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Jap the Zipper

ロンドン編終盤です。

 この世界の以蔵も、史実の以蔵もこの時期にはまだ「人切り」は行っていなかった。以蔵はまだ幼いころから、近所の武智半平太に師事した。貧しい郷士の家に生まれた以蔵は、たまに食事を分けてくれる半平太を師と仰ぎ絶対の忠誠を誓っていた。半平太が大江戸大学に入学するため江戸に向かうことになった際、「犬馬の労も厭わない。」とまだ14歳になったばかりであったが、無理矢理同行したのであった。

 土佐にいたころの以蔵は、貧しい家に生まれたためいつもボロボロの恰好をしていた。しかし、少年の以蔵はそのため回りから軽くみられることが我慢できなかった。自分が特別な何者かでありたいと思う中2心はそれを許せなかったのだ。

以蔵はその鬱憤は土佐の野山で鹿や猪に切りかかることで晴らしていた。獣に反撃され、傷だらけになり、しかし、そのうち一匹二匹と仕留めることができるようになっていた。そして獣の返り血で汚れた姿で道場に現れては、にやりと意味ありげに笑うのであった。

そのような以蔵の中2心は江戸に出て更に肥大化した。土佐での以蔵を知らない者たちの中で以蔵は『人切り』という二つ名を自らに付けた。そしていつでも人を切り捨てられるような様子を見せることで、自分を大きく見せることに成功していた。「人切り以蔵」が剣を抜こうとするだけで、相手は逃げていくのである。「人切り以蔵」の名前だけが独り歩きを始めていた。もう以蔵は軽くみられることはなくなっていた。


 そのような以蔵の事情は武市や龍馬はよく分かっていた。そして独り歩きを始めた「人切り以蔵」の名前が、ここロンドンにまでやってきたのである。


「なるほど、そういうことだったのですね。」

 ホワイトチャペルの殺人現場付近で二人に声をかけてきた若い男は考え深そうに頷いた。

「ならば、現場で転んだという自白も納得いきますね。」

「あなたが、マイクロフトさんの弟さんですね。」

 武市は自分たちが話している若い男が、自分たちが捜していた男に違いないと思った。

「え?違いますよ。私はガーディアン紙の記者、ホーソンです。」

「違うんか?ん…、ちょっと」

 さっきから龍馬の上着の裾を引っ張ている子供がいる。

「もしかして、この記事を書いたのは君なのか。」

 武市が手に持った新聞を広げて見せた。

「おお、お買い上げありがとうございます。ここのところ売り上げが上がって編集長も大喜びなんですよ。」

「このことも記事にするんか? ちょい待て」

 相変わらず、龍馬を引っ張っている子供がいる

「ホーソンさん、この辺でHolmesさん見ませんでしたか。」

「ああ、シャーロック君ですか。」

「知っちょるんか?」

「さっきから、そこにいますよ。」

 ホーソンが指さしたのは龍馬の腰のあたり……、そこには今朝ニューススタンドで見かけた棒付きキャンディを咥えた子供がいた。


「犯人が他にいるなら、どう思っているんでしょうかね。」

「そりゃ、うまく罪を逃れられて安心してるんじゃないかの。」

「そうじゃないって、ぼくの灰色の脳細胞が言っているんですよ。」

「またキャラ違わんか?」

「ただの恨みや怒りなら、あんな殺し方しませんよね。」

「そうじゃのう。」

「あれは快楽殺人犯ですよ。」

「快楽殺人?気持ちええのか?

「みんなが、怖がったりするのが楽しいのですよ。」

「みんなが嫌がるの見て喜ぶガキっておるのう。」

「うちのクラスのジャックって、女の子に蛇とか蜘蛛とか見せて喜んでるんですよ。」

「それと同じなんか?」

「俺スゲーって思ってますよ。」

「それじゃ、他の奴が怖がられてるのは面白くないかもな。」

「そうなんです。きっと真犯人は新たな犯行を起こします。」

「ほんまか?」

「じっちゃんの名にかけて!」

「いやそれ、またキャラ違うから、じっちゃんて誰じゃ?」

「全ての謎は解けたよ。ワトソン君。」

「だからキャラ渋滞じゃ。ワトソン君って誰じゃ。」

「いや、なんかこれが一番、決まってるみたいだ。」


「それで、記事で以蔵をダークヒーローにすればいいんですね。」

「ホーソンさんの文才の見せ所ですよ。」

「龍馬、いまいち訳が分からんのだが……。」

 英会話の苦手な武市は三人の会話について行けなかった。

「新聞で以蔵さんを宣伝するんじゃ。」

「え、なぜじゃ?」

「真犯人が悔しがって出てくるじゃろって事じゃ。」

「しかし以蔵は…。」

「明日、医者が検分すると言っちょる。」

「それで証明できるのか。」

「少なくともジッパーではなくなるじゃろ。」

「龍馬、この少年は何者なんだ。」

「未来の名探偵だそうじゃ。」


 ーHitokiri“Jap the Zipper”Izo is New hero?ー


 翌朝の新聞にも以蔵の顔がでかでかと載っていた。加工がされているのか凶悪そうな顔になっている。

「しかし、なぜslide fastenerじゃダメなんだ。」

「そっちが語呂がいいらしいぞ。」

ジッパーもチャックも商品名だそうです。

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