第二部 十一話 【ヒロシの策と虐殺】
ヒロシは翌日は朝早くから戦場に出向いていた。
昨日散々煽り回ったのですでに何人かの傭兵達は怒りに満ちた眼差しでこちらを睨んでいる。
ヒロシの計画通りだった。
(ふふふ、いい感じで怒りを買えたみたいだなぁ♪
じゃあ今日はメインの傭兵達を煽ってあげよう♪♪)
ヒロシは今日も傭兵達を煽り回る予定だった。
それにはちゃんと理由があり、光を仲間にする為だった。
(光君は街の為に働かなければならない契約だ。
契約を果たさないと街から離れれない。
なら、契約を破棄させれば良い
昨日ベルワンヌさんから聞き出した情報によれば、契約破棄はお互いが了承すればすんなり破棄出来るみたいだから、
ベルゴールと、光君ニ人が契約破棄を望むようにしてやれば良い。実に簡単だね♪)
ヒロシはニ人に契約破棄させる為にまずは下準備から始めていた。
(まずは第一段階。
傭兵達を煽り苛立たせる。
彼らはプライドは高いみたいだからそれを突いてやる。
彼らを煽りつつ光君はうちのパーティーに入ったかのような風評を流す。
そうすれば、光君もまとめて敵視の対象になる)
ヒロシはこの策の為に傭兵達を煽りつつ、人を金で雇い、光が自分達のパーティーに入ったと噂を流していた。
その結果傭兵達は光に対しても良い感情を持たず敵視するようになっていた。
(光君はいくら敵視されても絶対に暗殺されない。だからそこは安心出来る。
むしろコルリルやフォシュラだなぁ〜
あの子らちょっと抜けてるから危ういよなぁ 表に出す時は注意しないとな)
ヒロシはコルリルとフォシュラの心配はしつつも策を止める気はまったくなかった。
なので今日も朝から戦場をウロウロして傭兵達を煽り回っていた。
「うわぁなんでこんなデカい豚?がいるんだ?デカいだけのただのウスノロかな?
鈍すぎて頭も悪そ〜♪」
「な、なにぃ?お、おでをバカにしたら許さんぞぉ!?」
ヒロシは巨人族の傭兵ダイガンを煽り、
頭に泥玉をぶつけるオマケをしてすぐにラボで移動した。
ダイガンは怒りに任せ暴れ回っていたが無視した。
(さてさて次は?あ、あの兄弟にしようか♪
それならついでに・・・)
ヒロシは次に双子の兄弟傭兵エルダー達の元に現れた。
ヒロシはついでにフォシュラも無理やり引っ張って連れてきていた。
「ちょっと!急に連れ出してなんなのよ!?」
「まぁまぁ♪ところでフォシュラ質問なんだけど、彼らの魔術や戦い方どう思う??」
ヒロシはフォシュラに魔獣と戦っている双子の戦闘評価を尋ねた。
「な、なに?あいつら?兄ちゃん変なのがいるよ??」
「あぁ?なんだあれ?女連れて戦場に来んなよな」
双子は魔獣達と戦いながら急に現れて評価してくるヒロシ達に困惑している様子だった。
ヒロシは双子に構わずフォシュラと話し込む。
「で?どうなの?彼らの戦闘は??」
「はぁ?何なのいきなり。
・・・まぁ今ちょっと見ただけだけどまだまだ修行が足らないんじゃない?
戦士の方はバフ任せの雑な動きになってるから、もしバフが切れたら一転ピンチになっちゃうし、
魔術師の方もバフばかりじゃなくてもっと戦士を援護して動きやすくしてあげないとダメね。
あと二人とも基礎能力が低いわ、基礎からやり直した方が良いわね」
フォシュラは簡潔に双子の戦闘評価をした。
ヒロシは双子の実力が低いのはわかっていたので、それを女の子であるフォシュラから双子に聞かせるのが目的だった。
「はぁぁぁあ!?あのアマなんなんだいきなり!?俺らが弱いってのか!?」
「兄ちゃん魔獣を片付けたらあいつやっちゃおうよ!僕らをバカにするやつは許さないもんね!」
双子はヒロシ達に敵意を向ける、しかし魔獣達も双子やヒロシ達に襲いかかってくるのでなかなか仕掛けてはこれないみたいだった。
「ふふふ♪良い感じだ♪
よし!フォシュラちょっと暴れちゃおうか♪
僕にバフ魔術かけてよ♪そしたらフォシュラの自由に暴れていいからさ♪
今日は魔術の縛りも何もなし!フォシュラの自由だ♪」
「本当に??それなら良いわよ!
久しぶりに思いっきり暴れてやるわ!
はい!ヒートオーラ!」
フォシュラはさっそくバフをヒロシにかけた。
ヒロシは全身に凄まじい力が宿るのを感じて気分が高揚した。
(うわぁ♪さすがはフォシュラ、双子のバフとは比べ物にならないな♪
・・・あとやっぱり単純だなぁ♪)
ヒロシがフォシュラに感心と呆れを感じている間にフォシュラは戦場に駆け出していった。
「ははは♪ファイヤーロード!
バーンバズーカ!
ヒートサイス!
バーニングロック!
メテオインパクト!!!」
高火力高難度の爆炎魔術を連発し戦場を駆け回るフォシュラを傭兵達は驚愕の眼差しで見るしか出来なかった。
ヒロシもフォシュラのバフを利用し、フォシュラが倒した魔獣を次々とラボに回収していく。
(うん、凄いなこのバフ!力は多分数十倍、スピードも信じられないくらい跳ね上がってる。
多分この魔術はディロンと一緒に戦う為に鍛え上げたんだろうなぁ♪
うわぁ、最初に戦った時にこの魔術を使われてたら絶対勝てなかったな♪)
ヒロシはフォシュラの力量の凄まじさに感心しながらせかせかと素材回収をしていく。
ほとんど黒焦げ死体ばかりだったが。
しばらくすると戦場には魔獣がいなくなっていた。
焼け野原にフォシュラが満足気に立っている。
その姿はまるで戦女神のような神々しさを出していた。
「ふぅ~!暴れた暴れた!久しぶりに全力を出せたわ!やっぱりたまには発散しないとダメね!!」
「ふふふ♪ストレス解消出来てよかったよ♪」
フォシュラは満足出来たようだった。
ちなみに双子はフォシュラの実力を見て完全に戦意を喪失していた。
しかし、満足気なフォシュラに一人の傭兵が近づいてきた。
「お嬢さん、素晴らしい力ですね。
よろしければお名前をお聞かせ下さい」
やってきたのは雷神ボルターだった。
真っ青な鎧にド金髪の髪を垂らしながら笑顔でフォシュラを見つめている。
フォシュラは胡乱げな顔でボルターを見ていた。
「・・・何こいつ?」
フォシュラが不信がっているので、ボルターは跪き、ライトニングアックスも地面に投げ捨てフォシュラに頭を垂れた。
「あぁ!お嬢さん!私はあなたに惚れました!どうか私と共に歩んで下さい!
あなたがいれば私には何もいりません!」
求愛するボルターにフォシュラは思いっきり嫌な顔をした。
「あんたみたいな奴はタイプじゃないの!消えなさい!」
「ふふふ♪だってさ♪残念だねぇ?
さぁフォシュラ♪帰ろうか♪」
ヒロシはボルターを煽るように一瞥し、ラボを開いてフォシュラを中に入れた。
そのままヒロシも帰ろうとしたらボルターに呼び止めれた。
「ま、待て!お前!あの女と付き合ってるのか?!あの女はお前如きには釣り合わん!俺に譲れ!!」
ボルターは優男の仮面を脱ぎ捨て横暴な態度を出してきた。
ヒロシはニヤァと笑いボルターを見下した。
「君もしつこいなぁ♪彼女は僕の女なんだ♪
僕のためなら何でもしてくれるんだよ♪
君みたいな奴は街にいる一山いくらの女でも抱いてれば??」
「お前ぇぇ!」
ヒロシのあからさまな挑発にボルターは怒り狂いライトニングアックスに手を伸ばした。
しかし、アックスがあった場所には何もなかった。
「は?あれ?俺のライトニングアックスは??」
「あぁ〜残念だね、戦場で武器を手放すから誰かに盗まれたんじゃないかなぁ?」
ヒロシはそう言うが、近くには人影はなく、戦場は焼け野原なので隠れる場所もなかった。
「お前だろう!お前が盗んだな!?」
ボルターはヒロシに向き直るがヒロシはすでにラボに消えつつあった。
「可哀想に〜
女に振られてぇ〜
大事な武器も盗まれてぇ〜
何も手に入らない哀れな傭兵さんって感じだね♪
じゃあねぇ〜バカで哀れでマヌケな雑魚傭兵♪」
ヒロシは捨て台詞を吐いてラボに帰還した、ボルターは最後まで怒鳴りまくっていたが、ヒロシにはもう聞こえなかった。
ヒロシはその後ラボ内でいくつか作業をしたあと光とコルリルの様子を見に行く事にした。
二人は昨日傭兵を煽るのを見せた後ラボに帰還させていた。
二人はリビングルームで話していた。
ヒロシが近付くと光は怯えだし、コルリルは警戒した素振りを出していた。
(うわぁ嫌われたもんだなぁ♪)
ヒロシは内心で苦笑いしつつ二人に平然と話かけた。
「やぁ♪調子はどうかな??」
「・・・私達は大丈夫ですよ、ヒロシ様はどうなんですか?あんなふうに傭兵さん達を煽り回って大丈夫なんですか?」
「僕は大丈夫だよ♪さっきも主だった傭兵達皆煽ってきたからね♪
あ、これお土産♪光君にあげるよ♪」
ヒロシはそう言ってラボの保管庫と空間を繋ぎお土産を二人の前に投げた。
テーブルにバン!と投げ出されたのはボルターのライトニングアックスだった。
「こ、これはボルターさんのライトニングアックス!?」
光は驚愕の眼差しでライトニングアックスとヒロシを交互に見ていた。
「ヒロシ様!これどうしたんですか!?」
コルリルがヒロシに詰め寄る。
「ははは♪戦場に置いてあったからゴブリン達が回収してくれたんだよ♪
いや〜♪儲けものだねぇ♪」
あっけらかんと言うヒロシにコルリルは声もでない様子だが、光は心底怯えていた。
「ま、不味いですよ、ボ、ボルターさんは絶対このライトニングアックスは人に触らせないくらい大事にしてるんですよ?
盗んだりしたら絶対殺されます・・・」
「嫌だなぁ♪光君?僕は盗んでないよ?落ちてたから拾っただけ♪
それによしんばボルターが殺しに来ても光君は殺されないんだから良いじゃない♪」
「いや、けど・・・」
光はとても困った様子でライトニングアックスも見ていた。
コルリルが怒りまくりヒロシを怒鳴りつけた。
「ヒロシ様!勇者が盗みなんて絶対絶対ダメです!!!
早く返しに行きましょう!?」
コルリルが叫んでいるとフォシュラもやってきた。
「うるさいわねぇ、あんた達ちょっとは静かに出来ないの??せっかく外でストレス発散したんだからゆっくりさせなさいよ」
「え?フォシュラも戦場に行ったの??」
「ええそうよ、久しぶりに全力で暴れてスッキリしたわ、
あ、あとその斧返さなくて良いわよ?あんな屑に返してあげる必要ないわ」
フォシュラはあっさりそう言いながら簡易キッチンで飲み物を作り出した。
コルリルは戸惑いながらフォシュラに尋ねる。
「え?フォシュラ、この斧の持ち主知ってるの??」
「ええ、さっき戦場で声かけられて求愛されたわ。
最初は分からなかったけど、あとから思い出したらあいつ傭兵の中では有名な女たらしじゃない。
何人も女の子に手を出しては捨てまくってるって盗賊してた頃に聞いた事あるもん。
だからそんな奴の斧なんて返さなくていいのよ。
光、あんたが使うか売るかしたら?」
フォシュラは飲み物を飲みながらラフに言ってリビングルームから去っていった。
光はライトニングアックスを見て固まっていた。
「と、言うわけさ♪だからこの斧は光君の好きにしなよ?いらないなら街で売るから言ってね♪
じゃあ僕は用事があるから行くね♪」
ヒロシはコルリルがまた何か小言を言う前にさっさとラボから脱出した。
ヒロシはラボから出たあとはベルワンヌに会う為、ベルワンヌが待ち合わせに選んだホテルに来ていた。
昨日のうちに今日ベルゴールと面会出来るように頼んでいたのでヒロシはワクワクしていた。
(さてさて、光君が欲しいと面と向かって言われたらベルゴールはどんな反応するかなぁ♪)
ヒロシはワクワクしながらベルワンヌを尋ねたが、
「誠にすみませんヒロシ様、ベルゴール様は本日急な来客の対応でお忙しく、本日の面会はキャンセルさせてくださいとの事でした」
ベルワンヌにそう言われヒロシはがっかりしたが、内心では様々な推算をしていた。
(ん?VIP扱いしている僕を差し置いて優先する客とは誰だろう?
もしくはこれは方便で、光君を取られたくないから話し合いの席を避けた??
もしくは何か違う理由??)
ヒロシは様々な可能性を考えたが、ひとまず納得しベルワンヌに向き直った。
「わかりました、急な来客なら仕方ないですね、
では今日は街の案内の続きをお願いしても良いですか??」
「それはもちろんです。是非ともご案内させてください。
コルリル様はご一緒じゃなくてよろしかったですか?」
「あぁ、彼女は今忙しいから今日は僕だけで大丈夫ですよ。
では今日もよろしくお願いします」
ヒロシは今回の案内は街の設備を重点的に紹介してもらった。
今後の流れ次第では設備の知識は絶対必要だからだ。
例えば街の防壁は魔術と鋼鉄を混ぜ合わせた特注品で、ドラゴンブレスにも耐える耐久性があるとの事だった。
(なるほど、仮に街へ攻め込むにしても正面突破は無理だな。
けど防壁は街の前面にしかない、背面は険しい崖になっているからか、簡単な石の防壁でしかないか)
街の空中防御も固く、ベルゴールがデザインした特注の防御装置が固く空を守っているようだった。
(ふむ、あれは前世の世界にある自動タレットに近いな。
大小合わせて百以上かぁ〜
魔術を自動で打ち出す仕組みは気になるけどひとまず空からの侵入も無理ゲーだな)
そして街の一番奥にあるのがベルワンヌいわく街で一番重要な施設、召喚石の神殿だ。
ここには貴重な召喚石が一つ祀られていて、その召喚石の加護なくしてこの街は成り立たないという。
「へぇ?どんな召喚石なんですか?見ることは出来ますか??」
「すみません、神殿に入れるのはベルゴール様だけなのです、
けどどんな召喚石かはご紹介出来ますよ。
この街にある召喚石は、
珍魔獣ウマミーの召喚石です」
「ウマミー?」
「はい、ウマミーは魔獣ですが非常に力が弱く、私のような老人でも簡単に退治出来てしまう弱い魔獣です。
ですからウマミーの召喚石はずっと外れ召喚石と言われてきたらしいですが、
ベルゴール様がウマミーのある特徴を見つけたのです。
それは他の魔獣を異様に惹きつける効果があるという事です。
魔獣達はウマミーの気配を感じると我を忘れて一目散に向かっていきます。
その効果を利用しようとベルゴール様が考案されたのがこの神殿です。
この神殿はウマミーの気配を増幅する力があります。
召喚石状態とはいえウマミーの気配を感じた魔獣達は街を目指して向かってきます」
「なるほど!それを防壁で防ぎつつ傭兵達に駆除させる。
傭兵達は街のすぐ近くで雇用主に比較的安全にアピールできる。
倒した魔獣素材の転売や、雇用主からもらえるマージン、
傭兵達から集める傭兵ギルドの会費、
街の財政も一気に増える。
外れ召喚石一つでここまで完成したシステムを作り上げるなんて素晴らしい!」
ヒロシは本心からそう思い賞賛した。
魔獣の特性や人間の心理を巧みに利用したこのシステムを素晴らしいと本気で思ったからだ。
「お褒め頂きありがとうございます。
それでは以上で街の施設案内は終了ですが、他には何かご要望はありますか??」
ベルワンヌが丁寧にお辞儀をしてヒロシに問いかける。
ヒロシが考えているとガヤガヤとした集団が近付いてくるのを感じた。
「あ、ヒロシ様申し訳ありませんが少し移動しましょうか。
例の客人達がおかえりになられるようです」
ヒロシはベルワンヌに言われるまま道から外れ客人達が通れるようにした。
客人達はどこかの騎士団のようで鎧をガチャガチャとさせながら出口に向かって行進していった。
その集団の一番中央にベルゴールの姿が見え、隣で話しているのは・・・
「ではベルゴール様、より良い返事を期待しております。
我が主もそう望まれていますからね」
「はいはい、もちろんです。ナイトル様には納得頂ける提案をさせて頂きますからご安心を」
騎士団の中央で話している蒼白の騎士にヒロシは非常に見覚えがあった。
(へぇ〜♪こりゃ面白くなってきたね♪)
その後ヒロシは一旦街の案内ツアーを中止し、ラボに戻ることにした。
予想外の客人が登場した事で計画の変更が必要だったからだ。
(ふふふ、あいつらがいるなら策の第一段階はもう仕上げて良さげだな♪
それでは・・・)
ヒロシはラボに戻るとコルリル達には会わずすぐにディロンの所へ向かった。
ディロンは自室で武具の手入れをまたしていたがヒロシは構わず要件だけ簡潔に伝えた。
「ディロン!すぐ来てくれる?ちょっと手伝ってほしい事があるんだけど♪」
「・・・なんだいきなり?」
「いやね!ちょっとディロンにしか出来ない仕事があるからさ!ちょっと悪いんだけどフル装備で一緒に来てくれる??」
「・・・正直嫌な予感しかしないが、まぁ良いだろう」
ディロンは渋々ヒロシに付き合ってくれるようだった。
ヒロシはディロンも大概お人好しだなぁ、と考えながらディロンを連れてラボを出る。
ラボを出たらそこは再び傭兵ギルドの裏手だった。
「こんな酒場の裏手で何をする気だ?」
「ん?何もしないよ??とりあえずディロンは待機で!酒場でご飯でも食べながら待っててよ♪」
ヒロシはそう言い残しラボで移動する。
近くの店の屋上に移動しディロンの様子をこっそりとうかがう。
残されたディロンは首を振りながらも酒場に入っていった。
ヒロシはそれを確認した後、すぐ近くに待機させていた傭兵の下へ移動する。
「皆揃ってるね?じゃあ手筈通りに頼むよ♪」
「ういーす」
傭兵達はヒロシへ気だるげな様子で返事した。
彼らは傭兵の中でも最下位の雑魚傭兵で、ヒロシはそんな傭兵を何人か雇い入れていた。
(さぁて♪どうなるかなぁっと♪)
ヒロシはワクワクしながらラボをわずかに開き、酒場内の天井付近から中を観察する。
酒場では相変わらず傭兵達が酒盛りをしていた。
賑やかな声が響く店内でディロンがひっそりと一人で食事をしていた。
そんな中、ヒロシが雇った傭兵達が酒場に現れ酒盛りを始める。ヒロシの計画通りだった。
しばらくすると雇われ傭兵達が騒ぎ出す。
「いやぁぁそれにしても今日の戦場はやばかったな!」
「おう!マジやばかった!あの爆炎は反則だよな!
よう!エルダー兄弟!お前ら大丈夫なのかよ!?あのねぇちゃんに焼かれたんじゃねぇか?」
傭兵達はゲラゲラ笑いながら酒場に居たエルダー兄弟をからかいだす。
すかさず兄のハイトが怒りだした。
「ふざけんな!あんなバカ女の炎当たるか!」
「そうだよ!兄ちゃんがあんな女に負けるか!」
弟のフリルも同調し怒りだす。
しかし傭兵達のからかいは止まらない。
「いやいや!お前ら完全にビビってたじゃねぇか!
情けねぇやつらだせ!」
ゲラゲラ笑いながら煽ってくる傭兵達にエルダー兄弟は怒りに任せ飛びかかろうとするが、
「おい!騒がしいぞ!黙らねぇなら殺すからな!」
酒場の奥から怒鳴り声がし、雷神ボルターが現れた。かなり酔っているようで、目は血走り怒りに満ち溢れている。
「クソどもが!俺は今虫の居所が悪いんだよ!ぶち殺すぞ!」
ボルターは戦場で見せたキザな面は欠片もなく、酒場の傭兵達を睨見つけていた。
ボルターは斧がなくとも相当の強者なのか、傭兵達は皆静まり返ってしまった。
「ご、ごめんよボルター、静かにするよ」
「ご、ごめんなさい」
エルダー兄弟は謝りその場を収めようとする。
しかしボルターの怒りは収まらないようで、
「てめぇら!あいつらの居場所知ってんだろ?!早く吐けや!あいつらは俺がぶち殺す!」
「し、知らないよ」
「ぼ、僕達もあいつらは嫌いさ!だ、だけど何も知らないんだよ」
エルダー兄弟や、他の傭兵達は口々にヒロシ達の居場所は知らないと言う。
中にはヒロシ達パーティーに光が加入したという噂を言う者もいるが、
「んな事は知ってんだよ!
けどあのビビリ勇者も居やしねぇ!
ちくしょう!あいつらどこに消えやがった!!」
ヒロシの思惑通り光の事はまずまず知れ渡っているようだった。
あとは・・・
「ははは!雷神さんよぉ!随分ご機嫌ナナメじゃあねぇか!」
ボルターを笑うように酒場に現れたのは赤槍のローワンだった。
ローワンはボルターの肩を抱き励ますように抱きしめる。
「俺が新しい槍を探している間に色々あったみたいだなぁ?
あんたも新しい斧探さなきゃなぁ!ははは!」
「ローワン!お前今さら現れやがって!
お前さえいればあいつを押さえれたのによぉ!」
ボルターはローワンの胸をガツン!と殴った。
しかしその行為にはしっかり友情が籠もっており、ヒロシの集めた情報通り二人は親友のようだった。
「しっかしまさかあいつらお前の斧をパクリやがるとはな。
あいつらに盗まれたのは間違いないのか?」
「あぁ、俺の斧をゴブリンが盗むのを見たやつがいんだよ。
あいつがここに現れた時もゴブリンが現れてギルドの職員が一人消えた。
あいつはゴブリンを操るスキルか、瞬間移動のスキルを持ってやがるに違いない。
それで俺の斧を盗みやがったんだ!」
「なるほどな、それならあいつら見つけ次第ぶち殺してやろうぜ!
それでお前の斧を取り返してやろう!」
「あぁ、お前を頼りにしてるからな。
あ、だがあいつと一緒にいる女は殺すなよ?あの女は俺が貰う」
ボルターはニヤニヤしながら酒を飲みローワンと話す。
ローワンは呆れ顔だ。
「お前また女かよ!飽きないねぇ〜?
それで?次の犠牲者はどんな子なんだよ??」
「いや〜なかなか顔が良い女でよ、しかもめちゃくちゃ腕の立つ火炎魔術師なんだよ!
ああいう女は気が強そうで屈服させがいがあるぜ」
ボルターは下衆な笑顔を見せる。
「ホント好きだねぇ〜
ま、いつもみたいに飽きたらくれよ?どうせすぐ飽きるんだろ?」
「あ!ローワンさんだけずるいっすよ!あの女マジ良い女だし俺らにも下さいよ!」
周囲の傭兵達もボルターの機嫌が治ったのでまた騒ぎだす。
(おやおや、これは面白い展開になってきたね♪)
ヒロシは当初の予定とは違ってきたが面白いので観察を続ける。
「ハハハ!お前らにもちゃんとおこぼれやるからよ!
そうだ!誰かあの女の名前知らねぇのか?身体ばかり見てて名前も聞かなかったぜ」
傭兵達はボルターのジョークにゲラゲラ笑う。
その中の一人が声を上げた。
「あ!俺知ってますよ!確か・・・
フォシュラ!フォシュラとか呼ばれてました!」
その名前が呼ばれた瞬間、ディロンが集団に猛然と襲いかかった。




