第一部 エピローグヒロシ編 【裏切り者ヒロシ】
王都から逃げ出して四日、ヒロシはゆっくりラボで一人紅茶を飲んでいた。
ヒロシ達はひとまずサイマール国から離れる事にしていた。
コルリルがバラマールが必ず追跡者を出すに違いないと予想し一刻も早く国外に脱出する事を進言したからだ。
ヒロシはそれを了承し自分達はラボでゆっくりしながらゴブリン達を使って移動していた。
(ゴブリンが適当に進んだらラボを開いて場所を確認、方向を修正してまたゴブリンを移動させる。
このやり方なら絶対捕まるわけないのにコルリルは慎重だなぁ♪
てか)
「バラマールにそんな余裕はないだろうね♪」
ランスロ国に情報を渡していたのはヒロシだった。
プレイとの戦いの前からすでにヒロシはランスロ国と通じていた。
(僕達を見張っていた騎士が気になったからなぁ。
無事見つけてみたらまさかランスロ国の聖騎士様とは驚いたよねぇ〜)
ヒロシはゆっくり紅茶を飲みながらアルケインとの邂逅を思い返す。
『やぁ、君たち何者かな??』
突然現れたヒロシにアルケインと従者は剣に手をかけ向き直ってきた。
アルケインは全身白の甲冑に身を包み、青のマントをはためかせ、まさに騎士といった出で立ちだった。
腰に下げた剣は白く綺麗な鞘に収められているが、身の丈180センチはあるアルケインが持っても大きく見えるくらいの大剣だった。
アルケイン達がいた場所は王都近くの森の中、王都を見渡せる丘が近くにあり、偵察には持って来いの場所だった。
『お前は新たな勇者か。名はヒロシと言ったな』
アルケインは油断なくヒロシを見ていつでも戦えるよう構えていた。
甲冑のせいで顔はわからないがどうやらヒロシを警戒している様子だった。
『あ、待って待って!僕に戦う意思はないから!
君たちどこかの騎士さんでしょ?ちょっとお話したいだけだから落ち着いてよ♪』
ヒロシは敵意がないことを示すため地面に座り込む。
アルケイン達はひとまず武器から手を離すが全く油断はしていなかった。
『我らに何用だ?』
『ん?だから話がしたいだけだよ?
君達はどこのだーれかな?』
ヒロシに問われアルケイン達は少し考えてから話しだした。
『我らはランスロ国の騎士だ。
私は聖騎士アルケイン、私が話をしよう』
それからヒロシとアルケインは簡単に自己紹介をしてゆっくりとお互いの話をした。
『なるほど♪エディに勇者を殺られたから偵察してエディの弱点を探っていたんだね♪
けどそんな事僕に話していいの??』
『そちらこそ決闘の日時や王宮内部の情勢を話して良かったのか??
我らがその情報を利用するとは思わなかったのか??』
『ハハハ♪かまわないよ♪むしろ大いに利用してほしいね♪』
ヒロシはアルケインが情報を明かすのは、こちらを油断させ少しでも王宮内部の情報を得ようとしているからだと見破っていた。
だからヒロシはあえて包み隠さず王宮の内情をアルケインに明かし、こちらに敵意がない事を強調した。
そして、
『・・・ねぇ僕達手を組まないかな??』
『何?』
ヒロシは自分と手を組まないかアルケインに持ちかけた。
アルケインはさすがに怪訝そうにしている。
『僕はあの王もエディも嫌いなんだよ。
だから僕が決闘でエディを始末するから、
君達はバラマールを処刑してくれない?
もちろん協力は惜しまないからさ♪♪』
『何故我らに頼む?お前が自分で始末すれば良かろう?勇者を殺せるならバラマールの首も容易く取れるだろう?』
『僕が殺したら王宮にいれなくなるじゃない。
バレないように暗殺したとしても絶対疑われるし・・・
とにかく僕は邪魔者なしで魔術を学びたいんだよ♪
その為には勇者の方は僕が決闘で始末出来るけど、
バラマールを殺すには君達みたいな外部の協力者がいるんだよ♪
だからお互い協力しない?
バラマールを始末したあとのサイマールは君達の自由にしていいからさ♪
もちろん僕の学びを邪魔しないって条件付きだけど』
ヒロシの提案にアルケイン達は頭を寄せ何か相談したあとこう言った。
『我らが主ナイトル様の指示を聞いてからだ。
またここで落ち合おう』
『了解♪じゃあ手土産に検問所の場所や国境警備の状況を教えとくよ♪♪』
『・・・ありがたくちょうだいする』
この数日後ヒロシはアルケインから手を組みたいと改めて言われ快く了承したのだった。
こうしてヒロシはランスロ国と手を組み、
アルケインが求める情報は全て渡し、
見返りとしてヒロシはプレイ以外の魔族を始末する事をアルケイン達に依頼し決闘に備えた。
決闘ではヒロシの予想通り魔族が乱入し混戦となった。
そして流れのまま自然とエディを殺せたのでアルケインとの約束は果たせた。
しかし、戦いの後バニラが処刑されるのはヒロシにとっても予想外だった。
(まさかあのバカ王のバカっぷりがここまでとはなぁ〜
おかげで計画が台無しだよ)
ヒロシはバニラが処刑されてしまったので、もうサイマール国にはなんの未練もなかった。
コルリルと王宮を後にしてすぐヒロシは待機していたアルケインに状況を伝えた。
『・・と言う事で僕はあの国にはもうなんの未練もないから♪
無血開城でも皆殺しでもお好きにどうぞ?
僕はもう行くから』
そう言ってすぐ立ち去ろうとするヒロシをアルケインは呼び止めた。
『我らは約束を必ず守る、すでに魔族の残党は始末した。
これから王都へ行き無血開城するつもりだ。
そこでだがお前これからも我らと共に行動しないか??』
『え?』
『お前は性格には難があるが義理堅い、良い騎士なれる。
我らと共にナイトル様に仕えないか?もちろんパーティーの仲間も一緒に』
アルケインに誘われヒロシは少し考えたが断った。
『悪いけど止めとくよ♪僕は騎士って柄じゃないしね♪
けど君達とは敵対する気もないからまたどこかであったらお茶でもしよう??』
ヒロシに断られアルケインは少し残念そうにしていたが、すぐに気を取り直したようだった。
『・・・わかった、残念だがそうしよう。
お茶は私に任せてくれ、ランスロ産の上手い紅茶をご馳走しよう』
『ハハハ♪楽しみにしてるね♪
じゃあありがとうアルケイン♪』
(アルケインの紅茶楽しみだなぁ♪
まぁ今はコルリルが淹れてくれた紅茶で充分だけどね♪♪)
ヒロシはそんな事を考えながらゆっくりとコルリルの淹れた紅茶を堪能するのだった。