第一部 四十一話 【勇者の敗北】
ヒロシが現れコルリルは胸が高鳴るのを感じた。
ヒロシの笑顔を見た瞬間恐怖は消え、安心感と高揚が全身に満ち溢れた。
(あぁ、助かった)
まだプレイ生きているし、周囲は毒だらけ、外には魔獣も大量にいる。
しかしコルリルはヒロシがいればなんとかなる、何故かそんな気持ちになるのだった。
「遅くなってごめんね?ちょっと色々準備があってさ♪
けどもう大丈夫だからね。
コルリルはよく頑張ったよ」
ヒロシに優しい言葉をもらいコルリルは泣きそうだった。
必死に涙を堪えていると空中から声がしてきた。
「なーにが助けに来たよ。私が毒を吹き飛ばさなきゃ闘技場に入ることも出来なかったくせに」
フォシュラが火炎魔術で空からゆっくりと降りてきていた。
先程の爆炎もどうやらフォシュラの魔術らしかった。
「フォシュラもありがとう、助かったわ」
コルリルはお礼を言って頭を下げるがフォシュラはふん!とそっぽを向いた。
「友達を助けるのは当たり前じゃない!
なのに頭なんて下げられたらムカつくわ!」
プリプリ怒るフォシュラを見てコルリルはこんな時だが笑いが出てきた。
「ははは、そうだね、ごめんねフォシュラ。
けど本当にありがとう」
「まぁ〜フォシュラったら恩着せがましいんだからぁ~」
「うるさい!」
ヒロシが茶化し、フォシュラが怒る、いつもの流れが始まってコルリルの気持ちはかなり落ち着いてきた。
その時、
「お前が新たな勇者か」
爆炎で吹き飛ばされたプレイがヒロシ達を睨見つけながら闘技場に戻ってきた。
その目は油断なくヒロシとフォシュラを見ており、毒霧も再発生させつつあった。
「そうだよ♪勇者ヒロシとお付のフォシュラだ♪よろしくね腐れ魔族♪」
ヒロシがさっそく挑発をいれる。
プレイは毒霧をさらに出しながら話しだす。
「ずいぶんと遅い登場だなぁ。
新たな勇者は時も読めんのか?」
「ハァ?僕的にはばっちりなタイミングだったけど??
あ、魔族ってバカだからそれもわっかんないか♪
ごめんね??」
「貴様、私をバカにするだけではなく魔族自体をコケにする気か?」
「だって魔族ってゴブリンみたいなもんでしょ??
見た目も仕草もそっくり!
あ!かなり臭う所も!気付いてた?君かなり臭いよ??」
「・・・」
「あれ〜?何も言い返さないの??
それとも臭いの気にしてた??
大丈夫大丈夫♪僕の仲間には君みたいなくっさいゴブリンなんてたくさんいるからさ♪
もしかしたら君のお母さんやお父さんも混じってたりして!?」
煽りに煽りまくるヒロシを無視して、プレイは毒霧と毒液、その他様々な形態の毒を使用しようとしていた。
「殺す!」
プレイは殺気を振りまきながら攻撃態勢に入っていた。
コルリルは慌ててバリアを再発動させようとしたが、ヒロシに止められた。
「大丈夫だから見てて?
フォシュラ?そろそろいけるね??」
「OKよ!総てを焼き尽くせ!ゴットバード!」
ヒロシがプレイを煽っている間に長時間詠唱を終えたフォシュラが、大火炎の鳥をプレイに向けて放つ。
ゴットバードはプレイの毒を総て焼き尽くしプレイに迫った。
「凄い!フォシュラあんな魔術使えたの!?」
コルリルは驚愕し目を見開いた。
コルリルが見てきたフォシュラの魔術でも間違いなく一番強力な魔術だったからだ。
「確かに凄い。彼女が誰かは知らないけどあれはAAA級魔術だ。
あんな高難度の魔術をあっさりと撃つなんて・・・素晴らしい」
コルリルやバニラは同じ魔術師としてフォシュラの魔術に感心していた。
フォシュラの魔術は威力、詠唱スピード、精度、どれをとっても一級品の魔術だった。
コルリルはフォシュラに憧れの気持ちが湧き上がるのを感じた。
「ちぃ!」
プレイはゴットバードから逃れる為に、背中から羽を出現させ、空を舞い回避した。
フォシュラはすかさず追撃の魔術を放つ。
それを空中でひらひらと躱すプレイ、一進一退の攻防が続いた。
「人間が!調子に乗るなよ!」
プレイが一瞬の隙を突きフォシュラに肉薄する。
「魔術を操る人間は近寄られたらどうにも出来まい!!毒刀!」
毒刀を出しフォシュラに斬りかかるプレイ、
フォシュラは冷静に対処した。
「ファイヤーソード!」
火の剣を出しフォシュラはプレイと斬り結んだ。
対処された事に驚いていたプレイはフォシュラの斬撃をいくつか浴びていた。
「バカな!人間の魔術師が私と斬り結ぶだと!?」
「どっかのバカ勇者にさせられていた事が役に立つなんてね!」
フォシュラはヒロシの指示でずっと近接戦を強いられていた、おかげで今は近接戦も難なくこなせる万能魔術師となっていたのだった。
近接戦で激しく斬り結ぶ二人をみて、コルリルは今なら大丈夫と判断した。
ひとまずバリアを展開するのは止め、当たりに残った毒を風魔術で吹き飛ばした。
「バニラ様!毒払い完了です。
エディ様の治療をお願いします!」
「了解した!」
バニラも一旦バリアを解除し、バラマールの治療をしながらエディの治療に集中する。
「・・・ヤバい、かなりの毒素が体内を侵している。
このままじゃ間違いなく死んでしまう。
皆さん!早くエディ様を王宮へ!複数人で重複治癒魔術を使用し救います!!」
バニラの掛け声で臣下の何人かがエディに向かって駆けていく。
「エディを絶対死なすなよ!エディが死んだら貴様らまとめて死罪じゃ!!」
バラマールは臣下達に罵声を浴びせながら騒ぎたてる。
その時、
ドガガガ!
闘技場の一部が崩され、外から大型の魔獣達がなだれ込んできた。
「魔獣共よ!人間を食い散らせ!
来い!グリフォン!」
プレイの呼びかけで魔獣が大量に現れ、
さらに空中からもグリフォンが三匹襲来し、
コルリル達はあっという間に包囲されてしまった。
「ハハハ!魔獣に喰われてしまうが良い!」
プレイは一旦魔獣に任せるようで空高く飛び上がって眺めていた。
フォシュラは追撃を諦めヒロシ達の下に戻った。
「ヒロシ様!魔獣が多すぎます!一旦ラボに避難しませんか!?」
コルリルは撤退を進言する、
しかし、ヒロシは無視して魔獣達に向かって行った。
(えぇ!?またこのパターン!?久々だけど無視されたらやっぱりムカつく!!)
魔獣に向かって行ったヒロシはラボを展開しゴブリン達を出現させた。
以前ゴブリンの残りは少ないと言っていたが、今は補充されたのか百匹近いゴブリン達が群れをなして魔獣達に襲いかかった。
「象型と熊型は捕獲!中型サイズのは殺していいからね!
ちゃんと連携しないと死ぬからね!!」
ヒロシはゴブリン達に号令を出しながら魔獣達を捕獲して回っていた、地上の戦闘は比較的優勢だった。
しかし空中からグリフォンが迫っていた。
「フォシュラ!あの鳥よろしく!焼き鳥にしてあげて♪」
「言われなくてもやってやるわ!」
フォシュラは再び空を飛び、勢いよく三匹のグリフォンに単身向かっていった。
その姿をみてバニラは慌ててコルリルに詰めよった。
「コルリル!?彼女は大丈夫か??たった一人でグリフォンと戦うなんて無茶では!?」
コルリルも少しは心配だが、同時にフォシュラなら大丈夫という安心感もあった。
その証拠にフォシュラは速攻で一匹目のグリフォンを消し炭にしていた。
「ハハハ!グリフォンってこんなもんかしら!?ファイヤーロード!!」
フォシュラは上級レベルの火炎魔術をグリフォンに次々と浴びせる。
グリフォンは風の鎧で多少は防げているが、フォシュラの勢いに負け徐々に焼かれていた。
「さすがフォシュラ!バニラ様!あれなら多分大丈夫ですよ!」
「確かにあれなら大丈夫そうだね、けど私達はちょっと不味いかもしれないよ」
フォシュラの火炎がグリフォンの風で周囲に撒き散らされ闘技場は火の海とかしていた。
バニラはすぐにバラマール達をバリアで保護し、エディの治療は継続して行っていた。
「バラマール様達は私が守る、コルリルはなんとかエディ様をこちらに連れて来れないか?
そうしたら治療ももう少しやりやすいんだが。
このままではエディ様は毒か炎で死んでしまう」
「わかりました!やってみます!」
コルリルはバニラの指示を受け風魔術を使用した。
自分の力ではエディは運べない、けど風魔術を上手く使えばなんとか運べるはず、
ヒロシが大怪我した際に運べないもどかしさを味わったので、コルリルは風魔術での運搬を練習していたのだった。
風がエディの身体を浮かした、そのままゆっくりゆっくりとこちらに動かしていく、
上手くいきそうになっていたが、エディとコルリルの間に熊魔獣が飛び込んできた。
「ヤバッ!」
熊魔獣は無防備なコルリルを攻撃しようと迫る。
ガンッ!
しかしヒロシが間一髪、熊魔獣をハンマーで吹き飛ばした。
「ふ〜危ない危ない!コルリル大丈夫だった??」
「あ、ありがとうございます、こちらは大丈夫・・・」
コルリルが礼を言う間もなく他の魔獣達も次々と襲いかかってきた。
ヒロシはハンマーで巧みに撃退していく、
コルリルも魔術を使って撃退するが、エディを運ぶどころではなかった。
「バニラ様!すみません!ちょっと今は運べないです!」
コルリルはバニラの方を振り返る、そこにはバニラが熊型魔獣二匹の猛攻をバリアで必死に耐える姿があった。
「バニラ!はようなんとかせい!!
こんな魔獣どもはよう蹴散らさんか!!」
「は、はい、申しわけありません陛下」
バニラはバラマールの治療をまだ完了できていなかった。
バラマールが騒ぎたてているので治療効率が落ちているからだ。
(あのバカ王!あいつがいるからバニラ様何もできないじゃない!!)
コルリルはバラマールにかなり苛立った。
しかし自分も魔獣の対処だけで手一杯だった。
「人間共が!調子に乗りおって!
全員皆殺しにしてくれる!」
プレイが戻ってきていた。
闘技場の上に浮かびこちらを睨見つけている。
フォシュラの斬撃をかなり食らったようで羽の一部が焼け落ち、全身に火傷の跡があった。
しかしその姿からは未だ禍々しいオーラが立ち上っていた。
「汚濁の海」
プレイが呪言を唱えると闘技場の上空に凄まじい大きさの毒液が現れた。
その塊をプレイは眼下に向け叩き降ろした!
「フォシュラ!ブロックして!
ゴブリン10番から50まで来い!」
ヒロシの指示でフォシュラは火炎の壁を築く。
毒塊は火炎に当たり蒸発しながらも徐々に壁を侵食していた。
「くっ!なんて威力なの!?」
フォシュラが必死に耐える一瞬の間にヒロシはゴブリン達を動かし、ゴブリンで壁を築いた。
「もう限界!!」
フォシュラの叫びと共に壁は破られ毒液が闘技場に殺到する。
バニラ達も魔獣達も皆まとめて毒に飲まれた。
コルリルとヒロシはゴブリン壁の中でなんとかしのげた。
少しの間全く何も聞こえなかった。
しかし、
「ヒート・・・フラッシュ」
フォシュラのか弱い声と共に毒が消え去る気配がした。
コルリルがゴブリン壁の外に出ると、そこには惨状が広がっていた。
闘技場はすでに毒によって完全に汚染され、紫の毒液が至る所に残っていた。
バニラ達はバリアでなんとか凌いだようだが、全員毒状態になっており、バニラは必死に全員の治療を行っていた。
フォシュラは地面に倒れていた。
全身に毒と火傷を負っていて虫の息だった。
「フォシュラ!!」
コルリルは慌ててフォシュラへ飛んでいった。
酷い毒状態と何故か火傷状態だがフォシュラは反応してくれた。
「・・・コルリル?だ、大丈夫だった?
怪我してない??」
自分よりコルリルの心配をするフォシュラにコルリルは涙が止まらなかった。
「何言ってんのよ!!フォシュラの方が重症じゃない!?
毒に火傷にボロボロだよ!?」
「あぁ、大丈夫大丈夫・・・毒はともかく、火傷は自分の炎だから・・
毒を消し飛ばす為に自分を焼いたの・・・
大成功ね・・・」
「ちっとも大成功じゃない!」
コルリルはフォシュラを必死に治療する。
まずは毒の治療、次は火傷だ。
しかしプレイがそこに降り立った。
「フフフ、人間が意気がるからそうなるんだよ。
我等魔族が振るう魔呪の前には貴様ら人間の魔術など、取るに足りない児戯だな」
コルリルはプレイが迫っても治療を止めなかった、今止めたらフォシュラが死んでしまう、コルリルは何をされても治療を止める気はなかった。
「いやぁ~♪さすがは魔族の魔呪だね。
文献で見た通り、魔術の数倍以上の威力だ。
けど連射できなかったり色々制約があるんだろう?」
ヒロシがゴブリン壁の中からゆっくりと現れた。
プレイはヒロシに向き直り話しだした。
「無礼な人間め、生きておったか。
それに魔呪について知っておるか」
「うん♪ちゃんと情報は得ているよ♪
魔呪、魔族が使える高威力の魔術。
短時間詠唱で超高威力、魔族の強さの一端だね♪」
「ならばもう貴様らに勝ち目はないとわかるな?
もう一度魔呪を使えば終わりだ」
コルリルはヒロシが話している間、必死に策を考えていた、
しかし何も浮かばなかった、フォシュラの治療もまだまだかかる、
正直絶望的な状況だった。
(けど大丈夫、きっとあの勇者ならなんとかしてくれる)
コルリルはヒロシを信じて治療を急ぐ、
しかしヒロシから出た言葉は予想外の物だった。
「参った。僕の負けだよ。君の勝ちだ」
コルリルはプレイに頭を下げるヒロシを呆然と眺めるしか出来なかった。




