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第一部 二十三話 【勇者の怒りと絆】


ディロンとフォシュラの歓迎会準備は順調に用意出来た。

コルリルとヒロシで用意した数々の料理が、机の上にところ狭しと並べられた。

ディロンは酒が好きとフォシュラから聞いていたので酒もたくさん用意した。

甘党なフォシュラの為にコルリルはデザートも大量に用意した。


料理はコルリルが主に作ったが、

意外とヒロシも料理を作れると言ってかなり手伝ってくれた。

自分が居た世界の料理をプロ顔負けの腕で作ってくれたのでコルリルはとても嬉しかった。

さらにラボの内装を変化させ華やかな色彩を壁に出し、天井からは色とりどりの装飾物を出現させた。

ヒロシは凝り性なのでラボの機能をフルに使って用意してくれたようだった。

そのおかげで歓迎会の会場は四人で祝うにはあまりにも豪華な装いになっていた。


そして夜になり、

最初ディロンとフォシュラは何も知らされずヒロシに呼ばれ恐る恐る現れた。

しかし華やかな会場を見た途端、開いた口が塞がらなくなるくらい驚いた表情を見せてくれた。


「これは、凄いな。まるで王宮だ」


「な、なにこれ〜!!

あ!私あの料理大好き!

あ!!デザートもある!!」


ディロンはあまりに華やかな部屋に驚き、

フォシュラは料理やデザートに心躍らせていた。

コルリルは二人の楽しそうな様子を見れただけで充分嬉しかった。


「さぁ!今日は私達パーティーの歓迎会です!たくさん食べて楽しみましょう!!」


こうしてコルリルの音頭で歓迎会は始まった。



歓迎会が始まるとディロンもフォシュラも料理に舌鼓を打ち、その出来栄えに非常に満足してくれていた。


「いや、しかし勇者が料理までするとはな。意外だったぞ?」


ディロンはヒロシが料理をするのが意外だったようだ。


「ん?僕だって料理くらいするよん♪

料理も研究も素材を活かすのは同じだからね♪」


「・・・いや、お前の研究とこの素晴らしい料理を一緒にするな」


食事が始まるとヒロシとディロンは意外と楽しげに話していた。

ヒロシもディロンを怒らせず、ディロンもヒロシに含みなく接していた。


(あらあら意外?!なんか良い感じで仲良くなれてるカモ!!)


コルリルは自分の策通りパーティーの絆が深まる感じがして嬉しかった。

フォシュラもヒロシが作った料理を食べて和やかな様子だった。


「ちょっと!この料理美味しすぎじゃない!!これはどっちが作ったの?!」


フォシュラは全ての料理を食べては褒め、ヒロシが作った料理もベタ褒めしていた。


「あ〜それはヒロシ様が作られました。

ヒロシ様がいた世界の料理で・・・

えっと、ヒロシ様?これはなんていう料理でしたっけ??」


「それはエビチリだよ~♪

ピリッと辛いのが美味しいだろう??」


「うん!サイコー!これ気に入ったわ!!

ほら!コルリルも食べなさいよ!」


フォシュラに渡されたエビチリをコルリルは難しい顔で見つめる。


「あー私はさっき食べたので大丈夫デスヨ」


コルリルは知っていた。あの料理のエビはエビではなく、イモムシのような虫型魔獣だと。


(い、言わなきゃバレないよね!)




そうして歓迎会は楽しげに進んでいた。

メインの料理を食べた後は各々ゆっくりデザートを食べたり、酒に酔う時間となった。


「うむ、この酒はなんという酒なんだ??

こんな旨い酒は初めて飲んだぞ」


ディロンは用意された酒を飲みその芳醇な味わいに驚いていた。


「それは僕が蒸留した酒だよ♪

名前はないんだけど、

さしずめ『ゴブリンの涙』ってとこだね♪」


「ゴブリンの涙?なぜそんな名前なんだ??」


「ゴブリン達の涙を集めて、蒸留したから♪

ゴブリンの涙には僅かなアルコール成分が含まれているんだよ♪

多分彼等の体質なのかな?血液や尿にも僅かだけどアルコールが含まれているんだよね。

だから彼らは基本的に陽気というか考えなしな感じなのかもしれない♪

そんな彼らの涙を大量に集めて、難しいけど沸かしつつアルコールとそれ以外を分離させる。

そしてほんの僅かなアルコールといくつかの素材を混ぜ合わせたら完成ってわけ♪♪」


自分が飲んでいたものがゴブリンの涙だと知り難しい表情になるディロン。


「うーむ、まぁ美味いから良いんだが・・・

ちなみに涙はどうやって集めたんだ??」


「え?聞きたい??」


「いや、やはり遠慮しておく」


ディロンは酒を台無しにしたくないので遠慮した。


「ディロン兄ぃは酒に目がないからね〜!

私はこの、どーなっつ!が気に入ったわ!!

これもあんたが作ったの??」


フォシュラはドーナツを両手に三つずつ持ちヒロシに質問していた。


「ふふふ♪その様子じゃドーナツがお気に入りみたいだね♪

僕の居た世界ではドーナツは割と簡単に作れる食べ物でね♪

今度はもちもちのポンデリングを作ってあげよう♪」


「な!なによそれ!もちもち?!ポンデ?!

分からないけど絶対美味しいじゃない!今から作りなさいよ!!」


フォシュラはヒロシに詰め寄り料理をさせようとして暴れ出した。

コルリルはその様子を見て心が和やかになっていくのを感じた。


(フォシュラと勇者も案外仲良いよね〜

・・・あの二人の方が勇者と従者っぽいなぁ)


コルリルは自分の和やかな気持ちの中にほんの少しの痛みがあるのは気付かないふりをした。



そして楽しい歓迎会も終わりに近付いた。

全員満腹まで食べ、特にフォシュラはデザートまで残さず完食して苦しそうにし、

ディロンはなんだかんだ言いながらゴブリンの涙を何本も開けすっかり酔いが回った様子だった。


「もう食べれないわ!こんなに美味しい料理久しぶりよ。

コルリル今日はありがとうね。

・・・一応勇者も」


渋々ではあるがフォシュラがヒロシにも礼を言う。

ヒロシも満更じゃない様子だった。


「いえいえ♪満足していただいてよかったよ♪」


「いや本当に美味かった。こんな美味い料理や酒は王族でもなかなか食えないぞ」


ディロンも料理を褒め、作ったヒロシとコルリルに敬意を払っている。

パーティーの絆が深まった感じがしてコルリルは非常に満足だった。


(やったぁ!これで勇者とフォシュラさん達上手くいくかも!!

最初の計画通りね!)


コルリルは本当に自分がパーティー抜けしたあとの事を気にしていたので、今回の策が上手くいき心から安堵した。


「ディロンも満足してくれてありがとう。

王族の二人に褒められたらかなり自信つくね♪♪」


ヒロシの何気ない一言に和やかなムードが一変する。

ディロンは一気に酔いが醒め、フォシュラは立ち上がりディロンのそばに移動する。


「・・・お前、なぜ俺達が王族だと知っている??」


そう言ってコルリルの方を睨むディロン。

二人は自分達の事情をコルリルにしか話していないので自然とコルリルに疑いが向く。


(いや私話してないし!てかなんで勇者は知ってんのよ!)


コルリルが慌てて弁明しようとしたがヒロシが先に話す。


「コルリルじゃないよ。

その様子だとコルリルは聞いてたみたいだね??

けど僕はなんにも聞いてないよ♪」


「ではなぜわかった??」


ディロンの問にヒロシはあっさり答える。


「いやいや、隠してるつもりだったの??

フォシュラの明らかに上から目線な態度と盗賊にしては高すぎる魔術の力、

ディロンも極めて高い戦闘力と豪華な装備に、なんとなく権威が感じられる振る舞い。

そしてこの歓迎会で見せた言動。

所々で王宮が〜とか、王族〜とか、言ってたし。

それだけ情報があればなんとなく察しは付くよ♪

多分どこかの国の王族がお忍びで盗賊をしているってとこかな??」

 

ヒロシの推理に三人は目を合わせる。


「・・・あんた気味悪いくらい鋭いわね!」


「・・・流石は研究者か。物事を見抜く目は確かな様子だな」


「てかヒロシ様!気づいたなら言って下さいよ!急に言われたらびっくりしますよ!」


三人はそれぞれ驚いた様子でヒロシに抗議する。

ヒロシはどこ吹く風でニコニコしていた。


「ははは♪まぁ半分はカマかけだけど当たってよかったや♪

じゃあ聞かせてくれるかな??君たちはどこの王族なのかな??」


問いかけるヒロシにディロン達は言いにくそうにする。

しかし一瞬躊躇したディロンだが、気持ちを切り替え決断する。


「フォシュラ、この勇者には話そう。

ここまでバレていては隠してもあまり意味はない」


「えぇ!?こいつに話すの〜??

だってこいつは私達を人質にしてるんだよ??」


フォシュラは当然のように抗議する。

しかしディロンも譲らなかった。


「本来、俺達は勇者に負けた時点で打首確定だ。

散々盗賊行為をして世間に迷惑をかけたからな。

しかも俺達の管理不足で人死も出してしまった。

勇者の言う事は正しい。俺達の考えは甘かったんだ」


潔く自分の罪を認めたディロン。

フォシュラはまだ納得がいかない様子だったが、

ディロンの意思が固いと感じ諦めた。


「・・・わかったよ。ディロン兄ぃがそこまで言うならもう良いよ」


「すまない。

・・・さぁ勇者よ、話をしようか」


こうしてディロンとフォシュラは渋々ではあるが、ヒロシに事情を話すことにした。

コルリルに話した内容を再びヒロシに話すディロン。

コルリルも神妙に聞いていた。


(ディロンさん偉いなぁ。ちゃんと自分の悪かった部分を認めて、嫌いな勇者にも頭下げて。

すごいなぁ)


コルリルがディロンの態度に尊敬を感じている間にディロンは話終わった。

ヒロシは最後まで茶化す事なく黙って聞いていた。


(あの勇者意外と黙って人の話聞けるんだ。

・・・けど何か怒ってない??)


コルリルはヒロシが人の話を聞けた事に驚くと同時にヒロシが怒っている事を感じた。

実際、話の最後の辺りでは表情を険しくし、話が終わった今も黙って剣呑な雰囲気を出している。


「話は以上だが、どうした?何かあるのか??」


話し終えたディロンが尋ねると、ヒロシはゆっくりと口を開いた。


「・・・かなりムカつくね。

君達にじゃなく、その流れの勇者にだよ。

僕の居た世界にも人の善意を踏みにじり、他者を傷つけ利益を得る、そんな奴らはたくさん居たよ、

僕はそんな奴らにはしっかり制裁が降るべきだと思うし、

実際に自分で罰を下した事もある。

だからこの世界でもそれは変わらない。

・・・ディロン?よかったら僕にも勇者探しを手伝わせてくれないかな??」


ヒロシの意外な反応にディロンとフォシュラは驚いた。

コルリルも半分は驚いたが半分は納得した


(もしかしたらこの勇者のこういう部分が勇者としての素質になったのかな??

だから、例え性格に難があっても、勇者として選ばれたのかも)


「勇者探しを手伝うって本気で言っているのか??」


「うん♪本気も本気!そういう悪は許せないんだよね〜

・・・絶対見つけ出して罰を受けさせるよ」


ヒロシは軽く言うが、その言葉の裏には重厚な意思を感じれた。


「・・・俺たちには拒否権はない。

お前の強さや賢さは知っているからな。

味方になってくれるならありがたい。

お前も良いかフォシュラ??」


「良いかって言われても、ディロン兄ぃの言う通り拒否権なんてないじゃない。

まぁ人手が増えるのはありがたいし、あの勇者がこいつに無茶苦茶にされたらスカッとしそうね!」


ディロン達はヒロシの想いを感じて戸惑いながらも了承することにした。

コルリルとしてはさらにパーティーの絆が深まった感じがして嬉しかった。


(理由はともあれパーティーの絆さらに深まったんじゃない??

これは良い傾向だわ!)


コルリルが内心で喜んでいると、ヒロシから話しかけられる。


「コルリルも良いよね?王宮についたらそこを拠点にして情報収集をしようと思うから。

もしコルリルがパーティーから抜ける事になっても出来たら手伝ってね??」


「も、もちろんです!サイマール国的にもそんな危険な勇者は野放しには出来ないですから!

それに私自身もディロンさん達の力になりたいですよ!

フォシュラさんとは王宮に着いても魔術の修行を一緒にしたいですし」


コルリルの言葉にディロンは嬉しそうにし、

フォシュラは怒り出した。


「ふん!だったらパーティーから抜けるなんて言わないでよね!

まだまだ修行は始まったばかりだし、こんな勇者と二人で旅するの私嫌よ!」


「おぉー、なかなかな言われっぷりだなぁ」


怒る魔術師、

笑顔の戦士、

あわあわする妖精、

そして勇者。

ヒロシ達のパーティーはようやくまとまりだした。

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