第二部 十六話 【激戦と妖精】
コルリル達は目的地に到着した。
目的地は街道近くの森、まずはターゲットの捜索を行う事になった。
ターゲットはオーク、巨躯と凄まじい力が特徴の魔獣で、群れを作り他の魔獣や人間を襲う。
しかし、知能は低く動きも緩慢なので、低級の魔術師でも数人いれば討伐出来る、
いわば身体が大きなゴブリンといった魔獣だ。
今回の依頼はまだ群れの規模が小さな、せいぜい十体未満の群れらしく、簡単な仕事になりそうだった。
「さぁ、オークを探しましょう。
一応段取りを決めますか?」
「そだね〜じゃあ僕が索敵するから、見つけたら光君が前に出てくれる?」
「は、はい!わかりました」
光は少し緊張しながらも応えてくれた。
「よし、じゃあ光君が前に出たらフォシュラとコルリルで一気にやっちゃって?」
「はいはい」
「了解です!」
こうしてパーティーの役割を決めてオーク探しを開始したが、
すぐに異変に気が付いた。
「な、なにこれ?」
コルリル達が見つけたのは無数のオークの死体だった。
あちこちに散らばっている死体はゆうに五十は超える。
「・・・話と違うじゃない?十体くらいの群れじゃなかった?」
「だねぇ、しかもこの死体妙だよ?」
フォシュラとヒロシがオークの死体を観察する。
オークの死体は身体の外側から砕けたような死体になっているだけで、コルリルは魔術を使えばこうなる気がした。
だか、コルリルには何が妙なのかわからなかった。
「ヒロシ様?何が妙なんですか?」
「ん~僕もオークをちょっと研究した事があるんだけど、こいつらって魔術にはめっちゃ弱いけど、物理攻撃にはめっちゃ強いんだよ。
例えばこいつらを肉弾戦で倒すならディロンでも素手じゃかなり厳しいと思う。
もちろん武器を使えば簡単なんだけど、
この死体は素手で殺されてる。
多分ここの死体全部」
コルリルはそう聞いてゾッとした。
話が本当ならどんな化け物がオーク達を倒したのか考えるだけで恐ろしかった。
その時、
「ヒロシさん!コルリルさん!あ、あそこに人が!」
光が指差した方を見ると誰かがオークの死体に座っていた。
コルリル達はとりあえず慎重に近づいていく。
「あの〜すみません、ちょっとお尋ねしたいんですが?」
コルリルはオークに座る後ろ姿にそっと話しかける。
ヒロシ達は辺りを警戒しつつ様子を見る。
呼びかけられた人物は立ち上がり振り返った。
「なんじゃお主ら?わしに用か?」
相手は人間だった。
初老の男性で、立派な口髭と丸坊主の頭が特徴だった。
身体付きは筋骨隆々でディロンに負けず劣らずの体格だ。
しかし、ディロンとは違いその眼差しには一切の温もりもなく、無機質にコルリル達を見ていた。
「わ、私達はオーク討伐の依頼を受けた冒険者なんですが、
こちらのオークはあなたが??」
「ふむ?依頼が出とったのか。
さよう、ここのオークは腕試しがてらわしが屠った。
まぁ大した戦にもならんかったがな」
初老の男性は大した事ないといった風情で言い放つ。
コルリルはどうしたものかと考えていると。
「お主らが依頼を受けたなら帰って報告するが良い。
わしは報酬などいらんからの」
「はぁ、あ、ありがとうごさいます」
コルリルはヒロシの方をチラッと振り返る。
ヒロシは肩を竦めていた。
(う〜ん、まぁ倒しちゃったものは仕方ないよね?元々オーク討伐はついでだし、光君と仲良くなれたならもういいかぁ)
コルリルはオーク討伐は諦めて帰る事にしようとしたが、
「ん?待て。お前とお前、もしや勇の者か?」
初老の男性がヒロシと光を指差し尋ねてきた。
「ん?勇の者って勇者の事?なんでそう思うのかな?」
ヒロシがあっけらかんと尋ねると男性はヒロシを睨みつけた。
「お主らから出るオーラでわかるわい。
はよ質問に答えんか」
「・・・まぁバレてるなら認めるけどそうだよ。僕と光君は勇者だ。
お爺さん何者??」
「そうかそうか、こりゃわしはついとるの」
男性はカラカラと笑い次の瞬間、
目にも留まらぬスピードで光に素手の一突きを繰り出した!
「ふんっ!」
ドガンッ!!
光は反応も出来ないまま、まともに喰らい森の奥まで吹き飛ばされていった。
「光君?!ちょっ!」
コルリルは光の安否を確かめに行こうとしたが、
男性から発せられる闘気に身動き出来なくなった。
「カカカ!名乗りをあげようか!
わしは武相流師範、開白じゃ!さぁ死合うとしようかの!!」
開白は闘気を迸らせながら今にも迫りきそうな気配だ。
「・・・このジジイやばいわね」
フォシュラは臨戦態勢をとり、ヒロシは前に出ながらコルリルにそっとつぶやく。
「・・・コルリル、自分に全力で防御魔術使って。
余裕があれば僕とフォシュラにも。
光君は大丈夫でしょ?」
それだけ言ってヒロシは開白の前に歩み出ていく。
確かに、言われてみれば光はどんな攻撃でもダメージを受けない。なら今はヒロシ達のサポートがコルリルのするべき仕事だった。
「・・・了解です。
最果ての盾、我が身を護れ、
深遠なる霧、皆を覆え、
両者の守るべき者は同じなり、
血の契りより濃く繋がれ、
シールドプローン!!」
コルリルはすぐに自分に強固なシールドを、
ヒロシ達にはダメージ軽減のバフをかけた。
この魔術は強力だが、使っている間は他の魔術が使えないのが弱点だったが、コルリルはヒロシ達を信じてあえて使った。
「ヒロシ様!バフかけれました!よろしくお願いします!」
コルリルの言葉にヒロシは手を挙げ応えた。
しかし目線は開白を見据えたままだった。
「じゃあ死合おうか♪
その前に一つ聞きたいんだけど、君の目的は何かな?勇者に恨みでもあるのかな?」
「なんじゃそりや?わしはただ強者と力試しがしたいだけじゃ。
勇者は【すきる】とか言う不思議な技を使う強者じゃからな」
開白の言葉にヒロシは安堵した様子を見せた。
「良かった、それなら僕らよりもっと強い人を連れてくるからちょっと待っ・・・」
ヒロシがそう言いながらラボを開こうとした瞬間、再び目にも留まらないスピードで開白が攻撃を繰り出した。
神速の掌底がヒロシのみぞおちにクリーンヒットする。
「グハッ!!」
ヒロシは合気を使う間もなく弾き飛ばされた。
吹き飛び木にぶつかり力なく地面に倒れるヒロシをコルリルは黙ってみているしか無かった。
「あんたぁ!ふざけっ!?」
怒りに任せフォシュラが無詠唱魔術を繰り出したが、開白は難なく躱し、フォシュラの顎に強烈な前蹴りを放った。
フォシュラはまともに喰らい身体ごと数メートル吹き飛び動かなくなった。
「ふん!スキルを使う暇は与えんわ!
しかも小娘の方は無詠唱魔術とは癪な真似を!しかし、練度が足らんわ!
さぁ!勇者パーティーというのはこんなものか!?」
開白はダウンしているヒロシとフォシュラを睨見つけ立ち上がるの待っている。
コルリルは身体が震えて動けなかった。
コルリルは自分達パーティーはそこそこ強いと思っていた。
フォシュラは自分よりはるかに強い魔術師だし、
ディロンより強い戦士なんてザラにいない、
それにヒロシは何だかんだ言いながらもどんな敵にも勝ってきた。
だから自分達は大丈夫、そう思っていた。
しかしそれは幻想だった。
今、まさにパーティーは全滅しかかっていた。
「いたたた、お爺さん、やってくれるね、ゲホッ!」
コルリルが絶望しているとヒロシがよろよろと立ち上がった。
負傷しているがまだ戦える様子だ。
「ヒロシ様!!」
コルリルは希望を感じて興奮したが、ヒロシは苦しそうだった。
「コルリルありがとう、バフが無かったら即死だったよ
さぁ!フォシュラ!まだやれるだろ?!」
ヒロシが呼びかけるとフォシュラがなんとか立ち上がった。
顎は砕け鼻から血が滴っている。
『うるさいわね!やれるわよ!このじいさん絶対殺すわよ!』
フォシュラは砕けた顎では話せないので、魔術による念話でコルリル達に話しかけてきた。
「よしよし、じゃあ第2回戦だ!」
「フフフッよかろう!まとめてかかってこんか!」
ヒロシはすぐに駆け出し、ナイフを取り出して逆手にして切りかかった。
フォシュラも魔術を使いヒロシにバフをかけつつ、火の精霊騎士を召喚して援護した。
『バカ勇者!右から行きなさい!』
ヒロシが指示通りにすると開白をヒロシと精霊で挟み撃ちに出来た。
「ふん!小賢しいわ!」
しかし開白は難なく躱した。
あっという間に精霊を倒し、再びヒロシに攻撃する。
「ほれ!これはしのげるかぁ!?」
開白の無数の突きがヒロシを襲う。
ヒロシはなんとか捌いているが次第に被弾が多くなっていく。
「くっ!スキルを使う暇がない!」
ヒロシはラボを開く隙を与えられないまま防戦一方だった。
しかし、フォシュラがサポートに入った。
『ファイヤーウィップ!』
火の鞭を巧みにあやつりヒロシと開白の距離を開かせる。
ヒロシはなんとか窮地を脱せた。
「ありがとうフォシュラ!助かったよ!」
『いいから早くディロン兄ぃを呼んで!私達だけじゃ無理よ!』
ヒロシはすぐにラボを開こうとするが、
ガシッ!
開白が投擲した石が火の鞭の間をすり抜けヒロシの喉に直撃した。
「グハッ!」
ヒロシは悶絶しのたうち回る。とてもスキルを発動するどころじゃなかった。
『ヒロシ!』
フォシュラが慌ててフォローしようとするが、間に開白が割って入る。
「まずはお主から始末してくれる!」
開白の連撃が始まりフォシュラは火炎の防御魔術を使う。
必死にガードを固めるフォシュラだが、次第にガードが破られてきた。
「ほれほれ!どうしたどうした!貴様の実力はそんなものか!わしをもっと高ぶらせてみんか!!」
開白の掌底がフォシュラに決まる。
フォシュラも吹き飛び木に叩きつけられた。
コルリルはどうしようか必死に考えていた。
自分がフォローするには防御魔術を解かなければならない。
しかし、防御を解いた瞬間瞬殺されても仕方ない相手だ。うかつには解除出来ない。
しかしこのままでは二人が殺される。
ならば、
「開白さん!私が相手です!!」
コルリルは全ての防御魔術を解除して開白と向き合った。