第一部 七話 【二人旅と性格の不一致】
コルリルとヒロシがゴブリンの森を出発して四日が経っていた。
しかし、当初一日で着くはずの村には未だ着かず、森から出てすぐの草原をウロウロしているのだった。
たった四日だが早くもコルリルはヒロシに嫌気が差していた。
(あの勇者だけはマジでマジでマジで!ムリー!!!)
コルリルが何故ヒロシを嫌うのか、それには立派な理由が色々あった。
まず一つ、一日あれば着くはずの村にヒロシのせいで四日経ってもたどり着かない事。
ヒロシは森から出るのは初めてなようで目に入る物全てに興味を持ちいちいち観察するのだった。
例えば、
『コルリル!見てくれ!あの牛みたいな魔獣が糞をしたぞ!ラボに持ち帰って何を食べているか確認しよう♪
・・・ゴブリン達!あいつの腹の中もみたいから殺さないようにラボに運ぶんだ♪』
『あれはただの草食牛魔獣ですから止めて下さい~!』
このような事がしょっちゅうだった。
ヒロシは観察癖で何の変哲もない魔獣までいちいち研究するので旅路はまったく順調にいかなかった。
さらにヒロシは極度のマイペースであり、コルリルの事を度々無視し研究に没頭していた。
例えば、
『あ、コルリルちょっと待ってて!?ラボに忘れてたことあったから済ましてくる!ちょっとごめんね??』
そう言ってコルリルは二十時間以上待たされたこともあった。
ヒロシがラボに入って入口を閉じてしまうとコルリル側からは全く干渉する術がないのでコルリルは、だだっ広い草原のど真ん中で雨の中ずっと待たされた。
挙げ句に待たされた理由は新たな研究素材を綺麗に並べ替える為だった。
このような理由でコルリルはヒロシに対してどうしても好意を抱けなかった。
本来なら召喚した勇者とは協力しながら魔族と戦い、成長し合っていくのが理想だが、ヒロシとは絶対にそうはなれないとコルリルは確信していた。
(あの勇者だけは無理だわ〜、過去に召喚した勇者の中でも間違いなく一番ヤバいよ〜)
コルリルのこんな気持ちとは裏腹にヒロシ自身は旅路を非常に楽しんでいるようだった。
何故ならヒロシは今までしてきた研究の成果をことあるごとに披露したがるからだ。
例えば。
草原で猪の魔獣に出くわした時は、
『コルリル!猪だ!こんな時に役立つちょうど良い物があるから見て♪』
そう言ってヒロシはラボから投網を出した。
網には牙が無数に結わえ付けられており何故か異様な雰囲気を出していた。
『ヒ、ヒロシ様、それはなんですか??』
コルリルは禍々しいアイテムについて尋ねる。
『まぁまずは見て♪』
そう言ってヒロシは挑発し始めた。
猪魔獣はすぐにヒロシに向かって突進していく、
ヒロシはぶつかる寸前でひらりと躱し、代わりに投網を投げかけた。
猪魔獣は自身の突進力で投網が絡みつき、もがけばもがくほど網の牙が食い込んでいく、しかも牙には穴が空いておりそこから血が吹き出していた。
コルリルは悲鳴を上げた。
『ギャ~!な、なな、なんですかコレ!?』
コルリルは血の噴水になった猪魔獣から離れもう一度ヒロシに尋ねた。
『ふふふ♪これは森で拾った網に狼型魔獣の牙を結わえ付けたものだよ♪
狼型魔獣が生きたままの状態で牙を引き抜くと切れ味や貫通力がより高いままになるんだよねぇ♪』
猪魔獣はそのまま全身の血を吹き出し絶命した。その死体を背に得意気に研究成果を発表するヒロシにコルリルはドン引きしたのだった。
他にもゴブリンの腕を使った毒槍、
(ゴブリン血由来の毒性があり、軽くて扱いやすい!ヒロシ談)
猿型魔獣のしっぽをつなぎ合わせたロープ、
(頑丈でしなやか!しかも魔力探知機能あり!ヒロシ談)
鳥魔獣のくちばしを無数に固めたハンマー、
(固くて破壊力抜群!高い耐熱性も兼備!ヒロシ談)
等々ヒロシの披露する研究成果は確かに素晴らしい性能のアイテムばかりだったが、あまりに魔獣の命を軽視した非人道的な研究だった。
コルリルはあわよくば神様がヒロシの外道っぷりを見て元の世界に送り返さないか期待する程だった。
コルリルは草原を飛びながら濃厚な四日間を改めて振り返ったがやっぱりヒロシとの旅や研究は全く好きになれなかった。
けどラボについては実はかなり気に入っていた。
ヒロシのラボは出入り口を開けれるのも閉じれるのもヒロシだけだった。
つまりラボの中に入れば野宿しても絶対安全と言う事だった。
(ラボは良いんだけどなぁ〜野宿するには最高のスキルだし、中は割と綺麗だしなぁ)
ラボの中には無数のゴブリンや魔獣素材が溢れているが、ラボは意外なほど綺麗に片付いており、汚れや匂いもほとんどなかった。
ヒロシに理由を尋ねると、
『そんな汚い所で研究なんてしたくないからだよ!
ラボ自体の機能で換気は出来るし、ゴミや汚れは掃除専用ゴブリンが掃除してくれてるからね♪』
ヒロシは意外と綺麗好きなようで、ゴブリン達にちゃんと掃除をさせラボの機能で換気をしているというからコルリルは驚いた。
ヒロシから聞いたラボの機能は他にもあり、
◯温度は自在に変えられる。
(ヒロシ曰く、快適に暮らせる温度からゴブリン達が凍結したり発火するほどの温度までは確認したよ♪)
◯ラボの壁や床はヒロシの意思次第で簡単に変化させられる。
部屋を何個も作ったり、大きな部屋を作ったり自由自在だった。
ラボ全体の大きさはコルリルの生まれた村くらい。
(ヒロシ曰く、小学校の敷地分くらいかな?)
◯ラボの壁や床は絶対に傷つけられない。
コルリルの魔術でもヒロシがあらゆる方法を試してみたが傷つけられなかった。
(ヒロシ曰く、多分概念的な感じなのかもね?ただ堅いってだけじゃなくて、ラボ自体が傷つかないルールというか仕組みな感じがするよ!)
◯ヒロシの求めに応じてラボが進化し、新たな機能が追加される。
ヒロシ自身の力が増大したら進化するのか、単純に時間経過なのかは不明。
ただヒロシがほしいと思った機能が今のところは追加されているようだった。
今ラボについてわかっている事は全て教えてもらったが、コルリルは特に出入り口の指定とラボの強固さに魅力を感じた。
(出入り口が勇者にしか開けないなら中にいれてしまえばどんな敵でも捕獲出来るって言う事!
しかもラボは絶対に壊れないなら魔王にだってラボに入れさえしたら勝てるって事じゃん?!
最初は戦闘向きには思えないスキルだと思ったけど中々良いかも??)
コルリルは内心でヒロシのスキルを使った戦略を色々考え夢を膨らますが、肝心のヒロシはと言うと、
「コルリル?!この虫達を見てよ!なにか特殊な動きをしてるよ??
僕の知ってる虫だとゴキブリに似てるかなぁ??
とりあえずまとめてラボに入れとくからあとで一緒に研究しよう♪」
そう言ってヒロシは道端の何の変哲もない虫の巣を、大量の気持ち悪い虫達と共にまとめてラボに入れていく。
「・・・やっぱないわ」
コルリルはもうラボに入りたくなくなった。