第一部 ニ話 【勇者と妖精の出会い】
「勇者さまどこにいるの〜?」
コルリルは勇者を探し一人空を飛んでいた。
コルリルが勇者召喚の儀をしてから三ヶ月が経っていた。未だに勇者は見つかっていない。
あの日コルリルは間違いなく勇者を召喚したはずだった。
だが何故か勇者は王宮ではなく違う場所に召喚されてしまったようだった。
バラマール王の怒りは凄まじくコルリルはもう少しで妖精標本にされるところだった。
今でもコルリルの頭に王の怒りのセリフが浮んでくる、
『貴様ぁぁぁ!勇者はどこじゃあ!!!
勇者がいなければ貴様なんぞ生きたたま剥製にしてくれるわぁぁぁぁ!!』
コルリルは必死に勇者召喚が失敗した理由を探しようやく違う場所に召喚したことがわかったのだった。
「てか、普通の召喚士なら失敗したのか成功したのかもわからないままなはずなのに、ちゃんと場所まで特定した私はかなり出来る召喚士なはずなのになぁ〜」
コルリルは確かに優れた召喚士だったが、王の怒りを買った今はたった一人で勇者探しをさせられているのだった。
コルリルとしては甚だ不服だった。
「おおまかだけど場所まで特定したんだからあとは皆で探せば良いのに何で私一人で探さないとなのかなぁ?!」
コルリルは勇者を探し一人空を飛び回った。
おおまかな場所を特定した後は現地に行き、さらに場所を絞る、
コルリルにしか出来ないとはいえたった一人でやらされるのはコルリルは納得がいかなかった。
不満たらたらのコルリルだったがようやく目的の場所にたどり着く、
「ここかぁ〜うわぁ~嫌だなぁ、
けど・・・」
コルリルの特定した場所は王宮から少し離れた場所にある森だった。
以前は隣国への近道として多くの商人や冒険者が旅した森だが、今はこの森を通るものは誰もいない。
それは、森が数年前からゴブリン達の巣窟になっているからだ。
最初は数個の群れが居ただけだったが、ここ数年で爆発的に増殖し、今では森中に無数の群れがいる。
本来ゴブリンを討伐するはずの王宮は魔族との戦争に忙しくゴブリン達に割く戦力はなかった。
冒険者達もわざわざゴブリンなんて相手にしない、
だからこの森はゴブリンだらけの手つかずの森になったのだった、
コルリルはこの森を探すのはかなり嫌だったが、
嫌がると同時に不安も感じていた。
(勇者様が何故この森にいるかわからないけど、召喚直後の状態でこの森はヤバい!)
異世界から召喚された勇者は、最初から特別なスキルを持って現れる。
そのスキルは大変強力な物が多いが、いかに勇者でも召喚されて右も左もわからない状態ではどうしようもない。
どんな強力なスキルでもゴブリン達に昼夜を問わず襲われたら、1人で身を守るのは難しいだろう。
コルリルは勇者がゴブリンに殺られてしまう事を考え急いで捜索を開始する。
もし勇者がすでに殺されていたら自分は間違いなく王に剥製にされてしまう。
コルリルは必死に上空から旋回し捜索するも見当たらず、
少し危険は増すが森の木の間を縫うように探す。
しかし勇者はおろか、魔獣の気配もまったくなかった。
「勇者様いないなぁ?
しかも他の魔獣やゴブリンの気配すらないのはなぜだろう???」
コルリルはゴブリンの気配もなく勇者も見つからない森をひたすら探し続ける。
探し出して数時間が経つ頃コルリルはようやくゴブリンを見つけた。
そのゴブリンは頭に包帯を巻いており必死に何かを捜しているようだった。
コルリルはゴブリンがなにか勇者の情報を持っている可能性を考え離れて様子を見る事にした。
ゴブリンは必死に木の根や草の葉をかき分け何かを捜し続ける、普通ゴブリンがこんなに一生懸命に働く行動はしないはずだった。
コルリルの知るゴブリンは怠惰で素行は荒く、知性の欠片もない魔獣だ。
コルリルはそんなゴブリンが一体何を捜しているのか考えているとゴブリンの近くに突然モヤが現れた。
そしてモヤから1人の男が現れた。
汚れた旅衣装の男は、背が高く、スラッとしており、白い肌をしていた。
長い黒髪を頭の上で括っており、遠目からみても顔立ちはかなり良いようだった。
男はゴブリンになにか話かけていた。
ゴブリンは男の言う言葉がわかったのか答えている様子だっだ。
首を振り見つからないような素振りを見せている。
すると男はゴブリンに違う場所を探すような指示を出したようで、ゴブリンは一目散に指示された場所へ走っていく。
通常ゴブリンは人間には襲いかかる習性があるがあのゴブリンにはまったくそんな素振りはなかった。
(むむむ?いったいどういう事でしょう??
いや、それよりあの方はもしや?)
コルリルは男に急いで近付いた。
「あ、あの!あなたは勇者さまですか?!」
コルリルは思い切って男に話しかける。
男は話しかけられ怪訝そうにコルリルを見ていた。
「・・・?君は誰かな??」
「わ、私はコルリルです!あ、あなたを召喚した召喚士です!」
「君が・・・召喚させた?僕を??」
男はコルリルをさらに怪しむようにまじまじと見ている。
しかし、コルリルは男が否定しなかったのでこの人が間違いなく自分が召喚した勇者だと確信した。
「妖精?みたいな君が?そんな小さな身体で?本当に?
そんな感じには見えないけど??」
男はまだコルリルを疑っていた。
確かに大きさを言えばコルリルは男の顔くらいの大きさしかなかった。
けれどコルリルの身なりは召喚士用のそこそこ良い魔導服を着ていたし、
髪はショートの青髪できちんと手入れしている、
顔立ちも人からよく可愛いとは言ってもらえるので、変な顔ではない思うし、
少なくとも目の前の男よりはきちんとした格好をしていた。
「はい!間違いなく私が召喚させました!
けれど何故か手違いでこんな森に召喚させてしまいました。
その件については大変申し訳ありません!」
コルリルは頭を下げ謝罪した、しかしちゃんと自分は召喚士なんだと強調する。
男はコルリルの言葉を聞いてひとまず信じる事にしたのか、少し警戒心を解いてくれたようだった。
「わかったよ、じゃあ質問だけど、
君は何故僕の言葉がわかるんだい?
何故僕を召喚したのかな?
そもそも君は何者かな?」
矢継ぎ早に質問をぶつける男にコルリルはややたじろいだが一応答えた。
「あ、えと、一応異世界から召喚される勇者様や召喚獣なんかは召喚士の指示がわかるように、召喚の術にあらかじめ解読の魔術を組み込んでるので勇者様は私達の世界の言葉がわかりますし、私達も勇者様の言葉がわかるようになってます。
私の身分と目的ですが・・・
あー私はサイマール国に仕える妖精で、
サイマール国の王、バラマール様のご命令であなた様を召喚させました。あの、勝手に呼んでしまいすみませんです・・・」
コルリルは最後は特に申し訳なそうに謝る、
自分なら勝手に召喚されたりしたら嫌だと思ったからだ。
しかし男は勝手に召喚された事より引っかかる事があるようだった。
「・・・ねぇ?召喚士の指示がわかるようにしているって君は言うけど、じゃあ僕は君や君の主君の命令は聞かないといけないって事かな?」
「・・・!!!」
男は決して怒鳴りつけたりしなかったがその全身から発する静かな怒りを感じ、コルリルは身体が固まってしまう。
「あ、ああ、あの、その、命令とか全然聞かなくて大丈夫で、です。むしろ私に勇者様から指示がほしいくらいで。
あ、け、けどバラマール王のご命令には従わないとヤバいかもですが・・・。」
「そう、王の命令に従わないどうなるのかな?」
「えっと・・・多分処刑か良くて追放とかおっしゃるかもです、はい。」
更に申しわけなさそうに答えるコルリルを見て男は納得したのか、コルリルを哀れに思ったのか、それ以上追求はしなかった。
「わかった、もういいよ。
とりあえずもっと色々聞きたい事があるし、僕のラボで話そう」
そう言うと男はまたモヤを出し中に入ろうとする。
コルリルは慌てて男に質問した。
「あ、あのコレは勇者様のスキルでしょうか??」
「そうだよ、白いやつからもらったスキルで名前は忘れたから【ラボ】って呼んでる」
コルリルは男が言う白いやつが神であることを察した、
勇者達が召喚前に神と会いスキルを授かる事は今までの勇者達から情報を得ている。
その神が何者なのかは今はコルリルにも、誰にも分からなかったが、少なくとも自分達より高位の存在なのだろうと考えていた。
しかしコルリルはその神にあまりに尊大な態度を見せる男に驚いた。
コルリルは更に質問する。
「ラボですね、わかりました、あ、ちなみに勇者様のお名前をお教え頂けませんか??」
「続きは中でね」
そう言って男は中に入って行ってしまう。
コルリルは迷ったが思い切って中に入ってみる。
モヤの中はとても大きな空間が広がっていた。
まず目に入るのは広がりのある真っ白な空間だ、
そこには大小様々なテーブルや棚がありそれぞれに魔獣の素材や、森の植物等が並べられたり積み上げられたりしていた。
そしてその素材をたくさんのゴブリン達がなにやら作業をして加工しているようだった。
ゴブリン達は皆頭に包帯を巻きせかせかと働き回っている、
加工している者以外は、荷物を運ぶ者、植物を育てている者、なにやら魔獣らしきものを解体している者など様々な事をしてゴブリン達は働いている。
そんなゴブリン達の間を男は悠々と進んでいた。
コルリルは大量にいるゴブリンに怯んだが、勇気を出して男を追いかけた。
(なにこれ!?なんでゴブリンがこんなにいるの!?
なんで襲われないの??)
コルリルは怯えながら男に付いていく。
男は最初の大部屋を通り過ぎ、通路に入る。
通路の奥まで進んで、曲がりさらに奥へ、
どんどん男は進んでいき、一番奥にあるドアの前で止まりコルリルに話しかけてきた。
「ようこそ我がラボへ。僕がラボの主の白星弘志。コルリル、楽しくお話しようね♪」
そう言ってドアを開け入室を促してくる、コルリルは緊張しながらも中に入っていった。