第一部 八話 【最初の村と盗賊】
コルリルとヒロシの旅路も一週間となった。
二人は本来一日で着くはずの村にようやく辿り着けそうだった。
(やっっと着くわぁ〜〜本当に長かったし最低な旅だったよぉ〜〜)
コルリルは非常に疲れていたので、今すぐに村の宿で一人ゆっくり休みたかった。
この一週間の間ヒロシはほとんど眠らず行動し続けており、コルリルそれに振り回されほとんど神経衰弱状態だった。
対してヒロシは驚く程元気に旅を楽しんでいた。
毎日新しい研究や、既存の研究の発展、コルリルから得た知識の考察等々、毎日頭も身体も働かせっぱなしだった。
しかし全く疲れた様子もなくむしろ日に日に楽しさが増していくようだった。
「そろそろ村に着くのかなぁ~♪
村の人!同じ人間!会うのが楽しみだなぁ!」
上機嫌なヒロシにコルリルはそっと釘を刺す。
「あのヒロシ様、先日申し上げた通り王都以外では勇者は嫌われ者なんですからね?
はっきり言って歓迎はされないと思いますよ?」
「どんな人達かなぁ〜?あわよくば研究に協力してくれないかなぁ??」
釘を刺さされても全く聴いていないヒロシにコルリルは苛立ちがさらに増した。
(この勇者に無視されるの何回目だろ!?
ほんっとにイライラする!!)
そんな険悪ムード満点のまま二人は最初の村、フシリ村へたどり着いた。
フシリ村はゴブリンの森に近い村ということで以前は旅人や商人達の拠点として栄えていた。
しかしゴブリン達の大発生により人の流れが途絶えてからは閑散とした村になっていた。
コルリルはそういった事情はわかっていたがそれにしても今日のフシリ村はあまりに寂れていると感じた。
(なにこれ?人はいないし家や厩舎もボロボロ、なにかあったのかな??)
コルリルは村が魔獣にでも襲われたのかと警戒するが、
ヒロシは大興奮し村の中を観察しまくっていた。
「これは!前世でいう中世の村感!!
厩舎があるということは馬を飼っていた?!
いや?もしや魔獣を飼いならしていたのか??
あそこには井戸がある!井戸があるということは水は汲んでいたのか?
水魔術?とかはないのか、使い手がいなかったのか?
あぁ、無限に聞きたい事がある!村人はどこだ!!?」
コルリルは全て無視し、最後だけは同調する事にした。
「ソウデスネー。
さぁ村人はどこでしょうね??」
二人は村の中程まで入り村人を探していると、近くの家から老人が一人現れた。
「お主等はだ、誰じゃ?
もうこの村には何も残っていないぞ」
老人は消え入りそうな声で話しかけてきた。明らかに弱っている様子だ。
「こ、こんにちは。私達は怪しい者じゃありません。
私は召喚士のコルリル、こちらは勇者ヒロシ様です」
「ゆ、勇者じゃと?」
「はい、私達は王の勅命で勇者様を王の下へお連れする任務の最中なんです。
それでたまたまこちらの村に寄らせてもらったんですが、
この村でなにがあったのですか??」
コルリルはヒロシが勇者であることは本当は隠したかったが、村の状況から異常事態が起こっていると感じあえて自分達の身分を明かした。
すると老人は驚きに目を見開いた。
「な、なんと!勇者様がいらっしゃるとは!!
まさに天の使い、奇跡じゃあ!奇跡じゃあ!!」
老人は興奮し叫び出した。先ほどまでの弱っていた姿から一転、今は希望に溢れているようだった。
さらに老人の叫びを聞いて近くの家から村人達がおずおずと出てきた。皆弱っている様子だが、勇者が来たと聞き目を輝かせている者もいた。
「あ、あの?これは一体??」
コルリルはかなり驚いた。絶対勇者は歓迎されないと思っていたのに、真逆の反応だったからだ。
コルリルは改めて老人に尋ねると、次はちゃんと答えてくれた。
「いやぁすまぬ、あまりの幸運に年甲斐もなく叫んでしもうたわ、
わしはこの村の村長ダリル。
あなた達が勇者様御一行ならば是非お頼み申したい事がある。
我が村を蹂躙した盗賊達を討伐してほしいのじゃ!!」
「と、盗賊ですか??じゃあこの村が寂れているのは盗賊被害に合われたからですか??」
コルリルは驚いた。普通盗賊は貴族の荷馬車や商人の輸送隊等を狙うものだし、村を襲うにしてもこんな辺鄙な村を襲ってもあまり利がないように感じたからだ。
「さよう、フシリ村はつい数日前に盗賊に襲われたのじゃ、
奴らは村の僅かな金品と食料を奪い去っていた。
幸い怪我人や死傷者は出なかったが、奴ら去り際にこう言うた、
もし王都へ通報した場合憲兵が来る前に村中皆殺しにすると」
「・・・それは酷いですね、しかも巧妙です」
コルリルは事情を聞いてフシリ村が襲われた理由と犯人の目星がついた。
大きな村じゃなく小さな村を襲ったのは制圧の安易さと、小さな村は自衛手段が少ない為通報することを脅しやすくする為。
しかも万が一通報されても小さな村からの盗賊被害、今のこの国ではまともに対応されない可能性が高い。
全て計算された上での辺境の村を襲う手口にコルリルは覚えがあった。
「この村を襲ったのはもしやバーン兄妹の一味では??」
バーン兄妹、最近サイマール国周辺の国々で出没している盗賊団の名前だった。
手口はフシリ村と同じような辺境の村を人死を出さず襲うパターン、
人死が出ていない事と襲われたのが辺境の村なので周辺諸国もあまり本腰を入れて対策はしていなかった。
「そうじゃ!さすがは召喚士様よくご存知じゃ!
そのバーン兄妹が一味の頭のようじゃったわ!」
コルリルは予想が的中したが逆に顔を曇らせた。
(マズイなぁ、バーン兄妹といえばかなりの強者らしいし、私一人じゃまず倒すのは無理・・・
でも見捨てるわけにはいかないし、
けどあの勇者が手伝ってくれたら・・・)
コルリルは自分の力量ではまず勝ち目がない事を理解し、対策を考える。
やはり一番確実なのは勇者と協力する事だが、
ヒロシが協力してくれるのか自信はなかった。
(あの勇者は研究の事しか頭にないからなぁ~
村の人の為とか言っても無駄だろなぁ)
コルリルが苦悩しているとそれまで黙って話を聞いていたヒロシが突然話し出した。
「おじいさん♪話は聞いたよ。安心して?僕とコルリルが盗賊達を倒してきてあげるから!!」
「おぉ!さすがは勇者様じゃ!
わしら平民は正直な話、勇者様を誤解しておったが、やはり勇者様は英雄じゃあ!」
ヒロシの宣言に村長や村人達が大いに湧き上がる。
コルリルは慌ててヒロシに耳打ちした。
「・・・ヒロシ様!私感動しました!
ヒロシ様にもやはり勇者として正義の心があったんですね!
協力して頂けるか疑ってすみませんでした!」
「いやいや、全然良いんだよ♪
・・・ところでコルリル?この国では盗賊は捕まったらどんな罰を受けるのかな??」
ヒロシの正義の心に感動していたコルリルは出し抜けな質問に戸惑った。
「え?あ〜普通の盗賊なら盗んだものによりますね、
貴族の所有物を盗んだら死刑ですが、村の金品や食料くらいなら多分強制労働くらいですね。
・・・ただこのバーン兄妹一味は周辺諸国でも同じような盗みをしているようなので、
多分捕まったらサイマール国の強さを見せる為に処刑されると思います」
本来なら強制労働で済む罪も、国の権威誇示の為死刑にする。あまりに歪な国家体制だがヒロシは気にする様子もなく笑顔になった。
「よしよし、じゃあ仮にこの盗賊達を僕が捕まえたら
どうせ死刑になるんだから自由に研究してもよい人間
ってわけだね♪」
「っ!!」
ヒロシが何故村を救う気になったのか理解しコルリルは寒気が止まらなかった。
(この勇者、人体実験材料を見つけたから助けるんだ)