第一部 十四話 【炎の鎧と妖精の戦い】
ヒロシとディロンの戦いはヒロシが圧倒的に優勢だった、
コルリルは場合によってはヒロシのサポートをするつもりだったが、
その必要はまったくなさそうだった。
ヒロシはコルリルも知らない技、
【合気】という体術を使ってディロンを何度も何度も投げ飛ばしていた。
「ねぇ?もうやめとこうよ??流石に辛いでしょ??」
何度目かの合気による吹き飛ばしのあとヒロシは降伏を迫った。
しかしディロンは全く聞く耳を持たず、すぐに起き上がり攻撃をしかけた。
「うぉぉぉ!!!」
ドンッ!
ディロンが深く踏み込み打ち込んだ大斧に、ヒロシがそっと手を添えるような動きをした途端。
バンッ!
大斧ごとディロンは一回転し地面に叩きつけられる。
「グハッ!」
息も止まる程の衝撃でディロンは地面に大の字になったままになった。
「柔術奥義【合気】、
この技は相手のパワーをそのまま相手へ返す、つまり君のパワーが大きな程、君の受けるダメージも大きくなるんだよ??
しかも魔術やスキルじゃないからコストもかからず連発出来る。
魔術師である君の妹さんには使えなかったけど、接近戦タイプの君になら存分に使える。
君に勝ち目はないよ?降伏したらどうかな??」
観戦していたコルリルは合気の説明を聞き、ヒロシが何故接近戦に自信を持っていたのか理解した。
確かにこれほどの技があるなら自信があるわけだ。
(これは案外いけるかも?次の策にいかなくても大丈夫そうかな??)
コルリルは勝ち目を感じ安堵した。
しかしディロンは諦めていない様子で、再度降伏勧告をするヒロシを睨みつける。
「ふざけるなよ、俺は断じて屈伏したりせん!!」
ディロンは再び起き上がりヒロシと相対する。
しかし息は上がり頭から血を流し、かなりのダメージがある様子だった。
「まだやるんだ・・・パワーだけじゃなくてタフさも素晴らしいものがあるね♪」
まだ戦う意思のあるディロンにヒロシは感心した様子だった。
ディロンは先ほどまでのように斬りかかってこようとはせず、まっすぐにヒロシを見つめ話し出した。
「俺も武人の端くれ、お前の技を武によって破りたかったが・・・どうやら力不足だったようだ。
本意ではないが魔具を使わせてもらう!!」
ディロンが宣言した途端ディロンの大斧と鎧から真っ青な炎が噴き上げ始めた。
炎はディロンを焼かず鎧と大斧に纏うように揺らめいている。
「ファイヤーアックス、蒼炎の鎧、炎が俺にさらなる力を与え炎が俺を守る。
攻守兼ね備えたこの装備でお前を討つ!!」
(魔具?!まさか2つも!?)
コルリルが驚愕し呆然としていると、ディロンが動き出した。
ディロンは炎をまといながらヒロシに再度斬りかかる。
ヒロシはすぐに回避し距離を取った。
しかしディロンも追撃しヒロシに肉薄する。
「熱っ!かなりの熱量だね??それだけの炎を纏われるとさすがに合気は使えないね」
ヒロシはディロンに合気を仕掛けようとするが凄まじい炎の圧でディロンに近付く事も出来ない様子だった。
「この蒼炎がある限りお前の技は封じた!そしてこのファイヤーアックスで焼き切る!!」
ディロンはヒロシの攻撃を封じながらファイヤーアックスで攻める。
ヒロシはアックス自体は避けるがそこから噴き出す炎でじわじわとダメージを重ねていく。
「・・・っ!これはかなりヤバいね」
ヒロシには攻め手がない様子だった。
ゴブリンやアイテムを出してもあの蒼炎の鎧は破れない、このままではじわじわと焼かれていくのみだった。
コルリルは手助けしようと前に出るが、ヒロシが一瞬振り返り、コルリルと目を合わせた。
その瞬間コルリルはその視線にある想いを感じた。
(違う!今は手助けじゃない!次の策だ!)
コルリルは思い直し、すぐに高台に向かった。
コルリルは高台に着くとすぐフォシュラを見つけた。
フォシュラはヒロシが苦戦する姿を楽しそうに眺めていた。
「さすがディロン兄ぃ!そのまま勇者を倒しちゃえ!!」
フォシュラはディロンに声援を送っていて
こちらには全く気が付いていない様子だった。
コルリルはすぐに詠唱を開始した。
「地を這い敵を捕縛せよ!サンドワーム!」
コルリルは砂の蛇を召喚し、素早くフォシュラへ絡みつかせた。
背後から砂の蛇に絡みつかれたフォシュラは完全に不意をつかれた様子だった。
「な、なによこれ!!?」
フォシュラが驚いている間に蛇はフォシュラの足を拘束し動けなくする。
コルリルは続いて詠唱を行った。
「母の癒やし、水の音、安らかなる眠り、癒やしをもたらす夢の世界へ・・・」
フォシュラはこちらが睡眠魔術をかけようとしている事に気付いたようで、すぐに反撃してきた。
「っ!舐めんじゃないわよ!!」
フォシュラは無詠唱で火炎を全方位に発した。
威力は弱いが詠唱を遮るには充分だった。
「キャッ!」
コルリルは詠唱を中断されてしまい魔術が途切れた。
フォシュラは足元から蛇を振りほどき振り返る。
両者が相まみえた。
「あんた、確か勇者と一緒に居た・・・」
まずはコルリルがフォシュラを見つめ名乗りを上げた。
「私はコルリル、勇者様と共に魔族と戦う従者です!フォシュラさんあなたを拘束します!」
コルリルは名乗りをあげた後、すぐに次の魔術詠唱にかかる。
「風の精、波の精、泡めく力を・・・」
「やらせるわけないでしょっ!!!」
しかしフォシュラはすかさず無詠唱魔術で妨害してきた。
コルリルはフォシュラの火炎を避ける為、再び詠唱を中断せざる得なかったが、焦りは感じていなかった。
(やっぱり、無詠唱魔術で妨害してくるよね、けどそれならそれで好都合!)
コルリルはフォシュラが予想通りの動きを見せた事で安心した。
しかし油断はせずそのまま魔術を回避しながら詠唱を再開する。
しばらくコルリルが詠唱をして、フォシュラが無詠唱で妨害する流れが繰り返される。
何度目かの妨害の後フォシュラの身体がぐらりと揺れた。
「ちっ!こ、こんな時に、ま、まひが・・」
フォシュラはまだ完全に麻痺が治っていない状態で戦闘を行った。
その結果、体内の麻痺成分が、活発になった血や魔力の流れに乗り再びフォシュラの身体を蝕む。
コルリル達の策通りだった。
(やっぱり勇者の悪趣味な麻痺が効いてる!
このままいけばいずれ動けなくなるはず)
コルリルは勝ち筋を見出し、そのまま流れを切らさず攻撃を続ける。
フォシュラの麻痺はどんどん進んでいき、無詠唱魔術を使う頻度が落ちていく。
「ふん!く、くだらない策、ね!」
強気な言葉を出すフォシュラだったが、コルリルには明らかに弱っているのがわかった。
(よし、もう少しで勝てる!)
コルリルがそう考え出した時フォシュラが無詠唱魔術を止めた。
「ファイ、ヤーソード!」
フォシュラは術名だけ詠唱し炎の剣を出した。
「まだやれ、るわよ!!」
フォシュラが叫ぶと同時に足元から爆炎を出し空中のコルリルに一気に詰め寄る。
「っ!!!」
不意を付かれたコルリルはかろうじて回避するも炎の剣がかすり、羽が一部焼けてしまう。
「やばっ!」
羽を一部失ったコルリルはまだ飛ぶことは出来るが、機動力がガクッと落ちてしまった。
(羽をやられるなんて・・・
それにまさか空中まで追撃しにくるなんて、甘く見ていたわ)
コルリルはフォシュラが麻痺の進行を遅らす為にゆっくりと戦い、兄のディロンの救援を待つと予測していた。
あえて近接戦に持ち込み戦いを早期に終わらせようとするとは全く思わなかった。
(まさかの近接戦だなんて、遠距離戦とは違って身体をフルに使う近接戦は麻痺の進行を一気に進めるはず。
それでも私を倒そうとするなんてなんて気が強いの!?)
コルリルはフォシュラの予想外の動きに戸惑っていた。
しかしフォシュラは進む麻痺の中すぐに仕掛けてくる。
「よ、妖精!覚、悟!!」
フォシュラは爆炎を使い空を駆けながら、ファイヤーソードで斬りかかってくる。
コルリルは機動力が下がってしまったので攻撃は止め回避に専念する。
(大丈夫、避けていればいずれ麻痺が侵攻して動けなくなるはず!
それに最後の策もある!
勇者の方はどうなったかな?!)
コルリルはフォシュラの攻撃を避けながら、ヒロシの方に意識を向ける。
ディロンとヒロシの戦いは終わりに近付いている様子だった。
炎を纏い迫るディロンに防戦一方のヒロシだが、次第に追い詰められてゆき、いよいよあとが無い状態だった。
(これヤバいじゃん!なんとか頑張ってよ勇者!!)




