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戦わずして人の兵を屈するは善の善なるものなり

おじいさんのありがた~い おはなし。

 画像室の隣には映像室があった。

 モニターの前で大岡忠相が腕を組んでいた。その画像を金さんも覗き込んだ。

「この裁きはどんなものだ?」 

「これはどう見ても、弁護士というものの方に理があるんじゃねえか。」

「法の解釈問題だな。」

「越前殿が決めた法は、単純な分、解釈は分かれなかったぜ。」

「その隙を突くのか。」

「うん、この弁護士よくしゃべるけど、その分爽快だな。」

 二人は法廷物のドラマを見ていた。


「わしはこんなに暴れん坊だったんか?それにしても話が多いなぁ。」

「お爺さま、それよりも黄門様がとんでもなくありますよ。」

「これには負けるなあ。」

「父上、金さんは種類がたくさんありますよ。」

「わしのものもあるが、これはわしそっくりじゃのう。」

 権現様は某国営放送の映像を見ている。

「そうですか。こっちの方が似ていませんか。」

 映像には、追いすがる真田幸村から必死で逃げる老人が映されていた。


「えーい、静まれ静まれ!」

「えーい、静まれー!」

 突然、イヌ仮面と、サル仮面こと助さん格さんが乱入してきた。何故かその言葉にこの場にいる将軍経験者と将軍候補はひざまづいた。

「ここにおわすをどなたと心得おる。」

 ボカッ

「ここにおわすのはみんな将軍様じゃ。わしは副将軍じゃ。」

 あっ、そうかという顔をして権現様、吉宗、家治、家基は立ち上がろうとした。

「皆のもの、面を上げい!」

 この場にいるものが皆、顔を上げた。大岡忠相が自分が言った言葉にはっとしていた。

「やいやいやい、黙って聞いてりゃ……。」

 金さんが片肌を脱ぎそうになったのを家基が慌てて止めた。

 静円が静かに行った。

「どうやら、皆さん決め台詞があるようですね。その言葉には不思議な力がある。」

「わしにはないのかの。」

「権現様にはないようですね。」

「重き荷を背負っているだけだもんなぁ」

 金さんがまぜっかえす。御老公はマンガ「日本の歴史」の最終巻を持って来ていた。

「みんな、よく聞くのじゃ。この本は最終回なんじゃ。」

「最終回ってそれは最後はあるものでしょう。」

「基本的にはこの書物が出版された年までじゃないのか。」

「いや、日本の最終回なのじゃ。」


 御老公が捜し出してきたマンガ「日本の歴史」第50巻の題名は「さようなら日本」であった。みんなが手を止め御老公の周りに集まってきた。

「やはり1945年の大破壊が原因なのか。」

「それから6年間日本は占領されるんじゃ。」

「どの国なのか。やはりアメリカなのか。」

「日本の都市はアメリカが破壊したが、千島や樺太はソビエトが強奪したと書いてある。」

「ソビエトとはどこなんだ。ロシアじゃないのか。」

「ロシア帝国は1917年に革命によって消滅したそうじゃ。」

「そのソビエト帝国は、なぜ強奪できたんだ?」

「帝国じゃないんじゃ。共産主義という独裁者が支配する国じゃ。」

「共産主義とは何だ?」

「それは、ここにありますよ。」

 源内はマンガ世界の思想「マルクス」「レーニン」「スターリン」「毛沢東」の4冊を持ってきた。


「理想は立派だが、結局指導者は独裁者になるな。」

「貧富の差がなくなるのは良いことではありませんか。」

「いや、実際の歴史ではそうなってはおらんのじゃ。20Cの後半には大半の社会主義国は崩壊している。ソビエトもそこで崩壊したようじゃ。」

「日本は6年間占領されたと言いましたよね。その後どうなったのですか。」

「アメリカの属国として復興はしたのじゃ。国内に多くのアメリカ軍基地を置かれてな。」

「独立ではないのですか。」

「いやこれを見たら、属国化じゃな。」

「それでは、日本はアメリカの州になったのですか。」

「いや、そうではないんのじゃ。」

 御老公は日本の歴史の最後のページを開いてみせた。


 そこには赤い左上に星のある旗がたなびいていた。

 20××年、日本国国会は両議院の賛成多数で、国家主権を放棄し、栄光ある中華人民共和国東海省として新たな歴史を歩むこととなった。


「中華って、清国か?」

「ああ、あの地に生まれた社会主義国家じゃ。」

「何で、こうなったんだ。」

「『孫氏の兵法』じゃな。」

 大御所様は、関ケ原の戦いを思い返していた。


ここまで書くと恐ろしい。

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