第一部 一話 【スキル検証と初研究】
白星弘志は死亡した。
ヒロシは、はっきり自分の死を感じたのにも関わらず、今は見知らぬ森の中に一人でたたずんでいる。
(やっぱりあれは死に際の空想じゃなかったのか)
ヒロシは先ほどまでの光景を思い出していた。
ヒロシは現実世界で死んだ後、魂なのか意識だけなのかわからないが、真っ白な空間に1人でいた。
身体は死ぬ前と変わらなかった。
服はなぜかファンタジーに出てくるような旅衣装だった。
『なにこの服??』
辺りを見渡すと、前後左右真っ白で広がりがあり、果てはなさそうな空間だとわかった。
そこにどのくらい居たのかもわからないが、突然白くて大きな、天使のような神のようななにかが現れた。
その白い者はヒロシに語りかけた。
『お前は死んだ。命は終わり新たな命に変わる』
『しかし異なる世界より命の降誕の儀あり』
『お前は以前とは異なる世界で生まれ変わる事となる』
『新たな命、新たな使命、前世より良き道を行けるようお前にスキルを渡そう』
『さぁ選べ、我にありし無数のスキルより一つ選べ!』
白い者は好き勝手に語り、ヒロシにスキルを押し付けようという。
ヒロシにとっては全く意味がわからないし迷惑な話だった。
『なぜ死んだ僕がまた生き返らなければならないんだ?そもそもお前は誰だ?』
『我は世界を保つ者。お前が生き返るのは異世界を救うにあたる適正があり、選ばれた者だからだ』
反抗的なヒロシの態度を気にする様子もなく白い者は語る。
『そもそも我は世界を保つ為に・・・』
白い者は滔々と自分の使命や崇高さを語りだす。
ヒロシには、はっきり言ってつまらなかった。
それよりスキルとやらに興味が出てきた所だった。
『あ、もういいよ。君の話は全然興味が沸かないからね。
もうめんどくさくなったから早くスキル?をくれないかな??』
『・・・ならば選べ我にありしスキルより一つをお前にさずけよう』
白い者はスキルの一覧を空中に表示させた。
ヒロシはゆっくりと一覧を見ながらめぼしいスキルを選ぶ。
一覧にはスキル名と詳細が羅列されており、ヒロシは長い時間をかけて全てを読み一つのスキルに絞った。
『よし!やっぱりこれが良い!これにする!』
『本当にそのスキルで良いのか?』
白い者は再確認するも、
『このスキル以外はいらない』
ヒロシは、はっきりと意思を明確にして伝えた。
『よかろう、ではお前に授けよう!
スキルを!力を!そして新たな命を!』
白い者が叫んだ途端ヒロシの身体はまばゆく光だし意識が薄れていくのを感じた。
しかし同時になにかに呼ばれるような感覚もあり、ヒロシはその声に薄れていく意識の中で断固として拒絶した。
(もう白い者はいらないし、誰の指図も受けたくない!僕は僕の知りたい事だけで生きたい!)
そんな想いを胸に抱きながらヒロシは気絶し、目を覚ますと森の中なのだった。
ヒロシは改めて周囲を見渡す。周囲の森は日本にある森のようでもあり、外国の森のようでもあり、地球のものではないような感じがする森だった。
「森かぁー本当に異世界の様な感じがするなぁ~
あ、そういえばスキルもらったはずだったな」
ヒロシさっそくスキルを発動してみる。
もらったスキルを頭の中で念じるとヒロシの前に真っ黒なモヤが出現した。
「これが僕が選んだスキルかぁ
たしかスキル名は・・・
長かったから忘れたなぁ、
まぁひとまず【ラボ】で」
もらったスキル名を忘れたヒロシは自分で【ラボ】とスキルを名付ける。
そして躊躇することなくモヤの中に入って行くのだった。
モヤの中は真っ暗な空間だった。
「暗すぎだろ〜明かりないの?」
すると真っ暗な空間に突如光が溢れ部屋全体が明るく光りだした。
「明かり良いね♪」
それからヒロシは色々調べてみた結果、ラボの空間は6畳ほどの広さしかなく、明かりをつけるか消すかしか出来なかった。
「まぁ最初はこんな感じかな?
最終的に理想のラボになれば良いからな」
ラボのショボさにヒロシは全く気にした様子もなくむしろ期待を感じていた。
ラボを調べ終わった後ヒロシは外に出て辺りを探索し始めた。
森の中を歩きまわり、気になる植物や虫等をラボに入れながら探索する。
「普通の森とはちょっと違うけど、わりかし異世界感がないなぁ?魔獣とかファンタジー!みたいなやつ全然いないし」
ヒロシは異世界を感じれない事に不満を感じていたが、とうとう最初の魔獣に遭遇した。
ヒロシが最初に遭遇したものはゴブリンだった。
三匹が固まり森の中を歩いてくる、向こうもヒロシに気づいた様子だった。
「うわ!ゴブリン?かな?
うわぁぁ!テンション上がるなぁ!!」
ヒロシは初めて遭遇した魔獣に興奮を隠せなかった。
向かってくるゴブリンから逃げずにまじまじと観察する。
「三匹のゴブリンと思わしき魔獣と遭遇、
大きさはおそらく110〜120センチ程度、
緑の肌、鋭い牙が見える、眼球は黄色く三白眼、
衣服は腰みののみ、靴もなし、
そしてそれぞれ斧、槍、ナイフを持っている」
ヒロシは興奮し観察した結果をブツブツつぶやく。
そうしている間にゴブリン達はヒロシの間近まで狭っていた、明らかに敵意がある様子だったがヒロシは全く気にしていなかった。
「僕に気付いたらすぐ向かってきたな。
速さは僕より少し遅いくらいか?
それぞれ武器を構えて攻撃する意思あり。
話や降伏を迫る様子なし」
「ギャ!ギャギャ!」
まずは斧を持ったゴブリンがヒロシに襲いかかる。
ヒロシはゴブリンの攻撃を躱しながらも観察を続ける。
「斧で切りかかってきた、武術の嗜みはなさそうか?
残りの二匹は斧が邪魔で仕掛けられない様子、連携は取れないのか?
言葉?というか鳴き声は日本語ではなかったがコミュニケーションを試してみるか」
ヒロシは冷静に分析しつつゴブリンに声をかけてみる。
「おい!こちらの言葉はわかるか?お前達は何者だ?」
「ギギ!ギャギャ!」
「日本語を話せるなら話してくれ!こちらには敵対意志はない」
「ギャ〜ギャギギギャギャ!」
「何を言っているかさっぱりわからない。攻撃を止めないか??」
「ギャイア!!」
ゴブリンの攻撃を躱しつつ話しかけるヒロシだったが全くコミュニケーションは取れず、むしろゴブリンは激しく斧を振り回す。
しかしその激しく振り回される斧に邪魔され残りの二匹はヒロシに近付けない様子だった。
「ギャア!ギャイ!」
近付けない二匹が斧のゴブリンに抗議のような声を上げる。
「やはり連携どころか仲間意識すら低い感じだな。
となるとさっき見つけたあの方法試すチャンスかな??」
ヒロシは斧ゴブリンの意識が二匹の方に逸れた瞬間、ラボを自分の背の方に発動させすぐにラボに消える。
そして最後尾に居た、ナイフを持ったゴブリンの背後にヒロシはラボを出した。
モヤから上半身だけを出し、ゴブリンを羽交い締めにしてヒロシはゴブリンを一気にラボへ引きずり込んだ。
ゴブリンはなにが起こったかわからないままラボ内に引きずり込まれそのまま抑え込まれた。
「よしよし!上出来上出来!」
ヒロシは首尾よくゴブリンを拉致出来たので満足だった。
ヒロシは森を探索しながらラボの進入口が自分の意思で自由な場所に作れる事を発見していたのだった。
「スキルの練習しといて良かったぁ!
さてと!じゃあ大人しくしててよー」
ヒロシは採取した蔓でゴブリンを手際良く縛り上げた。
拘束されたゴブリンは全く動けない様子だった。
「やっぱり筋力弱いなぁ、せいぜい小学生くらいかな??
まぁともかくこの調子で残りも捕まえますか」
ヒロシはゴブリンの膂力が低い事を確認したので残りの二匹も同様の方法で捕まえる事にした。
ラボはヒロシの意思次第でどの位置にも入口を作れた。
外にいる時はヒロシの目の届く範囲、中にいる時は外の様子をヒロシが正確に思い描けるならその位置に開けれた。
ヒロシはラボのこの能力を使いゴブリン三匹をたやすく捕獲することが出来た。
「さぁ!捕獲完了と!ではでは再び質問タイムにしますか♪」
ヒロシはゴブリン達に向き直り話しかける。
「こんにちは、僕は白星弘志。君達言葉話せるかな??」
「ギャイア!ギガガ!」
「ギギギャ?!ギギ!」
「ギューギギ」
三匹のゴブリンは意味不明な鳴き声を発するだけでヒロシの質問には答えなかった。
「やっぱりコミュニケーションは無理かぁ~
知性はあるみたいだから惜しいなぁ〜
・・・まぁ仕方ない。普段のやり方で研究し始めますか。」
そう言うとヒロシはゴブリンのナイフを拾い一番怯えているゴブリンを引き寄せる。
「さぁ!君が僕の異世界研究の第一号だよ♪存分に僕に知識をもたらしてくれ♪」
ヒロシは笑顔で研究を始めた。