異界の狭間で2
おじいさんのありがた~い おはなし。
「霊界が忙しかったのよ。」
「で、この人は何者なんじゃ。」
「この人は、月のきつね。」
「きつね?」
確かにきつね耳としっぽが生えている。
「正確には、月のきつねの霊かしら。」
「まあここにいるから、霊なのか。それで、何なんじゃ。」
「小式部ちゃんが助けてやれって。でも依り代がないのよね。」
「依り代?」
「わかったわ、あのね龍馬さん。」
「ん?なんじゃ?」
「この子は、現界で式神として存在してたの。」
「式神って?」
「そ、安倍晴明様の式神よ」。
「あ、安倍晴明?あの大昔の大陰陽師だよな。あの紙に文字書いて呪文唱えるやつ。」
「そう、あの呪を書いた紙が依り代なの。」
霊界の存在である葛葉は、晴明によって現界に式神として召喚されていた。理屈としては現界でその依り代を使えば、葛葉は現界に存在できる。
「でも、それには現界で葛葉さんを呼び出す人と、依り代となる呪符が必要ね。」
「前は観音様の加護を持つさくらさんが、呼び出してくれたわ。」
「でもそれは200年程前の話よ。」
「もうそんなに経ったんだ。じゃあ呪符は。さくらさんたちに子孫がいれば、持ってるかも、あとは幸徳井邸かしら」
「でも呪符が見つかっても、三人に手渡せるかしら。霊力ないと呼び出せないしねぇ。」
「あの三人のなかで一番霊力がありそうなのは三岡さんかな。」
「少しでも霊力があれば、無理すれば出られるわ。」
「じゃあ、呪符探しと、それをどうやって手渡すかよね。」
「待て、なぁ、わしが式神になることはできんのか?」
「龍馬さんが?」
「わしが直接行った方が早いんじゃが」
「それは、現界に晴明様のような力を持った陰陽師がいれば可能だろうけど……。人を式神にしたなんて話聞いたことないよ。」
「そうね。姿を見せるだけなら、別の手があるわよ。」
「おお、そんな手があるんか。」
「ああ、前に小式部ちゃんや、観音様の姿を……。」
「源内さんとマーキュリーを呼んでくるわ。」
「あっ、葛葉さん。久しぶりですね。」
「マーキュリーさん。この狐は?」
「わたしは、葛葉。晴明さんの式神よ。」
「私たちの大先輩。」
「ふーん。あなたがマーキュリーちゃんの彼氏ね。」
「彼氏とか、そんな関係では……。」
マーキュリーがジーっと源内を見ている。その様子を見てヴィーナスが、
「もういい加減、認めなさいよ。」
「は、はい。そうです……多分。」
「位相変換器ね。」
「霊体の龍馬さんが、異界や現界で姿を見せるために必要なの。」
「龍馬さん異界にいますよ。」
「それは、今は未来の創作上の姿を借りているだけよ。今だけ限定なの。もう返さなきゃいけないの。」
「ものを見てみないとわかりませんが、いろいろ条件がありそうですね。詳しく話してもらえませんか。」
京での騒動を知らない源内にマーキュリーたちは、その騒動を、そして龍馬は三人の人物の様子を見ることができることを説明した。
「では、その三人の人物に位相変換器を持たせる必要がありますね。」
「それだと、式神の呪符と変わらないわ。」
「あの機械は重たいし、誰かに操作してもらわないと使えませんよ。」
「いや、それは多分、改造できると思うよ。それでも、どうやって渡すのかって、問題があるし、龍馬さん以外の霊も実体化できてしまうし、問題が多いよ。」
「わしの声が届けばいいんじゃが……。」
「それは、可能かもしれませんね。ちょっと待ってください。」
源内は研究室に向かうと、メインコンピュータにアクセスし、何かを入力し始めた。
「龍馬さんは、その三人の前には行けるんですよね。」
「そのようじゃが」
「龍馬さんの遺品……、例えば剣とか印籠とかあれば、共鳴できるかもしれません。」
「これまでに、剣や小柄、印籠などで異界、霊界と意思を疎通した例はありますね。」
マーキュリーがいつの間にか源内の隣に座ってデータベースを検索している。
「それでは、その遺品に同調できるようにやってみましょう。それには龍馬さんは神仏ではないので、遺伝子情報が……、ああ霊体なんだ。」
「じゃあ、それを回収に行けばいいのね。」
「ムーン!突然入ってこないで、もう龍馬さんの遺体はお墓の中ですよ。」
「血液でもいいんだろ、現場に行こうぜ。」
マーズが、ムーンを連れて出て行こうとした。
「待って!」
ヴィーナスが二人を引き留めた。
「龍馬さんは神格が与えられているわ。」
「わしは神になっちょるんか?」
「維新以降の護国の士を祀っている神社で神格の高い神になっているわよ。」
今や、あちらこちらで祀られていますね。