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第一部 三十八話 【決闘前夜】


決闘の前夜、コルリルはヒロシとバニラの三人で食事会をすることになった。


明日の勝利を祈願した食事会なので、バニラの部屋で豪勢な料理を囲んでの宴会となった。

宴会は楽しげに進行し、バニラとヒロシは魔術について議論をしていた。

しかしコルリルは正直あまり楽しくはなかった。

コルリルは、フォシュラ達にも本当は来て欲しかったからだ。

しかしフォシュラ自身にこう言って断られていた。


『あんたの先生もいるんじゃ私達は出れないでしょ?

私はディロン兄ぃと二人でゆっくりしとくから気にしないの!』


フォシュラは最近何かと忙しかったコルリルを気遣って言ってくれているようだった。

コルリルはバニラならフォシュラ達の事を伝えても問題ないんじゃないかと思っていたが、

それもヒロシにこう止められていた。


『バニラ様にはフォシュラ達の事は言わない方が無難だよ?

もしバニラ様がフォシュラ達を捕まえて処刑するってなったらコルリルはどっちの味方をする気なの??』


コルリルはそれはないんじゃないかと思ったが万が一の事もあるので、今はフォシュラ達の事は黙っていた。

だからこの豪勢な料理を自分達だけで味わうのはなんだか罪悪感が出るのだった。


「ん?コルリルどうしたんだい?何だか辛そうだね??」


コルリルの様子に気付いたバニラが話しかけてくる。

コルリルは慌てて言い訳を考えた。


「あ、いえ、あ〜明日!明日の心配がやっぱりありまして。

明日はいよいよ決闘ですし、ヒロシ様なら勝てるとは思いますが、やっぱり心配です」


「なるほど、確かに心配になるよね。

けど君たちは一ヶ月で充分準備出来たんだろう??

私はあまり手伝えなかったけど君たちなら勝てると私は思うよ」


バニラは笑いながら励ましてくれた。

ヒロシは苦笑しながらコルリルを見ている。


「全くコルリルは心配性だなぁ♪

あ、バニラ様知ってますか?コルリルったら僕がちょっといなかっただけで街中探し回ちゃうんですよ♪可愛いですよね〜??」


茶化した様子のヒロシにコルリルはカッとなる。


「ちょっとじゃなくて十日以上です!

街中探し回ったおかげで大変だったんですから!!」


「コルリル?大変だったのは街の方達のせいかな?」


バニラが静かに尋ねるとコルリルはハッとなり黙って頷いた。


「へ?街の人がどしたの??」


きょとんとするヒロシにバニラが話しだす。


「ヒロシ様も王宮へ帰った時に見たでしょう?人々の怒りを。

彼らは勇者を憎んでいる。それも正当な理由でね」


バニラは静かに語りだした。


「元々は私達王宮が悪いんだ。

勇者様、つまりはヒロシ様を召喚するために国民に多額の税を課した、

それにより地方の村々は貧困に喘ぎ、王都ですら貧しさや飢えが広がった。

始まりは隣国のランスロ国が勇者を召喚した事がきっかけだ。

王はそれでとても焦ってしまってね。

いつ自分の国に勇者が攻め込んで来るかといつもびくびくしていたよ」


ここでヒロシが口を挟んだ。


「勇者は魔族と戦うのでは?国同士の争いにまで勇者が加わるんですか??」


「建て前はね。各国は勇者を召喚するのは魔族と戦う為と言っているが、

実際は魔族と戦うのは自衛の時だけで、大半は戦争で使うために召喚するんだよ。

・・・ごめんね?ヒロシ様にしてみら嫌な話だよね」


謝るバニラにヒロシは手を振ってとりなした。


「大丈夫ですよ。僕は気にしてないですから。

さぁ続きを聞かせて下さい」


「ありがとう。

では続けるけど、そんな事情があるから王はランスロ国が勇者を召喚したと知り焦ったんだよ。

それからはあっという間に重税が課せられ国は荒れた。

国民の王宮への不信感は高まり、特に勇者への不満は凄かったはずだ。君たちも旅の中で感じた事あるんじゃないかな??」


コルリルはそう言われて先日の村での一件を思い出した。


「・・・勇者パーティーだと言うだけで石を投げられた事もありました。

けど、私が王宮にいた頃も不満は広がっていましたが、ここまでじゃなかったと思うんですが・・・」


コルリルはずっと感じていた疑問を口に出した。

自分が知る限りでは、確かに王宮への不信感は広がっていたが、今のように国民が激しい怒りを顕にするほどではなかったように思うのだ。


「・・・それはね、エディ様が来たからだよ。

コルリル、君がヒロシ様を探しに旅立って少ししてから、ランスロ国が侵略してきたんだ。

勇者を筆頭に圧倒的な戦力で進軍するランスロ国に我が国はどうしようもなかった。

このままでは王都まで進軍されるという時にエディ様が現れたんだ。

エディ様はたった一人で数千の軍隊とランスロ国の勇者を斬った。

ランスロ国は痛手を被って撤退していったよ。

あのときの王の喜びようは凄かった。

すぐにエディ様を召し抱え国賓のように扱った。

国民も最初はエディ様を讃え喜んでいたんだけどねぇ。

それもすぐに変わったよ」


コルリルは話を聞きながら驚いていた。


(一人で数千の兵士と勇者を斬ったの?!

めちゃくちゃじゃない!

けどあの勇者のスキルなら大軍をまとめて斬るのも、強い勇者を一方的に斬ることも出来るのか・・・

うちの勇者は明日勝てるかなぁ)


コルリルは不安を感じていたが、ヒロシはそうでもないようだった。


「なるほどエディが強いのはわかりましたけど、人間性に問題があったんですね。

まぁ僕が言うことじゃないですが♪」


「ハハハ、まぁエディ様は召し抱えられてからめちゃくちゃでねぇ。

街に出ては気に入らない者は斬ったり、

自分の欲しい物は食べ物も衣服も、

・・・女性も無理矢理奪った。

君達が絡まれた店の店長もエディ様の被害に遭われた方でね。

奥さんがエディ様に奪われかけ、止めた父親ごと奥さんも斬られたんだ。

・・・全くひどい話だ。

そんな事を街中や王都周辺の村々でしてるんだから反勇者の機運は一気に高まったよ。

元から勇者召喚に対する不信感があり、

現れた勇者がそんな有り様で国民の不満は爆発したって感じだね」


エディのあまりにも酷い行いにヒロシもコルリルも何も言えなかった。

しばらくしてコルリルは問いかけた。


「・・・王は、バラマール様は何も言わないんですか?」


「はぁ、私は何度も進言したけど、王のエディ様への信頼は絶大だ。

それに、今は軍を再編している所でね。

明日の決闘が終わったらエディ様を筆頭にランスロ国へ進軍するよう命が下っているんだ」


「そんな!勇者を使った戦争なんてダメですよ!自衛ならともかく、こちらから進軍するなんて!」


コルリルは拒絶の叫びをあげるが、バニラは疲れたようにつぶやいた。


「全て王の命だよ。私達には逆らえないし、王はエディ様以外の話はもう聞いて下さらないからね」


コルリルはショックだった。

自分の属する国が戦争を仕掛けるなんて思いもしなかった。

だからこそ今の事態に言いしれようのない不安が湧き上がってきていた。


「・・・ごめんねコルリル?君にも辛い話だったね」


コルリルは何も言えなかった、ただただ不安で仕方なかった。


「コルリル大丈夫??

大丈夫だよ!明日僕がエディに勝てば戦争はなし!一件落着だ♪」


ヒロシが明るく励ますが、コルリルの不安は晴れなかった、

むしろそんなに強いエディとヒロシを戦わせる事も不安になってきていた。


「・・・コルリル?」


ヒロシが心配そうにコルリルを見つめてくる、

コルリルは涙が溢れてくるのを止めれなかった。


「す、すみません、グスッ、だ、大丈夫です。」


涙を流し悲しみと不安に押しつぶされそうなコルリルを見てヒロシは困惑した様子だった。

バニラがコルリルを慰めながら代わりに弁明してくれた。


「すまないヒロシ様、私から説明しよう。

コルリルは妖精だ、

妖精は人族や私のような亜人やその他の種族より感情が高まりやすい種族なんだ。

だから喜ぶ時は目一杯喜ぶし、悲しい時はより悲しくなる。

周囲の人や環境の影響もより受けやすく、

今の戦争直前なんて環境は妖精にとってはこの上ない不安を感じてしまうはずだ。

ヒロシ様も今までコルリルと接してきてそんな様子に気が付きませんでしたか?」


「・・・そう言われると、確かにコルリルは感情表情が豊かでした。

単純にそういった性格なのかと思っていましたが違ったんですね」


ヒロシは驚いている様子だった。

コルリルは説明したかったが不安が高まり過ぎて涙が止まらず、ヒロシに申しわけなく思ったが何も言えなかった。


「そう、コルリルは種族性によって感情のコントロールが難しい子なんだよ。

デリケートな問題だから今までは話さなかったが・・・

良かったらヒロシ様も面倒だとは思わず理解してあげてほしい」


バニラは切実にヒロシへ全て話してくれた。

コルリルはバニラへの感謝の気持ちと、ヒロシに愛想をつかされるんじゃないかという不安が渦巻いていた。

しかし、バニラの話を聞いてヒロシも最初は驚いていたが、

今はにこやかな様子でコルリルに微笑みかけていた。


「わかりました。

コルリルは僕の大切な仲間です。

そんな仲間の個性を尊重するのは当然です。

僕はコルリルがどんな個性でも絶対見放しません」


ヒロシの毅然とした態度にバニラはホッとしたようだった。

コルリルもヒロシへの気持ちが溢れるのを感じた。


「ありがとうヒロシ様。

君がコルリルのパートナーで良かった」


「あ、ありがど、ゔございまず!!」


大泣きしながら礼を言うコルリルをヒロシは何も言わず優しく撫でてくれた。

コルリルは明日への不安が溶けていくのを感じた。


「・・・さぁ!湿っぽくなったけど宴会を続けよう!

ヒロシ様の言う通り!明日ヒロシ様が勝てば王もヒロシ様の言う事を聞いて下さるかもしれない、そしたら戦争は無しにできるさ!」


バニラが元気よく話しだす、コルリルも気を取り直し、涙を拭いて話しだした。


「・・・そうですね。明日勝てば良いんですもんね、

ヒロシ様、すみません私にはこんな事しか言えないですが、勝ってください!!」


「了解♪まぁ僕は誰にも負けないからね♪

ちゃんと万全の準備もしたし、誰が来ても負けないよ♪」


ヒロシの自信満々な態度をみてコルリルは安心出来た。


(心配し過ぎても仕方ない、今は勇者を信じよう)


コルリルはまだ少し不安はあったが、ヒロシを信じる事にし、今は宴会を楽しむことにした。

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