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第一部 十九話 【奇妙な旅路と兄】


コルリル達は改めて王宮を目指す旅路を再開した。

相変わらずヒロシは度々足を止め研究に夢中になるので、旅路は非常にゆっくりしたものだったが、

フォシュラと絆を深めれたのでコルリルは今までの旅路よりは楽しく過ごせた。


旅自体は魔獣と戦ったり、また盗賊を見つけ討伐したり、なかなか波乱の旅路だったがフォシュラの力と、成長したコルリルの魔術でなんなく切り抜けれた。

ヒロシは戦闘には参加せずコルリル達が倒した魔獣の研究や、

新たに捕まえた盗賊達への人体実験に夢中だった。


「いやぁ!やっぱりフォシュラを仲間にして正解だなぁ!!こんなに研究素材が簡単に手に入るんだもん!

ほんとに助かるよ♪♪」


この日は大量の虫型魔獣を討伐し、素材を大量に確保できてヒロシはご機嫌だった。

コルリル達はというと肩で息をしながらようやく終わった戦闘にホッとしていた。


「簡単じゃないわよ!!あんたも戦いなさいよ!!

てかなんであんたに戦い方を指定されないといけないのよ!!?」


フォシュラは最近の戦闘では接近戦のみで戦うようにヒロシから指示されていた。

そのせいで不慣れな接近戦をせざる得ないため、非常に不機嫌そうだった。


「だってフォシュラが火炎で倒した魔獣はみんな黒焦げで研究しにくいんだもん?

だから接近戦ならまだましだしお願いしてるんだよ♪♪

お兄さんが大事ならちゃんと接近戦で戦ってね??」


ボソッと脅しをいれるヒロシにフォシュラはカッとなる。


「うるさいわね!!わかってるわよ!!ディロン兄ぃになにかしたら承知しないんだから!!」


そう言ってそっぽを向いてしまうフォシュラ。

コルリルは思わずヒロシに詰め寄る。


「ヒロシ様!そんな風にディロンさんを使って脅すのはやめてください!!

何度も言いますが兄妹を人質にするなんてダメです!!」


「だって彼らは悪い事してきたんだから当然の罰だよ??

普通に捕まったら死刑なんだからこれくらいの罰全然良いじゃない??

自由に動けるし、ご飯は食べれるし。

彼らに食料を奪われた村人はご飯すら食べれなかったんだよ??」


コルリルの注意を受けてもヒロシは素知らぬ顔で魔獣の素材を確認している。

ゴブリン達に指示を出しながらヒロシはさらに話す。


「それに、彼らは自分達は良い盗賊みたいな感じでいたのもダメだよね。

人の物を奪う時点で殺しはしなくても悪人には違いないし。

そんな勘違いなバカにはイライラするんだよね~」


そう言ってヒロシはフォシュラの方をチラとみる。

フォシュラは腕を組み明後日の方を向き、絶対にコルリル達の方をみないようにしていた。


「た、確かに二人は間違った事をしたかもしれません!

けどだからってこんな風に奴隷みたいにするのはちょっと酷いですよ?!

せめてディロンさんかフォシュラさん、どちらかは解放してあげませんか??」


コルリルはフォシュラの為必死に訴えるがヒロシは鼻で笑って流した。


「いやいやいや。コルリルはちょっとお人好しすぎるよ。

フォシュラとディロン、片方を人質にしてるから残り片方がちゃんと言う事を聞くんじゃない。

もしディロンを解放したらフォシュラはすぐ転移魔術で逃げ出すよ??

そしてまた二人で正義の盗賊ごっこをしだすんじゃない??

二人で陳腐な主義に浸ってる間に手下が人を殺してるのも気付かずに」


コルリルはフォシュラ達の部下が二人に黙って悪事をしていた事は聞いていた。

その部下達がどんな最後を迎えたかも。


「それは確かにひどかったかもしれませんが、でもそれはヒロシ様がその人達にした研究で充分断罪されたと思いますよ??

フォシュラさん達は知らなかったんですから仕方ないじゃないですか?!」


「部下の責任は上司の責任だよ?

それに人が死んでるんだから、

知らなかった、

仕方ない、では済まないよ?

コルリルちょっと甘いんじゃない??」


ヒロシはいつになく冷たく言い放つ。

その迫力にコルリルは何も言えなくなる。


「知ってた?殺す前に奴らから聞き出したんだけど、殺された村人の中には小さな子供も居たんだよ??

優しいお母さんや、

人生を平和に生きてきたお年寄り、

一家を守る働き手のお父さん。

そんな人達を無惨に殺して僅かな金品を奪った盗賊達のボスが彼らだよ??

はっきり言って同情の余地はないし、

今もどの面下げて僕に文句言ってるのかと思ったけどね?

彼らに殺された村人の家族は一生彼らを憎むし、憎まれて当然だよね〜

それなのに自分達はぬくぬくと生きてるなんて良く平気でいられるよね〜」


ヒロシは後半はあえてフォシュラに聞こえるように嫌味ったらしく話していた。

フォシュラは変わらず腕を組みこちらを向かないが、組んだ腕は震え、耳は赤くなり、泣くのを必死に堪えているような様子だった。


「やめてください!!もういいです!」


そんなフォシュラの様子を見てられなくなりコルリルは叫んで話を終わらせる。

ヒロシは何も言わずまたゴブリン達に指示を出しに戻っていった。

コルリルはフォシュラにそっと近づき話しかけた。


「フォシュラさん大丈夫ですか?

すみません、私が余計な事言ってしまって。」


「・・・いいわよ。全部ホントの事だし。

ありがとうコルリル」


フォシュラは鼻をすすりながら、決してコルリルの方を見ないようにして話す。

その声はかなりうわずっていた。


その後魔獣素材をあらかた回収したヒロシは満足気にコルリル達の所にやってきた。


「はい!お待たせ!じゃ旅を再開しよっか?

その前に、フォシュラ。ディロンと交代するよ。

ラボに帰って?」


ヒロシはフォシュラにラボに入るように促す。フォシュラは何も言わずすぐにラボに消えた。

フォシュラが消えたあとヒロシもラボに入りディロンと出てくる。

ディロンはヒロシを睨みつけていた。かなり怒っている様子だ。


「貴様、フォシュラになにかしたのか!?

泣いていたぞ!!」


妹の涙を見てディロンは激しい怒りを見せる。しかしヒロシは全く気にしていなかった。


「何もしてないよ。ただ君達の悪事をちゃんと説明してあげただけ。

さぁ早く行こう?王宮までまだ遠いみたいだからね」


そう言って歩き出すヒロシ。ディロンは睨みつけながら渋々あとに従い歩き出した。




コルリルはディロンとはまだあまり仲良くなっていなかった。

ラボの外にはフォシュラがほとんど出ていたので、ディロンとは少し話した程度だからだ。


(フォシュラさんがあんな風に泣くなんて・・・

大丈夫だったかディロンさんに確認しとかないと)


コルリルはフォシュラの事が気になる為、移動しながらディロンに話しかけた。


「あの、ディロンさん?フォシュラさん大丈夫でしたか??やっぱり泣いてたんですね?」


コルリルに話しかけられディロンは少し驚いた様子だった。


「ああ。泣いていたが大丈夫だと言っていた。フォシュラは強い子だ、少し一人にしてやれば落ち着くだろう。

・・・あの勇者、フォシュラに何をしたんだ??」


ディロンは敵意をむき出しにしてヒロシを睨みつける。

ヒロシはニコニコしながら森を探索し歩いている。敵意には全く気がついていないようだった。


(あの勇者案外鈍いのかしら??)


コルリルはヒロシに呆れつつ、何があったかディロンに説明する。


「・・・というわけで私が軽はずみに話したせいでフォシュラさんが責められる事になったんです。

ほんとにごめんなさい」


頭を下げ謝るコルリルにディロンは困惑する。


「よせ、お前のせいじゃないだろう?

お前はフォシュラの為に尽力しようとしてくれたんじゃないか。

悪いのはあの勇者と俺だ。

あの勇者がした事には腹が立つ。

だが盗賊をしていた事、部下の不始末、全ては俺の責任だ」


そう言って苦々しい表情で俯くディロン。

自分の不甲斐なさを恥じている様子だった。


「ディロンさんだけのせいじゃありませんよ。

盗賊をしていたのにはなにか事情があるんでしょう??

それに部下の不始末を全てあなたが負う事はないんですよ。

たくさんの部下の行動全てを監視するわけにはいかないですし」


「ありがとう、だが罪は罪だ。

俺たち兄妹の目的を果たしたら必ず罰を受けるつもりだ」


「目的って??」


「それは・・・済まないが話すつもりはない。

俺とフォシュラの問題だ」


そう言ってディロンは早足で離れてしまう。

コルリルは今はまだ聞けないと判断し様子をみることにした。




それからしばらく旅は順調に進んだ。

ヒロシはこの地域の研究はあらかた済ませた様で、今は王宮に意識が向いている様子だった。


「ねぇコルリル?王宮まではあとどのくらいかな??」


「ん〜多分あと二日程あれば着くと思います。

もちろん真っ直ぐいけば、ですが」


問われたコルリルはさり気なく釘を刺す。

すでにフシリ村を出てから一ヶ月以上経つ、

コルリルがヒロシを探しに王宮から出てからなら、二ヶ月近くになる。

もうすでに大遅刻だが、これ以上王を待たせたくはなかった。


(そろそろヤバいよね?もうヤバいけどそろそろ着きたいよねぇ)


「はいはい。

あ、けど近くに川はないかな??ちょっと用事があるんだけど・・・」


コルリルの悩みを知らないヒロシはまた寄り道しようとしているようだった。

コルリルはため息が出てきた。


「・・・はぁ川ですか?えーと、川はどこにあるかなぁ??」


コルリルは一応地図を開き探そうとした、するとあまり喋らないディロンが話しだした。


「・・・川なら少し離れるが、ここから三日程南西に行った先にある」


コルリルはディロンが提案してくれた事に驚きつつ、三日かかるのは大丈夫だろうか?と考えた。

すでに遅刻だが、ここから更に三日、往復六日だ。

王宮に着くのが六日も遅れてしまう。

この遅れは大丈夫か?と自問自答したくなるが、


「いや、三日もかかるならいいや~

このまま王宮に行こう?」


コルリルが考えていたら、ヒロシはあっさり諦め王宮を目指すと言い出した。

コルリルとしては幸運だったが、

川へ行かないと聞いてディロンががっくりきている様子だった。


(ディロンさんは行きたかったのかな??

何か事情があるのかな??)


コルリルはディロンが川に行きたがっていると感じた。

そこで王宮につくのは遅れるがヒロシを説得することにした。


「ヒロシ様!あの、私も良かったら川に行きたいんですが?

ちょっと水浴びをしたくて・・・」


コルリルは苦し紛れの理由を付け足し、川に行く事を提案した。

難しいかと思ったが、ヒロシはあっさり了承した。


「あ、そうなの?コルリルが行きたいなら是非行こう♪♪

ディロン案内してよ♪」


川に行く事が決まりディロンは驚いた様子だったが、すぐに黙って案内を始めた。



移動の途中で、ヒロシから離れてディロンがコルリルに話しかけてきた。


「先程は済まない、お前が言ってくれなければ川には行けなかっただろう」


コルリルに感謝し、頭を下げるディロン。


「いえいえ!何か事情があるんですよね??

全然こんなことで良かったらお助けしますので大丈夫ですよ!

むしろこちらこそすみません。

フォシュラさんにも謝ったんですが、人質の件で、ディロンさん達には本当に申し訳なく思っています」


そう言ってコルリルも頭を下げる。

ディロンは首を振って否定した。


「よせ、その件については勇者が正しい。

やり方はどうあれ、俺達は敗れたんだ。

今までしてきた事を考えたら死刑も納得だ。

それを死なずに済み、ちゃんと兄妹揃って生きてゆける。

俺からは文句は全くない。

まぁこれはわがままだが、奴がフォシュラに酷い仕打ちをしたら許さんがな」


「はい、ディロンさんがいない時は私がちゃんとフォシュラさんを守ります!

フォシュラさんのことは・・・

私は友達と思ってますから。」


コルリルの言葉を聞いてディロンは目を丸くしていた。

それからにこやかに微笑んだ、コルリルはディロンの態度がぐっと柔らかくなったように感じた。


「そうか。お前がフォシュラの友達か。

・・・最近フォシュラが明るくなってな。

盗賊業をしている間はめったに笑わなかったあいつがニヤニヤしているんだ。

俺が何かあったのか尋ねても何も言わない。

多分外で良い事があったのか、と予想していたが、

良い友達を見つけれていたのだな」


コルリルはフォシュラも自分の事を友達と思ってくれているかもしれないと知り、嬉しくなった。


「へへへ♪それなら嬉しいです♪

あ、ちなみにディロンさんは何で川に行きたいんですか??」


「お前と同じだよ。フォシュラが水浴びをしたがっていてな。

だから出来たら水浴びをさせてやりたかったんだ」


「あ〜なるほどです。じゃあ是非行きましょう!

まぁ私は妖精なんで川になんて入ったら流されちゃうかもなんで入れませんが」


「ん?ではなんで水浴びをしたいと嘘を??」


「それはディロンさんが川に行きたそうだったからですよ~

別にこれくらいの嘘は許されるでしょう♪」


コルリルはあっさり嘘を認めた。

ディロンはコルリルが自分の為に嘘をついてまで意見を合わせてくれた事に感動した様子だった。


「済まない。気を使わせ嘘までつかせてしまったな。

申し訳なかったが、ありがとう」


「いえいえ!全然大丈夫です!

もう同じパーティーなんですから気にしないで下さい!

戦闘になればディロンさんを頼りにしますからよろしくです!」


コルリルはにこやかに笑ってディロンと話せた。

いつの間にかフォシュラと同じように気兼ねなくディロンと話せるようになっていた。


(ディロンさん良い人だなぁ~

最初はちょっと怖かったけどやっぱり話したらフォシュラさんと同じで良い人だぁ)


コルリルがディロンと仲良く出来た事を嬉しく思っていると、

ディロンが話し出した。


「・・・前に何故俺とフォシュラが盗賊をしているか尋ねたな?」


ディロンの突然の問いかけにコルリルはポカンとなった。


「はい、あ、けど言いたくないなら大丈夫ですよ??」


コルリルの言葉を受けた後、ディロンは一呼吸置いてから話しだした。


「俺たちの国を滅ぼした勇者を必ず殺す。

その為に盗賊をしていたんだ」


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