第二部 二十五話 【傭兵街攻略戦】
ヒロシ達パーティーはベルゴール確保の為、傭兵街各地でそれぞれの役割を果たしていた。
ディロン目線
ディロンはヒロシに言われるがまま傭兵街の傭兵地区に赴いた。
ラボから出るとそこはかつて傭兵ギルドがあった場所だった。
今はバラバラの残骸が残されたままになっており、
何人かの傭兵が復旧作業をしている所だった。
「え?おい!あれ!!」
作業中の傭兵がディロンに気付きだした。
すぐにざわめきが伝播していき辺り一帯が騒然となる。
(はぁ、やれやれ。自業自得とはいえ厄介な事になったな)
ディロンは自分が後先考えずに暴れた結果をしみじみと感じ、ため息をついた。
以前からディロンは自分がフォシュラの事になるとカッとなり、
制御不能になるのはわかっていた。
原因は自分の過去にある事もわかっていた。
故国ホムラは滅び、
父や母は死に、
残された家族であるフォシュラをより一層大事に思うがゆえにの事だともちゃんと理解している。
しかし、それでも自分の行いはやりすぎだったと思い反省はしている。
傭兵達はまだフォシュラに何かしたわけではなく、
何も殺さなくても良かった。
ヒロシ曰くディロンが殺したのは悪さをしていた傭兵ばかりで、
ギルドの職員や衛兵達は誰も死んではいないらしい。
(そうは聞いていても、やはり俺はやりすぎたし、その結果がこれか)
今は傭兵達が多数駆けつけ、ディロンを十重二十重に包囲していた。
駆けつけた傭兵は、
皆一様に憎しみの眼差しでディロンを睨み付けている。
仲間を惨殺したディロンを許さないといった様子だ。
しかも今のディロンはいつものファイヤーアックスではなく、
ボルターの遺品であるライトニングアックスを所持している。
端から見れば故人の遺品を所持し犯行現場に戻った異常者に見えるのはディロンにも容易に想像出来た。
(あの勇者め、こうなるとわかっていてこの斧を渡したな)
ディロンはヒロシの思惑を知り頭が痛くなる。
(あの勇者が何をする気かわからんが、とりあえず依頼された仕事はこなす。
その上できっちり問い詰めてやる)
ディロンは腹をくくり目の前の傭兵達に宣言した。
「我はディロン・バーン!今は亡きホムラ国の王子である。
傭兵達よ!貴様等の憤り、怨み、怨嗟の思い全てぶつけるがよい!
ホムラの誇りにかけて受けて立とう!!」
ディロンがライトニングアックスを構えるのと、傭兵達が一斉に仕掛けてくるのは全く同時だった。
光目線
ディロンが雷光を迸らせた頃、
光は傭兵街から少し離れた草原に居た。
その草原は普段なら何もないただの草原で、小さく無害な魔獣がちらほらいるくらいの場所だった。
しかし今は様子が様変わりしており、
無数の魔獣が跋扈していた。
しかもどの魔獣も凶暴かつ獰猛な魔獣ばかりで、
皆殺気立ち暴れ回っていた。
更に空中にヒロシのラボが複数展開され、
ゴブリン達が魔獣達に向かって石を投げたり薬剤を散布し常に興奮状態を保っていた。
(えぇ〜??これ何??な、何でこんな事に??)
光が動揺し考えていると魔獣達はすぐ光に気付き襲いかかってきた。
「あ、ちょっと待っ・・・」
光の叫びを無視し魔獣達は光に殺到する。
爪で引き裂き、
牙を食い込ませ、
憐れな獲物をバラバラにしようとする。
しかし光には全く効かなかった。
光は複数の魔獣に首と足を噛まれ引っ張られながらゆっくり考えていた。
(ヒロシさんは何でここで魔獣達の相手を僕にさせるんだろう??
何か意味があるのかな??)
光は至って冷静に状況を観察出来ていた。
もちろん多少の恐怖はあるのだが、
ヒロシ達と出会う前に比べたら全然マシだった。
(あれ〜そう言えば魔獣達にあんまり怖いって思わないな??)
光は何故恐怖が薄れたか考えた。
その間も魔獣達は光を殺そうと手当たり次第に攻撃している。
そんな最中、光はゆっくり考えた末に思い至った。
(そうか、あの開白とかいう人と戦ったからか)
開白は光が今まで出会った中でも最強の敵だった。
スキルで無敵だとはいえあんまりにも強い敵だった。
(なるほど、あの人に比べたら魔獣だって怖くなくなるわけだ。
ヒロシさんそれを狙って僕と開白を戦わせたのかな??)
光はヒロシの思惑を深読みし、
一人で納得していた。
そして改めて自分の無敵具合を確かめた。
(うん、やっぱり痛くない、なんで今まで魔獣を怖いって思ってたんだろ?
傷付くわけないのにさ)
光は自分が絶対に傷付かないと実感出来た。
それは開白との激戦でも自分が全く傷付かなかった事が自信に繋がったからだった。
「よし!これならいける!」
光は気合を入れなおし魔獣達に向き直る。
しかし、剥き出しの牙や鋭い鉤爪を見せ、
唸り怒る魔獣を前にすると、
「や、やっぱ怖いなぁ〜」
光はそれから逃げたり、多少抵抗したりしながら必死にヒロシのお迎えを待つのだった。
コルリル目線
コルリルはヒロシと共にベルゴールと対決する事を選んだ。
しかしコルリルとしては光を仲間にする為に、
契約破棄をしてもらいたいだけなので、
なるべく穏便にいきたい所だった。
「あの〜ヒロシ様?ベルゴールさんに仕掛けるって言いましたけど一体何をする気ですか?
あんまり激しい事はせず穏便にいきましょうね??」
コルリルは恐る恐るヒロシにそう言ってみるが、
ヒロシはにこやかに笑うだけだった。
「フフフッ♪まぁ見てのお楽しみかな♪」
(あ、なんか不味い事になりそうな気がする〜)
コルリルは非常に不安だった。
二人はラボから出るとベルゴールの屋敷の前に出た。
周囲には誰もおらず、
傭兵街の方から怒声が聞こえるくらいだった。
「よしよし、策通りだね♪」
ヒロシはそう言ってラボを開き、
ゴブリン達を屋敷の周囲に展開した。
そして自分はまたラボに入り、
後ろに浮かんでいるコルリルに声をかけた。
「コルリル?
今からベルゴールの前に移動するからね!
多分大丈夫だと思うけど、
いきなり攻撃されるかもだから注意してて」
「は、はい、気を付けます」
コルリルはそうは言ったが、
今の自分にはフォシュラの魔力球の中で見守るしか出来ないので少し不安だった。
「フフフ♪大丈夫大丈夫♪何かあっても僕が守ってあげるからさ♪」
ヒロシはコルリルの不安を感じたのか優しく笑いかけ接してくれる。
コルリルは顔が赤くなるのを感じた。
(ヤバ!なんかヒロシ様優しいじゃん!
うわぁ~私絶対顔赤いよねぇ?
恥ずかしいけど嬉しいなぁ)
コルリルが顔を抑えて悶えていると、
ヒロシは笑いながらラボを潜り外へ出た。
コルリルも気を取り直し一緒について行く。
ラボの外はベルゴールの部屋だった。
豪華絢爛な装飾が施され、
高そうな美術品や魔具がたくさん飾られた部屋、
中央には大きなテーブルとソファがあり、
窓際には書斎机があり、
周囲には数多の書類が散乱していた。
そしてその机の向こう側でベルゴールが慌ててながら何かを鞄に詰めている。
ヒロシ達が現れたのにも気づいていないようだった。
「こんにちはベルゴール、ご機嫌いかがかな?」
ヒロシは和やかに声をかけるとベルゴールはビクッ!として振り返り、
ヒロシの姿を見て愕然とした。
「き、貴様!何故この部屋に?!」
ベルゴールはそう言いながら、
すぐに移動しようとしたが、
ヒロシがラボを使って回り込みベルゴールの目の前に先回りした。
「ひぃ!」
「逃さないよ?まぁ仮に逃げてもラボの機能で絶対追いつけるんだけどね?」
ヒロシの言葉を聞いてコルリルはふと思った。
(あれ?それなら今日、こんなふうに急いで仕掛けなくても良かったんじゃ??
どこに逃げてもラボを使えば追跡出来るんだから)
コルリルが疑問に思っているとヒロシが答えを出してくれた。
「まぁ逃がしはしないんだけど、
もし君が自殺でもしたら光君の契約がどうなるかわからないからね。
契約破棄になるかあるいは違う形になるのか、
そうなったら面倒だから今日は急遽お邪魔させてもらったよ?」
コルリルはそれを聞いて納得した。
確かに魔術契約は術者の死亡でも解除されるかはわからない。
契約時に死亡の際の条件を決めていればわかるのだが、
光は覚えていないので、実際試さないとわからないからだ。
ちなみにヒロシを召喚した際には、
コルリルは自分が死んでもヒロシは元いた世界へ帰らないよう条件を結び召喚していた。
「ひ、光だと?貴様はあの勇者が目的か?
あの勇者が欲しいだけでわしの街をめちゃくちゃにしたのか!?」
ベルゴールが目を剥いて怒りだす。
ヒロシはカラカラ笑いどこ吹く風だ。
「もちろんそうだよ~勇者光を仲間にしたくてね?
色々トラブルもあってちょっと乱暴な事にもなっちゃったけど、
僕の目的は最初に話しただろう?
盾役の仲間探し、これが僕の目的だよ♪」
コルリルはヒロシの話を聞き、
今までの行いがちょっと乱暴?
とツッコミたくなったがグッと我慢した。
「はい、じゃあそろそろ本題ね、
勇者光の契約を解除して自由にしてもらえるかな?
さもないとわかるでしょ?
ちなみに君の優秀な傭兵達は仲間が釘付けにしてるから♪
助けは期待しないでね〜」
「ぐっ!」
ベルゴールはしきりに辺りを見渡し何か打開策がないか探っているようだった。
しかし進退窮まったようで、
諦めてドサッと椅子へ腰掛けた。
「・・・はぁ、わかった好きにするが良い。
ほれ、契約破棄だ」
ベルゴールはそう言って鞄から書類を取り出した。
その書類に指をかざすと魔力が走り書類が一瞬光りすぐに暗くなった。
「ふーん、簡単なんだね?
コルリル?これは間違いなく光君の契約かな?」
ヒロシは書類を手に取りコルリルへ見せてくる。
コルリルはヒロシの手にある書類を隈無く読んでみる。
「確かに光君とベルゴールさんの契約の書類ですね。
もう力を失ってますから契約破棄されたとみて間違いないです。
ただ、他にも書類があって二重三重契約をしていたら分かりませんが・・・」
「ないわそんなもの、光と契約したのはそれきりじゃ、。
もういいじゃろ?
とっとと失せろ、わしの街から消えてくれ」
ベルゴールは力なくヒロシ達を追い払おうとする。
コルリルはなんとなくそれが本当のように感じられたので、光はもう自由なのだろうと思った。
(よし!これで光君は自由だ!じゃあまずは皆と合流して・・・)
コルリルがそう考えていたらヒロシは笑いながら手を挙げた。
「ハハハ♪もう良いだろ?年寄りのフリはさ!」
ヒロシの手にはあの勇者エディの魂が封じられた魔具が握られていた。
かつては短剣だったが今は更に小さくなり、
食事用のナイフより一回り小さな刃を持つ何かに姿を変えていた。
「ふん!」
ヒロシが一閃するとベルゴールの胸元を切り裂き素肌が顕になる。
素肌も切り裂かれ、
コルリルはそこから大量の血が吹き出す!と思ったが、
ベルゴールの肌は切られても全く出血しなかった。
代わりに皮膚の下から女性の豊満な胸が飛び出してきた!
「キ、キャァァァア!」
ベルゴールが女性の声で悲鳴を上げ胸元を隠しうずくまる。
まだ顔は年老いた老人なのに、声と身体は若い女性のそれだった。
「は、はい?」
唖然とするコルリルとは裏腹に、ヒロシは満足気な顔だった。
「やっぱり化けてたか。予想通りだね♪」
コルリルにはわけが分からなかった。




