第一部 十一話 【爆炎姫と勇者の実力】
自らをフォシュラ・バーンと名乗った少女はコルリルとヒロシに手をかざし、魔術を唱えた。
「ファイアーロード!」
フォシュラの手から野太い火の渦が形成されヒロシ達に襲いかかる。
ヒロシはコルリルを掴んでラボに避難し、ゴブリン達は物陰に隠れた、逃げ遅れたゴブリンは一瞬で火に巻かれ燃え尽きていった。
コルリルは突然の事で全く反応できなかった。
ヒロシがカバーしてくれなかったらそのまま燃え尽きていただろう。
「うわぁお!かなり刺激的だねぇ♪」
ヒロシはすぐにラボから顔だけ出してフォシュラの火を観察していた。かなり楽しげな様子だった。
「ねぇコルリル?あの娘、詠唱無しで魔術を使ったけどそんな事出来るの??」
コルリルは今自分が死にかけた事や、
話に聞いたバーン兄妹の妹がまだ14、5歳の少女な事や、
何故ヒロシが突然の戦闘にもこんなにリラックスして臨めているのか、
様々な疑問や驚きを感じていた。
しかしとりあえず全てを頭の隅に追いやり戦闘に集中する事にした。
コルリルもラボから顔を出し観察する。
今はフォシュラは外に残ったゴブリン達に容赦なく火炎を浴びせている。
ちなみに部下はすでにヒロシがこっそりとゴブリンに指示し捕獲されていた。
「しかし詠唱無しで魔術とは・・・
詠唱無しで魔術を使うには大量の訓練とセンスが必要になります。
私にもまだ出来ない高等技術です」
「そうなんだ♪それはかなり興味深いね♪」
余裕を崩さないヒロシとは裏腹にコルリルは焦っていた。
(想定よりバーン兄妹の実力が高い!
妹のフォシュラを早く倒さないと兄と合流されたら勝ち目はないのに!)
フォシュラを早く無力化しないとすぐに兄の方が増援に来る、
そうなるとかなり勝ち目は薄い。
そもそもフォシュラが無詠唱魔術を使えるなんて情報もなかった。
(あの二人が揃ったらマズイ!兄の魔力反応は・・・)
コルリルはすぐさまバーン兄の魔力を探すが、
幸いな事にバーン兄の魔力反応は周囲にはないようだった。
(今のうちになんとかして倒さないと!)
コルリルが必死に考えている間、フォシュラは爆炎をひたすら放ちまくりゴブリン達を蹴散らしていた。
「どうしましょう!?このままじゃ全滅です!」
コルリルは必死に考えるも良い案は浮かばなかった。
もう撤退するほうがよいのではと考えだした時、ヒロシから提案があった。
「ん〜じゃあここは僕に任せてよ!」
そう言ってヒロシはラボから出てフォシュラに近付く、同時に生き残ったゴブリン達をラボに収容していく。
フォシュラとヒロシの一騎打ちの形になった。
「なによ!ゴブリンの次はあんたが焼かれたいのかしら?!」
フォシュラは余裕といった風情で両手に炎を持ちヒロシを睨みつける。
ヒロシも余裕な様子でフォシュラに向き合っている。
この場で緊張しているのは見ているだけのコルリルだけだった。
「ヒロシ様!危ないです!一旦逃げましょう?!!」
コルリルはヒロシに呼びかけるが、やはり無視された。
「逃げるなら逃さないよ!逃げれるもんならね!」
そう言ってフォシュラは爆炎をヒロシに浴びせる。
直撃したかに見え、コルリルは思わず目をそらす。
しかしヒロシはその場から消え、ラボ移動し、離れた場所から現れる。
「ハハハ♪当たらないねぇ〜」
おちょくるようなヒロシの様子にフォシュラは激昂しさらに爆炎をぶちかます。
「死ねぇ!」
バンッ!バンッ!バンッバンッ!
爆発が立て続けに起こり火炎が吹き荒れる、しかしヒロシにはかすりもしなかった。
ラボを使いながらヒロシはフォシュラをおちょくるように攻撃を次々躱す。
対するフォシュラはどんどん怒りを募らせ激しく火炎を振りまいていた。
「なんなのよ!その能力はぁぁぁ!!
あたりなさいよっー!!!」
怒りに任せ火炎魔術を連射するフォシュラ。
あたり一面火の海だがヒロシには当たらない。
何度目かの爆発のあと、
突如フォシュラの上にラボが開き、中からゴブリン達が飛び出し一斉にフォシュラの頭上から飛びかかった。
突然頭上にラボを開かれ不意を付かれたフォシュラは、そのままゴブリン達に組み伏せられるかとコルリルは思った。
(やった!これならいくら無詠唱でも間に合わないでしょう?!)
コルリルは勝利を確信したが、フォシュラは慌てる様子もなく対応した。
「甘いのよ!ファイヤーストーム!」
フォシュラが詠唱した途端地面から激しい炎の風が吹き荒れ、飛びかかろうとしていたゴブリン達を焼き尽くした。
ヒロシはラボから出てきて周囲を観察する。
「凄いねぇ?まさかあんな術もあるなんて。
さぁどうしよかなぁ~」
ヒロシは手下のゴブリンがやられたがあまり気にしていないようだった。
しかし、コルリルはフォシュラの実力の高さとフォシュラの魔力が尽きない事が気になっていた。
(フォシュラ・バーン!なんて実力者なの?!本当に盗賊?めっちゃ強過ぎじゃない!!
それにあれだけ魔術を連発して全然平気そうなのもなんで??
魔力がめちゃくちゃ多いのかな?
・・・それなら魔術を常に発動して勇者の逃げ道をふさげば良いんだから違うのかな?
使っていた魔術が低コストだった?
・・・にしてはかなり高火力だよねぇ?)
コルリルが様々な可能性を考えているとゴブリンを焼き尽くしたフォシュラが話しかけてきた。
「もうチョロチョロ逃げ回らないのかしら??あんたのゴブリンはこの通りよ?」
「いやぁ〜ちょっと予定が狂ったなぁ。
君ならもう少し簡単に捕まえれると思ったんだけど、かなり強いね」
「ふふん♪当然よ!私は爆炎姫、華麗に舞い激しく燃え・・・っ!!」
ヒロシにおだてられフォシュラが機嫌良く自慢しだした瞬間、ヒロシは自分の背後にラボを出し素早くフォシュラの後ろに回り込んだ。
そして反応が遅れたフォシュラの顔面になにかの粉末を投げつけた。
バフ!!
顔面に粉末を浴びたフォシュラはたまらず距離を取った。
「ゴホッ!ゴホ!あ、あんた、ゴホゴホッ!
なにすん、な、にすんのよ!!」
激しくむせ返りながらもフォシュラは大火炎を準備しだした。
「お、大いなる火、はじ、始りの、かえん、
あ、あれ?身体が・・・」
大魔術を詠唱しだしたフォシュラだったが、だんだんと身体が動かなくなっているようだった。
とうとう立っていられなくなりその場に倒れ込んだ。
「いやぁ〜良かった良かった。無事効いて良かった!
なにせ人間に使うのは初めてだったからね♪」
ヒロシは満足そうにしながら、倒れたフォシュラに近寄る。
フォシュラは倒れたままだが眼差しは鋭くヒロシを睨みつけた。
「あ、あんた、わ、私に、なにを、したのよ?!」
苦しそうに問い詰めるフォシュラにヒロシは笑顔で答える。
「麻痺の粉をふりかけたんだよ♪森にいる麻痺蛾、確かスタンモスって言うんだっけ?その鱗粉をふりかけたんだ♪」
コルリルは傍から見ていてもヒロシの答えを聞いて納得出来なかった。
確かにスタンモスの鱗粉には麻痺効果があるが、こんな一瞬で身体が動かなくなる程の効果はないはずだからだ。
「う、うそね、そんな効果、あるはず、ない」
フォシュラも同じ答えにたどり着いたようだった。
「いやいや本当だよ?まぁ確かに正確には鱗粉だけじゃないんだけどね!
スタンモスの鱗粉は効果は弱いんだけど、
スタンモス自体を生きたまま鱗粉と一緒に擦り潰して、練って、乾かして粉にしたら麻痺効果が跳ね上がるんだよ!
ちなみに君にかけた粉でだいたいスタンモス200匹分の量だね♪」
ヒロシは自分の研究成果を発表してテンションをあげているが、
おぞましい事実を知らされたフォシュラは怒りで爆発しそうな様子だった。
「お、お前!ぜ、絶対に、焼き殺して、
やる!!お兄ちゃんに、言って殺して、
も、もらうんだから!!」
酷い麻痺状態のまま果敢にヒロシに啖呵を切るフォシュラだったがヒロシはあまり聞いていないようだった。
「うーん、しかしこの麻痺粉使い勝手がいまいちだなぁ、手間暇かかる割に麻痺針よりは弱いしなぁ、
しかも風向きを間違ったら自分が麻痺しちゃうし。
けど麻痺針は貴重だしなぁ〜〜」
ヒロシはブツブツ考えている、コルリルはとりあえずヒロシの下に飛んでいく事にした。
「ヒロシ様、お疲れ様です!
まさかあんな強いフォシュラを捕まえれるなんて凄いですねぇ!
・・・まぁスタンモスの粉は中々気持ち悪いですが」
コルリルはちょっと引いてしまったが、ヒロシは笑顔だった。
「コルリル!心配してくれたんだ〜ありがとう♪
まぁなんとか捕獲出来たからあとは一人だけだね!」
「そうですね!あとはバーン兄だけです!
次は私も戦います!二人でなんとか捕まえましょう!」
コルリルは希望が出て気分が明るくなった、ヒロシもフォシュラを捕まえれてかなり満足気だった。
(よし!とにかくフォシュラを捕まえれたんだし良い感じ!)
「あ、ヒロシ様、まずはフォシュラをラボに入れないと・・・」
コルリルが意気揚々と麻痺しているフォシュラの方を振り返ると、
そこには焼け焦げた跡だけでフォシュラの影も形もなかった。




