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第5話 謎の忠告

『あ、もしもし? 今大丈夫?』

「はい。大丈夫です」


 銀の髪を持つ少女、アナスタシアは柊斗へ軍から連絡が来たと話し、柊斗がこの世界の車を興味深そうに観察している所を見ながら軍の上司と話をしていた。


 想定していた相手とは違ったが、どこか適当な雰囲気を感じる女性の声は知っている人間のもので特に驚くでも無く返事をした。


『例の少年と一緒にいる? 今どんな状況?』

「彼とは少し離れた所にいます。今は何故か自動車に興味を持っている様ですが……それよりも、何故貴女が連絡を? 報告は神代かみしろさんへしたはずです」

萌花もえかは今別件を対応中。それに、そこの彼は私に関係あるかもしれないから』

「……貴女の関係者ですか?」


 アナスタシアは大げさにも思えるほど疑惑的な声を出した。


『え、その反応は何さ』

「……貴女にとって重要な人間を、国が放置しているとは思えないので」

『まぁ、私に直接関係があるっていうより、私の友人の関係者って感じだからね』

「そうですか」

『自分で言っといて淡白な返事だね。別に良いけどさ』


 アナスタシアは疑問に思って言ってみただけであり、ぶっちゃけそこまで興味がなかった。

 この人と長々と話を続けるのは体力を消耗すると知っているので、さっさと話を切り上げようと要件を問うために口を開く。


「もう一度聞きますが、あなたほどの人がどのようなご用件で? 関係があるのはわかりましたが、今からそちらに伺う予定ですし直接会うのでは駄目なのですか?」

『まぁまぁ、そうツンツンしないの』


 馬鹿にしたような声に少しイラっとしたが、いつもの事なので我慢する。


『そうだなぁ……とりあえず少年に素性を聞いてみてくれない? まだ聞いてないしょ?』

「あ、すみません。失念していました」


 そういえばすぐに聞かなければならないはずの素性を聞いてなかった。


 壊れた車のボンネットを覗き込むながら「お~……」なんて物珍しそうな声を上げている少年に近づく。


「ねぇ、君。名前と年齢教えて」

「名前は月宮つきみや柊斗しゅうと。16歳の高校一年生だ」

「あ、なら同級生だ。教えてくれてありがと。あとちょっとで終わるから」


 半身だけ振り返った少年に名前と年齢を尋ね、それだけ聞いてまた会話が聞かれない距離まで離れた。


 同年代だったことに驚いたのは、柊斗の雰囲気と体格を見て「年上っぽいな」と思っていたからだ。

 柊斗の身長は170cm前半程度で、服の上からはすらっとして見えるが幼い頃から運動しているだけあって体格はかなり良い。


 年上だと思っていたのに終始タメ口だったが、柊斗は制服を着ていて年上だとしても少ししか違わないし、アナスタシアがそこまで敬語が得意ではないという理由がある。


 実際関わりのある一部の上司にはタメ口だ。今は通信で履歴が残るから、頭を回転させて慣れない敬語を喋っている。


「名前は月宮柊斗。年齢は16歳。高校一年生。だそうです」


 離れてすぐ待機中にしていた通信を繋ぎなおし、短くそう報告した。


『月宮……本当にそう言った? ……あぁ、いやなるほど、そう言う事か。だから私に……あの魔女め』


 その報告の返事で帰ってきたのは思ったよりも大きな反応だった。

 何かに納得したような言葉の意味は分からなかったが、彼女が『魔女』と呼ぶ人物については噂程度だが少し知っている。

 アナスタシアはそういった噂は覚えていないが、その人物の事はあまり関わりたくない相手として覚えていた。


『ねぇねぇ、その子名前いう時躊躇(ためら)ったりした? 少し悩むような感じとか』

「? いえ、特に躊躇ためらう事も無くすらすら答えてくれました。何か気になる事があるなら探るぐらいはしますが」

『いや、それはしちゃダメだ。それにしても……ははっ、いいね! 月宮の子孫か!』


 アナスタシアは気を遣うフリをして内容を聞こうとするが、思ったより強い口調で拒絶された。

 そしてどこか興奮したように小さく独り言を溢している。ちょっと不気味だ。


 微かに聞こえた内容的に少年の持つ『月宮』という苗字を知っている様だが、生憎とその名前に心当たりが無かった。


『もう質問しなくていいよ。それと安全を保障することも伝えて』

「わかりましたが……もうよろしいのですか? 名前と年齢だけで」

『うん。彼は害獣も異能も知らない様子なんだよね?』

「はい。本人はそう言ってますし、私も嘘をついている様にも思えませんでした」

『ならそれを信じるさ。一々疑うより割り切ってしまう方が良い』


 そんな適当でいいのかとは思うが、彼女も疑ってばかりいても仕方ないという考えは同じなので特に文句は付けなかった。


『あと一つ頼み事、というか私の命令権使うし後で《《お礼》》もするつもりだから、絶対守って欲しいことなんだけど』

「貴女のお礼ですか。……そこまでして何を?」


 アナスタシアは女性の言葉に少し言葉を詰まらせて反応する。

 彼女が命令権を使う事も珍しいが、それ以上に彼女の話す『お礼』というのが特殊だからだ。

 どんな命令が来るのかと少し緊張しながら身構えた。


『そんな緊張しなくても良い。ただ彼を無駄に刺激するなっていう事だけ。覚醒者は拘束して連れてくることになってるけど、しちゃダメ。不安を煽る言葉もダメ。絶対に不信を与えないように。余計な詮索も無し。いいね?』

「……わかりました。指示に従います」

『うん。素直な子は好きだよ! 怪我してるみたいだし迎えにしずくを行かせるから安心して。それじゃ!』


 怖いぐらいの真面目な声で何度も念押しをされ、その圧力に若干気圧されながら返事をした。直ぐにそれまでの真面目な声音が元の軽い口調に戻り、適当な挨拶をされて通話が終わる。


 彼女が『お礼』をすると約束するほど、重要な命令。それほどこの少年を刺激したくないのか。


 彼女以外の命令なら、好奇心に任せて命令違反にならない範囲で話を聞こうとしたかもしれない。

 だが日本でもトップクラスの命令権を使われ、おまけに彼女からのお礼を貰えるとなれば、彼女のことを知っている日本の異能力者なら何があっても達成するだろう


 アナスタシアは見すぎない程度に少年を観察しようと思い、そこで思い出した。


(そういえばこの人、腕を……)


 恐らく傷口を見えないようにしてくれていたのだろう。アナスタシアの視点からは死角になって、腕が取れているように見えなかった。

 それと、ずっと態度が平然としていたので腕が取れている人間には見えなかったという理由もある。


 異能力者は不要な痛覚を無意識的に切ることができる。そして、普通の人間に比べ再生能力が極めて高い。


 だが痛覚を遮断できると言ってもそこまで過信できるものでは無い。前にアナスタシアが指を落とすという怪我をしたが、その時は想像よりかなり辛かった。


 どんな怪我でも動けるようにはなるが、痛覚の代わりのピリピリとした危険信号が頭に直接響く。

 アナスタシアが怪我をした時は戦闘中だったから痛みは意識しなかったが、落ち着いたら冷や汗が止まらず、更に指がくっついた後も痛みが襲ってきた。


 それに勝手に止血されると言ってもそれは切り傷などの話で、腕の欠損ほどの大怪我を自然に止血するなんて聞いた事が無い。


 とりあえず迎えの来る場所まで移動しなくてはならないので、アナスタシアは柊斗の方へ近づいていき声をかけた。

 くっついている方の右腕を見ると千切れた左腕を握っていた。


 そして、何故か千切れて柊斗の体から離れた腕からも血が流れていない。


「ごめん。お待たせ」

「いや、大丈夫だ。迎えは来そうか?」

「うん。分かりやすい場所に出た方がいいから少し移動する」


 やはり腕が取れるという大怪我をしている人間には見えず、平然とした態度でアナスタシアが動き出すのを待っている。


「……その腕、辛くない?」


 そういえばあまり詮索するなと言われた事を思い出したが、ここでその話に触れない方が不自然だろうと考えその思考を無視した。

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