第二部 六話 【勇者探しの旅と山狩】
コルリル達は展望フロアを後にし直接傭兵地区に行く事になった。
理由はヒロシが勇者の傭兵がいると知り、絶対に直接会って交渉すると聞かなかったからだ。
(まぁ私も勇者の傭兵って気になるけどね〜
国に雇われず傭兵暮らしの勇者かぁ。
どんな人なんだろなぁ)
コルリルは新たな勇者ヨシダヒカルについて様々な想像を膨らませる。
(わざわざ傭兵を選んでるって事は戦いが好きなバトルマニアかな??
それか性格に難ありで国の中じゃ収まりきらない暴君??
あるいは単純に人嫌いだから傭兵暮らしで気楽にやってるからかな??)
コルリルが様々な想像をしているとベルワンヌが話かけてきた。
「ヒロシ様、コルリル様?本当に彼を仲間にするつもりですか?
止めておいた方がよろしいかと思いますよ??」
「どうしてですか?」
ベルワンヌの言葉にコルリルは不思議に感じた。
ベルワンヌは先程からヒカルを仲間にするのに消極的な様子だ。
よほどその勇者は問題があるのだろうか?とコルリルもちょっと不安になりそうだった。
「彼は、まぁ、会えばわかりますが、共に戦うタイプではないと言いますか、
確かにスキルで最強の防御を誇る戦士ではあります、ただ皆さんの盾にはならないでしょう」
「それってどういう・・・」
「まぁいいじゃない♪会えばわかるんだから会ってからのお楽しみにしとこうよ♪
それより早く行こう!」
コルリルの疑問をヒロシが遮りどんどん傭兵地区に向かって進んでいく。
(まぁ確かに会えばわかるんだからいいかぁ、
先入観なしでちゃんと見てあげたいしね)
コルリルはそう思い直し急いでヒロシの後を追った。
傭兵地区は管理地区とは違い、まるで戦場にある拠点のような有様だった。
無駄な装飾は一切ない壁や床、
建物もすぐにバラしたり組みたてれそうなあばら家ばかり、
そこかしこに傷だらけの傭兵や、汗まみれの職人や慌ただしく駆け回る治癒者が居た。
「わぁ本当に最前線の戦場みたいな感じですねぇ?」
「戦場と言っても差し支えないでしょう。
実際この壁一枚を隔てて激しい戦いが行われているんですからな」
コルリル達は固まりながら傭兵地区をゆっくり進んでいく。
傭兵達はコルリル達を訝しげに見たり、あからさまに嫌そうな顔をしていた。
「あの〜?ベルワンヌさん?何か傭兵さん達の視線が痛いんですが?」
「普通スカウトや管理地区の人間は傭兵地区まで見に来たりはしませんからな。
私達が何かろくでもない事を企んでいると怪しんでいるのでしょう」
「な、なるほど」
コルリルはそう聞いて肩身が狭くなったが、
ヒロシは全く物怖じせず傭兵達に次々と話しかけていた。
「ねぇ!その武器凄いねぇ!!どんな武器なの?素材は?ギミックはある??
あ!その防具はグリフォンの素材使ってるでしょ?やっぱりグリフォン素材の防具は良い感じなのかな??
僕の防具はサイマールの王宮から失敬した見ての通り純白のローブなんだけど、よかったら交換しない?!
あぁでもサイズ合わないかぁ!」
ヒロシは次々と話しかけるが傭兵達はたいてい『なんだコイツ?』と言った風情でヒロシから離れていく。
中にはあからさまに敵意を向ける傭兵も居た。
「ヒロシ様!今は仲間探しが目的でしょう!?チョロチョロせずこっちに来て下さい!」
コルリルはヒロシを怒鳴りつけなんとか大人しくさせた。
一行は傭兵地区の依頼管理場、通称傭兵ギルドに着いた。
ギルドはまるで酒場のような風情だったが、一応傭兵達は皆こちらで依頼を受けたり報酬をもらったりするようだった。
「こちらが傭兵ギルドです。中に入って勇者が居ないか確認しましょう」
ベルワンヌに言われるままコルリル達はギルドに入る。
スイングドアを押し開け中に入ったコルリル達を傭兵達はジロッと見てくる。
先程までは談笑していた雰囲気だったのに今は静まりかえっていた。
(うわぁ、こんな雰囲気めっちゃ苦手だぁ)
コルリルはビクビクしながらヒロシやベルワンヌの背に隠れた。
ベルワンヌはさすがに全く気にせずツカツカとカウンターまで進み受け付けの女性に話しかけた。
「失礼、勇者ヒカル様はいらっしゃるかな?」
ベルワンヌに問われた受け付け嬢は胡乱げな眼差しでコルリル達を見た後、何も言わず名簿のような物を見はじめた。
気まずい沈黙が辺りに漂う中、ヒロシが場違いなテンションで騒ぎ出した。
「ねぇ!ベルワンヌさん!このギルド隣に解体場みたいな施設があるよ!!
何で?!魔獣の買い取りでもしてるの??」
「・・・さようでございます。
ギルドは依頼の管理以外に、傭兵達が倒した魔獣の買い取りもしています。
魔獣は様々な事に使える万能素材ですからな。
肉は料理に、
血は薬に、
骨や皮は武器や防具にと、
加工次第でいかようにもなるのです。
だからギルドでは魔獣の買い取りも行っております」
「うわぁちょっと見てきてもいいかなぁ??」
ヒロシはそう言いながらすでに解体場に向かって走って行った。
全く団体行動が取れないヒロシをコルリルは諦めていた。
(まぁ仕方ないか、ヒロシ様だもんね、むしろ今までよく頑張って付き合ってくれてたよ)
コルリルがヒロシに呆れていると受け付け嬢がようやく話しだした。
「・・・ヒカル様は今は居ないっすね。
東の山に素材採取の依頼に行ったみたいっす」
受け付け嬢はだるそうにそれだけ答えて違う業務に戻って行った。
「ふむ、居ないのであれば仕方ありませんな、ここで帰って来るのを待つか、また出直しましょうか?」
「そうですね、けどいつ帰ってくるかもわからないしなぁ」
ベルワンヌとコルリルが話していると横からヘラヘラした声が飛んできた。
「へへへ!お前らあの勇者様を探してんのかい!?」
コルリルが声の主を見ると先程一番槍として戦っていた赤槍のローワンと言う傭兵だった。
ローワンは仲間達と酒を飲んでいて、もうかなり酔っている様子だった。
「お偉い勇者様をお探しなら急いだ方がいいぜぇ?なにせ勇者様はお忙しい方でいらっしゃるからなぁ?
早くしないと誰かに取られちまうぞぉ?ははは!!」
ローワンの言葉に仲間達も大笑いしている。
コルリルは何がおかしいのか分からなかったが、不愉快なのでさっさとここから出たかった。
「・・・コルリル様、一旦出ましょうか?」
ベルワンヌに言われコルリルはとりあえずギルドから出た。
ヒロシはまだ解体場から戻らないがとりあえず外で待つ事にする。
コルリル達が外に出てもまだ中からは嫌な笑い声が響いてきていた。
「すみませんコルリル様、傭兵達は悪人ではないのですが、
教育や品位が足りない輩も多く、このような有様です、
大変申し訳ありません」
ベルワンヌは深々と頭を下げ謝罪する。
コルリルは慌てた。
「止めてください!ベルワンヌさんのせいじゃないですよ!
傭兵さん達も多分戦闘後で気が大きくなってたんですよきっと!
だから私気にしてませんから大丈夫です!」
「そう言って頂きありがとうございます」
ベルワンヌが感謝して再び頭を下げるのをコルリルはなんだか逆に申し訳なくなりながら、お互いに頭を下げたり謝ったりを繰り返していると、
ガッシャーン!
と音を立てながら先程のローワンが窓を突き破り吹き飛ばされてきた。
ローワンは向かいの店まで吹き飛び、商品棚に叩きつけられ動かなくなった。
「なっ!何事!?」
コルリルが驚いているとヒロシが慌てて店から飛び出してきた。
「コルリル!ベルワンヌさん!逃げるよ!!」
二人を掴んでヒロシは走り出す。
コルリルはヒロシに慌てて掴まり何があったのか尋ねた。
「ヒロシ様!何事ですか?!」
「いやぁ、解体場から戻ったら二人が居ないから、あの男に聞いてみたんだよ?
そしたら嫌味な態度してくるからさ?ちょっーと言い返したらあいつブチギレちゃって。
殴りかかってきたから思わず合気で吹き飛ばしちゃった♪♪
あいつの仲間達が武器を持ち出したから慌てて逃げてきたんだ♪」
コルリルはまたヒロシがトラブルを起こした事に頭を抱えたかった。
「・・・何してるんですか〜はぁ」
コルリルが呆れていると、ベルワンヌも走りながらヒロシに尋ねた。
「ちなみに何と言い返したのですかな?」
「え?あぁ、
『そんなしょっぼい槍を使ってるのはなんで?
あぁ、君の◯ンポに比例したクソ短くて細い粗末な槍が好みだからかな?』
って言ったんですよ♪下品ですみません♪」
「そんな事言ったら怒るに決まってるでしょう!!」
コルリルは真っ赤になりながらヒロシを問い詰めるが、
ベルワンヌは嬉しそうだった。
「フハハハ!失礼!ヒロシ様は愉快ですな!
このベルワンヌ、久方ぶりにとても楽しい気持ちになりましたぞ」
ベルワンヌはそう言って笑い続けている。
コルリルはどこがベルワンヌのツボに入ったのか分からなかったが、
とりあえず一行は傭兵地区から慌てて抜け出した。
傭兵地区から無事抜け出した後、コルリル達は一旦ベルワンヌと別れる事になった。
「・・・本当に行くのですか?
勇者が向かったという東の山は未開の地。
獰猛な魔獣が多数生息する厳しい山ですぞ?
傭兵達でも行くなら十人以上のチームで行くでしょう。
それをたった二人でとは・・・」
ヒロシはヒカルを探しに山まで行くと言って聞かなかった。
一応ヒロシの意見としては、山の方がより実戦に近い環境で動きを見れるからという事だったが、
コルリルとしてはそんな危険な山に行くのは気が進まなかった。
「そうですよ。
ヒロシ様?本当に行くんですか?
街で待つのも有りじゃないですか??」
一応コルリルは提案してみるが、
「ダメダメ!街で待っても、傭兵地区にはもう近づけないし、
彼がいつ帰るかもわからないのに待ってられないよ!
だからこちらから迎えに行くしかないね♪」
ヒロシは聞く耳持たずだった。
なのでベルワンヌも流石に山の中までは案内出来ないので、
一旦別れてまた街に戻ったら合流してくれる事になった。
「わかりました。
では、ヒロシ様達のご武運をお祈りしております。
よろしければ道中に我が主の提案について再考して頂けたら幸いです」
ベルワンヌはそう言って深々と頭を下げた。
「ベルワンヌさんありがとうございます。
また帰ってきたら案内よろしくお願いします」
「かしこまりました」
ベルワンヌはにっこり微笑んだあとは黙ってツカツカと管理地区まで戻って行った。
コルリルは感謝の気持ちを込めてベルワンヌが見えなくなるまで頭を下げて見送った。
その後コルリル達はさっそく街を出て、東の山までやってきていた。
東の山は街からすぐの場所にはあるが、
鬱蒼とした木々に覆われていて、明らかに開拓されていない雰囲気を醸し出していた。
(うわぁ、この山で人探しかぁ〜
なかなか骨が折れそうだなぁ)
コルリルは内心でゲンナリしたが、ヒロシは逆に期待に胸躍らさせているようだった。
「うわぁ♪これは未知の素材が見つかりそうな気がする♪
さっそく採取開始だね♪」
ヒロシは山に入る前にラボを展開し、ゴブリン達を出した。
ゴブリン達はそれぞれ山に入っていき、素材採取をしてくれるようだった。
「あ、ついでにほれ♪」
ヒロシの掛け声でラボがさらに開き中からフォシュラが出てきた。
「ちょっと何よいきなり?仲間探しは終わったの??」
フォシュラはいきなり呼び出されて不機嫌そうだった。
コルリルは事情のわからないフォシュラに状況を説明する。
「はぁ〜?それで山に入るの??
あんた達本当にせっかちというか、もうちょっとゆっくり出来ないわけ??」
「私に言わないでよ〜全部ヒロシ様の指示なんだからぁ」
フォシュラもわざわざ山に入って探すのはやり過ぎと思っているようだった。
しかしヒロシはやはり聞く耳を持たず一人で山へ入っていった。
「ほら!早くしないと置いてくよ!
いざ!勇者を探して山狩だぁ♪♪」
ウキウキ状態のヒロシにコルリル達はゲンナリしながら着いて行った。
山に入って数時間、かなり奥地まで進んで来ていた。
しかしまだ目的の勇者は見つからず、コルリルとフォシュラは疲れてきていた。
「ねぇ?まだ探すの?やっぱりこんな山の中から勇者一人を見つけ出すなんて無理じゃない??」
フォシュラが不満を言うがヒロシは無視して素材採取に夢中になっている。
「うわぁ♪この石なんだろう?始めてみるなぁ♪この植物も気になるし楽しいなぁ♪♪」
ヒロシに無視されてフォシュラは不機嫌になった。
「なんなのアイツ!ずっと無視してくるんだけど!?」
「まぁまぁ、ヒロシ様があぁなったらもう無理だよ。
私も何回無視されたか・・・」
コルリルはフォシュラをなだめながら、ヒロシに無視されるのは慣れっこになった自分に少し悲しくなった。
「けど、確かにフォシュラの言う通り全然見つかる気がしないねぇ」
「でしょ!?魔獣も全然いないけど勇者も居ないしなんなのこの山?」
コルリル達は魔獣にもまだ遭遇していなかった。
ベルワンヌは魔獣がたくさんいるような話をしていたはずだったので、コルリルは不思議だった。
「魔獣ならいるよ〜♪僕達に出会う前にゴブリンが上手く捕獲してくれてるんだよ♪」
ヒロシが話を聞いていたのかこちらを向かず話しだした。
「ゴブリン達が魔獣に出会ったらラボを通じて合図があるんだよ♪
ほら♪」
ヒロシが振り返ると、ヒロシの耳元に小さな黒点が無数に集まっていて、さながら虫の群れのようでかなり気持ち悪かった。
「ちょっと!な、何よそれ!!」
フォシュラが絶叫しながら指差し尋ねる、
「これは小さな小さなラボだよ♪
ラボに小さな空間を作ったんだ、
空間一つに対してこれ一つと、それぞれのゴブリン達に一つ、
まぁゴブリン達と小さなトンネルで繋がっていると考えてくれたらわかりやすいかな??
だからずっとゴブリン達から報告がリアルタイムで来るんだよ♪
魔獣と出会ったらすぐ報告が来るから、
ラボを一瞬開いて・・・」
ヒロシはそう言ってラボを開いて見せた。
ラボはフォシュラの目の前に開かれ、
驚いたフォシュラは慌てて後ろに下がるが、
後ろにもラボが開かれていてあっという間にフォシュラはラボに捕獲されてしまった。
「とまぁこんな感じで魔獣は楽々捕獲出来るんだよね♪
知能の高い魔獣ならこんな簡単な罠にはかからないんだろうけど、
フォシュラは簡単に捕まったなぁ♪」
ヒロシは笑いながらフォシュラを再びラボから出す。
フォシュラはヒロシを睨見つけていた。
「あんたよく聞こえなかったけどなんか悪口言ってたでしょ!?」
「まさかぁ♪フォシュラはわかりやすいね?って褒めてたんだよ♪」
「それはバカにしてんでしょ!?」
フォシュラとヒロシはまた口論になりいつもの感じになった。
コルリルは呆れてその様子を見ているしかなかった。
ヒロシの考案したラボで捕獲するやり方のおかげでコルリル達はただ山を歩くだけの時間がずっと続いた。
もうそろそろ夕方になる頃合いでヒロシが叫びだした。
「うぉぉ!珍しい狼の群れをゴブリンが見つけたみたいだよ!
ちょっと見てくるね!」
そう言ってヒロシは止める間もなくラボに消えていった。
残されたコルリル達は一気に疲れが噴き出してきた。
「・・・ねぇ?これってまた何日か戻らないパターンじゃないの?」
「・・・わかんないよ、けど何日かかかるなら私達もラボで休みたかったなぁ」
二人はその場に腰掛けヒロシを待つ事にした。
もうこれ以上奥に行くのは疲れてしまったし、
ヒロシが戻らないなら山の中で、野宿をして一晩過ごすしかないからだ。
「はぁ〜てかもう目的の勇者も居ないんじゃない?
とっくに帰ってるわよきっと」
「うーん、わかんないけどもしそうなら今私
達何してるんだろねぇ?」
コルリルポツリポツリと愚痴をこぼしながらヒロシを待っていた。
すると、
「シッ!何か音がするわ」
フォシュラが何かを察知し警戒する。
コルリルも耳をすませてみると、確かに遠くから物音が聞こえてくる。
「なんだろう?ヒロシ様かな?」
「多分違うわ、誰かが逃げてる?
とにかく行って見ましょ!」
コルリルとフォシュラは音がする方へ急いで駆け出した。




