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第二部 七話 【救助と発見】

コルリル達が音を頼りに進むと、

一人の男性が狼型魔獣に追われている所に出くわした。

男性は何かを抱えたまま必死に逃げているが、とうとう狼魔獣に追いつかれてしまった。

男性へ一気に襲いかかる魔獣。

あわやといった所でフォシュラが間に入り火炎魔術で防いだ。


「ちょっとあんた!さっさと逃げなさいよ!」


フォシュラは男性を逃がしながら火炎を連発し狼魔獣達を決して近寄らせなかった。


「こっちです!」


コルリルもただ見ているだけではなく、フォシュラが時間稼ぎをしている間に土魔術で即席のシェルターを作った。

男性を必死に誘導し、中に入れたらすかさずフォシュラへ合図する。


「フォシュラ!こっちはOKよ!やっちゃえ!!」


「任せなさい!!ファイヤーバーン!!」


合図と同時にフォシュラが全方位へ爆炎を噴き出した。

コルリルは慌ててシェルターを閉じて防御する。


ズゴゴゴ!


凄まじい轟音がしばらく鳴り響き、突然ピタッと止んだ。

コルリルは恐る恐るシェルターを開けてみると、周囲の木も、岩も、土も全て真っ黒に焼け焦げていた。

もちろん魔獣なんて跡形もなかった。


「フォ、フォシュラ!!危ないよ!!もうちょっとで丸焼けになるとこだよ!!」


コルリルは思わず抗議するが、フォシュラは爽やかな顔で爆心地の中心から笑いかけてきた。


「あんたなら間に合うと思ったのよ!

けど、久々に暴れたらスッキリするわねぇ♪」


コルリルはフォシュラの気持ち良さそうな様子を見て、それ以上何も言えなくなった。


(そ、そうだよね、フォシュラ達はラボでほとんど暮らしてるんだし、たまには発散したいよね。

もしかして、ヒロシ様もそれが狙いでフォシュラをわざわざ出してくれたのかな??)


コルリルは色々考えたが、フォシュラのストレス解消になったらなら良いか、と納得しそれ以上責めるのは止めた。


「あ、そうだ!あの人大丈夫かな??」


コルリルは救助した男性の様子が気になりシェルターへ戻ってみた。

男性はまだシェルターから出ておらず、隅の方でガタガタと震えていた。


「あ、あの?大丈夫ですか?

もう魔獣はいませんよ?」


コルリルの呼びかけにも男性は反応せずガタガタと震えたままだ。


「ちょっと?あの人どうしたのよ?」


フォシュラもシェルターの入り口から様子を伺うが、男性は変わらず震えたままだ。


「多分ちょっと怖かったみたい、どうしよか??」


「もーう!じれったい!コルリル!とりあえずこのシェルター壊して!!」


フォシュラはイライラした様子でコルリルに指示する。

コルリルはとりあえず従いシェルターを解体した。

男性はまだガタガタ震えていたが、

シェルターが解体されていくと、こちらを恐る恐る見上げた。


「ん~~?何よ?まだ子供じゃない」


明るい所でみた男性はまだ十代の青年といった風情だった。

真っ黒で短い髪、

まだ幼さも残る顔つき、

身体つきも多少はがっちりしているが、成長途中といった感じだった。


「あ、ああ、す、すみませんすみません」


青年は少し高い声でひたすら謝り頭を下げていた。

地べたに這いつくばりながら謝り続ける青年にコルリルは慌てて声をかける。


「ちょ、ちょっとちょっと!大丈夫だよ?

私達は怪しい者じゃないし、あなたに危害は加えないから!

だから謝らないで?それよりケガしてない?大丈夫??」


コルリルは安心感を与えようと最大限優しく声をかけた。

青年も少し落ち着いたようでゆっくりと頭を上げた。


「あ、ありありがとうご、ございます。

け、怪我はありません・・・」


青年はしどろもどろになりながら答えてくれた。

しかし決してこちらを見ようとしなかった。


「ちょっとあんた!何でこんな山奥にあんたみたいなガキが一人でいるのよ!?

危ないじゃない!!」


青年はフォシュラに怒鳴られまた下を向いてしまった。

フォシュラ的には心配して言っているのだろうが今は逆効果のようだった。


「フォシュラはちょっと黙ってて!

・・・ねえ?あなた仲間とはぐれたのかな?それか家族の方が近くに居るとか?」


コルリルはフォシュラを黙らせ改めて青年に尋ねた。

青年は恐る恐るといった風情で答えてくれる。


「か、家族はい、居ません。

なな仲間も居なくて、ひ、一人です」


コルリルは少し驚いた。


(こんな気弱な男の子がたった一人でこの山に?

なにか事情があるの?)


と考えていると。


「あんた死にたいの!?さっきみたいな魔獣がたくさんいるのに何の用で来たのよ!」


フォシュラがまた口を出した。

コルリルはまた青年が怯えてしまうだろうと思ったが、

青年はちょっと悲しそうな顔になっただけで怯えはしなかった。


「ここには、魔獣の素材集めで来ました。

僕は傭兵なんです、すみません」





青年は自分が傭兵だと明かした。

コルリルにはとても信じられなかったが、

傭兵でもなければ、こんな魔獣だらけの山奥に一人でいるはずないとも思った。

なのでひとまず青年の言う事を信じる事にしてヒロシと合流することにした。

もちろん青年も同行してもらう。

まだ山には彼では敵わない魔獣が、たくさんいるだろうからだ。

青年は怯えながらも納得してくれたので三人はゆっくりヒロシを探しながら山奥へ進む。



「ねぇ?あんたホントに傭兵なの?」


歩きながらフォシュラが青年に尋ねる。

青年はコルリル達から少し離れて歩きながらこちらの様子を見ていたが答えてくれた。


「・・・はい、一応傭兵です、駆け出しの五級傭兵です」


「五級って・・・あんた弱すぎじゃない?

何回も言うけどそんな実力で単独任務なんて無謀よ?

なんで仲間を集めないのよ?」


フォシュラはずけずけと青年に質問していく、

コルリルは自分にはない積極性を見せるフォシュラを頼もしく思う反面、

そんなにずけずけ聞いて大丈夫かな?と心配になった。


「・・・」


青年はうつむき何も答えない。

コルリルはフォローすることにした。


「まぁまぁフォシュラ。人にはそれぞれ事情があるんだから。

きっと何か事情があるんだよね?」


コルリルが優しく問いかけると青年は黙って頷いた。


「ほら!だからあんまりとやかく言うのは止めてあげよう??」


「でも弱いのに山へ入ったら危ないじゃない!

今回はたまたま私達が助けれたけど、次はあんた死ぬかもしれないわよ??」


青年はまた黙って俯いてしまった。


「まぁ確かにちょっと危なかったけどねぇ・・・

あ、あなた歳はいくつ?いつから傭兵してるの??」


コルリルは話題を変えるため違う質問してみる。

青年はゆっくりと答えてくれた。


「十六歳です。

よ、傭兵にはなって二年くらいしか経ってません、すみません」


(若いなぁ!まだ十六歳かぁ。それなのに傭兵だなんて大変だよねぇ)


コルリルは内心で青年が可哀想に思った。

この世界では若くして傭兵や冒険者になる人も多かった。

しかし若い傭兵や冒険者は夢や希望に溢れているタイプか、訳ありで無理やりやらされているかのどちらかだ。

そしてどちらも長生きはあまり出来ないのが常だった。


「そんなに若いのに傭兵なんて大変だね・・・」


コルリルがしんみり言うと、


「何よ!十六なら私と同い年じゃない!

それなら傭兵やるには全然いける歳よ!」


「えっ!?フォシュラ十六だったの??

もっと若いと思ってた!」


コルリルはフォシュラの年齢を聞いて驚いた。

絶対まだ十代前半と思っていたからだ。


「なんでよ!?私はもう立派なレディなんだからね!」


そう言うフォシュラにはあまりレディ感はなかった。


「ん~ディロンさんなら大人!って感じだけどね〜

フォシュラはまだ若々しいって感じするかなぁ」


「ディロン兄ぃは私より十個も上なんだから当たり前じゃない!

あんた自分が五百歳だからってバカにしてんでしょ!」


フォシュラがイライラしだしたのでコルリルはこの話題を終わる事にした。


「はいはい、もうこの話はお終い!

それより早くヒロシ様を探さないと!彼を連れたまま山奥にいるのは危険だし・・・」


そこでコルリルはまだ自己紹介もしていない事を思い出した。


「そういえばまだ自己紹介してなかったよね?

私は召喚士のコルリル!見ての通り妖精で、

こちらは魔術師のフォシュラ!彼女はすっごい強い魔術師だから魔獣が来ても安心してね?

それであなたの名前は??」


コルリルが簡単に自己紹介して、青年に名前を尋ねる。

青年が答えようとした時、


「コルリル!フォシュラァァァ!ちょっと助けてぇ!!」


ヒロシが大声を出しながらラボで転移してきた。

コルリル達が驚く間も無く、遠くから遠吠えが聞こえてきて、何かがこちらに向かってくる気配もしてきた。


「ヒ、ヒロシ様!?何事ですか?!」


「いや〜やばいやばい!狼魔獣達を捕まえてたら群れのボスが来てさ!

それが狼人間だったからめちゃくちゃ速いし強いしで、もーやばかった!

絶対捕まえたいんだけどなかなか難しいから手伝ってよ!」


「はぁ?!狼人間ってあんたマジで言って・・・」


フォシュラの抗議を遮り茂みからその狼人間が現れた。

二メートル以上ある体躯に、鋭い牙と爪、

二本足で歩きながら獣の眼でじっとこちらを観察している。


(やばいじゃん!確か狼人間は異常に素早いのが特徴で、一番気をつけなきゃいけないのは・・・)


「ヒロシ様!まさか咬まれてないですよね?!この魔獣に咬まれたら・・・」


「知ってるよ!本で読んだけど咬まれたら狼人間になっちゃうんでしょ?

しかも治す方法もほとんどないんだよね??

うわぁ♪どんな仕組みなのか解剖するのが楽しみだなぁ♪」


「言ってる場合ですか!!」


コルリルの叫びを掻き消すように狼人間が唸りだした。

コルリルはすぐに防御魔術を唱えて備えた。

フォシュラも火炎で身を守り備えている。

青年だけがただポカンとして全く警戒していなかった。


「ほら!あなたも気を付けて!!来るわよ!」


コルリルの予測した通り狼人間は一気に仕掛けてきた。

狙いはヒロシ、真っすぐ首筋に咬みつこうと迫る。

コルリルは備えていた魔術を発動させた。


「アースニードル!」


コルリルは無詠唱で魔術を発動させた。

ヒロシを覆うように地面から棘付きの壁が迫り出す。

狼人間はそのまま串刺しになるかと思ったが、寸前で楽々回避し距離を取っていた。


「嘘!これ躱されるの!?」


コルリルが驚いているとフォシュラがすかさず追撃を放った。


「ファイヤーロード!」


火の渦が狼人間に迫るが、それも難なく回避して周囲を駆け回りだした。

コルリルには残像にしか見えないスピードで動き回っている。


「ど、どうしよう!狙いが付けれないよ!」


「慌てないの!私に任せなさぁい!!」


フォシュラは全方位に火炎を放つ。

火炎はコルリル達を中心に広がり辺り中を燃やし尽くした。


「ちょっとフォシュラ!焼き殺さないでよ?!

せっかくの貴重なサンプルなんだから!」


「うっさい!バカ勇者!そんな加減出来な・・・」


フォシュラがヒロシに意識を取られた瞬間、狼人間が火の中から飛び出しフォシュラに飛びかかる。

隙を突かれたフォシュラはそのまま喰らいつかれるかに見えたが、


ガチン!!


フォシュラを庇うように青年が盾になり、代わりに狼人間に咬みつかれていた。


「・・・だ、大丈夫ですか?」


青年は怯えながらもフォシュラを気遣う様子を見せた。

その間もずっと狼人間は青年の首筋を食い千切ろうとしている。


「あ、あんた!あんたこそ大丈夫なの!?」


「いや!チャンス!!」


青ざめ青年を心配するフォシュラを押しのけてヒロシが狼人間を掴んだ。


「やっと捕まえたっと!」


ヒロシはそのまま狼人間を投げ地面に叩きつけた。

いつもの合気の技のようだった。


「よし!今だ!」


地面に叩きつけられ怯んだ狼人間をゴブリン達が現れロープで拘束していく。

狼人間は暴れまわるがヒロシも協力し、なんとか拘束に成功していた。


「ありがとう!これで大丈夫だよ!いゃ〜皆無事でよかった!」


「無事じゃありません!彼が咬まれちゃいましたよ!」


コルリルは慌てて青年の傷を見るが、

傷はなかった。

服は破れているが、身体は傷はなく綺麗なものだった


「あれ?なんで?あなた咬まれたよね?でもなんで傷がないの??」


フォシュラも一緒に確認するが確かに青年には傷一つなかった。


「・・・あんた何者よ?」


フォシュラが怪しそうに尋ねると青年は恐る恐る答えた。


「ぼ、僕はヨシダヒカル、一応勇者です。

スキルは【絶対無敵】、

どんなダメージも毒も呪いも僕には効かないんです、すみません」

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