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第二部 十九話 【無敵で弱気な昔話】

光の話をコルリル達は黙って聞いていた。


「僕は前世、つまりはヒロシさんと同じ世界に生きていた時はまだ学生でした。

あ、僕達の居た世界では皆6歳から15歳までは必ず学校に行って学ぶ制度があったんです。

それで、16歳からはまた学校へ行くか、

社会に出て働くか決める。

・・・僕は社会へは出ず学校へ行く事を選んで、

そしてイジメられてたんです」


最後の言葉は笑うように光は言うが、コルリルはまったく笑えなかった。


「あんたらの世界は平和なのね〜?貴族や王族でもないのに必ず学校へ行けるなんて凄いじゃない。

それで?イジメられてたって何されてたのよ?」


「ちょっとフォシュラ!」


コルリルはフォシュラの無遠慮な発言を嗜めたが光は気にしていなかった。


「コルリル別に大丈夫だよ。

もう何年も前って言うか前世の話だし。

・・・まぁでも結構めちゃくちゃされたなぁ、

殴る蹴るはもちろん物を取られたり壊されたり、

お金を奪われたり、渡せなかったらまた殴られたり、

服を脱がされて女子の前に立たされたり、

虫や糞を食べさせられたり、

他にもフォシュラやコルリルには言えないような事たくさんされた。

あ、なんか男好きなおっさんの相手させられたりもしたし、あれは本当にきつかったなぁ」


コルリルは想像より遥かに酷い光の過去に言葉を失った。

フォシュラも黙って聞いていた、同じくかける言葉がないようだった。


「お前それだけされて黙ってたのか?

何故相手を殺さなかった?」


ディロンが口を挟むがヒロシが間に入った。


「ディロン?僕達の世界はそんな簡単に人を殺さない世界なんだよ。

いくら酷いイジメをされてても相手を殺したりとかはあんまりない世界なんだ」


「なんだそれは?えらく歪な世界だな?

弱者はやられたらやられっぱなしというわけか」


「まぁ国が違えばまた変わるんだけど、少なくとも僕達が居た世界の国はそんな感じなんだよ」


ヒロシは呆れたように言う。コルリルもそこまで酷い相手に何も反撃しない文化はあまり理解出来なかったが、そういうものなのだと無理矢理納得した。


「ありがとうヒロシさん。

ヒロシさんの言う通り僕達の世界はそんな風に簡単に殺したりはしない世界でした。

だから僕は黙ってイジメられてたんだけど、

ある日さすがに辛くなっちゃって、

もう生きてたくなくなって、それで自分で死を選んだんだ。

学校の屋上から飛び降りて、自殺した。

それで終わりだと思ってたら、気が付くと神様の所に居た。

ヒロシさんも覚えてますよね?あの白い神様です」


「あ〜もうなんとなくしか覚えてないなぁ〜

どおでも良い事は忘れる事にしてるからなぁ〜」


ヒロシが神についてどうでも良いとしているのをコルリルは注意したかったが、今はぐっと堪えた。


「ははは、さすがヒロシさんだ。

それで僕は神様に異世界、つまりこの世界に転生すること、

スキルを与えられる事、

魔王を倒して世界を救う使命を教えられてこの世界へ来たんです。

ちなみに僕を召喚したのはクリガル国でした」


「クリガルですって?」


光の言葉にフォシュラが素早く反応した。

クリガルにかなり敵意を持っているようだった。

コルリルの方はクリガルという名前の国はおぼろげながら知っていたが、


「えっとクリガルって確か?」


「そうよ、もう魔族に滅ぼされた亡国よ。

ちなみにホムラがピンチの時に友好国にも関わらず助けもよこさなかった裏切り者の国ね」


「あ〜、そうなんだ」


コルリルはそれでフォシュラがなぜクリガル国を敵視しているかがわかった。

光はフォシュラの怒りの理由がわからないので、とりあえず続きを話す事にしたようだった。


「えっと、クリガルはすでに滅びた国なのは知ってるみたいだね?

二年前、クリガル国は滅びる前に僕を召喚した。

召喚された僕に無敵のスキルが備わってると知って王様達は大喜びだったよ。

王様も臣下もこぞって僕を無敵の勇者だ!って持ち上げて国全体で僕の召喚を喜んでくれた。

だけどそれは長くは続かなかった。

前にも話したけど、僕は戦いが怖くて。

この世界にきた当初は今よりもっと酷くて、ただのスライムにすら怯えて何も出来なかったんだ。

フォシュラやコルリルからしたら笑っちゃうよね?男のくせに!って」


自虐的な光にコルリルは何て言えばいいかわからなかったが、フォシュラは怒ったように口を開いた。


「ふん!別に全然笑えないわよ!戦えない理由は人それぞれじゃない。

男だから勇者だから戦えなんて私は思わないわ!」


フォシュラの威勢の良いセリフに光は驚いた様子だった。

逆にヒロシはクスクスと笑いだした。


「フフフ♪フォシュラは男前だねぇ♪」


「ちょっと!誰が男前なのよ!?当たり前の事言っただけでしょ!?」


フォシュラとヒロシが言い合う中、光は切なそうに笑いながらフォシュラに話しかけた。


「ありがとうフォシュラ、そう言ってくれて嬉しいよ。

・・・でもクリガルの人達はフォシュラみたいに優しくなかった。

僕が戦いに向いてない、全く戦えないってわかったらあっさり手のひらを返してさ。

罵倒されたり、殴られたりしてなんとか戦わせようとしてきたんだ。

ハハハ、結局元の世界と同じような事になっちゃったんだ。

それで僕はできる限り頑張ってみたんだけど、

結局恐怖を克服出来なかった。

本当あの頃は辛かった。何してもダメダメだし、戦えないし、怒られるし、殴られるし、

本当辛かった。

だからまた自殺しようとしたんだけど、今度はスキルが邪魔で死ぬことすら出来なかったんだ。

剣や槍で喉を突いてもノーダメージ。

高いところから飛び降りても地面が凹むだけ。

水に入ってもずっと水の中に居るだけ。

食べなくても、眠らなくても、休まなくても死なない。

火の中に入っても服だけが燃えて自分はただ裸になるだけって感じだったよ。

一度は魔獣の巣に入ってされるがままになってみたけど魔獣達も最初は噛んだり引っ掻いたりめちゃくちゃするんだけど、次第に僕に興味がなくなって無視するようになるんだよね。

ハハハ、本当に僕って死ねないんだってわかった時は今までで一番辛かったなぁ」


光はまた笑うように自虐的な話し方をするが、

コルリルは光の気持ちを察すると心が痛くなった。


(クリガルの人達はあんまりじゃない!

光君はこんなに良い子で素晴らしい勇者なのに、戦えないからといっていじめるなんてひどすぎる!)



「・・・それで僕は死ねない事実を知って絶望しちゃって、王宮で引きこもりになったんだ。

けどさすがに王様達も腹立ち過ぎたんだろうね、

僕を人間の盾、つまり人扱いじゃなくて絶対壊れない盾として扱おうって話になったみたいでね?

僕の身体を鉄と一体化させて、

力自慢の戦士に持たせるって案が採用されたんだ」


「・・・嘘でしょ?そんなまさか・・・」


コルリルはさすがに信じられなかったが光の様子を見て真実だと確信した。

ちなみにヒロシが『それもありか!』みたいな顔をしているのには気づかないふりをした。


「それが本当なんだ。けど僕もさすがにそれは嫌だから実行される前に逃げたんだ。

王様達は一応追ってきたみたいだけど、そこまで執着はしてなかった、

まぁ捕まえたって盾にしかならないんだから当然だよね。


それで行く当てもなくフラフラしてたらベルゴールさんに拾ってもらって傭兵街で働くようになったんだ。

まぁ傭兵街でも僕は全然戦えないし、依頼もまともにこなせない雑魚だったから、雑用だったり、この間みたいに一人で依頼に行かされたりして良いように使われてるんだけどね・・・


どうですか?皆さん?こんな情けない僕でもまだ仲間にしたいですか??

ちなみに未だ戦いは怖いままですよ?

相手から攻撃されるのは慣れたけど、自分からは攻撃出来ないんです。

だから本当に盾にしかならないですよ?」


光の話を聞いてコルリルはすぐに心が決まっていた。


「私は光君を是非仲間にしたい!」


コルリルの言葉を受けフォシュラ達も続く。


「私はどっちでも良いけどあんたが入りたいなら歓迎してあげるわ!」


「うむ、フォシュラを助けてもらった借りがあるからな、俺も賛成だ。」


フォシュラとディロンも賛成、残るはヒロシだが、


「僕は最初から賛成だよ♪てかもう逃がす気ないから♪仲間にならないとしても絶対ラボから出してあげない♪」


「ヒロシ様!」


コルリルはヒロシも賛成してくれて安堵した。

光は全員から好意的に見られて動揺していた。


「な、なんで?なんでこんな僕を仲間にしたいんですか??

僕なんて、僕なんて・・・」


「ストップ!光君?僕達の仲間になるなら『僕なんて』は禁止ね♪

仲間に自虐的なられるとパーティーの士気に関わるから!

君は素晴らしい勇者だ!だから自信を持ってその力で僕達を助けてよ??」


ヒロシのまともな意見にコルリルも同意した。


「光君、あなたは私達を助けてくれた立派な勇者よ。

あなたが居なかったら私達全滅してたと思う。

だから自分を卑下しないで??」


コルリルとヒロシの優しい言葉に光は俯き身体を震わせる。


「け、けど僕、僕、もし僕が仲間になって足引っ張っちゃったら?

皆さんの邪魔になってしまったら?

そう考えるとどうしても・・・」


「あ〜!まどろっこしいわね!」


煮え切らない光にフォシュラが声を上げた。


「あんた!仲間になりたくないの?なりたいの?どっちよ!?」


「そ、それは、もちろんなりたいです!けどやっぱりお邪魔になったら・・・」


「邪魔になったら私が邪魔!って言うわ!

そして邪魔じゃなくなるように鍛え直してあげる!

それなら心配いらないでしょ!?」


フォシュラは胸を張り請け負うが、ヒロシは苦笑していた。


「いや、フォシュラに任せるのは違う意味で心配だなぁ?

未だにラボで迷子になるくらいだしなぁ〜」


「うっさいわね!だからそれはラボが複雑過ぎんのよ!!」


またヒロシとフォシュラの言い合いが始まった。

コルリルとディロンは呆れてみていたが、光は安心したような顔で笑い出した。


「ハハハ、確かにそれなら大丈夫かな?

・・・皆さん本当にありがとうございます。

こんな僕ですが仲間にしてくれますか??」


光の申し入れにヒロシは口論を止めて、光に手を差し出す。


「もちろん♪歓迎するよ♪」


二人は固く握手をして光のパーティー入りが正式に決まった。


「じゃあさっそく光君には色々話したい事があるんだ♪

まずは傭兵街で僕らがお尋ね者になってるだろう話からかな♪」


「・・・え?」


光の驚いた顔を見てコルリルは内心で謝った。


(光君最初からごめんね!

でも一緒に頑張ろうね!)

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