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第二部 二十八話 【翻弄される妖精】

コルリルは困惑しっぱなしだった。

ヒロシが急にベルゴールへ仕掛けると言い出したのにまず戸惑って。

次はヒロシが当然のようにベルゴールの能力を予測し作戦を立案し、

仲間達を巧みに扱い状況をコントロールした。


更にはかつての敵である三魔将から毒をもらってすでに実用化していたり、

亡き勇者のスキルが宿った武器を使いこなしていたり、

自分の知らない所でどれだけ準備や修練をしていたのか。


思えばラボの能力も向上しているし、魔術もいつの間にか習得していた。

自分を置いてヒロシはどんどん成長しているように思う。

前は自分と協力して成長していたはずなのに、いつの間にかヒロシは一人で先へ進み始めていたようだった。

コルリルは寂しいような切ないような感情に支配されつつも、状況は切迫しているのでセンチメンタルに浸る余裕もなかった。


「・・・ヒロシ様、魔族が来ているみたいですが、いったいどうするつもりですか??」


コルリルが固い表情で尋ねると、ヒロシはにこやかに答えた。


「うーんまぁ臨機応変かな♪

けどまずはもう一人の勇者が足止めしてくれてるはずさ♪」


ヒロシはそう言うとラボを開き別の場所へ繋げ、コルリルとディロンにそこを見るように促した。


「???」


コルリル達はラボから頭を出して覗き見ると、

そこは平原だった。

ただし無数の魔獣が跋扈している平原だったが。

そしてその中で光が必死に駆けずり回っていた。

すでに魔族は現れ、勇者である光を抹殺しようと次々に攻撃を仕掛けている。

しかし光は必死に回避しながら走り回っていた。

そんな光と魔族を襲うように魔獣達も暴れ回りまさにカオスな平原になっていた。


「ひ、ひひ光君!ヒロシ様!光君が!?」


「ハハハ♪コルリル?光君なら心配いらないのわかってるでしょ??彼なら大丈夫さ♪」


ヒロシは光のピンチを見ても楽観的だ、しかしコルリルは納得出来なかった。


「笑ってる場合ですか!早く助けて上げてください!」


コルリルはヒロシに光を助けるように訴えるがヒロシはにこやかにしたままどこ吹く風だ。


「まぁまぁコルリル♪焦らずゆっくりやろ?♪」


ヒロシはそう言うとラボを閉じてしまった。

そしてラボを操作しフォシュラの所へ繋げた。


「ディロン?フォシュラとチェンジで♪

また呼ぶかもだから待機しててね?」


「・・・わかった、しかしフォシュラに危険な真似をさせるなよ?」


「ハハハ♪大丈夫大丈夫♪」


全く安心出来ない笑いを見せるヒロシを睨み付けながらディロンはラボへ入っていく。

ディロンは入り際にコルリルの方を向き黙って目配をした。

コルリルはそれはディロンからの【妹を頼む】という合図だと受け取り、黙って頷き返した。


ディロンがラボに消え、少ししてからフォシュラが現れた。

ヒロシを警戒して睨み付けている。


「それで?!私に何させよってわけ?」


「あれれ?いきなり喧嘩腰だねぇ??

僕何かしたかな?」


「自分の胸に聞きなさい!

状況はディロン兄ぃから聞いたわ!どうせろくでもない事をさせるんでしょ!!」


フォシュラはぷりぷり怒りながら腕を組みヒロシを睨み付ける。

コルリルは慌てて仲裁に入った。


「フォシュラ?だ、大丈夫だよ?今はまだ魔族は来てないし、光君が頑張ってくれてるから・・・」


「そう!その光君に極大威力の魔術を撃って欲しいんだよ♪♪」


「・・・はい?」


コルリルは言葉を失った。

自分の聞き間違いじゃなければ、ヒロシは光を攻撃するようにフォシュラへ指示を出している。

フォシュラも唖然としてヒロシへ聞き返していた。


「・・・理由は?」


「ん?状況は聞いたんだろう??

無数の魔獣と魔族、両方が街に迫ってるんだよ?

それを光君は身体を張って防いでくれてるわけだよ!

つまり、僕達に出来るのはいち早く魔族達を葬り去る事じゃないかな!」


ヒロシは自信満々に話すが、コルリルには全く理解出来なかった。


「ヒロシ様?なら早く助けに行った方が良いんじゃありませんか??」


「コルリルはバカだなぁ♪助けに行ったとて僕達だけじゃ勝てるか分からないでしょ?

でも僕達が逃げたら魔族達が街に殺到しちゃうでしょ?

だからあの場で抑えるしかないんだよ~♪

まぁ不幸な事故で街の主要戦力の傭兵達は死んじゃったわけだし?

だからちゃんと僕達が何とかしないといけないんだよ♪」


ヒロシは優しく言い聞かせるようにコルリルに話すが、コルリルは非常に苛立ちを覚えた。


「いやいや!そもそもヒロシ様の策のせいで街の傭兵さんやリーダーのベルゴールさんがいなくなったんですよ?!」


「そんな事はどうでもいい!!」


コルリルはヒロシを問いただそうとしたが、フォシュラに遮られた。


「今はそんな事を言ってる場合じゃないでしょ?

・・・ヒロシ、つまりあたしに仲間へ向かって魔術を使えってのね?

あんたに普段から撃ってる魔術とはレベルの違う魔術を使えって言うのね?

それ、光は承知してるの?」


「いや?今から承諾を得がてら打ち合わせしに行くんだよ♪

その間に準備してほしいんだけど、何分くらい詠唱がかかりそうかな??」


フォシュラはいつになく真面目な表情でヒロシに問いかけたが、

ヒロシはヘラヘラとしてまるで真剣味がなかった。


「あんたねぇ・・・」


「まぁまぁ♪今この街を守るには街に近づく前に魔獣も、魔族も、極大魔術で一網打尽にするしかないんだよ♪

だから納得してね??」


ヒロシはそう言ってラボを開き、止める間もなく光の元へ消えていった。

残されたフォシュラとコルリルは顔を見合わせ黙るしかなかった。


「・・・しょうがないわ、私は詠唱始めるから、あんたその間見張りお願いね」


フォシュラは詠唱を開始した。

複雑な事前詠唱を次々と唱えだし、魔力が飛躍的に高まっていく。

コルリルはフォシュラが内心では全く納得していない事に感づいた。


「・・・フォシュラ、詠唱しながら聴いてね?

フォシュラごめんね、

フォシュラにこんな嫌な役やらせちゃって・・・

フォシュラは優しい子だから本当は仲間に魔術なんて撃ちたくないよね?」


フォシュラは詠唱を続けており、反応はなかった。


「光君には私がちゃんと謝る。

何でもして許してもらう。

責任は全部私が取る。全部私が償う。

だからフォシュラは気にしないで」


フォシュラは表情を険しくしながら詠唱を続ける。


「フォシュラ本当に本当にごめんなさい」


コルリルは深々と頭を下げた。

仲間に魔術を撃つ。これは魔術師として絶対にしてはいけない一線なのはコルリルにも分かる。

けどフォシュラは街の為に、仲間の為にその一線を越えようとしている。コルリルにはその気持ちや痛みがはっきり伝わっていた。

だからフォシュラへ謝った。誠心誠意謝った。

フォシュラは詠唱をひたすら続けている。

しかし、その表情には悔しさや怒りが現れていた。

その時、


「やっほー♪光君に了承得れたよ♪

『僕の事は気にせずやって下さい』

だってさ♪いやぁ~光君はさすが勇者だ♪勇気あるね♪」


ヒロシがラボを開いて現れ、底抜けに明るい声で光に了承を得れた事を伝えてきた。

コルリルはヒロシを睨み、フォシュラは黙っている。


「・・・あんた、最低だからね?

ちゃんと終わったら説明してもらうから」


フォシュラは詠唱を終えたようで、凄まじい魔力を纏い光がいる方角に向き直る。


「はいはい♪とりあえずド派手に頼むよん♪」


「ちっ!!

・・・ホムラ式大火炎術!天追の篝火!!」


フォシュラの詠唱と共に爆炎球が現れた。

爆炎球はフォシュラの前で形を変え、

数メートルはありそうな矢の形に代わり飛翔していった。


「・・・っ!光焔!」


爆炎の矢は彼方の空から数千万の火矢となり、おそらく光が戦っているであろう場所へ降り注いだ。

その光景はまるで流星群が墜ちたようで、

コルリルは思わず見とれてしまった。


「・・・フォシュラ凄い、こんな大魔術が使えたなんて!」


コルリルはフォシュラの魔術師としての実力に改めて感動していた。

自分も多少は魔術師として成長していたつもりだったが、本気のフォシュラと比べると自分なんてまだまだだ、と実感した。


「・・・うるさいわね。今は褒められてもあんまり嬉しくないわ」


フォシュラが複雑な表情をしているのを見て、コルリルはあの火矢の下には誰がいるのか思い出した。


「ご、ごめんフォシュラ、そうだよね。私が無神経だった、ごめん」


「・・・いいわよ別に。

それとさっき責任がなんたら言ってたけど、

光には私が謝るから。

私が魔術を使ったんだから私が謝るのが当たり前でしょ。

あんたが責任感じなくて良いから」


「で、でも!私が弱っちいからフォシュラに魔術の負担がいくんじゃない!

私のせいでもあるんだから責任取らせてよ!」


「あ〜!もううるさいわね!あんたはごちゃごちゃ考え過ぎなのよ!

魔術を使ったのが私なんだから私の責任なの!」


「フォシュラ!ちょっと分からずやじゃない!?」


「どっちがよ!?」


フォシュラとコルリルは珍しく口論になりどちらが責任を取るか激しく言い合っていた。

その様子を見ていたヒロシは、


「ハハハ♪2人共真面目だなぁ〜♪

大丈夫だって♪光君ならどっちが謝っても許してくれるさ♪」


あっけらかんと言うヒロシにコルリルとフォシュラは口を揃えて言い放った。


「「まずはお前が謝れ!!」」

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