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第一部 二十話 【兄の力と魔術指導】


数日歩き、コルリル達は川へたどり着いた。

ヒロシはさっそく研究を始め、コルリル達はそれを黙って待っていた、

ディロンもヒロシの研究について何も言わなかった。


「あれは言っても聞かないだろう?

ああいう輩は盗賊にもいた」


「す、すみません、うちの勇者が度々ご迷惑おかけします」


ディロンは気にしていないようだが、ヒロシが川にゴブリン達を潜らせて、なにかを探し始めてもうかれこれ十二時間以上コルリル達は待たされていた。

コルリルとしてはディロンが怒らないか心配だったが、


「俺は大丈夫だが、お前は平気なのか?

早く王宮に行きたいんじゃなかったのか?」


ディロンは待たされている事は気にせず、むしろコルリルの事情を心配してくれた。


「お気遣いありがとうございます。

まぁ、多分大丈夫だと思いたいです。

もし王様がお怒りなら私は王宮に着いてすぐ打首かもですが」


コルリルは半分冗談半分本気で答えた。

これだけ遅れたらあの王にいきなり打首にされても不思議じゃなかったからだ。


「その時は逃げろ。

あんな勇者の為に死ぬことないぞ?」


そう言ってディロンは川の方を指差す。

そこではヒロシが川辺に立ちゴブリン達に必死に指示を出していた。

その周囲には水中での長時間重労働に耐えきれなかったゴブリン達が息も絶え絶えで倒れている。

中には溺死したゴブリンもいるようだった。


「・・・そうですねーアレの為に死ぬのは嫌ダナァ」


「くくく、勇者をアレ扱いとは。お前

達は面白いな」


そう言ってディロンは笑っていた。

最初は凶暴な印象が強かったディロンだが、

凶暴になるのは妹に危機が迫った時だけで、

普段のディロンは割と穏やかな人物だった。


(だからこそ気になる!何?勇者に国を滅ぼされたって?

あの後は何も話してくれないし、気になりまくりでどうしよう!)


コルリルは先日のディロンの言葉をずっと考えていた。

勇者に国を滅ぼされる。コルリルが知る限りそんな事は今まで聞いた事がなかった。

しかし、これ以上は更に複雑な話みたいで、ディロンも話しにくい様子だった。

コルリルも無理に聞きたくはないので、そのままにしているが、気になるのは仕方なかった。


そんな風にコルリルがモヤモヤしていると、

ヒロシが呼びかけてきた。


「ディロンー!!ヘルプよろしく!!」


呼ばれたディロンが顔を向けると川から無数の水棲魔獣が現れゴブリン達を襲っていた。

魚魔獣がゴブリンを水に引き込み、魚魔獣を狙った獣魔獣も現れ川は一気に騒然としてい。


「・・・やれやれ、なんで急にそんな事になってるんだ」


ディロンは呆れながら大斧を担ぎ川へ猛進していった。


しばらくして、戦闘は終了していた。

コルリルやヒロシが援護するまでもなくディロン1人でほとんどの魔獣を殲滅していた。


「うわぁ〜さすがディロンさん強すぎですねぇ??」


「うん、さすがはディロンだ♪もしこの間の戦いであのままアンデッド達に任してたら絶対負けてたね♪」


ディロンの強さにコルリルとヒロシは驚嘆していた。

ディロンは炎を使うまでもなく、通常の魔獣程度ならただの身体能力と大斧で蹴散らしていた。


「ただ、強いんだけどなぁ〜 

フォシュラと同じくちょっと困るなぁ」


そう言ってヒロシはディロンが倒した魔獣を確認する。

魔獣達は大斧により完全にバラバラになっており、ほとんど原型をとどめていなかった。


「なんだ?魔獣なら全部倒したぞ。

まさか文句あるまいな?」


ディロンがヒロシの態度に怪訝な顔をした。


「よし!決めた!ディロン?君は今日から接近戦禁止ね??

魔獣と戦う時は必ず魔術で戦うようにして??」


「な、なんだと!!?」


ディロンの叫びは血の川となった水面に静かに消えた。




川から移動し、コルリル達は再び旅を再開する。

ヒロシは川で目当てのものを見つけれたようで上機嫌だったが、

ディロンは不機嫌な様子だった。


「なぜ俺は魔術で戦わなければならん?」


ディロンはコルリルに不満を訴えてくる。

コルリルは非常に申し訳なく感じ謝った。


「ほんとにほんとに、すみません。

うちの勇者がほんとに勝手言ってます」


そう言って何度も謝るコルリル。


(私は勇者の母か!なんで私こんな謝らされてるのよ!)


コルリルも内心で勇者に対する不満が溜まっていた。

ヒロシの今回の言い分は、ディロンが接近戦で倒した魔獣はバラバラ過ぎて研究しにくいという理由だった。

だからフォシュラとは逆にディロンには魔術で戦うように指示したのだった。


「そもそも俺は戦士であって魔術師ではない。

魔術も基本的なものは使えるが、フォシュラの足元にも及ばんぞ?」


「そ、そうですよね。

わ、私がなんとかディロンさんが魔術を使えるように指導します!

ディロンさんは基本は出来てるならきっと上達も早いですよ!」


コルリルはディロンを励ましながら魔術の指導役をかって出る。

その言葉を聞きヒロシが振り返る。


「え〜!コルリル、ディロンに魔術教えるの?!

妖精と人間は魔術形態が違うから無理って言ってたじゃん!」


「そ、それはヒロシ様はまだ魔術の基本も知らないから言ったんです!

ディロンさんは基本は出来るみたいなので、そこから伸ばしていく分には私でもサポート出来ますから!

それにフォシュラさんには、もう指導したり逆に指導してもらったりしてますから。

だから妖精も人と魔術の訓練は出来るんですよ」


「えーいつの間に!なんか僕だけ魔術使えないのは不公平だなぁ」


不満たらたらのヒロシと弁明するコルリル。

その二人の間からディロンが割り込んできた。


「魔術の訓練とやらは実践ですると言うわけか?」


そう言ってディロンが前方を指差すと、そこから猿型魔獣の群れが現れた。

森を縦横無尽にかけながらこちらに向かってくる。

明らかに敵意があるようだった。


「な、なんでいきなり!?」


「あ〜多分さっき先行させたゴブリン達が刺激したのかな?

ゴブリンには魔獣を見つけたらこちらに誘導するよう指示してるし」


「そういう事は早く言って下さい!!」


コルリル達はすぐに臨戦態勢を取った。

しかしディロンはヒロシに大斧を取り上げられているので丸腰だった。


「おい、斧を返せ、敵が来るぞ?」


「いやいや、接近戦禁止だろう?ちゃんと魔術で戦ってね?

素手も禁止だからね?もし破ったらフォシュラがどうなるかなぁ〜」


「・・・貴様」


「こんな時にそれ止めてー!!」


議論する間もなく猿型魔獣との戦闘が始まった。



猿型魔獣との戦闘は激戦になった。

複数で縦横無尽にせまる猿型魔獣をコルリル達はそれぞれで迎撃した。

ヒロシは以前見せた鳥型魔獣のクチバシを使ったハンマーで応戦していた。

ハンマーを自在に操り猿型魔獣を撃退していくヒロシはかなり戦い慣れしているようだった。


(あの勇者、接近戦もかなり強い!以前見た合気?とかいう技もすごいけど割と強いのかも?)


コルリルはヒロシに感心しながら魔術で応戦する。


「地の槍、穿て!敵を貫き天まで届き、

我の道を切り開け!アースランス!!」


コルリルが詠唱魔術を唱えると地面から複数の土の槍が現れ猿型魔獣を串刺しにしていく。

詠唱が終わったらすぐに移動し、新たに魔術を唱えだす。

典型的なヒットアンドアウェイの魔術師の立ち回りでコルリルも安定して戦えていた。


しかしディロンはというと、


「くっ!炎よ!小さな・・・

光輪・・あ、暖かな光・・

あっ!くそ!!」


ディロンは魔術で攻撃しようとするが、慣れていない魔術にかなり苦戦していた。

詠唱しながら魔力を貯め狙いを合わせ撃つ。

それがディロンには苦手なようだった。

さらに猿型魔獣達の攻撃も避けつつ詠唱しなければならず、

途中で攻撃されるたびに詠唱を中断させられていた。


「ちっ!これでは無理だ。

おい!勇者!このままではヤバいぞ!」


ディロンはヒロシに呼びかけるがヒロシは無視していた。

ディロンの呼びかけには答えずハンマーで敵を倒しながら器用に死体を都度都度ラボに放り込んでいくのに夢中になっていた。


「くっ!!!」


「ディロンさん落ち着いて下さい!」


コルリルはたまらずディロンの下へ駆けつけた。

ディロンを落ち着かせつつ、しっかり魔術を使い猿型魔獣を牽制する。


「ディロンさん、落ち着いて魔術を使いましょう!

基本は出来てますからあとは実践するだけです!

まずは小さな小さな火で良いから出して見ましょう?」


「無理だ、俺は魔術は士官学校時代に使ったきりだ。

もうやり方も忘れてしまったぞ」


ディロンは諦めて素手で猿型魔獣と応戦しようとする。

そんなディロンをヒロシが戦いながらも見ている事に気付いたコルリルは慌てて前に飛び出す。


「ディロンさん待って下さい!私がちゃんとサポートしますから!

最悪素手で倒しても私がちゃんとフォシュラさんも守ります。

だけどまずは魔術を試してみましょう??

最初から諦めるよりその方が勇者の印象もマシなはずです!」


必死にディロンを止めるコルリル。

その懸命な様子にディロンは手を止めてくれた。


「・・・わかった」


ディロンは、コルリルのアドバイス通りまずは小さな火を出そうと詠唱を始めた。

ゆっくりと集中し、詠唱している。

コルリルはその間必死に猿型魔獣からディロンをカバーした。

そうして出来た火は、魔獣を焼くにはあまりに小さな火だったが、ディロンは出すことが出来て、魔術の感覚が掴めたようだった。


「お、これだ。魔術を使う感覚、久しく忘れていたぞ!」


(やっぱり!ディロンさんの魔力の流れはかなりスムーズだった。

ちゃんときっかけさえあれば出来ると思ったわ!)


コルリルはディロンの魔力を見て、出来ると判断しサポートしていた。

その読みは当たり、ディロンは小さな火をだんだん大きくしていく。

最初のきっかけさえ掴めれば火はやすやすと大きく出来た。


「炎よ!小さな光輪!暖かな時!

刹那の安らぎと力を放て!

ファイヤービット!」


今度はしっかり詠唱しディロンが魔術を放つ。

放たれた魔術は猿型魔獣に命中し火だるまにした。


「よし!なんとかいけるぞ!!」


「その調子ですディロンさん!

じゃあ次はもっと広範囲魔術にしてみましょう?!」


「了解だ!」


こうしてディロンはコルリルに指導されながら実践で魔術の使い方をマスターしていった。



しばらくして、三人とも無事に戦闘を終えれていた。

ヒロシは傷一つなく余裕がある様子で、倒した魔獣をゴブリン達がラボに運ぶ作業を監督していた。


コルリルは傷はないも疲れ果てていた。

常に魔術を行使しながら、ディロンに指示を出しつつ魔獣の攻撃も避ける。

神経がすり減る作業を延々と繰り返したせいで、もはや飛ぶ力も残っていなかった。


(も、もうムリ。し、死んじゃう。つ、つ、疲れたぁぁぁ〜)


コルリルが力尽きかけているとディロンがそばにやってきた。

ディロンは全身傷だらけでかなり疲労している様子だったが、

心なしか満足気な様子だった。


「すまない。大丈夫か??

お前のサポートとても助かったぞ。ありがとう」


素直に礼を言うディロン、実際コルリルの指導のおかげで戦いの終わりにはディロンの魔術はかなり上達していたからだ。


「は、はい。お役に立ててよかっ、たです」


「すまん、俺のせいでかなり疲労しているようだな。

よしっ!手を貸すぞ」


そう言ってディロンはコルリルをそっと掬い上げ両手で恭しく包む。


「ちょっ!ディロンさん?!」


「このままラボに運んでやろう。

ゆっくり休むと良い。」


ディロンの突然の行動にコルリルは慌てる。


(ちょっとちょっと!ディロンさんめちゃくちゃ紳士だよ〜!!

顔は厳ついけどめっちゃ優しいし素敵だなぁ~)


コルリルが内心ときめいているとヒロシが声をかけてきた。


「あれ?コルリルどうしたの??魔獣にやられちゃった??」


「コルリルは俺のサポートで疲弊しすぎたようだ。

一度ラボで休ませたいが構わないか??」


「あ〜、なるほど。じゃあラボで適当に休んでいて??

ディロンも今は中に居ていいよ?

僕はしばらく素材回収に忙しいから♪」


ヒロシはあっさり了承しラボを開ける。


「す、すみませんヒロシ様。私アシスタントなのにお役に立てず、すみません」


コルリルは自分だけ休む罪悪感でとっさに謝る。

しかしヒロシは、


「ん?コルリルはちゃんと役に立てたよ♪

ちゃんとディロンのサポートしてくれたから素材がたくさん手に入ったし♪

ありがとうコルリル、ゆっくり休んでね??」


ヒロシはコルリルを労い、頭をそっと撫でその場から立ち去りまた素材回収を始めた。


(な、なになに?!なんでみんなこんな優しいの??

へへへ♪私モテ期かなぁ〜???)


コルリルはヒロシにも優しくされ思わず顔がニヤける。

そんな顔のままラボに入り、フォシュラと会った途端、


「うっわ!コルリルあんた顔キモイけどなに?!どうしたのよ?!」


と、フォシュラに鋭い指摘をされてしまった。

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