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第二部 二十一話 【無敵の交渉】

光はヒロシに頼まれてプレイの説得をする事になった。

光としては正直、三魔将なんて怖そうな相手を説得するなんてごめん被りたかったのだが、これからお世話になるパーティーのリーダーからの直々の依頼を断るのも憚られた。


(はぁ、嫌だなぁ。三魔将なんて絶対怖いじゃん。

あぁぁ嫌だなぁ、けど辞めるわけにはいかないしなぁ)


光は丸々5分はプレイの部屋の前で悩んだ末、意を決して部屋に入った。

中に入ると部屋は殺風景な作りで、机もイスもベットも何もなかった。

ただ部屋の奥に一人の魔族が壁に手足を埋め込まれ拘束されているだけの部屋だった。


「なぁんだ貴様は!?」

 

拘束された魔族、三魔将プレイは光を睨み付けさっそく毒を噴出し威嚇する。

光は怯えながらもゆっくりプレイへ近付いていった。


「は、始めまして。僕はヒロシ様の代理で来ました、こ、交渉人です。

あ、あの、良かったらちょっとだけお話を・・・」


「交渉人だと?!今更なんだ?!私をずっと監禁した上、魔力を封じ言葉巧みに騙そうとしたくせに交渉だと?!

貴様らと交渉する余地などないわ!」


プレイは光の言葉は聞かず全力で毒を噴出しだした。

プレイに拒絶された光はすぐに心が折れた。

もうやるだけやったので諦めようかと思ったが、


(あれ?魔力を封じるってじゃあやっぱりヒロシさん、ラボで魔力封じ出来るんだ?

出来るんじゃないかなぁ?って思ってたけどやっぱりね)


プレイの言葉からヒロシの嘘に気が付いた。

光は嘘に気が付いてはみたが、だからといってヒロシに憤ったりはしなかった。

むしろ逆で、


(ん~わざわざ嘘をついてまで僕を交渉人にしたって事はよっぽど毒を分けてもらいたいんだろうなぁ。

はぁぁ〜なら仕方ない、もうちょっと頑張ろう・・・)


光はヒロシの気持ちを察することが出来た、ヒロシにはよほど毒が必要なのだろうと感じたので、光はもう少し交渉を粘る事にした。


「あ〜プレイさん?あの〜お怒りは充分承知の上なのですが、

少し話だけでもしませんか??」


「なんだ!?貴様如きが何を話そうと言うの・・・

貴様、毒はどうした?何故毒が効かぬ??」


プレイは今更ながら光に毒が効かない事に気が付いたようだった。

あらゆる毒を噴出しているのにも関わらず、光は平然としている、プレイはその事に気付き戸惑っていた。


「あぁ〜実は僕も勇者なんです。

一応スキルもありまして、毒も効きません。

だから僕が交渉人なんです。

プレイさんに悪くはしませんからちょっとだけお話しましょう??お願いします」


光はそう言って頭を下げた。

プレイは光が勇者だと言うことと、その勇者が自分に頭を下げた事に驚いているようだった。


「・・・貴様は本当に勇者か?

勇者なら何故そんなに媚びへつらう?

誇りは無いのか??」


「・・・ハハハ僕にそんなものないですよ。

ただせっかくヒロシさんから任された仕事を成功させたいだけです。

僕なんてプレイさんに比べたら雑魚勇者もいいところなんで。

だから本当に良かったらで良いんで、プレイさんの毒を分けてもらえませんか??

見返りにヒロシさんへ何か要望があるなら伝えますから」


光かあくまで下手に出てプレイの機嫌を取る。

プレイは戸惑いながらも悪い気はしてないようだった。


「ふん。ならばこの拘束を外せ。話はそれからだ」


「ありがとうございます!」 


光はプレイが話してくれると言ってくれたので嬉しくなった。

すぐにヒロシの所に戻り事情を話した。

ヒロシも嬉しそうにして喜んでプレイの拘束を解除した、その代わり部屋自体は更に厳重にロックし、万が一にもプレイが出れないようになったが。


「プレイさん!拘束解除OKでした。

どうでしょうか??」


光が部屋に戻るとプレイは壁から解放され、手足を震わせながら仁王立ちしていた。


「ふむ、ようやく自由になれたぞ。

おい、勇者光とやらこっちへ来い」


「・・・はい」


光はプレイに呼ばれ恐る恐る近付いていく。

すると、


「ふん!」


バンッ!


プレイは近付いてきた光を目にも留まらないスピードで捕まえ地面に叩きつけた。

 

「あの〜プレイさん?これは一体??」


スキルでダメージがない光は困惑しながらプレイを見上げる。

プレイは勝ち誇りながら光を見下した。


「勇者と言えどガキよなぁ。こんな簡単に私を信用するなんて。

私は三魔将プレイだぞ?貴様如きと取引なんてするわけないだろう?」


「はぁ、だけど取引しないならまたすぐ拘束されちゃいますよ??」


「貴様を人質に出来たではないか。

貴様の命を盾にし、このふざけた空間から脱出してくれるわ、フフフ」


自信満々なプレイに光は悲しそうな目線を向けた。


「はぁ、けど無理だと思いますが・・・」





それからプレイは外にいるヒロシへ呼びかけ自分を解放するように命令した。

さもなくば光を殺すと脅して。

しかしヒロシの反応は、


「ハハハ♪いいよ♪君如きに殺せるなら殺してごらん?もし殺せたら自由にしてあげる♪

その代わり殺せなかったらちゃんと取引してね♪♪」


そう言ってラボを使いこれ見よがしに毒を入れる容器を多数出現させてきた。

プレイはヒロシに激昂し叫び怒りのまま光へ激しい暴力を振るった。

しかし何をされても光には何もダメージはなかった。


(はぁ、ヒロシさんったらプレイさんをなんで怒らすのさぁ・・・

ダメージはないけど怖いんだから)


光はヒロシへ恨み言をブツブツ言いながらプレイの攻撃を受け続けた。

攻撃を受けながら平然としている光に、

プレイはますますは怒りを募らせあらゆる毒を光に浴びせた。

劇毒や魔呪、ヒロシとの戦いでも使わなかった秘蔵の毒まで使い責めたが光にかすり傷も負わせれなかった。

プレイは苛立ちと若干の恐怖を覚えたようで動揺している様子だった。


「き、貴様!何だその身体は!貴様本当に人間か!?」


「・・・一応はい、まぁ人間です、スキルで無敵なだけで、ただそれだけの勇者です、すみません・・・」


光は全身に毒を浴びダメージはないが、プレイとちゃんと取引出来るか不安だった。


(プレイさんは僕を殺せなかったけど、取引に応じてくれるかなぁ??

これで無理なら失敗かなぁ・・・)


光の不安をよそに、プレイは部屋を行ったり来たりしながら脱出しようとあれこれ試していた。

しかし、ラボも光と同じく何をしてもびくともせず、プレイには全く脱出の手段がなかった。


「クソ!勇者のスキルはどれもバカにしておるな!なんて固さだ!!」


プレイはイライラしながら光のそばに戻り腕を組み見下した。


「あの〜もうよろしいでしょうか?

良かったらちょっとで良いんで毒を分けて頂きたく思いますが・・・」


「・・・お前、外の勇者に言って私を解放するように伝えろ、そうすれば毒をやろう」


「いや、それは多分無理ですよ?

ヒロシさんは絶対解放はしないって感じでしたし、なんとかそれ以外でお願いします」


光はそう言って再度プレイへ頭を下げた。

ヒロシからはプレイを解放するつもりはない、とあらかじめ言われていたし、何やら事情がありげなフォシュラやディロンもヒロシに半分捕らわれていることを考えたら、プレイだけが解放されるわけはないからだ。


「ならば私の足を舐めろ、這いつくばり私の足を綺麗に舐めてお願いしてみろ、そうすれば考えてやらんでもない」


「え?あ、はい。わかりました」


光は()()()()()()()()()と安心してすぐプレイの足を舐めた。

プレイからしたら勇者が足を舐めるなんてするわけなく、挑発のつもりだったのだろうが、

前世では便器や糞等を舐めさせられた経験もある光にとっては足を舐めるくらい今更だった、もちろん嫌ではあるが。


(はぁ、なんで人を虐める人って舐めさすんだろう?楽しいのかな?まぁどうでもいいけど)


光は黙ってプレイの足を舐め続けた。

プレイは最初は驚愕していたがしばらくすると無表情になり黙って光を見ていた。

光はプレイの片足を丹念に舐めたあともう一方も舐めようとしたが、


「もう良い。止めろ」


プレイが光を止めた。

プレイは光を見下しながら冷たく言い放つ。


「お前本当に誇りはないのか?何故ここまでする?そんなにあの勇者に気に入られたいのか?」


プレイの疑問に光は少し考えてから話しだした。


「ん~あぁ、まぁ、ヒロシさんに気に入られたいって言うか、まぁ、僕を頼りしてくれたんだから応えたいって感じです。

僕、今まで頼りにされた事なんて全然なくて。

頼りにされても苦手な戦闘系のお願いばかりで、だからこんなふうに戦わなくても良い場面で頼りにされたら応えたいんですよ。

だから足舐めるくらいで毒がもらえるなら全然良いんです」


光は苦笑いしながら話した。

プレイは黙って聞いていたがため息を一つついたあとヒロシが用意した容器に毒を注ぎ出した。


「・・・ここまでされて約束を破るのは私の誇りが許さん、毒はくれてやる」


「あ、ありがとうございます!」


こうして光は無事プレイから毒をもらうことに成功した。

たっぷり毒をもらえた光は意気揚々と帰ろうとしたが、帰り際にプレイに呼び止められた。


「待て、もし今後も取引があるなら貴様が来い。あの勇者は好かん、だが貴様なら話くらいはしてやる」


「はぁ、わかりました?けど僕なんかで良いんですか?取引するならヒロシ様の方がもっと色々話し合いが出来ると思いますが?」


「かまわん、足まで舐めさせた貴様を蔑ろにしては魔族の恥だ」


「はぁ、そんなもんですかね?僕は全然大丈夫ですが、まぁわかりましたヒロシさんに伝えておきます」


光はそう言って退室した。

退室する間際のプレイの顔はどこか悔しげな表情だったが、光からは見えていなかった。

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