第二部 二十六話 【ベルゴールの正体】
コルリルは胸元を隠しうずくまるベルゴールを驚愕の表情で見ていた。
「え?ベルゴールさん?え?女???」
困惑するコルリルにヒロシが愉快そうにしながら話しかけてきた。
「コルリル良い反応だねぇ〜♪
そう、ベルゴールは老人じゃない。ただの変装さ♪
多分自分の能力で変装してたんだろう?
僕の予想ではベルゴールは元勇者!
多分国から逃げ出した流れの勇者かな??
そして能力はズバリ!物を創れる能力だ!」
ヒロシは自信満々でベルゴールの能力を言いきった。
ベルゴールは身体を隠しながら若い女性の声で震えながら答えた。
「な、なんでわかったのよ?
わ、私、誰にも、言ってないのに!」
女性の声とベルゴールの老人顔が激しく合っていないので、
コルリルは頭がこんがらがってきた。
「え?じゃあベルゴールさんは実は女性で、
わざと老人の姿に化けていたって事ですか??
ど、どうして??」
コルリルはベルゴールが元勇者な事よりも、
若い女性がわざわざ老人のフリをしていた事が気になった。
「それは確かに気になるよね。
ベルゴール?なんで君はわざわざ老人に化けてたのかな??
いや、そもそも君はベルゴールで良いのかな?
本物のベルゴールを殺して成り代わった別人って可能性もあるけど??」
コルリルの素朴な疑問にヒロシが質問を足して尋ねる。
ベルゴールは不貞腐れたような素振りを見せた。
「ふん、私はベルゴールよ。
最初からベルゴールなんて人は存在しなくて、
私が演じてたの。証拠なんてないけどね」
ベルゴールはもう半ば諦めてつらつらと語りだした。
「私はあんたの想像通り元勇者よ。
勝手に召喚されて、
勝手に役割を与えられて、
勝手に期待された勇者。
物質創成なんてスキルあっても私は戦いなんて嫌だった。
だから召喚された国から逃げて、
化けて、演じて、自分だけの街を作った。
まぁあんたにめちゃくちゃにされたけどね」
自分語りをするベルゴールをヒロシは黙って見ていた。
コルリルはベルゴールの気持ちを知りちょっと気の毒になった。
(この人も光君と同じで、
勝手に召喚されて戦いを強制された人だったのか。
だとしたら可哀想だなぁ。
・・・私達召喚士って実は酷い事を勇者様達に押し付けてるんだなぁ。
けど勇者召喚をしないと魔族に敗れちゃうし・・・)
コルリルが召喚士の是非について考えていると、
ヒロシがベルゴールへ質問しだした。
「何故街を作った?
そのスキル物質創成があれば金はいらないだろう?
自分でいくらでも何でも作り出せば良い」
「はっ!物を出すだけならね?
私のスキルは物なら幾らでも創れる。
けど自分の命は物だけじゃ守れないじゃない!」
ヒロシの言葉にベルゴールは鼻で笑いながら自嘲気味に話す。
「だから街を作ったのよ。
国に仕えたら兵器として使われてしまう、
自分だけの街ならそんな事もない。
傭兵達に守ってもらえれば魔族も怖くない。
だから私は・・・」
「次、何故わざわざ老人の格好をする必要がある?」
ヒロシがベルゴールの話を遮り次の質問をする。
ベルゴールは少し怯えた様子だった。
「・・・このスキンを着てればたいていのダメージは防げるはずだから。
これは私が念入りに作った、
【耐魔絶対防御機能付肌】
って物なの。
これさえ着てれば魔族に勇者の気配を察知される心配もないし、
あらゆるダメージを防げるはずだったし、
これを着てる間は、
疲れもしないし、
食事や睡眠すら必要なくなるの。
ただ着てる間はスキルは使えなくなるけど」
コルリルはベルゴールの耐魔絶対防御機能付肌に驚愕した。
(な、なんて凄いスキルなの!?
これさえ着てれば無敵じゃない!
まるで光君みたい!
・・・ん??)
コルリルはそこでふと思い至った。
ベルゴールのオーダースーツはまるで光の能力にそっくりだった。
これは偶然だろうか?と考えていると、
「君のその耐魔絶対防御機能付肌はまるで光君の能力のコピーじゃないか。
何か勇者の能力をコピー出来る力があるのかな?」
ヒロシも同じ事に思い至ったようで質問してくれた。
「・・・私の能力じゃないわ。
コピー出来るのは魔族の能力よ」
ベルゴールは少し気まずそうに話しだした。
「この街を作る前、私を召喚した国が魔族と戦ったの。
戦いには勝利した、そして得た戦利品の中にこれがあったの」
ベルゴールは胸元から小さなアミュレットを取り出した。
「これは魔族が使う特別な魔具で、
私達勇者のスキルをコピーする事が出来るの。
この魔具を使って魔族達は大魔障壁を越え侵攻してきたのよ」
「えぇ!?勇者様のスキルをコピー!?そんな事出来るんですか??」
コルリルはそんな魔具があるなんてつゆ知らず非常に驚いた。
しかしヒロシはあまり驚いていなかった。
「いやいやコルリル?僕らはすでに似たような魔具を持ってるじゃない♪ほれ♪」
ヒロシはそう言ってエディの魂が封じられた魔具を取り出した。
「あんたのその【メス】いったいなんなの?私のオーダースーツを切り裂くなんて信じられない・・・」
ベルゴールはヒロシの魔具を【メス】と呼んだ。
コルリルには何の事かわからなかったが、
ヒロシは非常に興奮しだした。
「良く聞いてくれたね!
これも元は魔族の魔具でね!この魔具で勇者を殺したらその魂を封じて、
魔具にスキルを宿す事が出来るんだよ♪
元は短剣だったんだけど、ある人が短剣から自由に形を変えれるようにしてくれてさ♪
だからメスにしたんだ♪
封じられてる勇者が何でも斬れる能力を持ってたから、
今この魔具は何でも斬れるメスってわけさ♪」
ヒロシは嬉々として語るがベルゴールは引いていた。
「あ、あっそう。
あ、あんたもしかしてそれで私を・・・」
「いやいや!この魔具は多分一人だけしか封じれないよ?
試してないけどさすがに複数人もの魂を封じれるような便利な魔具じゃないでしょ??
危害を加えたりしないから安心してね?」
怯えるベルゴールにヒロシは危害は加えないと優しく話した。
ヒロシは顔は非常に美形なので、ベルゴールは照れたように俯いた。
ただベルゴールの顔は老人のままなので中々奇妙な光景だったが。
「さて、じゃあ話を戻すけど、
君はその魔具で何らかの能力をコピーしたんだ?」
「う、うん。
当時勇者は私の他にも居て、その中に自分の状態を常にベストコンディションに戻せる能力の人が居たの。
その人の能力をコピーして、私の能力と混ぜ合わせて作ったのが最初のオーダースーツよ。
私はそのオーダースーツを着て国から逃げ出した。
そこから何年も逃げ隠れしてる間に国の方が魔族にやられちゃったからようやく自由になれたの」
つらつらと話すベルゴールにコルリルは疑問を覚えた。
「待って下さい。あなた今いくつなんですか??
一体いつこの街を作ったんです??」
「私の歳はわからないわ・・・
召喚された時は確か・・・
20歳くらいだったかしら?
それから数年後にさっき言ったオーダースーツを着て逃げ出して、
逃げ回って国が滅びて、
傭兵街を作り出すまでに10年以上はかかったわね。
そしてこの傭兵街が完成したのが25年前よ。
先日25周年記念式典をしたばかりだからね」
「えぇ〜?じゃ、じゃあ、あなたはもう50歳以上?え?でも勇者様は人間だからえ??」
困惑するコルリルをヒロシが愉快そうに見ている。
「フフフッ♪コルリル?さっき言ってただろ?
オーダースーツを着てたら身体がベストコンディションに戻るって♪
つまり、そのオーダースーツを着てたら歳も取らないんじゃない??」
ヒロシの指摘は当たっていたようでベルゴールが頷いた。
「その通りよ。
歳を取らないどころか、多分感覚的には着る前より若返る感じかな?
だから私は自分が今何歳なのかわからないの。
多分18歳くらいの身体だと思うんだけど」
ベルゴールはそう言って自分の胸を揺すっている。
大きな胸を揺するベルゴールにコルリルは顔が赤くなるのを感じた。
(ちょっと〜この人下品だよ〜
あ、あんな胸をゆさゆさと!
わ、私なんて・・・)
コルリルは自分の小さな身体の小さな胸を見て絶望的になった。
妖精にとって発育の良し悪しは大した問題ではなかったが、
世界の男性は概ね発育の良い女性を好む事をコルリルは充分承知していた。
「ハハハ♪凄いスキルだねぇ?まさか若返るなんて!僕もそのオーダースーツ着てみたいなぁ~」
しかし、ヒロシはベルゴールの胸には一切興味を示さず、オーダースーツに興味津々だった。
その事がコルリルの機嫌を少し良くさせた。
「オーダースーツは私用にチューニングされてるから無理よ。
あなた用に改めてチューニングしたら出来るかもしれないけど」
「そっか、それならまぁ良いか。
じゃあ最後の質問って言うか提案だけど、
僕達の仲間になる気はない??」
ヒロシの思わぬ提案に、コルリルは非常に驚いた。
(はぁ?!この勇者何言ってんの?!)
ヒロシはコルリルの驚きには気付かず話を進める。
「君のそのスキルは非常に魅力的な能力なんだよねぇ♪
僕の研究の為に是非その力を貸して欲しいんだよ♪
あわよくば君を助手にしたいくらいなんだ♪」
ヒロシの提案にベルゴールは目を見開き少し考えた後、ゆっくりと答えた。
「断るわ」
「・・・理由を聞いても?」
「あなたを信用出来ないし、
私はこの街が気に入ってるし、
勇者同士の旅なんて何が起こるか分からない危険な旅になるに違いないからよ」
ベルゴールは吐き捨てるようにヒロシを拒絶した。
「わかったら・・もう行って・・・
今日は疲れたの・・・」
ベルゴールはヒロシを睨み付けながら呼吸が荒くなっている。
ヒロシはそんなベルゴールを見ながら黙っていた。
「あの?ヒロシ様?もう良いんじゃないでしょうか?ベルゴールさんは仲間にならないみたいですし・・・」
コルリルはヒロシの唐突な勧誘に驚いたが、
ベルゴールが付いてこないと知って安堵してもいた。
(こんな変な人仲間にするなんて無理無理!
確かに生い立ちは可哀想だけど、私達には合わないよね)
「ゴホッゴホゴホ!」
コルリルがそんな事を考えていると、ベルゴールが咳き込みだし、
だんだんと激しい咳をしだした。
「ゴホッゴホッ!ガッ!クハ!ゴホッ!」
「ベルゴールさん?大丈夫です・・・」
コルリルが安否を気遣う間にベルゴールは吐血しだし苦しそうに地面に倒れてしまう。
「え?!ちょっと!ベルゴールさん?!」
コルリルが慌てて介抱しようとしたが、
ヒロシはコルリルの魔力球を掴み押し留めた。
「コルリル大丈夫♪作戦通りだからね?」
こんな状況でも自信満々なヒロシに、コルリルはますますわけがわからなくなっていくのを感じた。




