第二部 三話 【会議、そして傭兵街へ】
コルリル達は傭兵街へ行く前にパーティーで集まり会議をすることにした。
場所はリビングルーム、
いつもは部屋の中央に大きな机がどん!とあり、
そこを中心に本を読める読書スペースや、
リラックスしてくつろげるふかふかなゾーン、
簡易なキッチンでは様々な飲み物や簡単な料理を作れて、
皆大抵はこの部屋に居ることが多いくつろぎの部屋だが、
今は様変わりして、中央のテーブルは片付けられ、
黒板のような板がヒロシのラボの力で出現し、
それに向かい合わせになるよう椅子が何脚も用意されていた。
「コルリル〜?こんな感じで良いかな??」
「バッチリです!これぞ話し合いをする部屋!って感じですね!
ありがとうございますヒロシ様!」
「はいはい♪」
コルリルの要望通りヒロシは会議室を仕上げてくれた。
コルリルは新しい仲間を探すにあたり、ちゃんとパーティー全員の意識を一致させたかった。
だからちゃんと話し合いが出来るように会議室を作ってもらったのだった。
「あんた本当に形から入るの好きねぇ??」
フォシュラは会議室を見て呆れたように呟いた。
「まぁ良いじゃない。
形からでもちゃんと中身が伴えば問題ないでしょ??
パーティーの意識を統一するのにはまずは話し合い!これ鉄則だから!」
「・・・あんたそれどうせ本に書いてあったんでしょ?」
フォシュラは呆れていたが、ディロンは満足げに会議室を見て、
「良いじゃないか、良い話し合いが出来そうだな」
と褒めてくれた。
コルリルはそれだけでとても嬉しくなった。
「ありがとうございますディロンさん!
じゃあさっそく会議を始めましょうか??
皆さんよろしいですか??」
「OK〜♪コルリル張り切ってるねぇ♪」
「いつでも良いわよ。てか何話すのさ」
「俺もいつでも良いぞ」
コルリルの号令に三人は各々返事をする。
こうして新たな仲間に関する会議は始まった。
「では!まずですが、新しい仲間を入れるに当たり、
必要とされる能力はなんでしょうか?」
「えぇ〜!?あんたそこから話す気??
そんなのもうわかってるし良いじゃない!」
コルリルが基本から話そうとするので、フォシュラが野次を飛ばした。
「いや!何事も基本から始めるのが良いんだよ!
私の師匠も基本は大事にされていたし、私もそうしたいの。
だからちょっと面倒かもだけどフォシュラも付き合ってね??」
「・・・はぁ〜わかったわよ、でも手短にしてよね!」
フォシュラはコルリルにお願いされ渋々引き下がった。
「ありがとうフォシュラ。
じゃあ改めて、新しい仲間に求める能力は何ですか?ヒロシ様答えてください!」
コルリルはヒロシに水を向ける。
ヒロシはにこやかに答えてくれた。
「うん♪ズバリ前衛の能力だね♪
そして出来たら攻撃力より防御力が高い、盾役が出来る人が理想だね♪」
「そのとおりです!パーティーの盾となれる人、それが私達が求める人材ですね!
ではディロンさん!盾役となる人に必要な能力はなんですか??」
コルリルは順調に会議を仕切り進めていく。
「ふむ、先程も話に出たが防御力は大事だな。
敵の攻撃を一手に受けるわけだから打たれ弱ければ話にならん。
さらに盾役は冷静に戦況を見て判断する強い心も必要だ。
敵の目の前に居ながらも、常に仲間を気にかけ、
敵の標的になっていないか?
負傷していないか?
カバーの必要はあるか?
様々な事を意識しながらも自身もやられないように立ち回る、
冷静な判断力と勇気を必要とされるわけだ。
そして何より強い身体と強い心を持ちながらも仲間の為に我が身を盾にする、
仲間想いの優しいやつではないとな。
仲間を見捨てる盾などない方がマシと言うものだ」
「ディロンさんの言う通りです!
仲間を想う強くて優しい人こそ盾役にピッタリですよね!」
ディロンの的確な答えを聞いてコルリルはやっぱり会議をしてよかったと感じた。
「なるほど!確かにその能力はいるなぁ。
いやぁさすがはディロンだ♪」
ヒロシも会議をしてよかったと感じているようだった。
コルリルはさらに嬉しくなってきた。
「では!最後にフォシュラ!
そんな盾役の方を仲間にするにはどうしたら良いかな??」
フォシュラは最後に問われ少し悩んだが答えた。
「やっぱり傭兵街で直接スカウトかしら?
直接実力者をスカウトするか、大々的に募集して面接で絞るかは悩むけどね」
フォシュラも的確に答えてくれた。
コルリルはパーティーの意識が同じ方を向いたと感じれた。
「ありがとうフォシュラ!
では私達の今後の目的は
傭兵街へ行き、
実力者を探しながら盾役の募集をして、
ディロンさんが言ってくれた能力を持つ方を見つけて、
交渉して仲間にすることです!
皆さんよろしいですか??」
「はーい♪」
「はいはい、最初からわかってるわよ」
「了解した」
三人共にここまでは良い感じで会議に参加してくれていた。
コルリルはこの調子で次の話題に向かう事とする。
「ありがとうございます皆さん。
では次に新しい仲間を迎えるに当たり、
皆さんから何か要望はありますか?
例えば魔術は使える方が良いとか、
人間が良いとか亜人が良いとか、
何かあれば教えてください」
コルリルの質問に三人はそれぞれ考えだした。
そしてまずはディロンから答えてくれた。
「うむ、では俺から。
盾役は敵の的に自らなるのが重要だ。
だから敵視を取る為の魔術を使える方が良いかもな。
もちろん使えなくても殺気や立ち回りでカバー出来るなら構わんが」
「へぇ〜敵視を取る為の魔術なんてあるんだ??」
ディロンの意見にヒロシが質問する。
「あぁ、エンチャント魔術と言う部類でな。
武器に属性を付与したり、己に敵から目立つようなオーラも纏わせたりする魔術系統があるのだ。
まぁそれを使えなくても殺気を振りまけば大概の魔獣は吊られるし、
人間相手なら口で挑発したり、
あとは立ち回りで狙われやすくする技術もあるから魔術は絶対ではないがな」
「あぁ!そういえばそんな魔術もあるって本で読んだ気がするなぁ〜
へぇ〜僕も練習してみようかな♪♪」
ヒロシとディロンは良い感じで話し合いをしてくれていた。
コルリルもエンチャント魔術に関しては詳しく無かったのでディロンの説明は為になった。
「素晴らしい意見ありがとうございますディロンさん。
では魔術を使えるかは補足事項にしときましょうか。
フォシュラは何かあるかな??」
コルリルはフォシュラに水を向ける。
フォシュラは悩んでいるがゆっくりと答えてくれた。
「うーん、私は戦闘に関しては特にないけど、
しいていうならあんまり品がないやつは嫌かな??
ほら?なんか傭兵ってどっかのバカみたいに気遣いが出来なかったり、
どっかのバカみたいにやらしい事を平気でしてきたり、
そんな感じのイメージを持っちゃうのよ?
だからバカは一人で充分だからそういう人は要らないかな??
まぁあくまであえて言うならだけど」
フォシュラはバカと言う度にヒロシを睨見つけていた。
ヒロシは誰の事かなぁ?といった風情でわざとらしく周囲を見渡していた。
「む、むかつく!」
フォシュラがイライラしだしたのでコルリルは慌ててフォローした。
「ま、まぁそうだね!私もがさつな方はちょっと苦手だから出来たら品のある方が良いよね!
ずっとラボで一緒に暮らして旅するんだからそのへんも割と大事だよね!うん」
確かにフォシュラの言う通り、一緒に暮らしていく以上、フォシュラや自分に性的な嫌がらせをするような方はいくら優秀でもコルリルは嫌だった。
ヒロシの場合は・・・コルリルはこれ以上考えないようにした。
「では!ヒロシ様は何かありますか??」
コルリルは無理矢理話題をすり替えヒロシに質問する。
「そうだね♪僕は出来たら勇者を仲間にしたいなぁ♪
ほら、同じ勇者仲間が居たら色々話し合えて良い感じだと思うんだ。
エディとは全く話にならなかったから、次はちゃんと話せる勇者を仲間にしたいな♪」
ヒロシの答えにコルリルはさすがに無理だろうと思った。
勇者はたいてい国が召喚する。
個人で召喚するにはあまりにも準備が大変だからだ。
それこそサイマール国では召喚の為、国中に重税を課すくらいお金も手間もかかる召喚だった。
傭兵街は大きな街だけどあくまで街だ。
王が居て治めている国とは違うし、
どこかの国が統治しているわけでもない。
あくまで独立した街だ。
だから誰かが税を課して勇者を召喚することもないだろうから、傭兵街に勇者は居ないとコルリルは思った。
(まぁ流れの勇者がいる可能性もちょっとはあるけど、
もう流れの勇者には良いイメージないからなぁ)
コルリルは内心ではそう思っていたがヒロシを落胆させないため取り繕った。
「まぁ、そうですね!じゃあもし勇者が居たら積極的に声をかけてみましょうか
では皆さん他にはないですか?」
三人共にこれ以上はないようだった。
コルリルはそろそろ会議も終盤かな?と感じた。
「ありがとうございます。
ではそろそろ会議を締めようかと思いますが・・・」
コルリルが締めに入ったが、ディロンから待ったが入った。
「待て、報酬や待遇の話はどうする?
傭兵を雇うなら彼らが一番気にするのはそこだぞ?
いくらもらえるのか?
期間はどれだけか?
なにをするのか?
誰と戦うのか?
自分の命をかけるんだからそのへんは割とシビアに聞いてくるはずだ。
もし条件が少しでも悪かったら絶対に仲間にはならないだろうな」
コルリルはディロンに言われて気付いた。
確かにそれは重要な事だし、ちゃんと決めるべきだった。
「そうですね、すみません抜けてました。
では報酬はいくらくらいが良いでしょう?
ディロンさん、傭兵の相場はわかりますか??」
コルリルに問われディロンは少し悩んでから答え出した。
「ふむ、だいたいの相場だが、
一日雇うのがまぁ2トロくらいだろうな
期間を長く設定するなら傭兵との交渉次第だが、
一ヶ月ずっと雇うなら恐らく50トロは必要だろう。
その間の食事や装備を提供するなら値引きも可能だろうがまぁだいたいそんなもんだ。
しかし俺達の旅はいつ終わるかわからんし、相手は魔族だからな。
普通の魔獣や人間相手よりよほど危険な相手だ。
普通に雇うよりはるかに高額な金額を用意しないとまず相手にされないぞ?」
ディロンが話す相場にコルリルはクラクラした。
(一ヶ月で50トロ?!私なんてサイマールでは一ヶ月10トロしかもらって無かったのに!?)
金額の大きさにコルリルが悩んでいたらヒロシが笑い出した。
「ハハハ♪日雇いが危険手当込みで2トロ(日本円で3万円)、
月給にしたら50トロ(日本円で75万円)かぁ♪
まぁだいたいそんな感じだろうね♪
この世界でも命の値段は安いんだなぁ〜」
ヒロシは安いと感じているようだった。
コルリルには信じられなかった。
「ヒロシ様?そんなお金私達にはありませんよ??
今までは自給自足で生活してましたからわからないかもですが」
コルリルはサイマールを出る前に自分の貯金を全て持ってきていた。
合計30トロと200スー、
これがパーティーの全予算だった。
(予算の事忘れてたぁ・・・
これじゃ絶対雇えないじゃん)
コルリルは計画が頓挫し意気消沈するが、
ヒロシは笑いながらコルリルを励ます。
「コルリル大丈夫だよ♪
お金ならあるから♪♪」
「はい?どこにですか?」
ヒロシは不敵に笑い手をかざしラボの入り口を開いた、
コルリルは恐る恐る中を覗くと、
「え、えぇ〜!!!?」
中には金貨や宝石が山のように積まれていた、そのさまはまるで宝物庫のようだった。
「ヒ、ヒロシ様?!これどうしたんですか?!」
驚いているコルリルを見てヒロシはニヤニヤと笑っている。
ディロンやフォシュラも中を見てコルリルと同じように驚いていた。
「お前これどうしたんだ?ちゃんと鑑定しなければわからないが、
多分1000ドラ(1000ドラ=100万トロ)
以上はあるだろう??」
「ふふふ♪いやぁサイマールに居た時、バニラ様に王宮の宝物庫を見せてもらったんだよね〜」
ヒロシはあっけらかんと言う。
ラボはヒロシが一度見た場所をちゃんと覚えていたら、そこにいつでも入り口を開ける事が出来る。
つまり、
「ヒロシ様これサイマールから盗んだんですか?!」
「嫌だなぁ♪盗んだんじゃなくて借りただけだよ♪
それに僕達プレイを捕まえてサイマールを救ったじゃない?だからこれくらいもらえても良いかなぁって♪」
コルリルはあまりの事に頭がクラクラしてきた。
まさか勇者が盗みをするなんて、
しかも超がつく大金だ。
「ど、どうするんですか!?絶対バラマール様は怒ってますよ!?
ただでさえ怒りを買ってるのにこんな事したら地の果てまで追われちゃいます!!」
コルリル達はサイマールから脱出する際に国王のバラマールに散々無礼を働いて怒りを買われてしまっていた。
その上に宝まで持ち逃げしたとあれば各国に手配が回っても致し方ない状況だった。
「大丈夫大丈夫♪
バラマールが追いかけてくる事は絶対ないから
だから安心してこのお金は使えるよん♪」
ヒロシは何故かそう言い切ってきた。
しかしコルリルはヒロシがでまかせを言っているような雰囲気はなく、本当に追われないと思っていると感じた。
「え〜?本当ですか?けどこのお金使って本当に良いのかなぁ?」
コルリルはバラマールから追われないにしても、盗んだお金を使って良いか悩むが、
「まぁコルリルが使うの嫌でも僕は使っちゃうけどね♪
てかもうちょこちょこ使ってるし♪」
ヒロシはコルリルが止めてもこのお金を使うだろう、
コルリルはもう諦めた。
「・・・はぁ、わかりましたよ。
まぁバラマール様には色々思う所もありますし・・・」
コルリルは師匠をバラマールに処刑された恨みがまだあったので、もうお金の事は気にしないようにした。
「でも今度からは勝手に盗んだりするのは止めて下さいね!!
ヒロシ様は勇者なんですから自覚を持って下さい!」
「はいはい♪もう盗まないヨ♪」
ヒロシはヘラヘラと約束するがコルリルは全く信用出来なかった。
「そうよ!あんた私達には盗賊は悪いとかなんとか散々言ってたくせに自分もやってるじゃない!」
フォシュラもヒロシの盗みを糾弾する。
しかしヒロシは涼しい顔だ。
「お金持ちから盗るのは良いんだよ♪
このお金も国民から無理矢理奪ったお金だろうしね
さぁ!この話はこれで終わり♪
コルリル?結論はどうする??」
ヒロシはそう言い切り話を終わらせた。
コルリルはどっと疲れたのでとりあえず会議を終わらせることにした。
「まぁじゃあお金はたくさんあるみたいですからなんとかこれで良い仲間を迎えましょう。
以上で会議はもう終わりで良いですか??」
コルリルは半ば投げやりに終了宣言する。
「いいよ〜お疲れ〜♪」
「はぁ、この勇者ムカつくけど、もういいわよ」
「俺ももう良い」
三人共に異論はなく、ヒロシ以外は精神的に疲労していた。
「じゃあ会議終わりまーす、
ヒロシ様、じゃあ少し休んだら傭兵街に行きましょうか。
・・・はぁ疲れた」
こうしてコルリル達の話し合いは終わり、
傭兵街へ新たな仲間を探しに行く事になったのだった。




