第一部 十七話 【兄妹の事情と妖精の心情】
「はぁーっ!!」
コルリルの目の前でフォシュラ・バーンが炎の剣を振るい魔獣を切断した。
「次!!」
フォシュラが言うまでもなく次々と魔獣が襲いかかる。フォシュラは炎の剣と盾を出し、近接戦で魔獣を倒していく。
爆炎姫の名のように舞い踊り敵を両断するフォシュラはある種の美しさも兼ね備えていた。
コルリルはそんなフォシュラに見惚れつつ自分も魔術で援護する。
「石、それは大地の力、敵を穿つ力をわずかばかり貸し給え。ストーンエッジ!」
コルリルは土魔術で鋭利なリングを作り出しフォシュラの後方の魔獣を次々と打ちのめす。
フォシュラはコルリルを振り返り叫んだ。
「あんたねぇ?!どうせ援護するならもっと大魔術使いなさいよ!それかそんなショボい魔術なら無詠唱で使いなさい!!」
「無理ですよ!無詠唱魔術はまだまだ練習中って知ってるでしょー?!」
「うるさい!!!」
お互いに口論しながらもしっかり戦闘は行えている。
この数週間でフォシュラとコルリルはすっかり息があっていた。
数週間前、
盗賊団との戦闘後、ヒロシと別れてから一週間が経った。
コルリルは未だ現れないヒロシをフシリ村で待ち続けていた。
「遅い、遅すぎるあの勇者!!」
数日と言っていたヒロシの研究はすでに一週間を過ぎていた。
コルリルからはラボにアクセス出来ないのでただ待つしかないのが余計に腹立たしかった。
コルリルはヒロシと別れてから生き残ったアンデッド達を倒し、
(非常に疲れる作業だった)
フシリ村へ戻り戦果を報告し、
(村中大感謝だったのは良し)
事情を聞いた村長の好意で、ヒロシが帰るまで村の空き家で休ませてもらっていた。
最初は数日ゆっくり休み、旅や戦いの疲れを癒そうと思ったコルリルだったが、
流石に昨日あたりからイライラで頭痛がしてきていた。
(ありえないでしょう!?もう一週間ですけど?!これ以上遅くなったら私が王に殺されますけど?!)
そんなふうにイライラしながら待っているとようやくヒロシが村はずれに現れたと知らされたのだった。
ヒロシが現れた報を聞きすぐに駆けつけたコルリルは村人達とともに凍りついた。
村に帰ってきた満面の笑みのヒロシ、その隣にはなんと。
「フォシュラ・バーンよ!私はこの勇者のパーティーに入ったから!!
あんたが妖精のコルリルね?!偉そうにしたら焼き殺すからね?!!」
屈辱的な立場を耐えながらフォシュラが名乗りを上げていた。
コルリルは言葉も出ず、頭痛はさらに激しくなった。
コルリルはひとまず村人の動揺を避ける為すぐにフォシュラと共に村から出発する事にした。
挨拶もそこそこに村から出てしばらく移動する、
落ち着けそうな場所まで移動してから改めてヒロシに事情を尋ねた。
「ヒロシ様?何で彼女はパーティーに入っているんですか??」
フォシュラは少し離れた所でそっぽを向いている。
コルリルは出来るだけフォシュラに聞こえないようそっと話しているのだが、
ヒロシはそんなコルリルを見てとても愉快そうに笑った。
「はははっ!コルリル?どうしてそんな感じなの??久しぶりだから照れてるのかな??」
ヒロシはヘラヘラしてご機嫌そうだった。
コルリルとしては顔面に魔術を叩き込みたい所だったがぐっと堪えた。
「・・・ヒロシ様?一週間も遅れた事や、事後処理も全部私に任せっきりにしたのはまぁいいとしますが・・・」
「あぁ!そう言えば村から奪われた食料やら金品があったんだった!
おーい!誰かこれ村に届けてきてよ!」
ヒロシはコルリルを無視し、ラボのゴブリンに指示を出している。
コルリルは思わず声を張り上げた。
「ヒロシ様!!ちゃんと話して下さい!!
何で先日まで殺し合っていた相手がパーティーに入ってるんですか?!」
「えー?そんな事わかりきってるじゃん♪
フォシュラの実力が高いからだよ♪
あれだけの強さなんだから仲間にしない手はないでしょ??
もちろんディロンもセットで仲間入りしてるからね♪」
ヒロシはバーン兄妹が揃ってパーティー入りしたと告げた。
コルリルとしては全く信じられなかった。
「いやいや?!ありえないでしょう?
私達が完勝したならまだしも、 罠に嵌めての勝利だったじゃないですか?!
それなのにあの二人が大人しく言う事を聞くなんてありえないでしょう??」
「そうかな??てかそんなにフォシュラが気になるなら直接聞けば良いのに♪」
ヒロシはそう言ってそれ以上教えてくれなかった。
腹立たしいが、コルリルにはフォシュラに直接聞くしかなかった。
「あの〜フォシュラさん??ちょっとお話良いでしょうか??」
意を決し恐る恐るフォシュラに近付き話しかけるコルリル。
コルリルとしてはフォシュラの実力は自分を上回るし、機嫌を悪くすれば本当に焼かれかねないと思い気が気でなかった。
「なによ?!」
フォシュラは機嫌はすこぶる悪そうだが話はしてくれそうだった。
「あ、あのすみません。
どうしてパーティーに入ってくださったのか教えてください。
正直私達を恨んでるんじゃないかと思ったんですが・・・」
「恨んでるに決まってるでしょ?!!!
あのバカ勇者は私だけじゃなくディロン兄ぃまで捕まえるし!
私には信じられないくらい最低な麻痺をかけてくるし!
あんたも私を嵌めてあの気味の悪いラボに誘導したでしょう?!!
ふざけんじゃないわよ!!」
大声で怒りまくるフォシュラにコルリルは完全に心が折れてしまった。
「・・・す、すみません」
「ふん!」
フォシュラはそっぽを向いてまた黙ってしまった。
こうして
フォシュラ・バーン【A級魔術師】
ディロン・バーン【七段戦士】
二人の心強い仲間が理由のわからないままパーティーに加わったのだった。
パーティーの事は懸念があるが、コルリルはひとまず王宮を目指す旅路を再開する事にした。
フシリ村から王宮までは普通に行けば一週間の道のりだが、今までの旅でコルリルは絶対一週間では終わらないと確信していた。
「ではヒロシ様、王宮を目指して再度旅を始めます。
できるだけ寄り道せず行きましょうね??」
「了解了解♪まぁ研究はほどほどにしとくヨ♪」
全く当てにならない返事にげんなりしながらコルリルはフォシュラの様子を伺う。
王宮に行くとなると盗賊のフォシュラは捕まる可能性があるのにもかかわらず、あまり行き先に興味はないようだった。
今もイライラしながら離れていた。
「あのー?フォシュラさんもそれでよろしいでしょうか??」
コルリルは一応フォシュラにも確認する。
「うるさいわね!勝手にしたらいいじゃない!!」
「・・・はい、すみません・・・」
こうして全くまとまりのないままパーティーは一路王宮を目指すのだった。
王宮への旅路はやはり一筋縄ではいかなかった。
理由はもちろんヒロシの研究のせいだった。
先日の旅路と同じくヒロシは度々立ち止まり、寄り道し、あらゆる物を研究しようとした。
あるときは道の花に興味を示し花が枯れるまで観察しようとし、
あるときは襲い掛かる魔獣を捕まえ、あと百匹は捕まえたいと言い、
ゴブリン達に周囲のあらゆる物を回収させたりと、いちいち旅の遅れを招いていた。
最初はコルリルも急かしたり、怒ったりして対処していたが、だんだん諦めの気持ちが多くなり最終的にはヒロシの好きなようにさせることにした。
(あの勇者は何言っても聞かないしもういいやぁ・・・
それより気になるのは・・・)
コルリルが気になるのはヒロシよりフォシュラだった。
フォシュラは一緒に旅をしていても終始無言でイライラしていた。
そして、時折ヒロシの研究で旅が中断する時に舌打ちするくらいで、全く自分の意見や言葉を出さなかった。
そのせいでコルリルにはフォシュラが何を考えているのかわからなかった。
(やっぱりパーティー入りした理由を聞き出さないといけないよね。
じゃないとあの子が何を考えてるのか、どういうつもりなのか全然わからないもん)
コルリルは時折フォシュラに話しかけ会話をしようとしたが、たいてい無視されるか怒鳴られるかだった。
コルリルがフォシュラとコミュニケーションを取ろうと四苦八苦してる最中、ヒロシはひたすら研究をする。
そんな歪なパーティーで旅が上手くいくはずはなかった。
フシリ村を出て十日、王宮への道のりはまだ二割も進んでいなかった。
今日もまた旅が始まって間もなくヒロシがこう言った。
「ごめん!コルリル、フォシュラ、ちょっとラボで出来る研究を思いついたから行ってくるよ♪
多分今日か明日には戻るからちょっと待ってて!!」
そう言ってヒロシは止める間もなくラボを開き中に消え入口を閉じてしまう。
コルリル達はただ待つしかなかった。
(またかぁ〜多分五日は帰らないな。
・・・まぁ仕方ないかぁ。
あんな勇者だもんなぁ〜
けどこの子とずっと二人きりはちょっときついなぁ)
コルリルはヒロシについてはもう諦めていたが、フォシュラと二人きりになるのは気が進まなかった。
コルリルが内心げんなりしていた時、
我慢の限界を超えた様子のフォシュラが叫びだした。
「ふ、ふざけんじゃないわよ!!!
いい加減にしてよ!!
何なのあの勇者はぁぁぁぁぁあ!!!
自分勝手にも程があるでしょ!!
あぁぁぁぁぁ!イライラするぅ!!!!!」
フォシュラは絶叫しながら大火炎を爆裂させ、空中で巨大な火の玉を作り地面に叩きつけた。
コルリルは爆風で吹き飛ばされないように物陰に隠れながら様子を伺った。
(相当ストレスが溜まってたのね・・・
その気持ちわかるなぁぁ~)
コルリルがフォシュラに内心共感していると、辺り一帯吹き飛ばしたフォシュラは少し落ち着いたようで、肩で息をしながら火炎を収める。
コルリルはそっと近づきフォシュラに話しかけた。
「あの、フォシュラさん?イライラする気持ちすっごくわかります。
私から代わりに謝らせてください、
勇者が振り回してしまってほんとにごめんなさい・・・」
申し訳なさそうに謝るコルリルを見てフォシュラは怪訝そうにする。
「・・・なんであんたが謝るのよ?
悪いのはあのバカ勇者でしょう?
あんたは悪くないじゃない」
フォシュラの意外な反応にコルリルは少し驚いた。
「いえ、勇者の不始末は召喚した私の責任です、だから私も悪いです。」
「あ、やっぱりあんたがあのバカを召喚したんだ?
なんであんなバカを召喚したのよ??
もっといいのを召喚しなさいよ!」
「すみません、私も何回か勇者を召喚したけど、あんなのは初めてです」
コルリルとフォシュラはそれからしばらくヒロシの悪口を言い合った。
そのおかげかいつの間にか二人は少し打ち解けていた。
「あー!愚痴はいたら少しスッキリしたわ!!
ありがとう!コルリルって言ったっけ?
ごめんね?今まで冷たくして悪かったわ」
「いえいえ、私こそフォシュラさんをこんな目に合わせてしまいすみませんです。
あの、よろしければパーティー入りした理由を聞かせてくれませんか?」
コルリルはフォシュラと少し打ち解けたのでパーティー入りの理由を聞いてみる。
「ん?あのバカから聞いてないんだ?
・・・あいつラボにいるディロン兄ぃを人質にしたのよ。
私がパーティーに入って力を貸さないとディロン兄ぃを殺すって。
逆に私がラボにいる時はディロン兄ぃが力を貸すように言われてるわ。」
あんまりなパーティー入りの理由にコルリルは気を失いそうだった。




