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第二部 十二話 【逃走とアルケイン再び】

ヒロシはディロンが暴れ回るのが落ち着いた頃に酒場に出向いた。

到着したヒロシが酒場を見渡すと、酒場内は惨状と言って差し支えない有様だった。

ディロンは酒場にいた傭兵のほとんどをバラバラにしていた。

双子の傭兵エルダー兄弟は縦横十文字に兄弟揃って切り分けられていた。

ヒロシが雇っていた傭兵達も身体が爆散したように粉々にされている。

騒ぎを聞きつけやってきた巨人ダイガンは店の外で首無し死体になっている、首は店から百メートルは離れた防御壁に砕けてめり込んでいた。

店自体も半壊しほとんど廃墟といった有様だ。

店の傭兵も、駆けつけた街の衛兵もディロンを止めようとした者は全て皆殺しだった。

そして今ディロンは死屍累々の上に立ち、巨躯のボルターを片手で高々と持ち上げていた。


「ぐっ、がはぁ!ば、化け物め!」


ボルターは頭を鷲掴みにされているので非常に苦しそうだが反抗心は失っていなかった。


「・・・妹に手を出す者は絶対に許さん」


グシャッ!


ディロンはそれだけ言ってそのまま片手でボルターの頭を粉々に砕いた。

ボルターの身体は力なく地面に横たわり打ち捨てられた。

ヒロシはディロンの暴れっぷりに面食らったが気にせず話かけた。


「やぁディロン♪お待たせ♪随分派手にやったねぇ?」


ヒロシは努めて明るくディロンに話かける、

するとディロンは黙って大斧をヒロシに向けた。


「おいおい!僕だよ♪わかるかな?」


「お前、こうなるのをわかってて俺を連れ出したのか?」


ディロンが冷たくヒロシに尋ねる。

ヒロシは肩を竦めおどけたような素振りを見せた。


「まっさかぁ!こんな事になるなんて思いもしなかったよ!

僕はただディロンにちょっと傭兵達を懲らしめてもらえたらそれでよかったんだけどね♪」


「何故だ?」


「いやぁ光君が傭兵達に嫌われたら街の傭兵を辞めてこっちに来たくなるかなぁ?って策だったんだよ♪

だから傭兵を煽ったり、雇って色々工作したりしたんだ♪

あ!僕が雇った傭兵達の事なら気にしないで?あれらは元から隠れて悪さしてたクズ達だからさ♪死んでせいせいしたよ♪」


ヒロシはディロンに策を説明したがディロンは納得していない様子だった。


「・・・二度とこんな真似するな。

次はお前も斬るぞ?」


ディロンの真剣な眼差しが本気だとヒロシに感じさせた。


「わかったよ♪もうしないさ♪

さぁとりあえずラボに帰ろう?さっさと逃げないとややこしいからね」


ヒロシはラボを開いた。

ディロンが黙って中に入る、

ヒロシも続いて戻ろうとしたが、遠くから鎧の足音がしてきたので踏みとどまった。


「・・・この足音は。

ディロン!ちょっと遅れるからゆっくりしてて?今日はごめんね!」


ヒロシはラボを閉じて少し待った。

すると現れたのは・・・


「なんだ!何の騒ぎだ!?

こ、この有様は一体!?」


蒼白鎧の騎士は酒場の有様を見て絶句した後ヒロシに気付きさらに驚いた。


「お、お前は!!」


「やぁアルケイン♪久しぶりだね♪よかったら約束のお茶にしないかな?」


ヒロシはアルケインに再開出来て非常に嬉しかった。






アルケインと再開したヒロシはにこやかに話かけた。


「ん?どうしたの?僕だよ?一緒にお茶を飲む約束したヒロシだよ♪」


あっけにとられていたアルケインはヒロシの言葉で気を取り直し話せるようになったようだった。


「あ、あぁ、ちゃんと覚えているぞ。

お前とこんなところで再開するとはな。

・・・ところでこれはお前がやったのか?」


アルケインは周囲の惨状を見渡しヒロシに尋ねる。


「ん~まぁ、半分はそうだけど、半分は違うって感じかな♪

まぁとりあえず移動しようよ?それから詳しく話すからさ♪」


「・・・わかった。では私達の宿舎に」



アルケインはヒロシの言葉に納得はしていない様子だったが、とりあえず宿舎まで案内してくれた。

アルケイン達がベルゴールから与えられた宿舎はヒロシが泊まったホテルより遥かにみすぼらしく、

最低限の設備しか整っていないあばら屋同然だった。


「うわぁ、なかなか酷い場所を割り当てられたんだねぇ?」


ヒロシはアルケイン達に同情したが、アルケインは気に留めていない様子だった。


「構わない。戦場では野宿も珍しくなかった、屋根があるだけマシだ。

それより先程の話を聞かせろ」


「はいはい、まぁちょっとうちの子がやり過ぎちゃったって話なんだけどねぇ・・・」


ヒロシは事の顛末をアルケインに説明した。

アルケインは黙って聞いていたが、話が終わると溜息を付いて呆れていた。


「はぁ、お前はサイマール国の時もそうだが、周りを巻き込む策を実行し過ぎだ。

もう少し考えて行動しろ」


「ハハハ♪確かに今回はちょっと予想外だったし次からは気を付けるよ♪ディロンにも怒られたしね♪」


ヒロシは笑いながら反省している素振りをみせるが、アルケインには反省しているようには全く見えなかったようだ。


「お前反省してないだろう。

・・・まぁいい、あの時はお前の策のおかげで我らはサイマールを無血開城出来たのだからな。

改めてあの時は助かった。我が主ナイトル様に代わり感謝する」


深々と頭を下げるアルケイン。

ヒロシは少し居心地が悪くなった。


「いやいや、あれはたまたま上手くいっただけだしなぁ。

しかも僕は国から逃げ出す羽目になってるし。

あのバカ王のせいだけど。

あ、そういえばあいつは処刑したのかな?」


「ああ、サイマール国王バラモンは私が首を刎ねた。今あの国は国民達の代表が治めている。

我らランスロ国の庇護化でな」


アルケインはサイマールを属領に出来た事を嬉しそうに話している。

ナイトルの為に働いているのが幸せで仕方ない様子だった。


「アルケインは楽しそうだねぇ、そんなに主に仕える事って幸せなの?」


ヒロシが疑問に思って尋ねると、アルケインは流暢に語りだした。


「ああ!我が主ナイトル様に仕えるのはこの上ない幸せだ。

ナイトル様は素晴らしい方だぞ。

あの方はランスロ国の発展と守護を何よりも考えて下さるし、魔族問題にも積極的に取り組まれている。

さらに王族、貴族、平民、分け隔てなく接して下さる人格者でもあられるのだ。

実際ナイトル様は私のような者にも目をかけて取り立ててくださった、

・・・実は私は今でこそ聖騎士を名乗り、貴族の立場に居るが、生まれは平民なんだ。

私はランスロ国の下位平民の生まれて、

幼少時に親に捨てられ、孤児院で育った。

大きくなってからは兵士になり戦場で稼ぎ孤児院を守っていた。

そんな私にナイトル様は同情してくださり兵士から騎士にしてくれたのだ。

私はそれから必死に剣を磨き腕を上げナイトル様の為に戦っていたら、いつの間にか聖騎士にまでなれた。

ナイトル様がチャンスをくれなかったらこうはならなかった、多分どこぞの戦場で無名の兵士のまま死んでいただろう。

だから私はナイトル様の為に働けるのが幸せなんだ」


アルケインの身の上話を聞いてヒロシはどの世界でも似たような話はあるんだなぁ。と感じた。


「はぁ〜アルケインは凄いねぇ、まぁ僕には理解出来ないけど、そういう生き方もありなんじゃないかな?

ところで紅茶はまだかな?ランスロ国の紅茶楽しみにしてたんだけど??」


「あぁ、紅茶を飲む約束だったな。すぐ用意する」


アルケインは部下に命じ紅茶を用意させていた。

ヒロシは異国の紅茶に非常に興味があった。


(ランスロ国はどんな紅茶を飲むんだろうなぁ、

聖騎士が飲むくらいだからさぞや良い味出すんだろなぁ♪)


ヒロシは紅茶やコーヒーが好きだった。

前世でも必ず1日1杯は飲むくらい好きだったので異世界でも紅茶は必ず飲んでいた。


(けどサイマールの茶葉はちょっと質が悪いんだよなぁ。

コルリルが頑張って上手く仕上げてくれてるから飲めるけど、やっぱり良い茶葉で良い紅茶飲みたいしなぁ)


ヒロシがワクワクしながら待っているとティーセットが運ばれてきた。

ポットとカップだけのシンプルなセットだったが造りは非常に豪華だった。


「わぁ♪かなり高そうなティーセットだね♪」


「わかるか。私も紅茶には目がなくてな。

戦場での唯一の娯楽としてティータイムだけはこだわって味わいたいんだ。

だから少々良いティーセットを揃えてしまった」


「いやいや、これは少々じゃないでしょ♪」


二人は雑談しながらティータイムの準備を進めた。

ポットに茶葉を入れじっくり染み出すのを待つ。

程よいタイミングでカップへ紅茶を注ぐ。

ふわっと香る香りだけでヒロシにはこの茶葉の品質を感じ取れた。


「ん~~!なかなか素晴らしい香りじゃないか♪

茶葉も高品質の物を使っているね?」


「当たり前だ。ランスロ国でも一部の上流階級にしか味わえない一級品の茶葉をなんとか手に入れてな、この茶葉で淹れる紅茶は私の一番のお気に入りだ」


二人はテーブルを挟み座りカップを手にしながら香りを楽しみ、雑談に花を咲かせていた。

端から見れば旧友のようなカップルのような深い間柄に見える光景だった。


「それではそろそろ頂こうかな♪」


「ああ、楽しもう」


二人は揃って紅茶を飲んだ。

ヒロシは飲んだ瞬間わかった。

アルケインの話が全て事実で、

この茶葉がどれだけの苦労を重ねて作られたのか、

どれだけの困難を乗り越えアルケインが手に入れたのか、

そしてそれを自分に提供してくれた意味を感じた。


「・・・アルケインありがとう、素晴らしい紅茶だ。これはまさしく一級品だよ。

こんな素晴らしい紅茶を飲ませてくれて感謝するよ。

是非この礼はしたいな」


「構わない、サイマールの件の礼なのだ。

気にしないで良い」


アルケインは軽く笑いながらそう言う。

しかし、ヒロシには一つ気になる事があった。


「まぁ、それなら良いんだけど・・・

ていうかせっかくこんな良い紅茶飲むんだから兜くらい外したら??」


アルケインは兜を外さず器用にずらしながら飲んでいた。

しかも飲み終わる度にちゃんと兜を被り直す徹底ぶりだ。

ヒロシには気になって仕方がなかった。


「・・・気にするな、聖騎士は素顔を晒さないのがランスロ国の決まりなのだ。

だからたとえお前でも私の素顔を見せるわけにはいかない」


「はぁ〜、まぁいいんだけどね?

ちなみに口元はちょっと見えたんだけどアルケインってもしかして女性なの?」


ヒロシはアルケインは男か女か判断出来ていなかった。

声は中性的だし、立ち振舞いは女性っぽいが身体付きは男性っぽい。

しかしチラッと見えた口元は女性のような感じがしたので尋ねたが、


「私は男だ!何を言うんだお前!無礼だぞ!!」


アルケインが立ち上がり怒り出したのでヒロシはこれ以上は言わないようにし黙って紅茶を楽しんだ。

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