第一部 九話 【妖精の懸念と討伐戦】
ヒロシ達は村人から盗賊達の情報を得たあとすぐに討伐に向けて出発する事にした。
どうやら近くの岩場地帯にアジトがあるようだ。
村人達は出発するヒロシ達を期待した眼差しで見送ってくれた。
「いやぁ〜勇者が嫌われてるってコルリルは言ってたけど全然大丈夫だったね?」
「今は状況が違うからです。普通なら多分見向きもされないですよ?」
「どうして??」
「・・・私何回も説明したと思うんですけど覚えていらっしゃらないんですか??」
「え?そうだっけ?」
ヒロシはまったく初耳だといった様子だった。
コルリルは非常にイライラしたがもう一度説明した。
「王が国民に多大な重税を課したからですよ。
勇者を召喚する為には高価な魔石が大量にいりますからね。
それを揃えるためにバラマール王は税を無理矢理上げたんです。
だからサイマールではバラマール王と重税の原因である勇者は嫌われ者なんですよ」
「へぇーけど勇者がいたら国を守ってくれるから良いんじゃないの??」
「サイマールは元からそこまで魔族の被害にあっているわけじゃないですから、国民は実感しにくいんでしょう。
それにサイマールには非常に素晴らしい魔術師様が居てその方が国を守ってくださってますから、余計に勇者のありがたみがわかりにくいんです」
「なるほど〜異世界にも色々あるんだねぇ〜」
ヒロシはコルリルの話を聞きながら周囲の植物や石等、気になる物を採取していたので、ちゃんと話を聞いているのかコルリルには分からなかったが、
「・・・もういいやぁ」
コルリルはめんどくさくなってヒロシに説明するのを諦めた。
コルリル達は盗賊達が根城にしていると思わしき場所を目指す事にした。
一応、村人からいくつかそれらしい場所は教えてもらっていたが、広大な岩場地帯から徒歩だけで探し当てるのは骨が折れる作業だった。
「この岩場地帯広いね~?
ここからアジトを探すのはちょっとめんどいなぁ。
ゴブリン達を使っても良いんだけど・・・」
「・・・ちょっと黙っててもらえますか??」
コルリルはブツブツ言うヒロシを黙らせ魔術を唱え始める。
「大地の精よ!導き給え!
我に標を与え給え!
この地に巣食う悪しき者へたどる道を示し給え!ロードストーン!」
コルリルが術式を唱え魔術を発動させる。
コルリルの全身が光り地面からとても小さな石粒が現れた。コルリルはその石粒を掴み目を閉じる。
「・・・わかりました、ここから南に2キロ程の場所に居ますね、数は18人です。」
コルリルはあっさりと盗賊団の場所と数を割り出した。
ヒロシは非常に驚いたようだった。
「コルリルすごいね!!妖精ってすごい魔術が使えるんだね??
いやぁコルリルってただの口うるさい妖精じゃなかったんだね~♪」
ヒロシはコルリルの魔術に非常に興奮し評価を見直したようだった。
「な、なにか失礼な事を言われた気がしますが、まぁこれが私の実力です。大したことないですよ?」
コルリルはそう言いながらもかなり得意げになった。
「いやいやいや本当すごいなぁコルリルは。
僕も魔術使いたいから教えてよ??」
ヒロシは教えを請うてくるがコルリルは少し困ってしまった。
「すみません、妖精と人間では使う魔術が少し違うんです。
理論は似ているんですが、だからこそ逆に下手に教えてしまうとヒロシ様の魔術に悪影響になります。
ヒロシ様が魔術を習いたいなら王宮に仕えている魔術師様に指導してもらうのが良いと思います」
「うーん、僕としてはすぐに知りたいけどそう言う事なら仕方ないか。
じゃあコルリルは他にどんな魔術が使えるんだい??」
魔術を今は習えず少しめげたヒロシだったが相変わらずの知識欲でコルリルに質問する。
コルリルは盗賊団のアジトに向かいながら軽く答えていく。
「私が使える魔術は、戦闘に役立つものでいうなら土魔術と風魔術、あとは簡単な治療魔術、それから召喚魔術ですね~」
「おお!そんなに使えるのかぁ~コルリルすごいね♪
あ〜僕も早く魔術を使いたいよ~
王宮に着いたらすぐに魔術師さんに紹介してね??」
大絶賛してくるヒロシにコルリルはますます気を良くした。
「それはもちろん!
魔術師様は火、風、土、水、光、闇、治療魔術まで使えますからとても良い先生になりますよ。
私もその魔術師様には色々指導してもらってますから、是非ヒロシ様も一緒に教えてもらいましょう??」
コルリルはヒロシの魔術への純粋な想いから提案してみる。
ヒロシにとっては非常にありがたい申し出だったようだ。
「本当に?!是非お願いするよ!ありがとうコルリル♪大好きだよ〜」
ヒロシは満面の笑みでコルリルに笑いかける。
ヒロシは性根はともかく顔は非常に美形なのでコルリルは少し赤面した。
「あ、いえいえ、じ、じゃあこの依頼無事解決しましょうね??」
「もちろん!依頼が終われば王宮にいけるし、
研究材料まで手に入れれるんだから本当に最高だよ」
ヒロシの一言でコルリルは我に返る。
(そ、そうだった。この勇者は人間を研究材料にする気なんだった)
「あ、あのヒロシ様?盗賊団を捕まえたら一体どんな研究をされるおつもりですか??」
コルリルは恐る恐るヒロシに尋ねる。
「え?そりゃ今まで魔獣で試しても、人間で試してなかった事をしたいかな?
まぁまずは毒針の人体実験、
あとはこの世界の人間の痛みや出血への耐性、
各種魔獣由来の研究道具が人体へ与える影響とかがまず思いつくかなぁ??」
ヒロシは事もなげに非道な研究をする事を明かす。コルリルはやっぱりヒロシが好きになれなかった。
(ちょっとは素直な良い部分もあると思ったのに!やっぱりこの勇者は信用出来ない!)
ヒロシとコルリルはその後はたいした話もなく盗賊団のアジトにたどり着いた。
アジトは岩場地帯にある無数の洞穴を利用しており、入口も出口も複数ある為、攻め難く逃げられやすい地形だった。
「うーん、嫌な地形ですね。攻めても複数の洞穴から奇襲を受ける可能性が高いですし、
上手く攻めれてもどこかしらから簡単に逃げられてしまいます」
コルリルは盗賊団を出来たら全員捕らえたかった。
一人でも逃がしたら自分達に依頼してくれた村人達が逆恨みされかねないからだ。
「なかなか良い感じの物件を選んだ盗賊達だね?
盗賊ってバカしかいないイメージだけど頭が良いやつがいるのかもね?」
コルリルとヒロシはヒソヒソと作戦を練る。
まずコルリルが思いついたのはヒロシのゴブリン達を全面展開した物量作戦だが、ヒロシから却下された。
「ゴブリン達じゃ取り逃す場合がある。僕は絶対人間のサンプルが欲しいんだよ!
それよりコルリルが魔術で洞穴を全部塞いだらどうかな??そして洞穴内にラボで入って一人ずつ捕まえるのは??」
ヒロシからはコルリルの魔術を使った作戦が提案されるがコルリルは却下した。
「魔術は万能じゃありません。洞穴を全て塞ぐなんて無理ですよ」
二人は色々と案を出すがどれもイマイチだった。
「うーん、中々難しいねぇ、てかコルリルって盗賊達の場所は魔術でわかるんだよね?もう正面から行って全部逃さないように魔術で把握しといてくれたら良いんじゃない??」
「さっきの魔術ロードストーンは大地の精の力で他者の魔力を感知する術です。
先程みたいに集中していたら把握は出来ますが戦闘中では他の魔術も使いますし難しいです」
「じゃあコルリルは戦闘に参加しない、あるいは後方支援程度なら大丈夫かな?」
「そ、それは後方支援するくらいなら多分大丈夫ですが、ヒロシ様一人で戦うつもりですか??」
コルリルはヒロシの提案に疑問を抱いた。ヒロシは普通の勇者とは違う異質な強さを感じさせるが、さすがに盗賊団と一人で戦わせるのはためらわれた。
「大丈夫♪むしろ一人の方が良い場合もあるからね?だけどそれにはコルリルの魔力探知が大事だから頼むよ??」
ヒロシはあくまで一人での作戦を提案する。
コルリルは迷ったがヒロシのスキルと自分の感知を合わせれば比較的安全かもしれないと判断した。
「・・・わかりました、けど危なくなったらすぐにラボに引き返しましょうね?」
「了解!じゃあサンプル採取と行きますか♪」
こうしてたった二人で行う盗賊団討伐戦が始まった。