第一部 二十四話 【迫害、そして王宮へ】
コルリル達はパーティーとして絆を深め、改めて旅を始めた。
ディロンやフォシュラと少しは打ち解けれたヒロシだが、ディロン達を互いに人質にして外に出す方式は変わらなかった。
「ディロンさん?良いんですか?せっかくヒロシ様と打ち解けれたと思ったんですが」
王宮を目指し旅をしながら、コルリルはディロンにこのやり方に不満はないのか尋ねる。
ディロンはあっさりしていた。
「構わない。敗れた俺たちがあいつの言う事を聞くのは当然だ。
いくら打ち解けれたと言っても俺達がした事は変わらない。俺達は罪人なのだ」
ディロンは盗賊行為を悔いていた。
おそらく元から盗賊行為を良くは思ってなかったのだろう。
そこに知らぬ事とはいえ、自分の部下が殺人をしていた事実がある、ディロンはヒロシの作った枷を甘んじて受け止めていた。
「まぁ先日の態度であいつも悪いやつじゃないとわかったからな。
フォシュラにも酷い仕打ちはしていないようだから、俺は今の処遇で納得しているよ」
納得し、枷を受け入れたディロン。
一方別の日のフォシュラは、
「納得なんて出来るわけないでしょ!!」
フォシュラはやはり怒り心頭だった。
ヒロシがラボに入っている間コルリルに不満を吐き出す。
フォシュラ的には自分の事より大好きな兄が人質に取られる事が我慢ならないらしい。
「あの勇者なんなの!?
この間パーティーとして頑張る感じになったじゃない!!
なのになんでまた人質扱いなのよ!?」
「す、すみません、うちの勇者が本当にすみません」
怒りが冷めないフォシュラをコルリルは必死になだめた。
コルリルは歓迎会の後、ヒロシにディロン達を人質扱いするのを止めるように再度話していた。
しかし、ヒロシは耳を貸さなかった。
「コルリルの気持ちもわかるけど、何事もけじめは大事だよ??
彼らが盗賊をした事実は変わらないんだから。
僕からみて充分贖罪をしたと判断出来たら解放するから。
何度も言うけど、本来なら死刑なんだからこの措置は大分彼らに甘い温情措置だよ??」
こうしてヒロシ達は変わらず、
ヒロシとコルリルと、
ディロンかフォシュラのどちらか一人が表に出る三人パーティーで旅をしていた。
旅も終盤、王宮まで残りわずか。
夕暮れ前に最後の村へコルリル達はたどり着いた。
この村の次は王宮まで一直線だ。
「ふぇぇ。ようやくたどり着きましたねぇ」
コルリルは安心してきていた。
見慣れた王都の近くまで帰ってきて気が緩んでいた。
「うん!もう少しで王宮かぁ!いやぁかなり待ち遠しいなぁ!」
「どうでも良いけど早く普通の宿で休みたいわ。あんたのラボ、ベッド一つないんだから」
「ん?ベッドなら言えば作れるのに??
僕は毎日ふかふかのベッドでゆっくり休めてるよ♪」
「早く言いなさいよ!!ぶっ殺すわよ!!」
今はフォシュラが表に出てきていた。
フォシュラが表にいる時は、こんなふうにヒロシとよく喧嘩をする。
主にフォシュラがヒロシにキレるのだが、ヒロシは全く気にしていないのでますますヒートアップするのだ。
最初はコルリルは仲裁していたが、
喧嘩するのも仲が良い証拠と思い込み最近はほったらかしにしていた。
(また喧嘩してるよあの二人。
・・・仲良いなぁ)
騒ぎながら村に入る一行に、
すぐ村人が気付き寄ってきた。
「こんばんは。旅の方かな??」
声をかけてきた村人は一応村の見張り係のようだった。
男性というだけで見張りを言いつけられたような感じで、彼からは戦う者の気配はまるでなかった。
「はい、王宮まで旅をしている者です。
よかったら今晩こちらの村に泊めて頂きたいのですが」
コルリルが代表して応対する。
ヒロシ達はまだ言い合いをしていた。
「うん、構わないと思うよ。
けど一応村長に聞くからちょっと待ってね?」
そう言って村の奥に消える見張り係。
程なくして村長と思わしき初老の男性を連れて帰ってきた。
話を聞きつけた何人かの村人達も遠巻きに見物している。
「これはこれは。妖精さんとは珍しい。
今日はよく来られましたな」
「はい、ちょうど王都に着く前に日が暮れて来たので寄らせて頂きました。
よかったら一晩泊めてくださるとありがたいんですが。」
「それは構わんよ。
しかしこの村に客人とは久しくなかったですわい。
旅の方はここまでくると王都まで一気に行きなさるからな。
わざわざこんな小さな村に泊まる方は珍しいのぉ」
「ははは、ちょっと旅の疲れがありまして。
ご迷惑おかけしてすみません」
コルリルも本来なら夕暮れでも王都まで一気に行っただろう。
ただ今回は事情が二つあり、
一つは王都に入る前にフォシュラ達をラボに収容しなければならない事。
もし王都のだれかに見られたら騒ぎになる可能性があるからだ。
(王都に入ったらフォシュラさんたちは多分しばらくラボ暮らしだもん。
最後の夜くらいゆっくりラボの外で休ませてあげたいしね)
二つ目は、今から王宮に行けば着くのは夜中になる。
夜中に気の短い王に謁見するのは絶対に嫌だった。
かと言って翌朝に謁見すれば、なぜ帰ってすぐ来なかった!と難癖をつけられかねない。
すでに大遅刻をしているコルリルとしては明日の昼間に堂々と謁見に望みたかった。
(機嫌を損ねたらそれこそ打首にされちゃうからね。
ちょっと手間だけど到着時間は調整しないと)
コルリルは村長には真実を伝えず、愛想笑いと適当な理由ではぐらかした。
勇者一行だと知れたら絶対に良くないからだ。
そんなコルリルの思惑など知らぬ後の二人は変わらず騒いでいた。
「本当にあんたってなんでそんな配慮とか出来ないのよ?!」
「僕ほど配慮に長けた人物もいないよ??
ちゃんと二人の事も尊重してるしね♪」
「どこがよ!私達は人質扱いだし、それに最近までラボにお風呂があるのも知らなかったわ!
それまでは外で水浴びして済ましてたんだから!!」
「あぁ〜だから最近フォシュラもラボのお風呂使ってくれてるんだね♪♪
今まではなんで使わないんだろう??って思ってた♪」
「あんたが言わないからよ!」
「いやぁ僕はてっきり水浴びはなにか魔術師の儀式?なのかと思って♪
一度覗いてみたら普通に水浴びしてたから拍子抜けだったけど」
「・・・あんた私の水浴び覗いたの?」
フォシュラの声色が変わった。コルリルは火の魔力が高まるのも感じた。
ヒロシは全く気づいていない。
「うん♪あ、性的な意味は全くないから安心して♪あくまで僕の知識欲の為だから♪
それにフォシュラは色気もないしね笑」
「死ねぇ!!!」
フォシュラがブチ切れ火炎魔術を大放出する。
ヒロシはすぐラボに移動し避ける。
すぐに現れまた火炎魔術を避ける。
フォシュラも次々と魔術を使いヒロシを焼き殺そうとする。
最近ではフォシュラがキレてヒロシを攻撃することも増えてきた。
コルリルはこれも二人の仲が良くなったからだと思い込む事にした。
(うん、大丈夫大丈夫。多分火炎は当たらないし、当たったら私が治療すれば良いし)
見て見ぬふりをするコルリルに村長はおずおずと話しかける。
「あ、あの二人は大丈夫かの?激しく喧嘩しているが??」
「いつもの事なので大丈夫です。
騒がしくてすみません」
「そ、そうなんじゃな、まぁとにかく村へ入ってくだされ。
たいしたもてなしは出来んがわしの家で暖かい食事でも振る舞おう」
「ありがとうございます!
・・・二人ともそろそろ行きますよ!!」
コルリルは二人に声をかける。
フォシュラはまだ火炎を爆散させていた。
「ほらフォシュラ?コルリルが呼んでるよ??そろそろ終わりにしよっか??」
「うるさい!!あんたが悪いんでしょうがぁ!だいたいあんたは勇者のくせに悪辣過ぎんのよ!!」
二人はコルリルの呼びかけに答えず再び喧嘩を始める。
コルリルはため息をついて止めに行こうとすると、
「・・・待て、あんたら勇者の一行なのか??」
村長が呼び止めた。
声色が変わりかなり固い感じだった。
「あ、はい、すみません私達は王宮に向かう途中の勇者パーティーでして・・・」
コルリルが途中まで話した途端に村長や周りの村人が激怒しだした。
「勇者が村に来たぞ!」
「なんで勇者が?!」
「ほんとに勇者か?!」
皆口々に騒ぎ出す。言葉だけ見れば勇者を歓迎しているように見えるが、
実際は顔をしかめ、怒りに震え、明らかな拒絶の態度だった。
「あんたらが勇者一行なら話は変わる!今すぐここから去れ!村には一歩も入るな!!」
村長も激怒し拒絶する。
コルリルはかなり驚いた。
(勇者が拒絶されるのはわかってたけど、こんなに??
なにかあったのかな??)
コルリルは最初から勇者は村々では歓迎されないとわかっていた。
だから最初のフシリ村には旅の最初なので補給や回復の為寄りはしたが、
それ以降は村に寄らずヒロシのラボで寝泊まりしていたのだ。
しかし、この村は歓迎しないどころか明らかに敵意がある。
別の勇者になにかされたのだろうかと思い、コルリルは尋ねてみることにした。
「あの!私達は悪い勇者じゃないです!
誰か別の勇者になにかされたんですか??」
コルリルは自分達には悪意はなく、事情を聞かせてほしいと訴えるも、
村人達は聞く耳持たなかった。
「うるさいわい!なにが悪意はないじゃ、わしたちを騙そうと言うんじゃろ!!
さっさと出ていけ!!」
全く聞き入れず拒絶する村人達。
ヒロシ達も諍いを止めコルリルの所へ戻ってきた。
「何々?いったいどうした??」
ヒロシはコルリルに尋ねてきた。しかしコルリルにもわけが分からなかった。
「ヒロシ様、どうやら私達は歓迎されないみたいです。
今晩はこの村で休むのは無理そ・・・」
コルリルが話している途中に突然石が飛んできた。
石はまっすぐコルリルに向かって飛んでいき、あわやぶつかる直前でヒロシがキャッチした。
投げたのは村長で怒りに満ち溢れながら騒いでいる。
「なにを喋っておるか!!わしの村から出ていけ!」
コルリルは心臓がバクバクと早鐘を打って動悸が止まらなかった。
(危なぁ〜!あんな石投げるなんてあの爺さん正気?!今は防御魔術もしてないんだから!!)
コルリルも流石に怒りが湧いてきたが、隣のヒロシを見て一気に肝が冷えた。
今までで一番、ヒロシが怒りをみせていた。
「・・・おい。お前今何やった?」
顔は歪み、村長を睨みつけ、ドスの効いた声色で話し出す。
「な、何じゃお主は!文句でもあるのか?!」
村長は怯えながらも挑発する。
ヒロシはゆっくりと話しだした。
「お前さぁ?今、石投げたよな?
コルリルは妖精だぞ?
妖精のコルリルにはこんな石ころも自分と変わらないサイズの巨石になんだよ!
そんな石を思いっきりてめぇは投げつけたんだよ!
この意味がわかるか??
今俺がキャッチしなけりゃ大怪我していたか、最悪死んでたかも知れねぇだろうが?!」
ヒロシの言う通りだった。
コルリルのサイズは人間の手のひら程度。
体重も数百グラムしかない。
対して投げつけられた石も、大きさや重さはコルリルと対して変わらないサイズ感だった。
これは人間の縮尺にするなら、
大の大人に全長160センチ、重さ60キロ近くの巨石を思いっきりぶつけるに等しい行為だった。
当たれば大怪我か死は免れない。
だからヒロシは怒りコルリルも恐怖したのだった。
戦う際にはコルリルは風の防御魔術で身を守っているので石ころくらいは難なく跳ね返せるが、
今はなんの防御もしてないないので、本当に危ない所だった。
「う、うるさいわい!お前らが勇者だから悪いんじゃ!さっさと行かんともう一つお見舞いするぞ!」
「・・・てめぇ!」
再び石を構える村長、ヒロシはコルリルの前に出て庇い、フォシュラもコルリルを抱きかかえ守った。
「ねぇ?なんかやばくない??もう行こう?
ムカつくけどこんな奴らほっといてラボで休もうよ??」
フォシュラはそっとコルリルに提案する。
コルリルも賛成だった。
「ヒロシ様!もう行きましょう!私は大丈夫ですから!」
そう言ってフォシュラとコルリルは村からゆっくり離れだす。
ヒロシは村長を睨みつけながら渋々従う。
「そうじゃさっさと出ていけ!二度と近づくな!!この穢らわしい勇者め!」
村長はヒロシ達に罵声を浴びせながら石を次々投げつける。
その声が聞こえなくなるまで移動してからコルリル達は一旦ラボに入った。
コルリルはすぐに謝った。
「すみません、私を庇って下さって」
「コルリルが謝る事ないよ?あの村が異常なのさ」
ヒロシはまだ怒りが冷めやらぬ感はあるが、僅かに微笑みながらコルリルを撫でる。
フォシュラもあの場では空気を読み黙っていたが、今は怒りを爆発させていた。
「そうよ!コルリルは悪くないわ!!あの村がおかしいのよ!!あんな村私が焼き払ってやろうかしら!!」
危ない発言をしながらカバーしてくれるフォシュラにコルリルは苦笑した。
「あ、ありがとうございます。けど私は大丈夫ですから。
あ、今度無詠唱の防御魔術を教えて下さい!
そしたらこんな時にも役立ちますし」
「ふん!それくらい全然良いわよ!なんなら投げられた石を無詠唱で火の玉にして返す魔術も教えるわ!!」
「ははは♪フォシュラは頼もしいね!
まぁ元はといえばフォシュラが僕を勇者って呼んだからバレたのが始まりだけどね♪」
「・・・ヒロシ様そこはもうややこしいから言わないで下さい!」
こうして落ち着いたヒロシ達パーティーは、最後の夜もラボで過ごす事になった。
最後の夜なのでまた歓迎会並の豪華な料理を作り皆で楽しく過ごした。
眠る頃にはコルリルは石を投げられた事はほとんど気にしなくなり、ゆっくりと眠りについた。
「おはようコルリル!今日も良い朝だね♪」
翌朝、ヒロシはコルリルに元気よく挨拶してくる。
非常にご機嫌そうだ。
「おはようございますヒロシ様。
なんだかご機嫌ですね??」
「そうなんだよ!実はラボの新機能が使えるようになってね??
一度会った人ならその人のいる場所にラボを開けるようになったんだよ♪
だから採取なんかが非常に楽になってね♪
今もゴブリン達を各地に旅立たせてるんだ♪
頃合いをみて旅立ったゴブリン達の場所にラボを開けば素材採取が楽々って感じさぁ♪」
饒舌に語るヒロシを見てコルリルは安堵した。
(よかった、昨日の一件はもう忘れたのかな??
まぁ勇者の機嫌が良いのは良いことだわ、今日は王様へ謁見なんだから!)
「それはよかったですヒロシ様!
じゃあこの流れのまま今日は王宮まで一気に行きましょう!」
「了解♪いよいよ王宮かぁ~楽しみだねぇ♪」
コルリルはヒロシの機嫌が良くなった理由はついぞ分からなかった




