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第二部 十三話 【世界の話、今後の話】

ヒロシとアルケインの話は続いていた。


「じゃあ本題だけどアルケイン?君はなんで傭兵街に来たのかな??」


ヒロシはアルケインに街への訪問目的を尋ねた。

アルケインは少し迷っていたがゆっくり話しだした。


「・・・まぁお前なら話しても良いだろう。

我らが傭兵街に来たのはこの街を手に入れる為だ」


「ほほぉ!詳しく!」


ヒロシは興奮して前のめりになりアルケインの話を待った。


「・・・我らランスロ国は長らく北大陸の覇権を目指し戦っていた。

北大陸を平定し人類が一致団結して魔族に挑む為だ。

しかしそれは不可能だった」


「へぇ〜御立派だね!ちなみになんでダメだったの?」


ヒロシは何気なく尋ねたがアルケインの気に触ったらしく、アルケインの声や仕草が固くなったのを感じた。


「お前が居た国のせいだ。

北大陸中央に居座る弱小国サイマール、

サイマール自体は大した国力もない国だが、

あの国には【要のバニラ】という大魔術師がいただろう?」


「うん、バニラ様の事だろう?確かにバニラ様は凄い魔術師だったねぇ〜

まぁバカな王に処刑されてしまったけどね」


ヒロシはあの優しく大らかだけれど、どこかで何かを企んでいるような大魔術師の顔を思い返した。


「そうだ、【要のバニラ】

幾千の魔術を操り、

複数の魔術を同時に使用する天才、

戦闘経験、魔術知識、戦略眼、あらゆる魔術の才能を詰め合わせたかのような大魔術師だ。

彼がいるからサイマール国は東と西に挟まれた不利な立地でありながら侵略されず繁栄していたのだ」


ヒロシはアルケインの話に首をかしげた。


「ん〜?ねぇアルケイン?バニラ様が強い魔術師なのはわかるけど、

国同士の戦争に関わる程かな??

いくら強くてもたった一人じゃ大した戦力にならないんじゃない?」


バニラがいくら強くても、数で押すなり、暗殺するなり、対魔術の戦略を練るなりと、

いくらでも方法はあるとヒロシは思った。

しかしアルケインは首を振って否定した。


「彼がまだ生きていた頃、西の国の一つがサイマールへ侵攻した事があった。

対魔術策を施した兵や召喚獣を大量に集めての一大侵攻だった。

しかし、数万の軍がバニラ一人に阻まれた。

数キロにわたる土壁、

決して消せぬ火炎流、

海の如き水量の瀑布、

山ごと消し飛ばす暴風、

凄まじい程の大魔術を連用しバニラは侵攻を防いだ。

しかも敵方の兵士は極力殺さぬように手加減までする余裕を見せた。

それ以来サイマールへ侵攻する国はまったくいなくなったのだ」


「・・・マジか」


ヒロシは唖然とした。

バニラは強いとは思っていたがそれほどの魔術師だとは思わなかった。


(じゃああの三魔将プレイなんて本当はあっさり倒せたんじゃないの??

けどあの時は治療や防御で手一杯だったのか?

それか町中では使えない魔術が多かった?

うわ〜生きてる間に聞ければ良かったなぁ〜)


ヒロシは今更ながらバニラが生きてる間に聞けなかった事を後悔した。


「サイマールはバニラの圧倒的実力で独立国を維持していたのだ。

バニラがいるから中央のサイマールを落とせない、だから東と西の国は戦にならず、

大きな戦いも起こらない。

まさに要だったのだ、だからサイマール以外の他国ではいつしか【要のバニラ】と呼ばれる事になった。

・・・そのバニラを処刑したバラマールは本当に愚王だ」


アルケインは口惜しそうに最後の台詞をこぼす。

ヒロシは意外に思った。


「アルケインはバニラ様が死んで辛いの??

アルケインからしたら邪魔な存在だったんじゃない??」


「・・・確かにバニラは我がランスロ国にとっては障害となる人物だった。

だが私個人としては尊敬していた。

あれほどの実力者が死んでしまったのは本当に残念でならないからな。

・・・それに私はバニラに命を救われた事があるんだ」


「へぇ〜!」


ヒロシはアルケインの話が面白くてますます楽しくなってきた。


「数年前ランスロ国が密かにサイマールへ侵攻した事があった。

少ない人数で王都に潜入し、バニラやバラマールを暗殺するという策だった。

しかし、潜入前にあっさりバニラに見つかった。

当時は一騎士として作戦に参加していた私は必死に戦ったが、

部隊全員が簡単にバニラに捕らえられた。

私達は死を覚悟した。

他国の暗殺者を生かす意味なんてないからな。

しかし、バニラは私達を国境まで連れ出してあっさり解放した。


『もう来るんじゃないよ?陛下に見つかったら酷い目に遭うからね?

命は大切にしなさい』


そう言って私達は解放され一命を取り留めた。

私は騎士としては屈辱も感じたが、

それよりもまた生きてナイトル様に仕えるチャンスをくれたバニラへ感謝した。

・・・恥ずかしい話をしてしまったな、すまない」


アルケインは喋り過ぎた様子だった。

しかしヒロシは良い話がたくさん聞けて満足だった。


「ううん、とてもいい話だったよ。

バニラ様らしいエピソードが聞けて良かった。

じゃあそんなバニラ様がいなくなったからランスロ国はサイマールを侵攻して手に入れたってわけだね?」


ヒロシは話を元に戻した。


「あぁ、お前が勇者を倒してくれたからな。

勇者もバニラも居ないサイマールは簡単に落とせたよ。

あの地は西側の国が侵攻してきた際にそれを阻む良い拠点になる。

王都に陣を構え国境から先に前線を引けばランスロ国まで西側の国が到達する事はないからな。

もちろんその時はサイマールの国民達も必ず守るつもりだ」


「いやその辺はどうでもいいよ♪

それより西側の国ってどんな国なの?

僕あんまり世界について知らないんだよね〜」


ヒロシの態度にアルケインは呆れていた。


「はぁ、お前は仮にも勇者だろう?国民の事をどうでもいいって、

・・・まぁお前は我が国の勇者ではないから構わないがな。


よし、それじゃあざっと説明するぞ?

世界が北大陸と南大陸に別れているのは知っているな?

南大陸は大魔障壁で隔たれているから様子はわからないがおそらく魔族達の国になっているだろう。

その証拠に南大陸から来た魔族達が、北大陸の南側に多数生息しているのも確認済みだ。

魔族達は南から東と西に別れて散発的に人間へ攻撃してきている。

かつてのような一大侵攻ではないが、魔族の戦闘力は脅威だ。

実際いくつもの国が魔族によって落とされている」


「待ってアルケイン!魔族は東と西に別れて侵攻してるの?

中央からは来ないの?」


ヒロシは話途中で質問した。

アルケインは気を悪くするでもなく丁寧に答えてくれた。


「北大陸の南から少し内陸に入るとそこには蛮族の国があるんだ。

その国は他国と一切関わらないし、交渉や交易も出来ない。

彼らはまさに蛮族といった風情で話し合いに応じないのだ。

こちらに侵攻こそしないが、こちらが彼らの国に入ると非常に激しく攻撃される。

彼ら蛮族の戦士は一人一人が非常に高い戦闘力を有していて、末端の戦士でさえ戦士の序列でいえば五段は超えるだろう。

そんな無双者が集う国だから魔族達ですら避けるのだ。

だから北大陸中央地帯は今は誰のものにもならない空白の地域と思っていい」


アルケインの話を聞いてヒロシは蛮族の国に興味が出てきた。


「へぇ〜!蛮族の国かぁ!一度行ってみたいなぁ♪」


「止めておけ、行けばお前でも間違いないなく殺される。


さて、次に西側の国だが、西側の国はいくつかあるが全て連合国として統一されている。

複数の国が団結して魔族や他国の侵攻に対抗しているのだ。

その名も連合国エウロペ。

エウロペは国の力として魔術を軸に置き、

大魔術師達が常に新たな魔術や強力な魔術を開発している。


次に東側の国だが、東で一番大きな国は我がランスロ国だ。

我がランスロ国は剣術を国の力として軸にしている。

聖騎士を筆頭に何人もの優秀な騎士を有する我が国が東側の代表国と言っていいだろう」


アルケインはどこか得意げに話していた。

ヒロシはそれを聞いてからかいたくなった。


「ふーん♪けどアルケインも聖騎士なんだよね?

アルケインって全然強そうに見えないけど聖騎士って強いのかなぁ??」


ヒロシの言葉にアルケインの部下達が殺気を見せた。

アルケインもかなり怒っている様子だった。


「お前、私と勝負してみるか?言っておくが聖騎士はランスロ国にたった十人しかいない精鋭中の精鋭だ。

一人一人が戦士の序列で言うなら七段以上の使い手ばかり、

私も七段の実力はあるんだぞ?」


アルケインはそう言って剣に手を伸ばす。

ヒロシはゲラゲラと笑いが止まらなかった。


「ハハハ♪まぁまぁ!冗談だよ冗談!

そう怒らないで!僕がアルケインと勝負したらすぐやられちゃうに決まってるじゃん!

さぁ!話の続きを聞かせてよ♪」


ヒロシは笑って場を流そうとしたが、

アルケインはまだ怒り冷めやらぬようで、先程よりずっと険しい声色で話を再開した。


「まったく、お前と話しているとイライラするぞ!

まぁ話ももう終わりだ。

つまり今の世界情勢はサイマールが落ちた以上いつエウロペが東へ侵攻してくるかわからない状況だ。

だが偵察の話によると今はタイミングよく魔族がエウロペへ攻撃しているようなのだ。

エウロペの国力ならいずれ魔族を押し返すだろうがまだわずかに猶予がある。

だからその猶予を使いナイトル様は東側諸国の統一を目指しておられるのだ」


「へぇ〜!そりゃ凄い!」


ヒロシはナイトルという国王の手腕に感心した。

サイマールを盾にしつつエウロペの体制が整わない内に東を統一し盤石にする、

仮に今、魔族の侵攻に合わせてエウロペに攻め込んでも、魔族との三つ巴だとイレギュラーが起こりやすいし、

その間に東の他国に攻めれたら具合が悪い。

つまり今は自国の戦力増強が一番理にかなう政策だ。


「ナイトル様はバラマールとは違って良い王様みたいだねぇ」


「当たり前だ。あんな愚王と一緒にするな。

だから我らはこの街に来たのだ。

目的は傭兵街をランスロ国の属領にする事、あるいは傭兵達をまとめてランスロに引き入れる。

傭兵街は国ではないが、強力な傭兵達を有するからな。

もちろんその時には街の住人達はランスロ国で保護するつもりだ。

しかし・・・」


「ベルゴールが良い顔しないんでしょ?」


「その通りだ・・・」


アルケインは肩を落とし落胆している様子を見せた。


「この街の主であるベルゴールがランスロの属領になるのははっきり拒絶してな。

しかも傭兵達をランスロへ派遣するのも渋る有様だ。

なんとか報酬面や恩賞の話を出してまた後日の交渉の形は取ったが、

多分難しいだろうな・・・

ナイトル様から拝命した任務だというのに、

なんとも情けない話だ」


アルケインは自嘲気味に笑いまた落ち込む。

ヒロシはアルケインのそんな有様を見て哀れに思った。


「あ〜まぁ交渉事はなかなか上手くいかない場合があるよね?

てか良いの?僕にそんな事までつらつらと話して?」


「かまわぬ。

お前はサイマール陥落の立役者だ。

本来なら王宮に招かれてナイトル様からお褒めの言葉を頂ける立場の人間だ。

だからこれくらいはかまわないだろう」


「はぁ、そんなもんかなぁ?」


ヒロシはサイマール陥落を手伝った気はしていないのでなんとも不思議な感じになった。

ヒロシ的には自分の欲の為に動いただけだからだ。


「ねぇ?良かったらまた手伝おうか?

ベルゴールが邪魔なら暗殺とか拉致とか色々手伝えるよ?」


ヒロシは自分でも驚きだが自然とアルケインに助力を申し出ていた。

アルケインが哀れだからか、良い話を聞けた礼か、何故かはヒロシ自身にも分からなかったが、アルケインを助けたいと思ったらそのまま口から手伝おうと言葉が出てしまった。


「本気か?また我らを助けるというのか?」


「あ、あぁ。ほら!僕もベルゴールが邪魔なんだよね!

仲間にしたい傭兵がいるんだけどベルゴールとの、契約で仲間に出来なくされてるんだよ。

だから色々策を施してるんだけど、もうベルゴールを始末したほうが早いかなぁ?ってね」


ヒロシは咄嗟に色々言い訳を並べ立てた。

ベルゴールを殺すつもりは

()()()()()()()()()

このまま策が上手くいかなかったら始末するしかないとも考えていた。


「・・・お前らしいな、しかしベルゴールを始末するのはまだだ。

なぜならやつの能力が判明していないからな」


「ああ、そうだったねぇ。

多分街つくり系の能力だと予想してるんだけど・・・」


ヒロシは自分の仮説をアルケインに話した。

傭兵街が自分の居た世界によく似ている事。

街のデザインや補修はベルゴールが率先して行っている事。

ゆえに街つくりの能力で自分好みの街を建てたのだと。


「なるほど、面白い推理だな。

しかしその推理を元に動くのは少々弱いな。

まったく別の能力があるかもしれないし、

もし本当に街つくりの能力だとしても、奴が作った街にいる以上、今この瞬間も奴に会話が聞かれている可能性もゼロじゃない」


「確かにね、まぁじゃあアルケインにベルゴールの能力解明は任せようかな?

僕はちょっと用があるからさ♪

その代わり能力さえ割れたらあとはやるから任せてよ♪」


ヒロシはあっさりそう言って帰ろうとした。

もう話す事も聞きたい事もなかったし、明日からの準備もあるからだ。

しかしアルケインは慌てて止めてきた。


「待て待て待て!全部丸投げか!?

そもそもまだベルゴールを殺るとは決まってないだろう!」


アルケインの訴えをヒロシは笑って流した。


「ははは♪大丈夫大丈夫♪アルケインならなんとか出来るって♪

それに交渉が上手くいったらそれで良いんだし♪

上手くいかなかったら始末すれば良いでしょ??

とりあえず僕はしばらく街から離れるからね〜

帰ったら連絡するからその時に策を練り合わせよう♪」


ヒロシはそう言ってラボを開き帰ろうとする。

アルケインは苦々しげにつぶやいた。


「・・・勇者はこんな奴らばっかりだな」


ヒロシは聞き流してラボに帰った。

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