第一部 四十三話 【ヒロシ&ディロン対プレイ】
コルリルはヒロシとプレイの対決を見守るしか出来なかった。
バニラも迂闊には手を出せない、バラマールはこの場にいる以上守りの手は減らせないからだ。
つまりヒロシとディロンの二人だけでプレイと戦わなければならなかった。
しかしヒロシは自分一人で戦うようだった。
「貴様が私と戦うのか?そちらの戦士に任せた方がいいんじゃないか?」
プレイはヒロシを馬鹿にしたように見下す。
ヒロシは全く気にしておらず、笑顔で答えた。
「大丈夫だよ♪君くらいなら僕一人で余裕だね♪」
「ふん、騙し討ち、不意打ち、姑息な手段を多用する奴がよく言う」
「え〜まだ騙された事を根に持ってるの?
魔族って心が狭いね!」
「黙れ!貴様には必ず死んでもらう!」
「はいはい♪だから一騎打ちで勝負しよう♪
ディロン?手を出さないでね??」
「お前本当に一人でやるつもりか??」
「もちろん♪だから一旦遠くに離れててよ♪」
ヒロシはあくまで一騎打ちをするようで、ラボを開きディロンを移動させるようだった。
その様子をプレイはまじまじと観察している、
ヒロシのスキルを解析しようとしているのだ。
コルリルはすぐヒロシに警戒するよう伝えようとしたが、
ディロンがラボに消えた瞬間、
すぐにプレイの後ろに現れ、再び高威力の奇襲攻撃を無防備のプレイに叩き込んだ!
ドカン!
再び吹き飛ばされるプレイ、
仕掛けたディロンは複雑そうな表情だ。
「ナイス〜ディロン♪ちゃんと僕の意図を汲み取ってくれてありがとう♪」
「・・・なんて卑怯な策をさせるんだ。
一騎打ちの初手から仲間に奇襲させるやつがどこにいる」
「こ♡こ♡」
ヒロシはふざけた態度をしているが確実にプレイを追い詰めていた。
けどヒロシは頼もしいのか情けないのか、コルリルの中にはよくわからない感情が溢れていた。
(ま、まぁ勝てれば良いか!)
ヒロシ達はすでに次の策の段取りをしていた。
ディロンがすぐプレイに向かっていき、ヒロシはラボを開きなにやらゴソゴソと準備をしていた。
「殺す!!」
プレイが怒り狂い再び瓦礫から現れヒロシに向かっていく。
しかしディロンが間に入り真っ向からプレイと向き合った。
「どけ!貴様には用はない!あの卑怯者を始末する!!」
「・・・気持ちはわかるが引けんな。
俺もお前に用がある。
妹を殺しかけたのは貴様だな!」
ディロンも怒りを全身から発散させプレイに迫る。
二人は大斧と毒の剣で激しい斬り結びを始めた。
「大したパワーだ!しかし力だけでは私には勝てないな!」
斬り結びはディロンがパワーで圧倒していた。
一撃事にプレイの剣が削られていく。
しかしプレイは再び毒霧を出しディロンをすっぽり覆った。
「ディロンさん!!」
コルリルは思わず叫ぶが、ディロンは霧に覆われてしまった。
「フフフ、鈍重な大斧じゃ霧は消せないな?
案外あっさり勝負がついたねぇ」
プレイが勝利の余韻に浸っていると、突然霧が吹き飛び中からディロンが現れた。
ファイヤーアックスと、蒼炎の鎧を発動させている。
「魔具か!
しかしそれで霧を吹き飛ばしても、
少なからず毒は吸ったはずだな!」
「問題ない!!」
ディロンはプレイに斬りかかった。
プレイは毒の剣で防ごうとしたが、ファイヤーアックスの爆炎で毒の剣は一瞬で蒸発してしまった。
「ちぃ!ならばこれはどうだ??」
プレイは毒液を大量に出現させディロンに浴びせる。
大半は蒼炎の鎧で蒸発してしまうが、多少はディロンの身体にかかってしまう。
しかしディロンは構わずプレイへの攻撃を続行した。
「ディロンさん!動き過ぎないで!毒が回っちゃう!!」
コルリルはディロンを心配するが、ディロンには毒は効かないのか全く毒が回る気配はなかった。
「ディロンなら大丈夫だよコルリル♪」
「ど、どうしてですか??」
ラボに手を入れ、なにかの準備しながらヒロシが話しかけてくる。
コルリルは思わず尋ねた。
「ディロン?といった彼はおそらく治癒魔術を使いながら戦っているからだね?」
答えはバニラが答えてくれた。
コルリルはそれを聞いて納得したが同時に驚いた。
(治癒魔術を使いながら戦うって凄すぎじゃん!
私でもそんなの難しいよ!)
治癒魔術を使いながら身体を動かして戦う、簡単な様で難しい高等技術だった。
しかしコルリルは思い出したが、ディロンはずっと魔術で戦うようヒロシに指示されていた。
戦士としてかなりのレベルにいるディロンが魔術で戦うには自分の動きに合わせた魔術運用が必須だった。
(な、なるほど、よく考えたらディロンさんの動きっていつも素早く鋭い動きなんだよね。
そんな動きをしながら魔術で普段から戦ってたんだから治療しながら戦う事も出来るのか)
「さぁ♪僕もそろそろ参戦しようかな♪」
ヒロシの準備が整ったようで、ラボを発動し、ヒロシはディロンの下へ移動した。
「やぁ♪ディロン、準備ばっちりだよ♪
さっさと決めちゃお♪」
ヒロシが現れてより劣勢になったプレイはいよいよ本気になった。
「よかろう!貴様ら全員皆殺しだ!
ポイズンギガント!!」
プレイの全身から毒液が滲み出し、身体を覆っていく。
毒液は形をゆっくりと整え、三メートル程の大きさに変化した、その姿はまるで巨大な戦士だった。
「我がポイズンギガントで貴様ら皆殺しに・・・」
プレイの話を遮りディロンがラボで背後から再び奇襲をかける。
ファイヤーアックスがポイズンギガントの背中に直撃したが、爆炎は全て吸収されてしまった。
「な、なんなのあの姿は!?」
コルリルの叫びに答えるようにプレイが話しだす。
「ハハハ!無駄だ!我がポイズンギガントは全ての魔術や魔力を吸収する!
さらにその毒は劇毒製だ!いかに治癒魔術でも治療は行えんぞ!」
ディロンはすぐに離れて様子を見る。
しかしヒロシは笑顔でプレイに向かっていく。
「なるほど!魔力を吸収する魔術か!
凄いねぇ、まさかこんな魔術まであるなんて!
ちなみに劇毒の威力は・・・」
ヒロシはラボからゴブリンを掴みポイズンギガントに投げつけた。
ポイズンギガントに触れたゴブリンは一瞬で全身に毒が回り即死した。
「わぁお!凄い威力だ!
けどゴブリンの身体は吸収出来ないんだね
なら問題ないな♪」
ヒロシは何かを思いついたようで余裕たっぷりな様子だ。
見てる事しか出来ないコルリルは非常に不安だった。
(あんなのどうするの?魔術はダメ、力でも無理、無敵じゃない!)
コルリルが絶望しかかっていると、ヒロシが仕掛けた。
「さぁいけ!ゴブリン達!」
ヒロシはいつも通りゴブリンを出現させ一斉にプレイへ攻撃させた。
ゴブリン達は攻撃をしかけるも、ポイズンギガントに密着した途端感染し、みるみる内に毒で死んでいく。
「バカめ、無駄だと言ってい・・・」
バァァァン!
突然ゴブリンの一匹が爆発し、ポイズンギガントの一部を吹き飛ばした。
「な、なんだ!何が起こった!?」
プレイは何が起こったか分かっていないようだった。
もちろんコルリルにも分からなかった。
「ゴブリンが爆発した!?何で!??」
プレイやコルリルが驚いている間にもゴブリン達は次々とポイズンギガントに密着し自爆していく。
巨大なポイズンギガントのあちこちに大穴が開きはじめていた。
「ゴブリン共が!離れろ!!」
プレイは必死にゴブリンから距離を取るが、ヒロシがラボで援護し、ゴブリン達は常に距離を詰めていた。
バァァァン!
次々と自爆し、ポイズンギガントを削るゴブリン達、その合間でディロンも攻撃の隙をうかがっていた。
「ディロン!足元よろしく!」
「了解した!」
ヒロシの合図で数体のゴブリンがポイズンギガントの足に組付き自爆する。
足元の毒が飛び散りポイズンギガントの巨大な身体が傾く。
その瞬間ディロンが使い捨ての武器を投げて追撃を加えた。
ドシン!
なすすべなくポイズンギガントは倒れた。
ヒロシはすかさず倒れたポイズンギガントの上にラボを展開し、中から巨大な岩を落下させた。
ゴガンン!
轟音をたてながら落下した巨岩はポイズンギガントを完璧に押しつぶした。
「か、勝った?!やったんですか?!」
コルリルは思わず喜びの歓声をあげそうになるが、ヒロシから鋭い声が上がる。
「コルリル!それは言っちゃダメ!フラグだから!」
「はい?」
コルリルにはなんの事かわからなかったが、巨岩を砕きプレイが姿を現したのでそれどころではなかった。
「に、人間共が、ふざけたマネを!
私が岩如きに潰されると思ったか!?」
プレイはヒロシを睨見つけ攻撃態勢にはいる。
ヒロシはニヤニヤしながら応えた。
「いやいや♪かなり効いてるじゃない♪
ダメージは深く、魔力も結構やばいんじゃない??
多分魔呪はもう使えないでしょ?
さっきのデカブツも無理、
もう手頃な魔獣も居ない。
もう割と詰みじゃない?今なら優しく僕が保護してあげるよ?ババァの魔族さん♪♪」
ヒロシの挑発にプレイはブチ切れ一気に襲いかかった。
しかし、ヒロシはすぐラボで回避した。
プレイの隙をすかさずディロンがカウンターで打つ。ファイヤーアックスに持ち替えた全力の一撃だ。
「ガハッ!」
吹き飛ばされるプレイにヒロシはゴブリン爆弾を再度向かわせた。
ゴブリン達はプレイに接触しようと四方八方から襲いかかる。
プレイは毒の剣で応戦するが、斬るたびに激しい爆発を受けみるみるうちに消耗していった。
「な、なんなのだ!このゴブリン共はぁ!!」
プレイは絶叫しゴブリンから逃げ惑う。
そこには先程までの三魔将の威光はまるでなかった。
「ふふふ♪知りたい?知りたい?
そんなに知りたいなら教えてあげよう!
ゴブリン爆発の秘密はこれだよ♪」
ヒロシは何かを指で摘んでいた。
コルリルにはよく見えなかったが生き物のようだった。
ヒロシはゴブリン達を一旦下がらせプレイにもゆっくり見れるようにする。
「おい!」
ディロンが思わず止めるがヒロシは無視した。
「この虫わかるかな?これはボンワーム、
火の魔力を体内に宿した虫でね、主に料理に使われる益虫だ♪」
「あ!あの虫は!」
コルリルはボンワームの説明をヒロシにしたことを思い出した。
ヒロシの解説は続く。
「もちろんこのままボンワームをぶつけても爆発なんて起こらない、
ではどうするのか、それは僕の居た世界の知識が役に立ったんだ!
僕の世界には蠱毒っていう儀式があってね?
小さな器に毒蟲を大量に入れて殺し合わせる、そうして出来た最後の一匹には凄まじい毒が宿るって儀式、
でも正直これはただの迷信でそんな強い毒蟲は出来ないんだよ、僕も何回か試したからね♪
けどこの世界には魔力がある、ならもしかして可能なのかな?と思って試したら大当たりだったよ♪
いくつかのボンワームを殺し合わせたら強い火の魔力を宿したボンワームになったんだ!
そこからはひたすら検証したなぁ、
何匹が一番良いのか、器は何が良いのか、ひたすら試してわかったのが、
死の恐怖がより魔力を増大させるって事さ♪」
ヒロシは滔々と語る、プレイは黙って聞いているが、コルリルはプレイが治癒魔術で回復している事に気付いた。
「ヒロシ様!プレイは今の隙に回復してますよ!?」
コルリルの声もヒロシは無視する。
「それでね!死の恐怖がより魔力を増大させるなら、丸呑みにされた捕食者の胃袋なんて一番良い器になるんじゃないかって思ったんだ♪
だからゴブリン達の腹を手術して、胃袋の出口を塞ぎ、ボンワームを大量に詰めて閉じてみたんだ♪
そうしたらすぐに体内のボンワームは殺し合いを始めて数時間後には一匹の強い魔力のボンワームが出来たんだよ♪
しかも!ゴブリン達の悪食な胃袋はその強いボンワームも消化しようとする、するとどうだろう!強いボンワームとゴブリンの胃袋が融合しだしたじゃないか!
おそらくボンワーム自体は消化の対象だけど、宿した強い魔力はゴブリンの身体には合わないんだよ。
だからお互いに影響し融合という形になったんだと思うんだ♪
もう分かるよね?強い魔力のボンワームは宿主のゴブリンと同じ生き物に変化した、
そんなゴブリンが死んだらどうなるか、
体内のボンワームも同時に死亡し、溜め込んだ魔力が爆発して爆弾ゴブリンの完成ってわけ♪
君のポイズンギガントは魔力を吸い取ることは出来るけど、爆発によって飛散するゴブリンの肉や骨までは吸収出来ないもんね♪
以上が爆発ゴブリンの解説だよ♪
コルリルも聞こえたかな??」
「聞こえましたけど無視しないで!!」
コルリルはヒロシの説明を聞き納得はしたが、いかにゴブリンとはいえ爆弾に改造するのは可哀想じゃないかとか、
プレイは今の隙に大分回復しちゃってるとか、
色々言いたかった。
「おい、あいつに回復させてしまったぞ?
どうするんだ?」
ディロンもヒロシに注意してくれるが、ヒロシは全く気にしていなかった。
「大丈夫大丈夫♪もう勝ち筋は出来たから♪
あとは合図に合わせてディロンは切り込んでくれたら大丈夫だよ♪」
そう言う間にプレイの治療は完了し、体力満点でヒロシ達に向きなおった。
「バカな人間共が、おかげで回復出来たぞ、ゴブリン共の仕掛けもわかった、次は殺すぞ」
「ハハハ♪魔族がバカで助かるね♪
体力は回復したけど残り少ない魔力をさらに減らしたんでしょ??
もう強力な魔術は使えない、
転移魔術等で逃げるのも出来ない、
コルリルの結界もまだしばらく持つ、
君を捕獲する条件は揃ったね♪
ありがとうバカでマヌケな魔族さん♪」
ヒロシはさらにプレイを挑発する、
プレイは再びヒロシに襲いかかった。
「死ね!!」
ヒロシはプレイの攻撃をまたラボで回避する、
すかさずディロンがカウンターを入れようとするが、
「読めているわ!!」
プレイはディロンの大斧を飛び越え首筋に鋭い蹴りを叩き込んだ。
「くっ!」
ディロンは吹き飛ばされ体制を崩す、
プレイはディロンの懐に入り凄まじい連撃を繰り出した。
「反撃する暇もあるまい!このままボロ布にしてくれる!!」
ディロンはプレイの猛攻に反撃の隙が無く防戦一方だった。
すると周囲にラボが開きゴブリン達がプレイに飛びかかっていく。
「なっ?!まさか?!」
プレイは驚き反応が遅れた、瞬間ゴブリン達は自分で腹に短剣を突き刺し自害する。
凄まじい爆炎がディロンとプレイを吹き飛ばした。
「ガハッ!」
「グワァァ!」
爆発でプレイとディロンは両方ダメージを負った、
ヒロシはニヤニヤしながらプレイの様子を観察していた。
「油断したね♪肉を切らせて骨を断つって感じだよ♪
まぁ肉切ったのは僕じゃなくてディロンだけどね♪
ディロン大丈夫〜??」
「・・・お、お前あとで覚えてろよ」
ディロンは命に別状はなさそうだがかなりのダメージな様子だった。
しかしプレイも同じで深いダメージを負い行動不能寸前だった。
「く、くそ!汚い真似ばかりしよって!」
「ハハハ♪戦いに汚いも何もないでしょ?
さぁどうする?僕はこのまま続けてもいいけど?
爆発ゴブリンはまだまだ街の外に大量に待機させてるからね♪」
ヒロシはラボを複数展開しプレイを威圧した。
プレイは考えを巡らしているようで動かないようだった。
(あの魔族まだ何かしそうな気がする)
コルリルはプレイの動きに対応出来るよう残り少ない魔力で幻蝶を召喚した。
「幻蝶、【治】」
治療出来る幻蝶をディロンに向かって飛ばす。
今のコルリルに出来る精一杯だった。
ディロンは自分でも治療をしていたようで、コルリルの治療と合わさりすぐに体力が回復していった。
「すまないコルリル」
ディロンはコルリルに感謝し、立ち上がってヒロシの下に戻った。
「おい!次にあんな真似したら許さんからな!?」
「あれ?ディロン早い回復だね??
もうちょっとかかると思ってたけど??」
「コルリルが回復してくれた、残り少ない魔力で立派なやつだ、
お前とは大違いだ!」
「あ、そうなんだ♪ありがとうコルリル!助かったよ!!」
「私は大丈夫ですから早くあいつを倒して下さい!」
緊張感のないヒロシにコルリルの方が焦ってくる。
プレイはディロンも回復した事でさらに追い詰められたようだった。
じりじりと動き周囲を見渡している。
するとヒロシのラボを凝視し、ニヤッと笑った。
(あの魔族まさか!?)
そこからは早かった、プレイは素早く動き周囲を走り回る、ヒロシとディロンは散開しプレイを追い詰める、
ディロンの火炎がプレイを焼き、
ヒロシの爆発ゴブリンがさらに追い詰める。
しかし一瞬の隙をついてプレイが一気に駆けた。
「ハハハ!貴様のスキルを利用させてもらうぞ!!」
プレイは意気揚々とヒロシのラボに突っ込みそのまま消えた。
シーン
静寂が闘技場を包んだ。
「ハハハ♪本当魔族ってバカだよね♪」
ヒロシの笑い声だけが闘技場に響いていた。




