第一部 四十六話 【再び謁見】
翌日、コルリルは早々と起き、準備をしてヒロシを待っていた。
(ヒロシ様早く来ないかなぁ)
コルリルはソワソワとヒロシをラボの入り口で待っていた。
昨夜の宴でコルリルが話を終えたらフォシュラは何も言わず黙って行ってしまい、ディロンもフォシュラについていった。
ヒロシは、
『コルリルが決めたならそれで良いんじゃない♪』
と言っていつも通り接してくれたが、
今フォシュラ達と顔を合わせるのは気まずいので、コルリルは早くラボから出たかった。
(フォシュラ達にちゃんとお別れ言いたいけど、まだ追放されるかわからないしね。
でも追放が決まったらちゃんとお別れ言いに来よう)
コルリルはそんな事を漠然と考えながらヒロシを待っていた。
しばらくしてからヒロシが現れた。
「コルリルおはよう♪ずいぶん早いじゃない?」
「おはようございますヒロシ様、なんだかご機嫌ですね」
「うん♪今日からバニラ様と楽しい授業だからね!学べるのはいつも嬉しい限りだよ♪」
ヒロシはあっけらかんとしていつも通りの様子だった。
まるで自分が追放されるとは思っていない様子だった。
「ヒロシ様?もしかしたら今日追放されるかもしれないんですよ??」
「大丈夫大丈夫♪昨日も思ったけどコルリル心配し過ぎだから♪
きっとお許しが出るさ♪♪」
ヒロシのラフな態度にコルリルは少し変な感じがしたが、いつも通りのヒロシか、と無理に納得した。
「さぁラボを開くよ♪いきなり謁見に向かうからね!覚悟は良いかな??」
ヒロシの言葉にコルリルは身を引き締め覚悟を決めた。
「はい!いつでもどうぞ!!」
ヒロシはラボを開きコルリルは一緒にラボから出た。
ラボから出ると王宮の外だった。
二人はゆっくりと王宮の中に入っていく。
王宮はシーンと静まり返っていた。
「なんか誰もいないね?」
ヒロシはキョロキョロと見渡すが見張りの兵士も見当たらず王宮はまるで無人だった。
「ちょっと待って下さいね・・・
ロードストーンを使います」
コルリルは無詠唱で探知魔術を使って周囲を探索する。
「妙ですね、兵士さん達はほとんど出払っているみたいです。
街の外周や王都に続く検問所かな?そこに配備されてるみたいですね。
普通は王宮にもっと配備されてるはずなんですが、
街の方々は普通に暮らしているような感じです、
バラマール様や臣下の方々は、謁見の間にいるみたいですよ」
コルリルはわずかな時間で周囲を探知しヒロシに状況を伝えた。
ヒロシは目を丸くしてコルリルを見つめる。
「な、なんですか??」
コルリルはヒロシに見つめられ少し戸惑った。
「コルリル?無詠唱のロードストーンで全部感知したの??」
「ん?はい、そうですけど?」
「王都の外なんて何十キロ離れてるんじゃない??」
「まぁそうですね。検問所ですから王都からは少し離れてますね」
「街の人の動きも全部わかるの?何万人といるのに?」
「はぁ、まぁそういう魔術ですから」
「しかもバラマール個人の特定も出来たんだ?」
「そりゃ出来ますよ、さっきからなんですか??」
ヒロシの質問攻めにコルリルはなんのつもりか尋ねた。
ヒロシは愉快そうな感じだった。
「ハハハ♪ううんなんでもないよ♪
やっぱりコルリルは面白いね♪♪」
ヒロシはそう言って謁見の間に向かって行った。
コルリルはヒロシの変な態度に首を傾げながら後に続いた。
謁見の間に到着した二人は扉の前で最後の打ち合わせをする。
「良いですかヒロシ様、これから謁見ですがエディ様の件は仕方なく殺したって言うんですよ??
あのままじゃ毒で苦しんで死ぬ事になったから、自分は楽にしてあげたかったんだ!とか言って追放されないようにしましょう?」
正直かなり苦しい言い訳だったが、コルリルにはそれくらいしか思いつかなかった。
「あと!魔族が襲来するのをわかってた件は絶対言わないで下さい!
バラマール様も絶対怒りますから!」
「はいはい♪けどちゃんと話したらコルリルみたいに許してくれるんじゃないかな?」
「私もまだ許してませんけどね!!」
二人はボソボソと打ち合わせをして、ようやく謁見の間に入って行った。
部屋にはバラマールがいつもの玉座に腰掛け黙ってこちらを見ていた。
周囲の臣下達は心なしか怯えた様子だった。
「来たか」
バラマールが静かに呟いた。
ヒロシ達はバラマールの前に跪き頭を垂れた。
「遅くなり申しわけありません陛下、
召喚士のコルリルと勇者ヒロシ、遅ればせながら参上致しました」
コルリルが丁寧に謝罪する。
バラマールはなにも言わなかった。
「さっそくですが、先日の魔族襲来時における戦闘で、勇者エディ様を死なせてしまった釈明をしたく思いますがよろしいでしょうか??」
コルリルが話し出してもバラマールは何も言わなかった、
ただ黙ってヒロシを見ていた。
コルリルはとりあえず事前に考えてきた釈明をつらつらと話した。
その間もバラマールは何も言わなかった。
「・・・以上が私達の釈明です。
魔族プレイは捕縛出来たとはいえ勇者エディ様を失ってしまった事は本当に申しわけなく思っております。
大変申しわけありませんでした」
コルリルの言葉が終わり謁見の間には静寂だけが残った。
長い長い沈黙の後バラマールがゆっくりと話し出した。
「エディは死んだ、わしはエディこそ真の英雄じゃと思っておった。
忠義に厚く、力もあり、欲望もある。
そんな者こそ勇者にはふさわしいと思っておった。
しかし、エディは死んだ。
貴様らに殺された
その償いはしてもらうぞ」
バラマールはヒロシを憎々しげに睨見つけ憤怒の形相になった。
コルリルは慌てて釈明した。
「陛下!私達もエディ様を殺すつもりはなくて・・・」
「黙れ羽虫が、まずは貴様の処遇じゃが、
地下牢に幽閉する。
そこで新たな勇者を召喚し続けろ、
もはや勇者が何人なんぞどうでも良いわ。
百でも二百でも召喚し魔族共を討ち滅ぼすのじゃ、
貴様は死ぬまで地下牢でこのサイマール国の為に勇者を召喚し続けるのじゃ!良いな!?」
バラマールの言葉にコルリルは驚いて声も出なかった。
「続いて貴様じゃこの悪党が!
貴様はエディを殺した張本人じゃ、本来なら八つ裂きにしてやる所じゃが、貴様には働いてもらう。
貴様はこれから隣国のランスロに向かい滅ぼして来い、
あの国は以前から気に食わんかった、エディと共に討ち滅ぼす予定じゃったのだから貴様が代わりにやれ!
その後も各国に戦を仕掛け皆殺しにしてくれるわ!貴様はその為に生かしておいてやる!」
バラマールは完全におかしくなっていた。
コルリルは謁見が予想より遥かに悪い事態になりパニックになりかけていた。
(ど、どうしよう!このままじゃヒロシ様が戦に使われちゃう、私も地下牢に幽閉なんて嫌だ!)
「バ、バニラ様は!?バニラ様にも意見をちょうだいしたいです!」
コルリルはバニラに助けを求める事にし、バニラを呼んだ。
いつもならバラマールの後ろに居るはずだが、バニラの姿はどこにもなかった。
「クックック、バニラか、おい!
バニラを持って来い」
バラマールの指示で臣下達は慌てて裏に消えた。
そして再び現れ、その手には盆があり、
バニラの首が乗っていた
「え?」
コルリルは現実をすぐには理解できなかった。
(何故バニラ様が?え?本物?
一体どういうこと??え?)
言葉を失っているコルリルにバラマールがニヤニヤしながら話しだす。
「こやつは王宮魔術師でありながら、エディを守らんかった。
わしが何度もエディを守れと忠告したにもかかわらずじゃ!
だから処刑してやった!カカカ!」
バラマールの言い分でコルリルはこれは現実であると認識し絶叫した。
「バニラ様ぁぁぁ!!
イヤァァ!!何で!!何でバニラ様が処刑されるの!?!?
嘘だぁぁぁぁ!バニラ様ぁ、バニラ様ぁ・・・」
コルリルは床に突っ伏して号泣する。
その様子をバラマールは愉快そうに眺めていた。
「バラマール様!これではあんまりです!!
バニラ様は必死に皆様をお守りしてたじゃないですか!?
解毒して、バリアを張って、皆様を守られたのに!!」
コルリルが憤りバラマールに訴える。
バラマールはさらに怒りだし怒鳴った。
「たわけが!わしを守るのは当然じゃろうが!?わしとエディを守るのがこやつの使命だったにもかかわらずエディを守れなかった無能な魔術師は処刑されて当たり前じゃ!」
「それはバラマール様がそもそも早く避難していれば、バニラ様なら絶対エディ様を助けれたんです!
バラマール様が避難しなかったからバニラ様は防戦一方になったんです!」
コルリルはこれは事実だと確信していた。
バラマールはあの場において明らかに足手まといだった。
最初にエディが戦い出してすぐ避難していれば、バニラはエディをカバーし、共にプレイと戦っていたとコルリルにはわかった。
そうしたらエディは負けたとしてもすぐにバニラが治療して死ぬ事はなかったはずだ。
しかし、あの時は足手まといのバラマールが居たせいでバニラは明らかにやりにくそうだった。
「バニラ様は必死でした!私の力不足でよりお手を煩わせてしまいましたが、
それでもバニラ様は皆様を守りきったじゃないですか!?
それなのに処刑なんてあんまりです!酷すぎます!!」
コルリルは号泣しながらバラマールを責める、
しかし、いくら責めてもバニラは生き返らない。
コルリルは怒りと虚しさが渦巻き涙が止まらなかった。
「もうよいわ!さっさと地下牢に繋いでおけ!!本来なら貴様も処刑するところだが、勇者を召喚する役目があるからのぉ!
死にたくなければ召喚に勤しむのじゃな!」
バラマールの言葉で僅かに残っていた兵士が現れコルリルを拘束しようとする。
コルリルは絶望し、無抵抗で拘束されようとしたが、
黙って聞いていたヒロシが立ち上がり笑い出した。
「ハハハ!ハハハハハハ!フハハハ♪
いや〜無能な王ってここまで必要ない存在なんだねぇ。
あまりに無能過ぎて笑いが出ちゃったよ♪」
ヒロシは笑いながらバラマールを見る。
バラマールは怒りで顔を真っ赤にして叫び出した。
「貴様!誰が無能じゃと!?わしのどこが無能なんじゃ!貴様にわしの何がわかる!?」
「自分の無能っぷりがわからない時点で大分やばいよね♪
あ、でもごめんね?バカにはわかんないよね♪
バカだから無能なんだし、なんにもわかんないよね♪ごめんね?難しい事言って?」
「貴様ぁぁ!衛兵!こやつを引っ捕らえよ!」
バラマールの言葉で兵士はヒロシを捕まえようとするが、ヒロシはその兵士を例の【合気】で難なく投げ飛ばした。
「やっぱりバカなんだね?それだけの兵士で、あの三魔将プレイに勝った僕に勝てると思ってんの??
仮に君の采配で兵士を動かしてプレイに勝てる?
絶対無理だよねぇ〜だって君バカで無能だから♪」
煽りちらすヒロシにバラマールは立ち上がり怒鳴り散らした。
「貴様!わしはこのサイマールの王じゃぞ!そのわしに向かってなんたる言い草!
貴様はさっさとランスロへ行かんか!!」
「は?行くわけないよね?それもわかんないくらいバカなの??
ちょっと考えたらわかるでしょ?
あんまりバカと話してたらこっちが疲れるからさ、頼むからちょっとは頭使ってくれる??」
ヒロシは呆れたように言って首を振った。
コルリルはヒロシの言動から目を離せなかった。
「僕はもう行くよ?バニラ様が居ないんじゃこんなしょっぼい国に用はないし。
君はバカなりに頑張ってこのしょっぼい国にしがみついてたら??
まぁ君の百倍優秀だったバニラ様が居ないんじゃ早々に滅ぶだろうけどね。
まぁどうでも良いけど」
そう言ってヒロシはラボを開き立ち去ろうとする。
バラマールはヒロシを怒鳴りつけ制止した。
「待たんか!!貴様はわしの勇者じゃろうが!?わしの言う事を聞かんか!!」
ヒロシは振り返り、心底うざそうな様子でバラマールを見た。
「君の勇者になった覚えはないけど?
バカの勘違い押し付けないでくれる?
僕は誰のものでもない、自由な勇者だよ。
まぁ強いて言うならこのコルリルの勇者かな♪
さぁコルリル行くよ?」
ヒロシはそう言ってコルリルを掴みラボに入ろうとする。
「え?ヒロシ様?わ、私もですか?けどバラマール様が・・・」
「あんたバカは無視しとこう。バカが伝染る。
とりあえず落ち着いて話せる場所に行くよ」
ヒロシはそのままラボ移動し、二人がよく居た図書館に移動した。
「ふぅ、ここなら大丈夫だろう♪
コルリル大丈夫かな??」
ヒロシに問われてコルリルは自分の心と向き合い、また涙が出てきた。
「ヒロシ様ぁ、バニラ様が、バニラ様が」
縋りつき泣くコルリルをヒロシは優しく撫でてくれた。
「そうだね、辛いよね。
・・・てか僕のせいだよね、
僕がエディを殺した、そしてその張本人の僕がラボに消えたせいでバニラ様がバカの怒りを全部受けてしまったんだよ・・・
コルリル本当にごめんね」
「・・ヒロシ様のせいじゃありません、あの時、わ、私がもっとちゃんとバ、バニラ様をフォローしてれば・・・
そしたらエディ様も死なず、バ、バニラ様も処刑されなかったかもしれないのに・・・
私が、全部悪いんです」
泣きじゃくり自分を責めるコルリルをヒロシは優しく止めてくれた。
「コルリルのせいじゃない。あの時は皆必死に戦ったよ。
誰も悪くない、悪いのはあのバカだけだ♪
だからコルリルも自分を責めないで?
コルリルがいなかったらあの戦いはきっと負けてたんだから」
それからしばらくは、泣きじゃくるコルリルをヒロシが慰めてくれるとても優しい時間が過ぎた。
コルリルがようやく泣き止んだのは図書館に来て一時間以上経ってからだった。
「すみません、ずっと泣いちゃって。お見苦しい所を見せてしまいました」
「ハハハ♪コルリルはよく泣くからなんか今更だね♪けど可愛かったよ♪♪」
「・・・もう、からかわないで下さいよ・・・」
コルリルは顔を真っ赤にしながらヒロシから離れた。
ヒロシは笑いながらコルリルを見ていたが、図書館の机にいつの間にか箱が現れていた。
ヒロシは箱を見てキョトンとしていた。
「ねぇコルリル?あんな箱なかったよね??」
「・・・はい、ありませんでした。なんでしょうか??」
二人が恐る恐る近寄ると箱にメモが張り付けてあった。
『この箱は図書館に一時間以上居ると現れるように魔術で仕掛けた物です。
もし見つけたのが勇者ヒロシ様以外の者ならヒロシ様にお届け下さい。
ヒロシ様ならどうぞ中をご覧ください
バニラ』
ヒロシがメモを読み上げる。
コルリルはバニラからの贈り物に非常に興奮した。
「ヒロシ様!バニラ様からですよ!
こんな凄い高度な魔術も使えたなんて、バニラ様はやっぱり凄い!!」
「・・・うん、確かに時間差で発動する魔術なんて文献にも僅かしかなかったよ。
流石バニラ様だ」
ヒロシとコルリルはバニラの魔術に驚きながらもゆっくりと箱を開け中を確認した。
中には小さな箱と手紙が二通入っており、
手紙はヒロシとコルリルそれぞれに宛てたものだった。
「コルリルどうする?手紙読んじゃう??」
ヒロシが訊ねてくるが、コルリルには読む勇気がなかった。
「・・・私のはあとにします。もしバニラ様が私のせいで処刑される!なんて書いてたら多分一生立ち直れないですもん」
「コルリル悲観的過ぎだろ・・・
まぁそれじゃあ僕の手紙は読んじゃうね♪」
ヒロシは手紙広げゆっくりと読み出した。




