第一部 六話 【森からの旅立ち】
「ア、アシスタントですか??それは一体??」
「コルリルには僕の研究のアシスタントをしてもらいたいんだよ♪つまりはお手伝いだね♪」
コルリルは意外な申入れに困惑した。
内心では絶対非道な研究をされると思っていたからだ。
「お手伝いなら良いですが、具体的には何をすればよろしいんでしょうか??」
「うーん、とりあえずはこの世界の事について色々教えてもらいたいかな?
あとは研究に行き詰まった時にアドバイスくれたりとか、知識でサポートして欲しいんだよ。
細かい雑用はゴブリン達が全部してくれるからね」
「そ、そんな事でしたら喜んで。むしろ私はヒロシ様を召喚したのでそのサポートをする義務がありますから、そのくらいは全然しますよ?」
意外に簡単なヒロシのお願いにコルリルは安堵した。
コルリルは最初から知識についてはヒロシに開示しようとはしていたからだ。
「よし!決まり!ありがとうコルリル。これからよろしくね?」
「こちらこそよろしくお願いしますヒロシ様」
ひとまずヒロシとコルリルの協力関係が結べた所で三度ノックがあった。
「入ってー」
ヒロシが答えると先ほど針を作るよう命じられたゴブリンの一匹が入ってきた。
ゴブリンは手にうやうやしく紫の針を掲げてており、ヒロシはそれを見て目を輝かせた。
「おぉ!出来たかぁ♪今回はかなり早かったねえ!?」
ヒロシは慎重に針を受け取ると光に透かすように眺めた。
「うーん美しい♪まさに毒針!って感じだね
ありがとう!素晴らしい出来映えだよ!」
ヒロシに褒められたゴブリンは満足気に部屋から出ていった。
コルリルはおずおずと話しかける。
「あの〜、それってもしかしてさっきの木の?」
「そう!毒の沼の木の核から加工した毒針だよ♪
あの辺の木はマシビの木と同じタイプの木だったから、毒針が作れるかと思ってね♪」
「あ〜な、なるほど、けどヒロシ様?その針で誤って自分や誰かを刺してしまったら
・・・大変じゃないでしょうか??」
コルリルは毒針から慎重に離れつつヒロシに警告する。
「大丈夫大丈夫♪さぁまずは性能テストからしないとね!」
そう言ってヒロシは慌しく部屋から飛び出していく。
コルリルは不安が再び湧き上がるのを感じた。
(いやいやいや!マジでヤバいやつじゃん!
てか本当にあの勇者は人の話聞かないなぁ!)
コルリルは不安半分怒り半分でヒロシを追いかけた。
ヒロシは先ほどの熊魔獣の部屋に戻っていた。
熊魔獣はさらに大量の出血をしておりぐったりしているが、ヒロシが部屋に入ると唸り声をあげだした。
「おぉーまだそんな元気があるかぁ。今度からは大型魔獣と戦う時に出血死狙いは難しそうだね。良いデータだ♪」
ヒロシは熊魔獣への研究で新たなデータを取れ満足気だった。
そこに大量出血で苦しむ生き物への哀れみの感情等はまったくなかった。
コルリルは衰弱した熊魔獣を見て心が辛くなった。
「・・・ヒロシ様、もうこの魔獣を楽にしてあげませんか?」
「うん♪まさにそのためにここに来たんだ」
そう言ってヒロシは毒針を熊魔獣の額に突き刺した。
その瞬間熊魔獣は雄叫びを上げ暴れ出した。
目や耳や口からどす黒い血を吹き出し拘束されている四肢は千切れんばかりにもがいている。おそらく拘束されていなかったら七転八倒してもだえ苦しむのだろう。
「・・・っ!」
コルリルは熊魔獣のあまりの苦しみ具合に思わず目を背ける。
しかしヒロシは逆に更によく熊魔獣を観察しだした。
「なるほど〜あの毒は沼地には皮膚から浸透して痺れや継続ダメージを与える効果が出ていたけど、
針にしたら出血と激しい痛みの効果に変わるみたいだね」
熊魔獣はその間も苦しみもがいていたが、刺されてから1分程で白目を向き動かなくなった。死亡している。
「1分くらいで死亡確認と。このサイズで1分なら僕やコルリルに刺したら多分即死だろうなぁ。こりゃ気をつけて扱わないとね♪」
ヒロシは満足のいく研究が出来嬉しそうにしているが、コルリルはショックを隠せなかった。
「・・・ヒロシ様、あの魔獣はもう充分苦しんだんですからあんなふうに殺さなくても良かったんじゃないですか?」
「ん?だって毒針の性能を知りたかったし、大型魔獣に試すのはちょうど良かったからね?
それにさっきも言ったけど苦しめて殺すのも一思いに殺すのも殺される方にしたら同じだよ。」
「・・・まるで殺された事があるみたいな言い方ですね」
コルリルが皮肉を込めて返すとヒロシはにこやかに答えた。
「うん♪だって僕は殺されて異世界転生したからね♪」
コルリルは苦笑して流すしかなかった。
ヒロシとコルリルは熊魔獣の研究の後さっそくゴブリンの森から出発する事にした。
コルリルは早くヒロシを王の下へ連れて行きたかったし、
ヒロシも毒針を完成させた時点でこの森には用はない様子だったからだ。
「じゃあコルリル、まずはどこに行くのかな?王のいる街はここからどのくらい??」
「王都までは歩いたら二週間くらいかかります。空を飛んだり馬を使えたらもう少し早く行けるんですが、今は大人しく歩いて行きましょう。
まずはこの森から一番近くの村のフシリ村を目指します。
多分歩いて一日か二日あれば行けそうです」
コルリルは手際よく旅程を考え提案する。
ヒロシも異存ないようだった。
「OK〜じゃあ道案内はコルリルに任せるよ。
外はもうすぐ夜だから朝に出発するようにしようか??」
「了解です。あ、というかヒロシ様のラボがあれば夜営しなくても良いわけですね」
「そうだね。ラボには一応ベッドやキッチンもある部屋があるから休むには問題ないよ。
ラボは僕が許可したものしか入れないから安全性もばっちり♪」
ヒロシは安全というが、
コルリルはラボに泊まるのは夜営よりは良いが、ラボには大量のゴブリンがいることを思い出し落ち着かない気持ちになった。
「あのーヒロシ様、ヒロシ様のゴブリンは私達が眠っている間に攻撃したりしてこないですか?」
「それは大丈夫!僕が試しにラボの外のゴブリンの巣に行って試したから!
ちゃんとゴブリン達は僕が起きるまで寝ずの番をしてくれたよ♪」
(うわぁマジかこの勇者、怖いもの知らずというか、やっぱりネジが一本抜けてるなぁ)
コルリルのヒロシへの評価が下がるにつれ内心の声も辛辣になる。
しかしそんな事はおくびにも出さずにこやかに対応する。
「すごいですね!それなら安心して眠れそうです!」
そして夜、コルリルはヒロシに与えられた部屋で一人でゆっくり今日の出来事を思い返していた。
「あの勇者はマジでやばい、
魔獣に対する残虐行為は酷すぎだし、
危険な道具もたくさん持ってるし、
なによりあの性格が無理。
人の話は聞かないし、自分中心にずっと生きてる感じが凄い伝わってくる!
なんであんな勇者召喚しちゃったかなぁ・・・」
コルリルは一人でブツブツと呟きながらヒロシとどう接していこうか悩んでいた。
「けど召喚した以上は私は勇者をサポートする義務があるしね。
向こうからもアシスタント?とか言って信頼を寄せてくれてるし、
それに、もしかしたら勇者の居た世界では残虐行為も普通にまかり通る世界だったのかもだしね!それなら価値観の違いだから仕方ないよね!うん!」
コルリルはあれこれ考えたが、価値観の違いということにして、とりあえずもう少しヒロシをよく見てから付き合い方を考える事にした。
(・・・まぁ今までの勇者達はそんな事言ってなかったんだけどね)
コルリルは疲れたのでもう休む事にし、明日からの旅を考え鬱々しながら寝床につくのだった。
そうしてラボの一室で一晩過ごしたコルリルは翌朝出発の準備をしていた。
地図を確認し必要な物品を確認し、これから始まる旅にかなりの不安を感じていた。
(あの勇者と二人旅は嫌だなぁ〜
また絶対嫌な研究するんだろうなぁ)
先行きに不安を感じているコルリルとは違いヒロシは非常にウキウキしていた。
「コルリル大丈夫??元気出して行こう♪
これから始まる旅はきっと素晴らしい旅になるよ♪そんな予感がするんだ!」
「・・・はい、そうですね。
けどヒロシ様、外の世界は危ない事もたくさんあります。
慎重に安全に王都を目指しましょう」
対象的な二人はラボから出てまだ朝の薄暗い森に立った。
ヒロシはラボのゴブリン達になにやら指示を出してからラボを閉じて準備完了したようだった。
「よし!じゃあ行こうコルリル!」
「はい、ヒロシ様まずは南に進みます、こちらです」
こうして始まった二人旅、果たしてどのような旅になるかコルリルには想像もしたくなかった。




