第二部 十四話 【ヒロシの策と街からの逃走】
コルリルは夜遅くまでヒロシを待っていたが、ヒロシは結局戻らなかったので先に休んだ。
光もラボから出れないのでラボの一室を使って休んでもらった。
コルリルはヒロシの身勝手な行動にほとほと呆れ果てながら眠りについた。
翌朝
「あ、コルリルおはよう♪よく眠れたかな??」
コルリルがリビングルームに行くと、ヒロシがにこやかにドリンクを飲みながらくつろいでいた。
ヒロシはリビングルームのリクライニングソファーでゆったり横になり、
テーブルの方にはディロンとフォシュラが疲れ切った顔で座っていた。
「ヒロシ様!帰ったんですね!?
今までどこにいたんですか?!」
「ん~~?まぁあちこち?色々な感じかな♪」
ヒロシははぐらかして答える気はないようだった。
「わかりました!それより早くボルターさんに斧を返しに行きますよ!!
光君も気にしてるんですから!」
コルリルはさっそく斧を返しに行こうとしたが、ヒロシは笑いながら断ってきた。
「ははは♪その話をちょうどディロン達としてたんだよ♪
ディロン?教えてあげて??」
ヒロシに話し役を譲られディロンは不機嫌そうだった。
しかし渋々ではあるが話しだしてくれた。
「・・・斧は返さなくとも良い。
ボルターは死んだからだ」
「え?死んだ??」
「ボルターは死んだ、
俺が・・・
俺が殺した」
ディロンが何があったか話しだした。
コルリルは黙って聞いていたが、話が終わった瞬間ヒロシに詰め寄った。
「ヒロシ様!あ、あなた一体全体何してるんですか!?!?
わざと傭兵さん達を煽って怒らせるなんて!
しかも結局ディロンさんとトラブルになって人死まで出てるじゃないですか!!」
コルリルはヒロシのしたことが信じられなかった。
傭兵達を殺したのはディロンだが、そう仕向けたのは完全にヒロシだ。
コルリルはヒロシが人の命を軽く見ているとは思っていたが、これほどとは思わなかった。
「いやいや!まさかディロンがあそこまで怒るなんて思わなくてさぁ♪
ちょっと痛めつけてくれたら良かったのに皆殺しなんてディロン凄すぎだねぇ♪」
ヒロシはまったく反省する素振りを見せなかった。
それどころかにこやかに楽しそうにしているのがコルリルには信じられなかった。
「ヒロシ様!わかってるんですか?!
人が死んだんです!ヒロシ様の策のせいで!」
「はいはい、けど死んだのはフォシュラを性のはけ口としか見てないクズだよ?
あんなやつら死んでもいいじゃない♪♪
ちなみに酒場にいた傭兵達は僕の調べた限りでは似たりよったりのクズだよ♪」
そう言われてコルリルは一瞬怯んだが、それでも納得は出来なかった。
「そ、そうだとしても!人を殺しても良い理由には・・・」
「理由になるよ」
ヒロシが突然冷たく言い放った。
「死んで当然のやつはいる。それは事実だ。
彼らも傭兵としてたくさんの人を殺し、
その影でたくさんの罪を犯していた。
僕のいた世界じゃ完全に死刑だよ。
だから彼らを死なせてしまっても、僕は全然気にならないな♪」
ヒロシはあくまで彼らを死に至らしめた事の責任は感じないと言う。
コルリルにはもう何も言えなかった。
(ヒロシ様の言い分もわかるけど。
でもこれはさすがに・・・)
コルリルが黙っているとフォシュラが声をあげた。
「コルリルもういいわよ。
私はそんな奴らどうでもいいし、ディロン兄ぃがやっつけてくれたんだからもういいじゃない。
まぁ私をダシにしてディロン兄ぃを使ったこのバカ勇者には腹立つけど」
「けどフォシュラ・・・」
コルリルはまだ納得は出来なかった、しかし当のフォシュラがもういいと言うならコルリルも納得せざる得なかった。
「ディロンさんも良いんですか?」
「・・・俺は手を汚した張本人だからな。
今更良いも悪いもない。
ただこいつにも言ったが、もう二度とフォシュラを巻き込む策はしてほしくないだけだ」
ディロンはそう言ってヒロシを見る。
ヒロシはヘラヘラしながら答えた。
「OK〜♪もうしないから安心してね♪
さぁ!じゃあこれからの事だけど」
ヒロシはこれからの事に話をスライドさせた。
コルリルはもう殺人については追及するタイミングを失ってしまった。
「僕達が傭兵街に来たのはパーティーの盾役を探す為だ。
そしてそれは無敵のスキルを持つ光君こそふさわしいと僕は思う。
けど光君はベルゴールとの契約で街から離れれない。
かと言って他の主だった候補者はディロンに惨殺された。
ここまでは良いかな??」
「・・・色々言いたい事もありますけど良いですよ」
コルリルは不満だったが今は我慢した。
「じゃあなんとか光君を仲間にしたいわけだけど、
彼を仲間にするためには契約破棄をしなければならない。
だから僕は傭兵達を煽ったんだよ♪
光君の仲間と思われてる僕が傭兵達に敵視される事で、光君も敵視される。
光君は街に居づらくなり、契約破棄したいとベルゴールに言いたくなるはず!という策だね♪
あとはベルゴールも傭兵達がギクシャクするのを嫌って、原因である光君を街から追い出すようになったらラッキー♪
無理ならお金積んで引き抜くって感じを想定してたんだよねぇ♪」
「・・・あんたの身勝手さがよくわかる策だね」
フォシュラは冷たく言い放つ。
ヒロシは気にした風もなく話を続ける。
「それで今後の策だけど、一旦街から離れようと思う、あくまで一時的にだけど。
街には今は凄い混乱が起きてる、まぁ主だった傭兵達がみんな死んだんだから当然だよね。
だから一旦落ち着きを取り戻すのを待つ、なぜなら時間が経てば街の人達はこう思うはずだからだ。
『誰が殺したんだ?』
『勇者光の仲間がやったみたいだ!』
『あの光に仲間が?!』
今まで光君をないがしろにしてた人達は恐怖するだろうね♪
今までの恨みを晴らすために光君が強いディロンを仲間に入れたって思うはずだから♪
実際光君をいじめてた傭兵達は惨殺されてるんだし、
しかも殺されたのは実力者ばかり、これは残された人達はかなり怖いはずだねぇ♪」
「・・・お前、性格悪いな」
ディロンがボソッと呟くがヒロシはまた無視して続ける。
「そして、街に満を持して光君と僕達が現れるんだ!
街中恐怖に呑まれるはずだよ♪
『次は自分か?!』
『街自体を破壊するのか?!』
って感じで想像が恐怖を呼んで収拾がつかない事態になるはずだ。
何しろ街にはディロンやフォシュラを止めれる人材はもう居ないんだから♪
ディロン達が暴れ出したらどうにもならない、そんな恐怖が街を包むだろう、
もうそうなったらベルゴールも街を保つためには、光君を手放すしかないってわけだ♪
まぁその時にいくらかお金を要求されるかもだけどそれは交渉次第かな♪」
ヒロシの策を聞いてコルリルは人道からは外れた策だけど、
確かに光を仲間に出来そうな策だと感じた。
「めっちゃくちゃな策ですし、ひどすぎるとは思います、
けど光君には仲間になってもらいたいし、それにもうここまで来たらその通りにするしかないじゃないですか・・・」
コルリルは渋々納得した、ヒロシはにっこり微笑んでコルリルを撫でた。
「ありがとうコルリル♪
まぁ多少は乱暴な手段だったけどこれで光君は仲間に出来るはずだよ♪
あ、けど光君にはまだ言わないでね??
まずは僕達が受けた依頼を手伝ってもらうって体で街から連れ出すから。
また街に帰る時にちゃんと話すからさ♪」
「わかりました、けど光君は街から離れれるんですか?」
「大丈夫♪ちゃんと騒動の前に正式な依頼受けといたからさ♪
傭兵の依頼とあれば街から離れるのも契約上問題ないはずだし」
ヒロシは抜かりなく準備していた。
コルリルは依頼を確認した。
依頼内容自体は簡単そうだが、街から離れているので時間はかかりそうな依頼だった。
「私達には何にも相談なく全部準備してるんですね??
わかりましたよ、その通りにしますよ」
コルリルは少しいじけていた。
ヒロシが何も相談してくれないのが信頼されていないように感じるからだ。
「ごめんごめんコルリル!けどコルリルにはコルリルにしか出来ない事をして欲しいかったんだよ♪
それはズバリ!光君の勧誘だ!
いくら状況が後押ししても、最後に仲間入りするかどうかは光君次第だからね。
その時に光君の心を動かすのはコルリルだよ♪
コルリルが今のうちから光君と仲良くなって信頼されていけば、
いざ仲間になるかどうかって時に必ず役に立つはずだよ♪
だからコルリルは光君の事を任せたからね!」
「ちょ、そんな任せられても困ります!
それならフォシュラに任せたら良いんじゃないですか??
光君フォシュラの事を好きみたいだし、フォシュラの方が上手くいくはずです!」
コルリルは言ってからあ!と思ったが後の祭りだった。
「・・・コルリルさん?それは言っちゃあ不味いんじゃあないかなぁ??」
ヒロシもさすがに気まずくフォシュラを見るが、フォシュラは涼しい顔だ。
「ふーん、あいつ私が好きなんだ?」
「あ、多分ね!昨日妖精の感覚で感じただけだから!本人から聞いたわけじゃないし確実じゃないから!!」
「いや妖精の感覚で感じたならよけい間違いないんじゃ・・・」
妖精は人の心の動きに敏感な種族だ、
そのコルリルが感じたなら言葉で聞くより間違い気がすると、ヒロシは言う。
「まぁ、魔術の訓練の時から私もそうなのかな?って思ってたけどね〜
まいったなぁ♪私可愛いからモテて困っちゃうなぁ♪」
フォシュラはご機嫌そうにニヤニヤしている。
一方ディロンは不機嫌になった。
「光を仲間にするのは止めだ、今すぐラボから叩き出せ」
「いやいやディロンはブレないし、めんどくさいなぁ・・・」
こうしていつも通りにガヤガヤと話し出していると、
「おはようございます、すみません遅くなりました」
当の光がパジャマ姿のままリビングルームにやってきた。
ヒロシはおはよう!と挨拶し、
フォシュラはニヤニヤ笑いかけ、
ディロンは腕組みをして下を向き絶対光の方を見ないようにしていた。
「あ、えっと、すいませんお邪魔でしたか??」
コルリルはこの子を無事仲間に引き込めるのだろうか、と不安になった。




