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第一部 三十一話 【街の散策と風の来襲】


ヒロシはコルリルとデートすることになった。

最初はコルリルが鬱々している様子だったので、気晴らしに外に連れ出そうという軽い気持ちだった。

デートという言葉を使ったのもただの気まぐれだった。

しかし、デートの意味を分からなかったコルリルが意味を知った時の反応を見てヒロシはちょっとやってしまったかな?と珍しく後悔していた。


『ヒ、ヒロシ様と、デ、デデ、デートですか?!

わ、わわわわかりました!えぇと、じゃあどうしたらいいんでしょうか!?

私き、着替えてき、きましょうか?!

ちょっとすぐ着替えてきます!!!』


そう言ってコルリルが図書館を飛び出し2時間が経っていた。

ヒロシは最初は面白い反応に興味を抱いていたが、

だんだんと後悔が出てきていた。


(ヤバいなぁ、あの反応もしかしてこの世界じゃデートって深い意味があるのかな??

デートしたら結婚するみたいな?

もしそうならヤバいなぁ、軽い気持ちで誘ったのにコルリルが本気にしてたらどうしようか??)


ヒロシはコルリルには良い感情を抱いてはいるが、恋愛感情ではなかった。

エディに絡まれているコルリルをみたら後先考えず助けるくらいにはコルリルを想っているが、恋愛感情とは違うようにヒロシは感じていた。

だからこそもしコルリルがデート!交際!結婚!とかいうテンションになっていたら断らなければならない。

そしたらコルリルはきっと傷つく、ヒロシ的にはかなり心苦しかった。

しかし同時に面白さも湧き上がってきていた。


(はははは♪まさか僕が他人の事で心苦しくなるなんてね。

前の世界じゃ全然なかったなぁ)


自分の気持ちの変化にヒロシが愉快になっているとコルリルが飛んで帰ってきた。


「はぁ、はぁ、はぁ、

ヒ、ヒロシ様、お待たせしました!」


ヒロシはコルリルの服装を見て目を丸くした。

全身白基調のコーデは良い、

だけど腰から下は鋭角なウィングパーツのような物が生えており、

背中から長く足先まで真っ赤なひだがぶら下がり、

頭の先からはアンテナのような突起した帽子を被っていた。

・・・正直ダサかった、おしゃれに疎いヒロシにもダサいとはっきりわかるコーデだった。


(これはなんて言えばいいかな?

はっきりいうならダサいけど、

なんなら某ロボットアニメ武器のGN◯ァングに似てるとさえ思うけど、

でもなぁ〜)


ヒロシは何と言えばいいか悩んだ。

ダサいと言うべきか否か、

しかも自分はダサいと思っているが、この世界ではとてもおしゃれな服装な可能性もある。

自分だけでは全く判断が出来なかった。


「あの〜ヒロシ様?この服どうでしょうか?

・・・変じゃないですか??」


もじもじしながらヒロシに問いかけるコルリルは可愛らしかったが、ヒロシは答えに窮した。


「あ、そうだね!良いと思うよ!

そうだ!せっかくおしゃれしたんだしちょっとだけフォシュラにも確認してもらおう!」


「え?ちょっ!ヒロシ様!?大丈夫です!大丈夫です!フォシュラさんには黙ってて!」


そう言ってヒロシは戸惑うコルリルをスルーし、すぐラボを開きフォシュラの所へ移動した。

フォシュラは暇そうにしていたのですぐにコルリルの所へ引っ張って戻った。


「ちょっと!何よいきなり!!

私達見られたらヤバいんでしょ!?

コルリルがどうし・・・」


フォシュラは久しぶりの外に出れた感動もなく、コルリルを見た瞬間絶句した。


「コルリルあんた何その格好!!

戦にでも行く気?!ダサすぎるわよ!!」


フォシュラに全否定されショックを受けるコルリルには気の毒だったが、ヒロシは自分の感覚が間違ってなかった事に安堵した。



それから少ししてヒロシとコルリルは無事町中に出れていた。

コルリルはフォシュラの全面的なサポートにより普段より少しおしゃれな格好に着替えれていた。

白基調の服はそのままに、余計なパーツは外し、帽子はベレー帽のような帽子に替えて、全体をまとめていた。

白いワンピースを着た妖精、それだけで絵になる華やかさだった。


「いやぁ〜コルリル可愛いね♪

凄く良く似合ってるよ!」


ヒロシは惜しみなくコルリルを褒めちぎった。

コルリルが自分のセンスの無さに落ち込んでいたからだ。


「・・・すみませんヒロシ様、先程はお見苦しいものをお見せしてしまいました。

・・・私ダサ過ぎですね。

・・・500年も生きてきて全くおしゃれがわからないなんてお笑いですよね」


目に見えて落ち込む姿を見てヒロシもさすがにコルリルが哀れに思った。


「いやいや、アレはアレで良かったよ?

今はほら!おしゃれに着替えれたんだしさ!

せっかくの息抜きだし楽しもうよ♪」


「ソウデスネ。ヒロシ様は『息抜き』

に誘ってくれたんですよね。

なのに私は勝手に舞い上がって、

無様なおしゃれを晒して、

・・・はぁ、死にたい」


やはりコルリルはデートの意味を深く捉えすぎていたようだった。

ヒロシの危惧していた異世界の非常識はなかったが、

コルリルはしっかりとデートという言葉を意識しまくり、

しかもそれが空回りと知って恥ずかしさと虚しさで気分が落ちまくっているようだった。


(あ〜これは完全にやってしまったなぁ。

デートなんて気軽に使うんじゃなかった)


ヒロシは自分の不用意な言葉でコルリルを落ちこませてしまった事に責任を感じた。

そこで今回の外出は出来るだけコルリルを楽しませようと決心した。


「コルリル!さぁ街に着いたけど何をしたいかなぁ??

なんでも言ってね??」


「いえ、私は大丈夫です。

私みたいな羽虫の事はお気になさらず、

ヒロシ様の自由に見て回りましょう」


コルリルはもう自尊心の低下で死んだ魚みたいな目でただぷかぷか浮く物体となっていた。


(不味いな、このままじゃ自分は帰るとか言い出しかねない。

・・・このまま帰したらドツボになるな。

よし!それなら、今のコルリルの心情を考えて最適なプランを実行してやる!)


「わかった!じゃあまずは行きたい店があるから付いてきてよ!」


ヒロシはまずは街の食料市に来た。

ここは前世のスーパーのような場所で、

あらゆる食料や素材、雑貨が売り買いされる大市だった。


「図書館には街の地図もあってね。

色々地図には載ってたけど、

ここには興味があったから来たかったんだ♪」


「はぁ、食料市なんてなにか見たいものがあるんですか?」


「うん♪色々みたいけど、コルリルに教えてもらわないとわからない事もあるから助けてよ??

僕一人じゃお金の計算もわからないからね??」


「あ、はい。それくらいでしたら。

・・・まぁ私にはそんな雑事しか役に立てないですが」


こうして二人で食料市を見て回る事になった。

ヒロシは無数にある商店を一つずつゆっくりみて回った。

見知った食材もあれば、知らない食材もあり、中には絶対食べれないような食材もあって非常に興味がそそられた。


(ふむふむ!最初は少し見るくらいにしようとしたけどこれはなかなか!

・・っと!コルリルのフォローも忘れないようにしないと!)


「コルリル?この虫、ボンワーム?は食べた事ある??」


「あ〜はい、虫ですがかなり美味しいですよ?

ボンワームは体内に火属性の魔力を蓄えているので、香辛料にしたり、そのまま食べてもピリッとして美味しいです」


「なるほど〜これはなかなか面白いね♪

ちょっと買ってみようか?

お金はバニラ様から頂けたんだけど、

これどれがいくらなんだい?」


ヒロシはバニラから事前にもらった巾着をコルリルに見せる。

中には二種類の貨幣が入っており、

ヒロシにはこの価値が全く分からなかった。


「あ〜そこからですね。

バニラ様は教えてくれなかったんですか?」


「うん、

バニラ様は王の命令で教えれないみたいだったよ、

自分で調べようにも図書館にはこんな基本的な事を書いてる本はなかったしね」


「なるほど、じゃあお教えしますね。

この世界の貨幣は四種類あります。

北大陸には無数の国がありますが、全ての貨幣は統一されています」


コルリルは頼りにされて少し元気になったようだった。


「貨幣の統一!それは凄いねぇ?僕の世界じゃ貨幣は国ごとにほとんど違ったし、価値も国ごとにバラバラだったよ?」


ヒロシはこのまま質問を続け、コルリルを頼りにする事で元気を出してもらう事にした。


「それは大変ですね、まぁこの世界の貨幣が統一されてるのは魔族のせいですよ。

魔族との戦争が長引いてるのでしょっちゅう国が荒れたり、悪ければ滅びたりするんです。

その度に移民や難民、異国の貴族や王族が違う国を行き来するんです。

貨幣が違ったらそれをいちいち換金したり、価値が下がったり上がったりとややこしいですよね??

だから魔族が北大陸に現れてしばらくしてから貨幣が統一されたんです。

【醜い戦い】以降は北大陸全ての国で貨幣は同じものを使うようになりました」


「はぁ~簡単に言うけどすごいよそれは?

いくら魔族っていう共通の脅威がいるからってすごいねぇ?」


「はぁ、まぁ単純にお金持ちの貴族や王族の方が自分の資産を守るために頑張ったんですよ。

いくらお金を持っていても国が滅びたら価値は全く無くなっちゃいますからね。

・・・さて話を戻しますが、

この世界の貨幣は四種類あります。


この一番小さな硬貨がスラと言います。

語源はスライムから来ています。

1スラ2スラと数えます。


次にこの中くらいの硬貨がトロと言います。

語源はトロールからです。

1トロ2トロと数えます。


最後にここにはありませんが大硬貨がドラと言います。

語源はもちろんドラゴンからで、

1ドラ2ドラと数えます。


あとは、紙の紙幣があります。

この紙幣は近年出来たばかりで、価値もめちゃくちゃに高く、貴族や王族の方しか使わないのであんまり気にしなくて大丈夫です。

ちなみに名前は諭吉と言います」


ヒロシは聞き覚えのありすぎる名前にかなり引っかかった。


「・・・コルリル?その新しい貨幣を作ったのって勇者でしょ?」


「ん?さぁ?私にはわかりませんが、大国フォルスダムが発祥としか聞いてませんが?」


「わかったよ。いずれそのフォルスダムにも行かないとね。

それで?この1スラ1トロ1ドラはそれぞれどれくらいの価値があるんだい??」


たくさん知識を出してヒロシをサポートしている間にコルリルはかなり元気になってきたようだった。

ヒロシも作戦通りにコルリルが元気になって嬉しくなった。


(よしよし、このままコルリルを頼りまくって自尊心を上げてあげよう!)


「はい!じゃあまずはスラ硬貨から!

スラ硬貨は一番価値が低い貨幣です。

だいたい10スラで粗末な食事に一回ありつけるかどうかって所ですね。


そのスラが500貯まると1トロになります。

1トロあれば宿屋で食事付きの一泊のお値段ですね。


そしてトロが1000貯まると1ドラになります!

1ドラあれば庭付き一戸建てを買えますね。


それぞれの硬貨には

1、5、10、50、100、500と

6種類の種類があります。

例えば1つの500スラ硬貨と

1トロ硬貨は同じ価値です。

100トロ硬貨10枚で1ドラになります。


始めはややこしいかもしれませんがだんだん慣れると思いますし、ゆっくりやっていきましょうね!」


「なるほど、わかりやすい説明ありがとうコルリル♪

・・・ちなみにだけど1諭吉は何ドラになるのかな??」


「はい!1諭吉は一万ドラになります!」


「・・・なるほど、よくわかったよ」


ヒロシは誰かは知らないが、異世界転生した勇者が一万円札にかなり高額な価値を付けている事を悟った。


(高額紙幣の捏造かぁ、やることがえげつないなぁ。

勇者の立場と莫大な金、絶対良からぬ事になってそうだな)


ヒロシは内心で必ずフォルスダムに行きその勇者を問い詰める事を決心した。

金儲けをするのは自由だが、汚いやり方の金儲けは好まないからだ。


「あの〜ヒロシ様?大丈夫ですか??」


コルリルがヒロシの様子がおかしい事に気付き心配してくる。

ヒロシは今はコルリルにも本心を隠す事にした。


「なんでもないよ♪さぁ楽しい買い物を続けよう♪」



それからヒロシ達は食料市で買い物をし、

その後は雑貨店や武具屋等様々な店をみて回った。

ヒロシは商品に時折夢中になることもあったが、基本的にはコルリルを元気付ける事に集中した。

そのかいがあってコルリルは街に来た当初よりずいぶん元気になっていた。


「ヒロシ様!次はあのお店に行きましょう!」


「はいはい♪ゆっくり行こうね〜」


ヒロシはコルリルが元気になり嬉しかった。

コルリルには旅の間ずいぶん助けられたし、

フォシュラやディロンが自分と少しは打ち解けれたのもコルリルのおかげだった。

それにヒロシは自分の性格の欠点も充分わかっていた。

研究に夢中になり過ぎ、コルリルを蔑ろにしてしまう事。

悪癖だとは思うが、自分ではどうにも出来なかった。

だけどそんな自分からコルリルは離れなかった。

そばにいてサポートしてくれた。

それだけでヒロシはコルリルに感謝の念が沸き起こるのを感じていた。


(今日は少しは恩が返せて良かった。

いつ別れるか分からないし、ちゃんと返せる時に返さないとね)


「ヒロシ様!早く〜!」


ヒロシはコルリルに呼ばれて店へ移動する、

しかしその間に不審な視線を感じとった。


(またか、街に出てからずっと誰かに見られてる。

しかも複数に)


ヒロシは意識を集中させ気配を探る。

散策中も常に視線や気配を感じていたが今までは無視していた。

しかし今は一番はっきりと視線を感じたので改めて探ってみた。


(やっぱり複数だな。

しかも複数の人数のグループが三つ)


ヒロシは気配を探りつつ怪しまれないように店に入る。

コルリルがあれこれと商品をヒロシに見せてくるので笑顔で対応する。


「ははは♪コルリルはセンス良いね♪」


同時に内心で今得れる情報から、監視者の正体を検討する。


(監視者は三グループ。

仮にA、B、Cとする)


「ヒロシ様!この置物可愛いですよ!ラボに起きませんか??」


「うーん♪ゴブリン達に壊されないか心配だなぁ♪」


(Aグループは7名、お互い連携を取りながらこちらを隙なく監視している。

現状一番気配が強く、こちらに殺意がある様子)


「じゃあこのカーテンはどうですか??花柄が鮮やかですよ〜」


「うーん♪鮮やかな色合いだけどラボには窓がないからねぇ」


(Bグループは3名、連携はせずこちらと市場全体、いや街全体を監視しているような気配。

今のところこちらには殺意は感じれないが、街全体にまんべんなく殺意を振りまいている感じだな)


「じゃあじゃあこのお皿はどうですか??」


「うん♪お皿は良いね♪コルリルの手料理をより鮮やかに出来そうだ♪」


(最後にCグループ、これは2人だけだな。

一番気配が読みにくいけど、多分監視者の中じゃ一番強い。

けど殺意は全く感じれない)


「もーう!ヒロシ様!?ちゃんと聞いてますか??」


「僕がコルリルを無視するわけないじゃないか♪」


「いやいや!最初は無視されまくりでしたから!」


ヒロシはコルリルと実に何気ない様子で話をしつつ、監視者の気配を探り、正体について思考し結論を出した。


(ふむふむ、Aはエディの配下だな。

城から付けてきた感じだし、間違いないだろうな。

目的は僕の暗殺かな?王宮外のほうが色々やりやすいもんね♪


Bは多分だけど魔族だ。

勇者を監視して、街中も監視する。

好機があれば大暴れする気だ。

これは確認がいるね。


Cはまだわからない、けど殺意は感じれないし今は様子見だな)


それぞれへの対処を検討した上で、ヒロシは次にコルリルについて考えなければならなかった。

コルリルは監視者に全く気が付いていない。

これは勇者のサポート役としてはなかなかなミスだ。

なので今、コルリルへ監視者についてヒロシから教えると、メンタルが過敏になっているコルリルはまた不安定になってしまう。

かと言って監視者を放置しとくのも難しい。


(これはコルリルに自分から気付いてもらうように誘導するか

・・・よし!)


ヒロシはコルリルが見てない隙に素早くラボを発動させ一旦店から抜ける。

すぐそこの路地裏に移動し、ゴブリンを数体展開する。


「お前達、初めての任務だ。抜かるなよ」


「・・は、い」


このゴブリン達は戦闘用ではなく、諜報用に訓練した特別なゴブリンだった。

背格好は小柄な人間サイズ、頭からローブを被り、身体中に包帯を巻く。

端からみれば大怪我をした浮浪者といった風情だった。

この荒れたご時世では特に珍しくもない格好だ。

さらに簡単な言葉も教え、より諜報をしやすくしたり、身の隠し方、敵の探し方。基本的な技能は身につけさせていた。

このゴブリン達を街中に放ち監視者を逆に監視する策だった。


「よしよし、うまくいくと良いけど」


ヒロシは不安はあったが、ひとまずまたコルリルの元へ戻ることにした。



「あ、ヒロシ様?どこにいたんですか??探しましたよ?」


「ごめん、ごめん。ちょっとお手洗いにね♪」


ヒロシは何食わぬ顔でコルリルの元へ戻った。コルリルは何も気付いていないようだった。


(やれやれ、こんなに何も気付かないってコルリル大丈夫かな??抜けてる所はちょっと可愛いけど心配になるね)


ヒロシの心配を他所にコルリルはまだまだ元気いっぱいに街中散策をする気のようだった。


「ヒロシ様!ちょっとお腹空きませんか??

そろそろご飯にしましょう!」


「はいはい♪コルリル絶好調だね〜」


ヒロシ達は昼食を摂る事にした。

コルリルはどの店にするか色々悩んでいたが、結局ありふれた街の定食屋に決まった。


「ヒロシ様ここで大丈夫ですか??」


「うん♪僕はどこでも大丈夫だよ♪良い店だね♪」


コルリルが選んだ店は、客席が店内に数席、店の前に数席あり、店長が中央のキッチンから直接オーダーを取るスタイルの、

この街ならどこにでもある店構えだった。


(よし、この店ならどのグループも仕掛けてこないだろう。

下手に個室がある店だとやばかったかもね)


ヒロシは人目があり襲撃のしにくい店が気に入り少し安堵した。

席につき壁にあるメニューからそれぞれチョイスする、ヒロシはコルリルを座らせたままキッチンまで注文を伝えに行く。


「あの〜すみません。ランチ定食一つと、サンドイッチ一つ下さい」


「あいよ!ちょっと待ってな兄ちゃん!」


年配の威勢の良い店長が注文を受けてくれた。

注文後、ヒロシはそのままトイレを借りる体で、トイレに向かい個室に入った瞬間ラボを開き移動した。


それぞれのグループをゴブリン達は偵察に成功したようだった。

ヒロシはじっくり聞きたかったが、コルリルを一人にしている為簡潔に報告を聞く。


(なるほど、

Aグループはやはりエディの部下だったな。

装備品や服装に王国の印があり、

エディ様とか話しているのを聞けたみたいだしね。


Bグループも魔族で当たり。

魔獣であるゴブリンには魔族の見分けもつく。

かなり力は強そうらしいから暴れ出したら要注意か。


そしてCグループはどうやらどこぞの騎士のようだね。

警戒が強く近づけなかったみたいだけど、剣を腰から下げているのは確認出来た。

多分他国のスパイなのかな??)


大体の監視者の情報が掴めたので、ヒロシはゴブリンによる偵察も打ち切りコルリルの所へ戻った。


「あ、ヒロシ様おかえりなさい!またお手洗いですか??」


「うん♪食事前に済ませときたくてね♪」


ヒロシは周囲に気を配りつつこれからの行動を考えた。


(とりあえず一旦王宮に帰るか。

王宮内ならエディも手を出さないだろうし。

魔族の事はバニラ様に報告して対策して、謎の騎士は・・・)


「ヒロシ様?考え事ですか??」


ヒロシが考えに集中していると、コルリルが恐る恐るといった風情で話しかけてきた。


「すみません、私ばかり楽しんじゃって。

ヒロシ様は退屈でしたよね・・・」


どうやらコルリルは自分だけ楽しんで、ヒロシが楽しめていないと感じたようだった。


「いやいや、僕も今日は楽しいよ♪

久しぶりに外に出て気分転換になったし♪

コルリル、付き合ってくれてありがとね♪」


「わ、私の方こそお誘いしてくださってありがとうございました!

とても楽しかったです!」


「僕もだよ。コルリルのおかげで異世界でも楽しく生きれるよ。

コルリル、本当にありがとう」


「い、いえ私は全然何もしてないです・・・」


真っ赤になりうつむくコルリルは非常に可愛らしかった。

ヒロシは本心からコルリルに感謝しているので、ちゃんと気持ちを伝えれて満足だった。


「お熱いねお二人さん!!

ほれ!飯だ!」


二人の話が少し途切れた間に店長が料理を運んできた。

コルリルは冷やかされますます真っ赤になった。


「わ、わた、私達はぜ、全然そんな感じじゃなくて!」


「わかった!わかった!ほれ!冷めねえ内に食いな!」


ガハハと笑いながら店長はコルリルの言葉を笑い飛ばす。

ヒロシは面白いのでしばらく観察しようか考えていると、


「あ!あそこの人新しい勇者じゃねぇか??」


雑踏から大声でヒロシに注目を集める声がした。

同時に周りの人々がざわつく気配があり、何やら不穏な様子だった。


「はぁ!また勇者が?!」


「どこだよ!どこ?!」


「あのクソ野郎じゃねぇのか?!」


周囲から勇者への悪態が聞こえてくる。

コルリルとヒロシは不味い雰囲気を感じていた。


「ねえ?コルリル?勇者は王都じゃまだマシな評判何じゃなかったっけ??」


「そのはずなんですが、どうしたんだろう??」


二人で戸惑っていると先程まで陽気だった店長が底冷えするような声色で話しかけてきた。


「兄ちゃん、あんた勇者なんかい?」


「・・・まぁそうなってるみたいだね」


ヒロシは嘘はバレると判断し、正直に告げた。


「そうかい、じゃあ話は簡単だ、俺の店からとっとと失せな!

オメェらみたいなもんに食わせる飯はねぇ!!」


店長はヒロシ達の食事を地面に叩きつけ退店を命じた。

ヒロシはかなりイラッとしたが、コルリルは冷静に店長に話しかけていた。


「あの、すみません。私達なにかお気に障る事をしてしまったでしょうか??

それとも勇者がなにか??」


「おうおう!お気に障るもクソもねぇもんだ!

コイツは新しくきた勇者なんだろう?!

こんな下町にも王宮の情報は降りてくんだよ!」


店長は怒りに震えながらヒロシを指差した。

ヒロシとしては何がそんなに怒る事なのかわからないので、黙って肩をすくめるしかなかった。


「いいか!オメェのお仲間の勇者は俺達に・・・」


ギィガァァァア!!!


店長の言葉を遮るようにとてつもない咆哮が周囲に響き渡った。

群衆は耳を押さえたり、キョロキョロと辺りを見渡していた。

ヒロシにはすぐに誰が咆哮を発したかわかった。

魔族だ。


キィーー!!


咆哮に呼応するように空から大きな何かが王都に飛来した。

頭は鳥、身体は獣、大きな翼を羽ばたかせ現れたのは。


「ヒ、ヒロシ様!グリフォンです!!」


コルリルの絶叫が小さな店中に響き渡った。

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