第二部 十七話 【無敵の勇者誕生】
ヒロシは激しい痛みにもがき苦しみながら、なんとか呼吸をしようと足掻いていた。
(や、やば、気道が潰れて、い、息が!)
開白の一撃で喉を潰されたヒロシは呼吸が出来なくなっていた。
(こ、こうなったら!!)
ヒロシは一か八か自分の気管に直接極小のラボを開いた。
ラボから新鮮な空気が肺に流れていく。
(はぁ!はぁはぁはぁ!た、助かった!)
体内にラボを開くのはヒロシにとっても初めてだった。
リスクはあったが成功したので、ひとまず呼吸は確保出来たが、
状況は芳しく無かった。
自分は呼吸すらままならないし、フォシュラもかなりのダメージがあるのか倒れたまま動かなかった。
(ヤバいなぁ。もうディロンを呼ぶしかないけど、
ラボを開こうにも隙がない、てか今は自分の呼吸を維持するので手一杯だ)
ヒロシはもっと早い段階でディロンを呼ばなかった事を後悔していた。
(あ〜もっと早く呼べば良かった!
チャンスはあったのに!
・・・まぁ仕方ない、こうなったら自分でなんとかするしかないか)
ヒロシは気持ちを切り替えて策を考えようとしたが、
コルリルが開白に真っ向勝負を挑むのを見て、考えるより早くすぐに行動に移した。
(コルリルが開白と戦うなら僕に出来ることは一つ!)
ヒロシは手持ちの道具で回復魔術のスクロールを使った。
以前エディと戦う前にコルリルと準備していたものだった。
(あ〜回復には時間かかりそう〜!
コルリル!もうちょっと耐えて!)
ヒロシは焦る気持ちに蓋をして、回復に集中した。
その間にコルリルは開白に向かっていく。
「開白さん!私が相手です!」
「ほう!妖精と戦うのは初めてだが、
貴様ごときがわしを楽しませれるというのか!」
開白がコルリルを侮っていると、
コルリルはいつもの幻蝶召喚を始めた。
火の幻蝶を大量に召喚し辺りを埋め尽くしてゆく。
「幻蝶!焔!集え!」
コルリルは大量に召喚した幻蝶を開白の周りに集める。
開白はカラカラと笑い出した。
「なんと!これは見事!これほどの召喚術は久方ぶりに見たわい!!
しかし、わしに通じるかは別の話よのぉ!」
開白は手早く辺りの蝶を次々と撃墜してゆく。
みるみるうちに蝶は減っていくが、コルリルがあとからあとから追加して絶やさない。
「はぁぁぁぁ!!」
気合をいれ幻蝶を支配するコルリルは非常に頼もしく見えて、ヒロシは感心した。
(コルリルやるじゃん!ちょっと見直しちゃったなぁ!)
ヒロシが感心していると、幻蝶を撃墜している開白に異変が生じた。
「ぬ?う、く、こ、これは!?」
開白は胸に手を当て苦しそうにしている。
(まさか!幻蝶の中に毒?!僕みたいなズルい技使っちゃって!!)
ヒロシはコルリルの戦略に驚き、同時に嬉しくなった。
その間にもコルリルの技は止まらない。
「地を這い敵を捕縛せよ!サンドワーム!」
砂の蛇を大量に召喚し開白に差し向ける。
開白は苦しみながらも蛇を迎撃する。
「小癪な!この程度の毒でわしがやられるか!」
開白はどうやら体内で解毒を行いつつ蛇の迎撃をしているようだった。
未だ動きは鈍いが、確実に蛇や蝶を減らし動きを取り戻しつつあった。
「くっ!幻蝶!サンドワーム!」
「ふん!読めたわ!貴様!召喚をあえて絞り、さらに他の魔術も使わぬ縛りで大量の召喚を可能にしているな!?
貴様ごときがこれほど大量の召喚をするなどおかしいと思ったわ!!」
どうやらコルリルは自ら魔術を封じ、召喚術も蝶と蛇のみに限定することで、一時的に爆発的な召喚力を生み出していた。
しかし、それを見破られた今、コルリルは非常に劣勢に陥っていた。
「他の魔術や召喚がこんのなら貴様如きに手こずるはずもない!
今すぐ叩き潰してくれる!!」
開白は一気に勢いを取り戻した。
解毒は完了し、召喚された蛇や蝶を次々となぎ倒しコルリルに迫る。
その時、
『待ちなさい!』
フォシュラが倒れたまま火炎魔術で防壁を作り出した。
分厚い火の壁で開白を隔離する。
「ありがとうフォシュラ!」
コルリルはすかさず召喚を操り、残った幻蝶をひとまとめにして巨大な幻蝶を生み出した。
「幻蝶!巨影!」
巨大な幻蝶は猛火の壁に阻まれた開白へ鱗粉を振り撒こうとする。
フォシュラはそれを見て魔術の解除タイミングを見計らった。
『やる時に言いなさい!壁を解除するわよ!?』
しかし、コルリルが返事をするより早く壁を打ち破り開白が出てきた。
「わははは!こんな壁でわしを捕らえれるとでも思ったか!!」
コルリルはすかさず幻蝶を操作し開白へ仕掛ける。
巨大な羽を羽ばたかせ鱗粉を振りまく幻蝶に開白は、
「ふん!もうそんな小細工は通用せん!
武相流!百烈波!」
その場で無数の突きを繰り出す開白。
その凄まじい突きの拳圧で巨大な幻蝶がみるみるうちに粉々になっていった。
「な、なんてめちゃくちゃなお爺さんなの!」
コルリルはなんとか幻蝶をもたせようとしたが、無駄だった。
『コルリル!逃げなさい!もう無理よ!』
「みんなを置いて逃げれないよ!!」
コルリルが躊躇っているうちに開白は幻蝶を打ち倒していた。
「どうした、これでしまいか?では妖精といえど覚悟してもらおうか?」
コルリルの前に歩み出る開白。
コルリルは死を覚悟して目を閉じた。
「ま、待ちなよ。まだ僕がいる!」
すると森の奥から光が幻蝶に導かれゆっくりと出てきた。
(光君!コルリルナイス!!)
ヒロシは発動させようとしていた魔術を中止し、再び治療に専念する。
どうやらコルリルは戦いながら幻蝶を一部飛ばし、光を呼びに行かせてたみたいだった。
それが実を結び、ギリギリで間に合ってくれた。
「なんじゃ、お主生きとったんか?」
「は、はい、残念ながら生きてます」
開白を前に怯えている光、
開白はふん!と見下すように光を見つめる。
「で?そんな怯えた様子でわしの前に立ちはだかり何をするつもりじゃ?
まさかわしと戦うつもりか?」
「た、戦います!けど一つ約束して下さい」
「ん?」
「あ、あなたが僕を殺せなかったら皆に手を出さないと約束して下さい!」
光の申し出に開白はカラカラと笑う。
「なんじゃその条件は?
まぁ良かろう!その代わり貴様が死ねば皆殺しにするからの!」
開白はそう言うやいなや光に神速の貫手を繰り出した。
光はまともに受けるが今度は吹き飛ばされ無かった。
ヒロシは光が足に魔力を込め踏ん張る事に全精力を注いでる事に気が付いた。
(光君やるぅ!僕も頑張らないと!)
ヒロシは治療をしつつある魔術の準備をする。
「なんじゃ?なぜ貫けん?」
開白は不思議がりながら光へ次々と技を繰り出す。
正拳、鉄砲打ち、裏拳、手刀、足刀、掌打、急所突き、あらゆる技で光を攻撃するが、
「き、効きませんよ!」
光は必死に吹き飛ばされないようにだけ耐え、その場で平然としていた。
ヒロシは改めて光のスキルのチート具合に唖然とした。
(あの爺さんの技をあそこまで受けて大丈夫って本当にチートだなぁ〜
いやぁ~こりゃ絶対仲間にしないと!)
「貴様ぁ!わしをからかうか!何故反撃せん!?」
開白は自身の技が通用しない事より、光が反撃しない事に苛立っていた。
「ぼ、僕の条件はあなたの攻撃に耐えるだけ!
そしたらあなたは引くしかないでしょう?!」
「ふざけるでないわ!!貴様も戦士ならかかってこんかぁ!?」
開白は激怒し光をさらに激しく攻撃する。
しかし光にはまったく効かない。
その繰り返しの間にヒロシの準備が整った。
「強制転移魔術発動!」
ヒロシが魔術を発動させた瞬間開白の身体が淡く光りだす。
異変に気付いた開白はヒロシを見据えた。
「貴様!何をした?!」
「へへへ、ちょっとあんた強すぎるから、またいずれ勝負しようよ?それまでサヨナラ♪」
「貴様ぁぁあ!」
開白は怒り狂いながらヒロシに迫る、
怒りの手刀がヒロシに突き刺さる瞬間、光が間に入りガードする。
「ほ、僕の仲間は死なせない!」
光がそう言った瞬間魔術が発動し、開白は強制転移された。
転移の間際に開白が叫ぶ。
「貴様ら覚えておれ!いずれ必ず相まみえようぞ・・・!」
そう言い残し開白は消えた。
辺りに静寂が戻る。
「ぷはぁ!いやぁ~やばかったね♪
光君ナイス!助かったよ!」
ヒロシは、光に礼を言った。
光は頭をブルブル降りながら逆に謝ってきた。
「こ、こちらこそ救援が遅くなってすみません!
最初吹き飛ばされてダメージは無かったんですけど、森の洞穴みたいな場所に入っちゃって、道が分からなくなっちゃったんです。
コルリルの蝶々が道案内してくれて助かりました。
僕、盾役なのに全然役に立てなくてすみません・・・」
しょぼくれて謝る光は先ほどまで開白の猛攻に耐えていた勇ましさは見えず、普通の気弱な青年といった様子だった。
ヒロシにはそれが面白かった。
「全然大丈夫だよ!光君が来てくれて助かったんだから気にしないで!
ほら、あのオレンジ色の道着を着た人だって仲間のピンチには遅れて登場しがちだし♪」
「いや恐れ多いんであの方と僕を一緒にしないでください・・・」
ヒロシと光は笑いながら一段落する。
すると、
『ちょっと!あんたら和んでないで助けなさいよ!
私もだけど、コルリルは大丈夫なの!?』
フォシュラの怒りの念話で二人は慌ててフォシュラ達の治療に向かった。
「フォシュラさん大丈夫ですか?
すみません、僕が遅れたばかりに・・・」
光はフォシュラに治療魔術をかけていた。
光は魔術師ではないので本格的な治療までは至らなかったが、フォシュラ自身も自己治療魔術を重ねがけしているのでゆっくりではあるが治療出来ていた。
『うるさいわよ、あんたが来なかったら全滅してたわ、謝るんじゃなくて勝ち誇りなさい』
フォシュラは不貞腐れながら光を睨む。
ヒロシは気絶したコルリルを抱えながらそこに合流した。
「コルリルは気絶していたよ。
多分魔術の使い過ぎだね、
ゆっくりしてたら目を覚ますだろう♪
コルリルもたくさん頑張ってくれたからねぇ」
ヒロシはコルリルを優しく撫でる。
実際コルリルは自分の限界を超えて頑張ってくれたとヒロシは思っていた。
魔術を封じ召喚に絞る戦い方なんて今までのコルリルはした事が無かった、
その召喚に毒を混ぜるなんて自分のやり方を真似たような戦い方だとヒロシは思った。
あの時にコルリルが出来る全てをしつつ、光を導いてくれた。
おかげで皆生きている。
本当にコルリルには感謝しか無かった。
『ふん!悪かったわね!大して頑張れなくて!』
不貞腐れたフォシュラが嫌味を言ってくる。
ヒロシは笑いながら言い返した。
「ははは、フォシュラも充分頑張ってくれたよ♪
フォシュラが援護してくれたから僕もなんとか戦えたし、
フォシュラがコルリルと時間稼ぎしてくれたから転移魔術を使えたんだから♪」
『ふん!』
まだ不貞腐れているフォシュラをヒロシはからかいたくなった。
「そうだ!そんなに自分が役に立てなかったって思うなら、
今回の戦いで一番頑張ってくれた光君にご褒美をあげたら??
例えば一晩自分を好きにしていいわ♪とか♪♪」
「ぶはっ!!」
ヒロシの言葉に光が驚いて激しく動揺する。
「ヒ、ヒヒ、ヒロシさん!な、何言ってんですか!?!?」
「ははは♪冗談だよ!冗談♪」
「冗談でも止めて下さい!」
真っ赤になった光はヒロシを睨むが、
今度はフォシュラがさらに不貞腐れてしまった。
『・・・何よ?私とそんなに寝たくないわけね?
冗談でも嫌なのね?』
「ち、違います!い、いやとかじゃなくて!
その、あの、だから、ええ〜と!
ヒロシさん!!」
しどろもどろになりながらヒロシに助けを求める光をヒロシは笑い飛ばした。
「ハハハ♪無敵の勇者なのにタジタジだねぇ♪」
「からかわないで下さい!!」
真っ赤になって抗議する光をみて、何故だかヒロシは彼を心から仲間にしたいと感じた。




