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龍馬を失った未来

ep16「歴史の分岐点」の続きになります。 

眩い閃光が光ったと思ったら、遅れてものすごい轟音と共に激しい爆風が吹き、木造が中心のその町は一部の破壊されたコンクリートの建物の除きなぎ倒され、その後あちらこちらから火の手が上がり始めた。空は太陽が無くなったかのように暗くなり、その平野に作られた街は壊滅した。

 細長い港から続く川の入り口付近でもまた、眩い閃光と爆風、そして破壊された町が残された。

「こ、ここはどこ? これは核技術が使われたの?」

 ムーンは恐ろしい夢を見て、目を覚ました。全身から冷たい汗が吹き出した。


 その次の夜もムーンは恐ろしい夢を見た。

 ムーンにも見覚えのある江戸の町、いやもっと未来の、でもあの川はきっと江戸の町。町中が炎に包まれていた。上空には炎の光を反射する銀色のボディの大型爆撃機。

 見覚えのある川に浮かぶ多くの死体。

 

「ムーン、どうしたんだ?」

「夜中に叫び出すなんて、びっくりしましたわ。」

 隣のスリープカプセルで寝ていたマーズとジュピターが、心配そうにムーンをのぞき込む。

「また、怖い夢を見たの。」

「ムーンも夢見るんかよ。」

「ムーンも彼氏作ったら。」

「何でそうなるのよ。」

「そしたら、甘い夢を見るわよ。」

「そんなジュピターの色ボケ夢じゃないのよ。はっきり見えるのよ。」


「待たせたわね。それはヴィジョンじゃないかしら。」

 ヴィーナスが複雑な表情をして現れた。

「そう、ビジョンっていうか。はっきりした情景が見えるの。」

「たぶん、あなたが選ばれたということね。」

「何、怖い夢を見る係?」

「いいえ、第三の分岐、千年以上この星にいるおかげであなたはこの星の……。」


 鬼が壊滅した本来の歴史を持つ世界と、鬼が生き残った新たな歴史を持つ世界に分離した世界は、地球と金星の女神によってこの地球上に二つの世界として存在していた。

 そして、坂本龍馬というキーパーソンを失うことによって本来の歴史に新たな分岐を生んでしまった。第三の世界は存在するための第三の女神を必要としたのだ。


「ムーン、お前女神だったのか?」

「品のない女神ですね。」

「それじゃ、つ、月は……。」


「久々に月から通信が入ったわよ。うさぎさんたち、そろそろこっちに来るって」

 マーキュリーが()きたての「お餅」をもって入ってきた。

「そういうことか。」 

「ムーンが女神かよ……。」


マーキュリーがヴィジョンスキャナーをムーンの頭に取りつけた。源内の実験室のモニター前には、「吉宗肆号」にいた者たちが集まった。

「それじゃ、始めるわよ。」

「ちょっと待って、心の準備が……。」

 モニターにはもみじ饅頭、カステラ、言問団子が表示された。

「おい、ムーンの頭の中はおやつかよ。」

「いや、そうじゃなくて………。」

 更に画像は、広島焼、ちゃんぽん、やぶ蕎麦が……。

「こりゃ、わかったぞ。」

 龍馬が声を上げた。その横で御老公が頷いている。

「何なんだよ。もっとはっきりしろよ。」

 マーズには意味が分からない。すると画面にはイケメンの王子様風のうさ耳男が……。

「これは何かわからんのう。」

「わしの若いころに似ておるのう。」

「タキシードうさぎ様よ。権現様は、これでしょ。」

 いきなり画面に「徳川家康三方ヶ原戦役画像」が表示された。

「なあ、ムーン真面目にやってくれよ。」

ムーンは覚悟を決めたような表情を浮かべて、目をつぶった。


「こ、これは……。」

「核分裂反応を人に使ったのか。なんてことを……。」

 源内は核分裂が巨大なエネルギーを産むことは知っていた。しかし、核分裂からエネルギーを安定して取り出すためには精緻な制御が必要で、同時に発生する放射線や放射能の処理にも相当な技術力が必要であった。星間宇宙船の開発において源内は核融合炉を中心に研究し、核分裂については失敗した時のリスクを考えて採用しなかったのであった。

「この川の形は広島じゃな。そして……長崎じゃ。」

 龍馬は思い入れのある長崎の街が破壊され姿に唖然としていた。

「この江戸の町は……。」

「この歴史では防災対策を行わないまま開発したんだな。」

 江戸の町を災害に強い科学都市に改造してきた吉宗と家治も唖然としていた。 


「これが、龍馬を失ったこの国の未来なのか?」

間もなく祈念日です。

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