て差し出してますのよ。』
勇者にそう言われ王国軍は面喰らう。
辺境の領主にも、領内の何処を見てもかまわないし、必要な物があれば何でも持って行って良いとさえ言われる。
運搬要員に命じ、領内の村々すべて隅々まで探してみたが、見つかった食糧や物資は微々たるものだった。
村に僅かに残された一握りの麦まで全て奪って行くというのに村人は全く抵抗もせず、むしろ喜んで差し出してくる。
どう考えてもおかしい。
情報では大量の食糧が隠されているはずなのだ。
本当に全て兵糧として送ったのか?
それが見つからなければ、密輸入の証拠にならない。
勇者や他国の目があるので証拠がなければ動けない。
証拠がなくとも少しでも辺境が反抗的な態度であればゴリ押しも出来たが、勇者に案内され訪れた辺境のどの領地でも、城門はアッサリと開城され、まったく抵抗されることなくすんなりと通された。
領地で食糧が見つからず、備蓄していた食糧は、総司令官である辺境伯の指示で既に目的地に兵糧として送ったと言われてしまえば、王国軍としてはその領地を攻める大義名分を無くしてしまうのだ。
何よりも勇者の目があり、領民達にそれ以上の手出しをすることも出来ず、王国軍はわずかな食糧を得ることしか出来ずにその地を後にし北に向かうしかなかったのである
行軍の最中の食糧供給について文句をつけたくても、総司令官の辺境伯は既に魔族領との国境に待機して不在であると聞かされどうにも出来ない。
『我々を飢え死にさせる気なのか!?』
勇者にそう問い詰めるも
『国境まで急げば馬で5日で着きますわ。こんなところでウロウロとしていないで国境につけば兵糧は用意されてます。
それに少なくとも次の領地までの2日分の食糧は確保されているのです。
むしろ何故先に進まないのかしら?」
そう返答されてしまえばどうする事も出来ない。
結局どんなに探しても他に食糧は見つからず、手持ちの食糧も少ないことから、何も出来ないままに本陣があるという国境へ向かうしかなかった。
当座の食糧は確保出来ていると言っても、一人一人に配分されると量は少なく、とても満足のいった食事とは言えない。
そのうえ北方の寒さは容赦なく兵士たちの体力を削った。
王都であれば、やや厚地のコートを一枚羽織れば外を歩ける季節のはずが、辺境では朝晩など氷点下になることもあった。
数日の内にどんどん気温は下がり、景色は白く変わりだし、まだ暦は秋であるはずなのに雪が降り、川も凍り始める。
体調不良を訴える者もかなり増えてきた。
とにかく目的地につかなければどうにもならないと辺境の寒さに四苦八苦しながらもすすむ。
そしてもうすぐ辺境伯の待つ魔族領との国境だと勇者に告げられ、そこにたどり着ければ取り敢えず食事にありつけるだろうと王国軍が安堵の息をついた時、勇者が突然姿を消したのである。
それまでずっと問題もなく辺境を案内していた勇者が消えてしまい、王国軍は慌てふためいた。
辺境について詳しい者はおらず、ましてや魔族領との国境まで行ったことのあるものなど王国軍には誰一人としていなかったからだ。
どうするかと話し合い、とりあえずもう少し北に進むことになった。
引き返したとしても食糧がないのだし、勇者がもうすぐ国境だと言っていたのだから国境で待機しているはずの辺境伯の軍と合流出来るはずだと踏んだのだ。
そうして進んだ先で王国軍が遭遇したのは、魔王軍の残党の魔族達だった。
そこでやっと彼等は、自分達が魔族領の中に侵入してしまっていた事に気づいたのである。




