第二部 二話 【仲間探しと目的地】
ジリリリ!ジリリリ!
「ん〜?な、にぃ??」
ラボで寝ていたコルリルは突然鳴り響く爆音で目を覚ました。
寝ぼけ眼で周囲を探る。
すると枕元に小さなスイッチがあったので黙って押してみる。
ジリリ・・・
音が鳴り止んだ。
コルリルはボーっとしていた頭を振り無理矢理目覚めさせる。
「あぁ、これがヒロシ様の言ってた、目覚ましか・・・
朝からうるさいなぁ〜」
コルリルは動き出した頭でゆっくりと記憶を探った。
そして昨日寝る前に、ヒロシがラボの新たな機能を試すと言っていたのを思い出した。
ヒロシは目覚まし機能と言っていて、指定した時間に寝ている者を起こせる機能だと言っていたが、
「こんなにうるさいなんて聞いてないよ〜」
コルリルは目覚ましの爆音に寝起きから不機嫌になりながらノロノロと起きる準備を始めた。
コルリルの部屋はヒロシが特別に妖精サイズに作ってくれた部屋だった。
小さなベッドに、
小さな家具、
洗面やトイレ、シャワーまで妖精サイズの特別仕様の部屋だった。
広さはワンルームの小さな部屋だが、
コルリルはこの部屋がとても気に入っていた。
部屋にはコルリルが様々な物品を飾りつけていた。
ティーポットの蓋を壁掛けにし、
フォークを曲げておしゃれなオブジェに、
シャワールームにはお茶の葉で作った良い香りの香草まである。
そんなお気に入りの部屋でゆっくり準備しているうちにコルリルの不機嫌さはいくらか紛れていった。
「よし!準備完了!」
いつもの召喚士の衣装に身を包みコルリルは鏡で全身チェックをする。
今日は自分達の目的地に着くはずだったのでコルリルは気合いが入っていた。
「さぁ!今日も頑張るよ!私!」
気合いを入れ部屋から出たコルリルはリビングを目指して飛んでいく。
その途中でフォシュラと出会った、
なぜかまだ寝間着のまま全身ずぶ濡れでめちゃくちゃ怒っていた。
「お、おはようフォシュラ?ど、どうしたの??」
コルリルが様子を尋ねるとフォシュラは叫びながら答えてくれた。
「あのバカ!何が目覚ましよ!!
まだ寝てたのにバカでかい音がして、
無視して寝てたら天井から水が大量に降ってきたわ!!!
あのバカ勇者今日こそ焼いてやる!!!」
どうやら目覚ましを無視したら水責めに遭うようにされているようだった。
コルリルはフォシュラを不憫に思う反面、
(自分は早く起きて良かった!)
と安堵した。
二人はそのままリビングまで行きヒロシを探すが見つからなかった。
すると少し遅れてディロンが現れた、
ディロンは頭から血を流しやっぱり怒り狂っていた。
「あのバカはどこだ?!
まだ寝ていたらいきなり天井から斧やナイフが降ってきたぞ!?
寝ている人間を起こすにしても激し過ぎるだろう!?」
「・・・本当にすみません、私が治療します」
コルリルはひたすら謝りディロンの傷を治療する。
するとヒロシがにこやかにやってきた。
「やぁおはよう♪みんな朝は快適に起きれたかな??」
全く悪びれる様子も無いヒロシにまずはフォシュラが怒りをぶつけた。
「あんたねぇ!!なんなのよあの目覚ましとかいう機能は?!
私はびしょびしょだし、ディロン兄ぃなんて死ぬ所だったんだから!!」
怒りに任せて詰め寄るフォシュラをヒロシは軽く躱した。
「いやいや♪それはすぐに起きないからだよ♪
ちゃんと起きてすぐ音を止めたらなにも起こらないんだから♪
それより目覚ましは新しいラボの機能の一つでね?
僕の居た世界では当たり前の機能だけどあると有り難いよねぇ!
しかもちゃんとフォシュラには水責め!
ディロンにはちょっぴりハードな刺激といった具合に変化をつけれるんだよ♪
慣れていけばもっと細かな事も出来そうだし良い感じだなぁ♪」
フォシュラの怒りもヒロシには全く響いておらず、ヒロシは新しいラボの機能に夢中になっていた。
「ちょっぴりハードだと?危うく死ぬ所だったぞ!?」
ディロンも不満タラタラな様子でヒロシを睨むが、ヒロシはそれも気にしていない様子だった。
「ハハハ♪ディロンならあれくらいじゃ大したダメージはないでしょ?
てかディロンもフォシュラもちゃんと一回で起きないと♪」
「「そういう問題じゃない!」」
ディロンとフォシュラは兄妹揃ってヒロシに不満をぶちまけ詰めよっていた。
コルリルはヒロシのいつもの調子に呆れていたが、
(まぁこれがヒロシ様だもんね〜
勇者の自覚はなく、
自分勝手に生きて、
知識欲の為ならどんな迷惑もお構いなし、
私達パーティーにすらあんな調子なんだもん。
勇者としては多分ダメな部類なんだろうなぁ、
けど・・・)
「あ、コルリルは大丈夫だった?目覚ましでちゃんと起きれた?」
コルリルが物思いにふけっていると、怒り冷めやらぬフォシュラ達を無視してヒロシが話しかけてきた。
「あ、はい、大丈夫です。ちゃんと起きて止めれました」
「それなら良かった♪
あ、コルリルにはフォシュラ達みたいな目覚ましは仕掛けてないからね??
妖精のコルリルに下手な仕掛けしたら怪我させちゃうからね!だから安心してね??」
ヒロシはそう言ってにっこり微笑んできた。
ヒロシは性格は終わっているが、顔は非常に整っているのでコルリルはドギマギした。
(この勇者顔良すぎだから!
それでたまに優しくしてくるんだからやばいって!!)
コルリルが内心で悶えていると、
一匹のゴブリンがリビングに入ってきた。
それはゴブリーヌとコルリルが名付けたゴブリンだった。
「ヒ、ヒロシさ、様、つき、ました」
ゴブリーヌの報告を聞いてヒロシはすぐに反応した。
「よし!ようやく着くかぁ!」
ヒロシはそう言ってすぐにラボの出口へと駆け出していく。
フォシュラとディロンはあっけにとられ反応が遅れたが、
コルリルはすぐヒロシを追いかけリビングから飛び出した。
「ヒロシ様?着くのは良かったですが、目的を忘れないで下さいね?」
コルリルは浮かれたヒロシに釘を刺した。
「わかってるって♪このためにわざわざ目覚ましまで仕掛けたんだから♪
僕達の目的は、
【新しい仲間を探す】
だろ?ちゃんとわかってるよ♪」
コルリルはヒロシがちゃんとわかってるのか疑っていたが、今は追及しない事にした。
コルリル達のここ最近の目的は新たな仲間探しだった。
理由は一ヶ月前に遡る。
一ヶ月前
コルリル達はサイマール国を無事脱出したあと当て所なく彷徨いながら旅をしていた。
ヒロシは各地で様々な研究を行えるので嬉しそうだったが、
コルリルはこのままで良いのか焦りが出てきていた。
今パーティーはヒロシの研究の為に森を探索している。
コルリルは森を彷徨いながら熟考していた。
(サイマールから出て数カ月、
ずっと旅をしながらヒロシ様の研究を手伝う為魔獣と戦い、
フォシュラと魔術の修行をして、強くはなれたと思うけど・・・
このままで本当に魔王なんて倒せるのかなぁ??)
コルリル達の最終目標は世界を脅かす魔王と魔族を討ち倒す事だ。
しかしコルリルは魔族と戦う為に自分達には何かが足りない気がしていた。
先日サイマールで戦った魔王軍の幹部、三魔将プレイは強かった。
自分より強いフォシュラやディロンも苦戦していた。
あの三魔将プレイの強さを知るコルリルは、
今の自分達で魔族達に戦いを挑むのは不安でしかなかった。
(何が自分に足りないのか、
魔術の強さ?
戦闘経験?
勇者とのコンビネーション?
あぁ!なんにもわかんないよ!!
バニラ様助けて!!)
コルリルは思わず亡き師バニラへ助けを求め天を仰ぐが、
当然なにも答えてくれなかった。
そんなコルリルをヒロシはわざわざ立ち止まりニヤニヤと見てくる。
「・・・なんですか?ニヤニヤして」
「いや〜♪コルリルは可愛いなと思ってね♪
きっとまたどうにもならない事で悩んでるんでしょ??
どうにもならない事はどうにもならないんだからほっとくのが良いよ♪」
ヒロシはニヤニヤとアドバイスしてくるが、コルリルはそれを否定した。
「ダメですよ!私はちゃんと問題と向き合って解決したいんです!
先送りにしたら余計難しくなりますからね!」
「はいはい♪まぁ何に悩んでるのか知らないけど、どうするかはコルリルの自由だから任せるよ♪
けど何か手伝って欲しかったら言ってね??」
ヒロシはそう言ってまた歩き出す。
コルリルは嬉しいような悔しいような複雑な感情になった。
(いや私だけ悩んでるけど、本当はヒロシ様にも考えて欲しいんだけど、
でもヒロシ様、いざとなれば助けてくれるんだろうなぁ)
コルリルはヒロシは身勝手だが、いざとなれば必ず助けてくれる。
コルリルはなぜかそう信じれていた。
「ほら!あんた置いてかれるわよ??
早く来なさい」
立ち止まり考えをまとめていたコルリルはフォシュラに急かされた。
「あとあんたが困ってたら私も助けるからね?
何でも良いから相談しなさいよ?」
フォシュラも助けると言ってくれて、
コルリルは随分と心が軽くなった。
(そうだよね?みんな助けてくれるんだし、私一人で悩んでも仕方ないよね。
よし!前向きに考えよう!!
みんながいれば大丈夫だ!!)
コルリルはそう思い、前向き歩み出した。
しかし数時間後、
パーティーは全滅の危機に陥っていた。
原因はたった一匹の魔獣だった。
その魔獣はゴーレムという岩魔獣で、
岩場に住む大型魔獣の一種だった。
最初はヒロシが岩場にいたゴーレムを見つけ、いつものように興奮して捕獲しようとした。
しかしゴーレムは激しく抵抗したのでコルリルとフォシュラも加勢に加わったのだが、
「つ、強い!!」
ゴーレムは岩の身体を自身の魔力で強化した極めて頑丈な魔獣だ。
コルリルの魔術は簡単に弾かれてしまい、
フォシュラの火炎魔術は相性が悪くあまり効かない、
ヒロシもさすがに五メートルはあるゴーレムは投げれないと接近戦は諦め手をこまねいていた。
ゴーレムは動きは遅いので回避は出来る、
なんならこのまま逃げる事も出来るが、ヒロシが全く逃げる気がないのでコルリル達も無理に戦うしか無かった。
「ヒロシ様?どうしますか?!
あのゴーレム私達が何してもビクともしませんよ?
今回は大人しく引き下がりましょう??」
コルリルは撤退を進言するが、
「嫌だ!こいつは絶対捕獲する!」
ヒロシは折れず戦闘を再開する。
コルリルやフォシュラも仕方なく再開するが、やはり魔術は刃が立たず、無駄に体力と魔力を奪われていった。
パーティーの消耗が激しくなり、いよいよ危険になってきた。
その状況を見たヒロシは非常に悔しそうにしながら、
「こうなったら・・・
フォシュラ!ディロンと交代するよ!
捕獲はあきらめる!」
そう宣言してフォシュラを掴みラボに避難した。
そしてディロンを連れて戻り、戦いを任せた。
そしてそこからはあっという間だった。
ディロンが大斧でゴーレムを粉々に打ち砕き、あっさり仕留めたのだ。
本当にあっさりとすぐに戦いは終わってしまった。
ディロンは汗もかいていなかった。
「ふむ?こんな魔獣に苦戦していたのか??
フォシュラは相性が悪いから仕方ないが、お前達火力不足じゃないか??」
ディロンに指摘されコルリルは目を伏せた。
ヒロシもどことなく居心地が悪そうだった。
「・・・俺が思うにこのパーティーに足りないものは
【前衛】
だな。
ただの魔獣ならヒロシの技やコルリルとフォシュラの魔術で対応出来るが、
この魔獣のような硬い魔獣や、
魔術が効かない魔獣を相手にするにはお前達では相性が悪過ぎるのだ。
俺がいれば倒してやれるが、俺が居ない時も戦えないとこれからの戦いは厳しいだろう」
ディロンは言いにくそうにしながらパーティーの問題点を上げてくれた。
コルリルは話を聞いて納得したし、ようやく自分達に足りないものに気付けた。
「・・・ありがとうございますディロンさん。
私情けないです、こんな簡単な事に気づけないなんて」
不甲斐なさから謝るコルリルにディロンは優しく答えてくれる。
「構わん。お前達はパーティーで旅をするのに慣れていないんだろう?だったら仕方ないさ」
ディロンの優しさがコルリルには嬉しかった。
一方ヒロシは珍しく落ち込んだ様子で、死んだゴーレムの身体をゴブリン達に集めさせていた。
「ヒロシ様?大丈夫ですか??」
コルリルがおずおずと話しかけると、ヒロシは意気消沈した様子で話しだした。
「・・・あぁ、大丈夫だよ・・・
今回はごめんね?
僕のわがままでゴーレムと戦わせちゃって・・・
でも結局敵わずディロンに倒してもらったし・・・
しかもゴーレムはバラバラで捕獲出来なかったし・・・
はぁ、僕って弱いなぁ」
ヒロシの落ち込みっぷりはコルリル以上だった。
どうやら研究素材を確保出来なかった後悔と、自分自身の不甲斐なさで押しつぶされそうになっているようだった。
「だ、大丈夫ですよ!今回は上手くいかなかったけど次回からはまた対策して頑張りましょう??」
コルリルは必死に励ますがヒロシは元気にならなかった。
すると、
「それなら新しい仲間を入れたらどうだ??
前衛として戦士を雇うのだ。
それなら俺が表に出てない時でも安心だろう??」
ディロンから新しい仲間を探す提案が出た。
現在コルリル達パーティーは基本的に三人で戦っている。
魔術で遠距離支援をするコルリル、
自分の発明した道具やゴブリンを使って中距離を、柔術というオリジナルの技を使って近距離で戦うヒロシ、
そして火炎魔術で近距離〜遠距離までオールマイティにこなすフォシュラ。
この三人で主に戦っている。
ディロンは近距離戦闘では圧倒的に強いが、
フォシュラとディロンが同時にラボから出るのはヒロシからまだ禁じられていた。
実は二人は以前盗賊をしていて、事情があったとは言え多くの人に被害を出してしまった。
その贖罪の為ヒロシに協力しているが、逃走防止の為二人でラボから出るのはヒロシが固く禁じていた。
だからどちらか一方しか出れないのだが、
大概ディロンはフォシュラをラボから出してあげたいと言って自分はラボに残るのだった。
「俺が居なくてもフォシュラを守る戦士が居れば安心出来るしな。
どうだ?新しい仲間、探してみるか??」
ディロンの提案にコルリルは大賛成だった。
ヒロシはというと、
「うーん、新しい仲間かぁ。
けどディロンくらい強い戦士なんてそうそう居ないんじゃない??」
「いや、俺は自分が強いとは思わんが、
なにも強くなくても良いんだぞ??
ただ前衛で敵の気を引き生き残るタフさがあれば良い。
そうすればその間にコルリルやフォシュラが魔術を溜めれる、そしたら大概の魔獣は倒せるだろう?」
ヒロシからの疑問にディロンは的確に答える。
確かに前衛の仲間が時間を稼いでくれたら、
以前グリフォンに打ち込んだ魔術のように強力な魔術を造り打ち出せる。
今回のゴーレム戦はゴーレムが手当たり次第に攻撃してきていたので魔術を溜めるどころでは無かった。
「なるほど〜じゃあ新しい仲間探してみるか♪
ディロン、ナイスアイデアありがとう♪」
ヒロシはディロンの説明を聞き納得したようで元気を取り戻したようだった。
「よし!そうとなればすぐに出発しよう♪
早く仲間を増やしてゴーレムに再挑戦したい!!」
「いやぁもうゴーレムはいいですよ〜」
コルリルは苦笑いしながらも、内心ではヒロシが新しい仲間を探す事にした事を喜んでいた。
そして現在
こうしてコルリル達は新しい戦士を探す為に旅を再開したのだった。
仲間を探す場所は、これもディロンの提案ですぐに決まった。
それが・・・
「うわ〜これがそうかぁ」
ヒロシはラボから飛び出し目の前の光景に感動していた。
コルリルも隣でその光景に目を奪われ圧倒された。
「こ、これが傭兵街ですかぁ!」
コルリル達の眼下には大きな街があった。
街は崖の際に作られていて、断崖絶壁を背にしていた。
街の表には高い鉄の壁が築かれていて数十キロに渡り街全体を保護していた。
そしてその壁の外側では、非常にたくさんの魔獣達が戦士達と激戦を繰り広げていた。
「す、凄いですねぇ」
「うん♪これなら優秀な戦士をスカウト出来そうだね♪」
数多の傭兵が住まう街、傭兵街。
ここがコルリル達の目的地だった。




