第二部 十八話 【無敵の過去】
「はっ!」
コルリルは目を覚ますとラボに寝かされていた。
どうやら気を失いラボに運ばれたようだった。
「え?開白は!?た、戦いはどうなったの!?」
「あんた起きたてからうるさい!ちょっとは静かにしなさいよ」
コルリルが慌てているとフォシュラが怒りながら現れた。
コルリルは飛び上がりフォシュラに詰め寄って状況を確認しようとしたが、
「あ、あれ?」
飛ぶことすら出来ず、力なく布団の上にまた倒れてしまった。
「飛ぶなんて無理に決まってるでしょ?あんた魔力をほとんど全部使っちゃったんだから。
回復するまでしばらくは魔術は使えないし、飛ぶのも無理ね」
「そ、そんなぁ〜」
コルリルは絶望的な気持ちになった。
今まで魔力をここまで使う事はなかったので、魔力を使い切ったらこんな事になるなんて思いもよらなかったからだ。
「てか、魔力の使い過ぎもだけど、自分自身に縛りいれて無理やりめちゃくちゃな召喚したから余計弱ったのよ!
なんであんな無茶したわけ!?」
フォシュラが怒ったように問いただす。
コルリルはモジモジしながら言い訳をした。
「いや、だって、フォシュラ達危なかったし・・・
でも私の魔術なんて絶対効かないし・・・
だからいっそ召喚に絞ればどうかな?って思いついたから、ごめん」
モジモジと謝るコルリルにフォシュラは更に怒りを募らせた。
「それはわかるけど、無茶し過ぎよ!
あんたが死んだら意味ないでしょ!
・・・けど実際助かったし、あんたが居なかったら全滅してたわ、ありがと」
フォシュラは怒りながら最後にお礼を付け加えた。
コルリルはフォシュラのそんな素直な所を好ましく思った。
「ふふふ。フォシュラこそたくさん頑張ってくれてありがとう。
あ、それよりあのあと戦いはどうなったの?
私達が無事って事はヒロシ様か光君が倒してくれたのかな?」
コルリルの質問にフォシュラは呆れた様子で首を振る。
「誰もあんな化け物に勝てないわよ。
あのあとね・・・」
コルリルはフォシュラから自分が気を失ったあとの事を聞かされ非常に驚いた。
「ヒロシ様が、魔術!?しかも強制転移なんて高等魔術を??」
「そう、私達にもできないのにあのバカ勇者あっさりやっちゃってさ。
なんかムカつくわね〜」
強制転移魔術は通常の転移魔術よりはるかに高度な魔術だった。
その魔術はコルリルやフォシュラはおろか、亡き師であるバニラですら扱えるかどうかというレベルだった。
「し、信じられない!ヒロシ様に話聞かないと!」
「呼んだあ〜??」
コルリルが顔を上げるとヒロシが部屋の入り口に立っていた。
にこやかに手を振りご機嫌そうな様子だった。
「ヒロシ様!あ、今回はありがとうございます!私がホントは助けないといけないのに、何も役に立てずにすみません」
コルリルはまずはヒロシに謝罪した。
しかしヒロシはまったく気にした様子もなかった。
「ハハハ♪コルリルは本当真面目だなぁ♪
コルリルは充分頑張ってくれたよ♪おかげで世界のどこかにあのお爺さんを飛ばせたしね」
「あ、本当に強制転移魔術を使われたんですね!?
けど信じられません!ヒロシ様、この間まで基礎の魔術も使えなかったのに!」
コルリルはヒロシがエディとの決闘の為に魔術を練習したが、まったく使えなかった事を忘れたわけではなかった。
「うん♪今も基礎魔術は使えないよ?
けどある人に言われてさ♪
『自分の好きな魔術から練習してはどうだ?』ってね♪
だから色々調べて、ラボに使い方が似てる転移魔術から練習することにしたんだ♪
まだまだ座標指定は出来ないけど、世界中へランダムに転移させるのは出来るんだ♪」
コルリルはランダム転移とはいえ基礎魔術も使えないまま転移魔術を習得したヒロシに感服した。
(相変わらずこの勇者はめちゃくちゃね!
けど転移魔術を使えるなんて本当に凄いなぁ
きっと知らない所でいっぱい練習したんだろうなぁ)
コルリルはヒロシを憧れと尊敬の眼差しで見つめていた。
すると横からフォシュラが、
「ちょっと〜あんた目がキラキラしてるわよ?もしかしてこんなバカに惚れたの??」
フォシュラの一言でコルリルは我に返った。
「な、ななな、何言ってんのフォシュラ!?
わ、わたわたわ、私がヒロシ様になんてあるわけないじゃん!!」
コルリルは真っ赤になって弁解するが、
ヒロシはまんざらでもなさそうな様子だった。
「ハハハ♪ありがとうコルリル♪
けどコルリルは恋愛対象って言うより標本対象って感じだからごめんね??
あ、コルリルが死んだらその死体をじっくり観察するくらいには大好きだよ♪」
ヒロシの一言で甘い雰囲気は粉々に消し飛んだ。
その後、全員でとりあえずラボのリビングルームへ移動した。
コルリルはまだ飛べなかったのでフォシュラに運んでもらった。
ちなみにヒロシも運ぶと立候補したが、コルリルは断固拒否した。
「あ、コルリル目が覚めたんだ。もう大丈夫??」
リビングルームには光が居て、コルリルの姿を見て駆け寄ってきた。
「まだ魔力は出せないけど大丈夫だよ。
それより光君ありがとう。
あのお爺さんの攻撃から皆を守ってくれたんでしょ??」
「いや、まぁ守ったっていうか、ただ攻撃を受けてただけなんだけどね??
僕よりフォシュラやコルリルの方が頑張ってたよ」
コルリルのお礼に、光は照れくさそうに目を伏せて謙遜している。
コルリルは光の雰囲気が変わった事に気が付いた。
「謙遜しないの!あんたが居なかったら私達みんなやられてたんだから!
立派に盾役をしてたわよ!」
「あ、ありがとうフォシュラ。けど僕のはただスキルで耐えてただけだから。
実際僕は何もしてないし・・・」
フォシュラと光のやりとりを見てコルリルはなんだかとても嬉しくなった。
(なんか光君とフォシュラ良い雰囲気じゃない??
光君が何だか気さくになったっていうか・・・
いつの間にかパーティーが和気あいあいとしてる!)
コルリルの感じた通り、光はパーティーと打ち解けたように気さくに接していた。
まだ少しは緊張しているが、以前のようにだんまりとしている様子はなかった。
(強敵に挑んだから一体感が出てるのかな?
開白と戦う前のぎこちない感じが消えてる!
これはかなりいい感じ!)
コルリルが内心で喜んでいると不機嫌そうにディロンがやってきた。
「あ、ディロンさん」
「・・・コルリルか、体調は大丈夫か?」
「あ、はい。ディロンさんは・・・?」
コルリルはディロンの機嫌が悪い理由が分からないので恐る恐る尋ねてみた。
「俺は大丈夫だ。
妹のピンチにも関わらずここで休まされていたからな」
ディロンはそう言ってヒロシを睨む、
ヒロシはヘラヘラとした様子だ。
「だからごめんって〜本当にラボを開くゆとりがなかったんだよ!
開けれてたらちゃんとディロンを呼んださ♪」
「・・・ふん」
コルリルはディロンの不機嫌の理由がわかった。
それはフォシュラのピンチに駆けつけれなかった事だった。
「あの〜ちょっと聞きたいんだけど?」
コルリルがディロンに何と言おうか考えていると、光が口を挟んできた。
「どうしたの光君?」
「いや、別に大した事じゃないんだけど、
なんでディロンさんとフォシュラは一緒に外に出ないのかなぁ?って思って」
「それは・・・」
コルリルは微妙な光の質問に何と答えれば良いか悩んだ。
正直に話すも良し、しかし正直に話すとフォシュラ達の過去を明かす事になる。
しかし嘘を付くのは光の信頼を裏切る事になりかねない。
しかし話すならフォシュラ達のデリケートな部分も話さなくてはならなくなるのでコルリルは非常に困ってしまった。
「別に話してもいいわよ?」
フォシュラはケロッとして話しても良いという。
コルリルは面食らってフォシュラに耳打ちした。
「・・・いいの?盗賊だったのは秘密じゃないの?」
「もういいわよ、隠しても仕方ないし。
・・・助けられた仲間に嘘つきたくないしね」
フォシュラは気まずそうにしている。
フォシュラも光に歩み寄り仲間にしようとしていることがコルリルにもわかった。
「わかった。じゃあ私から話すね?」
「うん」
コルリルが光に話そうと向き直ったら、
「ちょっと待ってコルリル♪
光君に先に言いたい事があるんだ♪」
ヒロシが間に入り邪魔してきた。
コルリルは不満だったがひとまず黙って待つことにした。
「光君?」
「は、はい」
ヒロシは光をまっすぐ見つめて真剣に話しだした。
「フォシュラ達と打ち解けだしてるのは嬉しい。
さっきの戦闘でも凄く助かった。
でもこれ以上僕達と関係を深めたいならはっきりさせようか?
僕達の仲間になるの?ならないの?」
「そ、それは・・・」
光は突然の話に戸惑っている様子だった。
「ヒロシ様?どうしたんですか?」
「いや?そろそろはっきりさせたくなっただけだよ。
その方がお互い接しやすくなるし」
ヒロシはなんだか冷たい雰囲気で光を見ていた。
コルリルには何故ヒロシが急にそんな事を言うのか理解出来なかった。
(なんで?なんで急にこんな感じになるの?)
コルリルは困ってフォシュラやディロンを見るが二人も困惑している様子だった。
「さぁ?どうするんだい?はっきり言ってくれないかな」
ヒロシに詰められ光はオドオドしている。
何か迷う素振りを見せたあと黙って動かなくなった。
「光君?」
コルリルが恐る恐る話しかけても黙ったまま俯いている。
しばらくして顔をあげた光は何か決心した様子だった。
「・・・わかりました。じゃあ答えを出す前に僕の話を聞いてくれますか?
僕の過去の話を」
「もちろん♪」
ヒロシは少し暖かな雰囲気を出してテーブルについた。
コルリル達も黙って従った。
テーブルを囲んで会議のような雰囲気の中、光がゆっくりと話しだした。
「僕は勇者としてこの世界に来ました。
けど前世では虐められて自分で命を絶ったんです」
光の話が始まった。




