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第一部 四十七話 【バニラの手紙】


『ヒロシ様へ

この手紙を読んでいるという事は私は処刑されてると思う。

最初に言っておくけど私が処刑されたのは誰のせいでもないよ?

ヒロシ様やコルリルを恨む気持ちは全くないから安心してね?


あの戦いのあと、ヒロシ様達が去られてからバラマール様が大変お怒りになってね。

エディ様を死なせた罰で私や兵士達を大勢処刑しようとなされたんだ。

だから私は全ての罰を背負って代表で処刑される事にしたんだよ、

まぁ実際エディ様を守れなかったのは事実だしね。

それで処刑までに多少時間をもらえたから色々やっておく事にしたんだ。

まずは罪のない兵士がバラマール様に処刑されないよう国境や検問所等に多くを派遣した。

だからしばらくの間王宮はガラガラで図書館や私の部屋ならしばらくは誰も来ないと思うよ』


コルリルはヒロシが読み上げる手紙を集中して聞いていた。 

ヒロシが一呼吸いれる間に様々な思いがコルリルの中に現れた。


(やっぱりバニラ様は凄い、先の先まで見通して策を張り巡らす智謀、私達の心情や動きまで完全に読んでいらっしゃったんだわ」


コルリルは改めてバニラに尊敬の念が湧き上がるの感じた。

ヒロシが続きを読み上げる。


『それで君達にも色々とやっておこうと思ってね。

この手紙を読んでるのが図書館なら好都合なんだけど、

ヒロシ様にはこの図書館の蔵書全てを寄贈しようと思う。

ヒロシ様にはラボがあるからそんなに時間もかからず本を持ち出せると思うんだ。

結局まともに授業をできなかったお詫びに受け取ってほしい』


ヒロシは手紙をそこまで読んですぐ、ラボを開きゴブリン達を呼んで本の移動作業を行わせた。

ゴブリン達は丁寧に本をラボに運んでいく。


「ごめんね?続きを読むね」


ヒロシは中断を謝り手紙の続きを読み始めた。


『そしてもう一つ、小さな箱があると思うんだけど、その箱の中身はエディ様の魂が封じられた短剣だよ。

色々調べたらその短剣には人の魂を封じる魔術が刻まれていてね?

多分魔王が直々に刻んだと思われる非常にレアな魔具だよ。

僕はもちろん誰にもそんな高度な魔術は刻めないから、

多分魔王の魔呪なんじゃないかと私は睨んでいる。

短剣のままお返ししようかと思ったけど、私の魔術師として最後の魔術を短剣に施したんだ。

今、箱の中身は短剣じゃなくなっている。

物体の姿を自由に変化させる魔術を短剣へ新たに刻んでね、

箱を開けた最初の人が想う姿に変化するようにしたんだ。

だからヒロシ様が短剣じゃなくて刀が良いと思えば何でも切れる刀になるし、

逆に盾が良いとすれば敵の攻撃を全て切り刻む盾となる。

どう使うかはヒロシ様の自由にしてね?

長くなったけど私からは以上だよ。

本当にヒロシ様には何も出来なくて申し訳ない、

本当なら授業でヒロシ様の成長を手助けしたかったし、

私も南大陸に行って見たかった。

ヒロシ様が魔王を討伐する姿を見れなかったのが本当に心残りだよ。

まぁ現実はままならない物だから仕方ないんだけどね。


それじゃ、後はヒロシ様達に任せて僕は天から見守るよ。

大丈夫、ヒロシ様ならきっと世界を救える。

これからも様々な苦難があると思うけど負けずに頑張ってね。

良い弟子で居てくれてありがとうヒロシ様

          不肖の師バニラより』


ヒロシが読み終わりコルリルはまた涙が出そうになった。

しかし、バニラが見守ってくれてるならここで泣いてるわけにはいかなかった。

必死に涙を堪えコルリルはヒロシに、話しかける


「バニラ様の手紙、良い内容でしたね」


「うん、僕にはもったいないくらい良い手紙だったよ。

・・・あ、コルリル追伸があるよ?」


「え?」


『追伸

コルリルが手紙を読まなさそうなら読ませてね?

恨み言なんて書いてないから安心して読むように!』


「だって♪コルリル見破られてるよ??

さすがはバニラ様だね♪」


バニラのこちらを見透かしたような言葉にコルリルは苦笑した。


(本当に、何でもお見通してるんだからなぁ)


そう言われたらコルリルとしては手紙を読まざるえなかった。

コルリルは少し緊張しながら手紙を読み上げる。


『コルリルへ

多分最初にヒロシ様の手紙を読んだだろうから処刑については省くね??

あちらの手紙にも書いた通り、私は誰も恨んでないよ?

もちろんコルリルの事も恨んでない。

むしろコルリルには感謝している。

君は私のような半端な師に一生懸命ついてきてくれた。

私は君に慕われる度に嬉しさと歯痒さを感じたものだよ。

死の間際だから言うけれども、コルリル。

君は自分で思うより素晴らしい才能の魔術師だよ??

君は自分の才能に気づいていない。

魔術師としての才能は私より遥かに優れているよ。

君が実力を発揮出来ないのは君自身が自分を信じていないからだ。

君が自分を本当に信じれた時、その時が最強の妖精魔術師誕生の瞬間になるだろう。


・・・まぁそうは言ってもすぐには無理だろうから焦らずコルリルのペースで修行に励みなさい。

コルリルには教えれる事はほとんど教えたからあとはゆっくり成長していけば良いからね。


コルリル今までありがとう。

本当に楽しい師弟関係だったよ。

実はコルリルの事を自分の娘や孫みたいに思ってたよ。

それくらい大事な存在だった。

そばに居てくれるだけで本当に嬉しかったよ、ありがとうね。


あ、どうせ最後だから言っちゃうけど、

パートナー候補としてヒロシ様はかなり有りだよ!

喧嘩出来るほどコルリルが心許した勇者はヒロシ様だけだからね。

だからさっさと言っちゃいなよ!

これは師として最後のアドバイスね!


まぁこれで以上かな。

コルリルにはこれから色々な試練があると思うけど、ヒロシ様と支えあって乗り越えてくれたらと思うよ。

あと私が死んでもそう悲しまずにさっさと忘れて良い人生を送るんだよ!

コルリルには幸せになってほしい、それが私が師として願う最後の想いだからね。

それじゃコルリル頑張ってね!

今までありがとう!

         お節介な師バニラより』


コルリルは読み終わりもう泣かないと決めたのに涙が止まらなかった。


(バニラ様のバカ、本当にバカ、私だってバニラ様の事お父さんみたいに思ってたよ)


コルリルは涙を流しながら何度も何度も手紙を読み返していた。

ヒロシはその姿をただ黙って見守ってくれていた。


しばらくしてゴブリン達が本を運び終わり再び図書館には静寂が戻った。


「コルリル?もう大丈夫かな??」


ヒロシに声をかけられコルリルは手紙から顔をあげた。


「はい、大丈夫です。すみません」


コルリルのスッキリしたような顔を見てヒロシは笑顔で尋ねた。


「大丈夫なら良かった♪

じゃあコルリル?これからどうする?」


ヒロシの言葉にはコルリルがヒロシ達に付いていくか行かないかの意味があることをコルリルは悟っていた。


「・・・昨日はあんな事言ったくせにと思うかもしれませんが、

ヒロシ様達と一緒に行っても良いでしょうか??」


「それはバニラ様が亡くなったからかな?」


コルリルが180°意見を変えたのでヒロシが問いかける。

コルリルには返事が用意出来ていた。


「違います。多分バニラ様が生きていてもきっとヒロシ様達と行くように指示されたと思うからです。

手紙でバニラ様は私に私自身を信じるようおっしゃいました。

だから私は今の自分でもヒロシ様達と旅に行く資格がある。そう信じる事にしたんです。

・・・今更ダメでしょうか??」


最後は恐る恐る尋ねるコルリルをヒロシは笑いながら頭を撫でてくれた。


「ハハハ♪良いに決まってるよ♪

てか最初から誰もコルリルに資格がないなんて思ってないから♪

ラボでこっそり見たんだけどフォシュラ泣きながら一人でめっちゃ怒ってたよ。


『お荷物とか勝手に決めてんじゃないわよ!』


ってね♪」


「・・・それは戻るのが怖いですね」


コルリルは苦笑しながらヒロシを見た。

最初は全く好きになれなかったヒロシだが、今は心から信頼出来る仲間だとコルリルは感じていた。


(この勇者の・・・

ううん、()()()()おかげで私は自分を好きになれるかもしれない。

自分を認めてくれて、仲間だって言ってくれるこの人を信じてみよう)


コルリルは自分の中に生まれた新たな感情を胸にヒロシと共に行く事を決めた。

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