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第4話 違和感

「やっぱ見た事ない車種だ……」


 銀髪の髪を持つアナスタシアと名乗った少女は、軍から連絡が返ってきたと言って、見える範囲だが声の聞こえない距離まで離れ、スマホのような機械を耳に当て何か話している。


 その間柊斗は、近くにある何かに踏まれたように潰れている廃車を観察していた。


「二十台ぐらいあるし、どれか一つぐらい『ホ〇ダ』とか『ト〇タ』とか『〇産』とかあるもんだと思うんだが……無いって事はそういう事か」


 一般人でも知っているような有名な車の車種やタイヤのマークは無く、それ以前の問題として車の性能自体違うみたいだ。

 似ている形状もあるにはあるが、タイヤが付いていない形状の車もかなり普及しているのがわかる。


 という事は、そもそも柊斗の知っている自動車会社自体が設立されていないとか、それらの会社が柊斗の世界とは違う名前になっていたりという可能性がある。


 人の腕を嚙み千切れる化物やその化物に匹敵するほど強い力を持ってる『異能力者』という存在がいる時点で、この世界の歴史は柊斗の知っているものとは大分かけ離れているのだろう。


 ただ歴史自体が違うとしたら、ここまで柊斗の世界と似たようなインフラが整うかという疑問は残る。

 近くにある倒れたビルは柊斗のいた世界と何ら変わりないビルだし、道路にある横断歩道や車線など、身に覚えのあるものも確かにある。


 ただ所々にある機械類が、ここは柊斗の知っている世界ではないと違和感を持たせる。


 車もそうだが、倒れている電柱や道路照明、道路標識が明らかに柊斗の知っているものとは違うのだ。


 電柱はざらざらとしたコンクリートでは無く、時間が経って汚れていなければツルツルとしていそうな白い素材で出来ているし、信号機も一般的なものじゃない。それに電線も少なくさっぱりしている。


 他にも長い棒の先に丸いモニターの様な物が付いている物が地面に刺さっている。

 場所的にあのモニターに何かを映して標識代わりにしているのだろうと柊斗は考えた。


 その他にも色々と違うが、端的にいうと全体的に近代的なつくりをしている。SF映画の世界を現代寄りにしたようなものだ。


 平行世界という訳では無く本当に未来に来ている可能性もあるし、もし平行世界ならば時代の変化点はそこまで昔では無くここ数百年とかそういう単位かもしれない。


 どこまで行っても「かもしれない」という予測の域を出ないが、非現実的な考察が現実でできて密かにテンションが上がっていた。


「ねぇ、君。名前と年齢教えて」


 壊れた車のボンネットから除く部品を観察していたら、銀髪の少女に後ろから話しかけられた。

 振り返ろうとした時、ふと自分の左腕が無い事を思い出し、その腕の断面図が見えないように左半身を隠す様に振り返る。


「名前は月宮つきみや柊斗しゅうと。16歳の高校一年生だ」

「あ、なら同級生だ。教えてくれてありがと。あとちょっとで終わるから」


 そういえば話して無かったなと思い直ぐに名前を伝える。少し意外そうな声を出して、また声の聞こえない距離まで離れて何かを話し始めた。

 軍の話なら聞かせてはいけないだろうが、それでも離れて話されると内容が気になってしまう。


 名前を聞かれたから戸籍を調べられているのだろうか。


(もしそうなら住所とか高校名とか言った方が良かったか? いやでも、この世界に俺の家あるかわかんないしな……というか、俺今住むところが無いな。軍って言ってたし、記憶障害っぽい民間人を放り出したりしないよな……? いや、それは警察の仕事か?)


 そもそも今の俺はこの世界からしたらどういう扱いになるのだろうか。


 「別の世界からきました」なんて言っても頭おかしい奴と認識されて終わりだ。だとしてもそれ以外に言い方は無いし、もし相手が公的な組織なら嘘をつくより正直に話して相手に解決して貰う方が良い。


 それに異能とかいう謎の力があるのだから、未来とか平行世界から人が来るぐらいよくある事だろ。そうであって欲しい。


 それに話を聞く限り俺も異能力者らしい。根拠は左腕の血が止まっている事と、千切れた腕の痛みを感じない事。

 痛みを感じなくても傷口が露出してるのは感染などの問題は残る。


 ただ清潔な布がある訳でも無いし、しばらくは放置になりそうだ。

 銀髪の少女が医療キッドなんかを持っていればいいが、さっき装備が無いと言っていたし期待はしない方が良いだろう。


 どうせなら異能パワーで何とかならないかなぁ、と腕が千切れた患部に意識を集中してみた。


 すると、少し痛みがマシになったような気がした。

 それを感じた瞬間、急いで左腕部分が自分の血で染まっている学ランを脱いで、傷口を見てみると、骨が剝き出しだったり噛み切られてぐちゃぐちゃになった肉が思ったよりグロかった。


 結局痛いけど我慢できるかな、という程度の痛みが収まったが、それでも情報としての収穫はある。


(なるほど、この不思議な力に必要なのは意識と集中か。あの子は身体能力も上がると話していたし、肉体の作り自体が人間と違うのか? これは、もう人間じゃ無くて別の生物な気が——)


 人間と性能自体が違うとしたら細胞分裂がとてつもなく早いとかそういう感じなのかも。

 でも人間の細胞は分裂出来る回数が決まっているとされているはずだ。だとしたらこの考えは違うかもしれない。別に合ってても合って無くてもどっちでも良いが。


 そして、ちょっと試したい事を思いつき、噛み千切れてコンクリートの上に無造作に置かれている自分の腕を拾い上げる。


 傷口にやった事と同じ様に、その腕を体の一部だと考え意識を集中させる。


(よし。まだ俺の肉体判定だ。これならワンチャンあるな)


 まだ腕が千切れてから数分しかたっていない新鮮な腕だからか、肉体から離れていても直接触れていればまだ柊斗の肉体として体に感じる謎の力を流し込む事ができた。

 という事はこの力は神経を通じている訳では無いのか、という様な疑問も出てくるが、それは後だ。


 電話が終わったら異能力者の肉体について聞き、今思い付いた事を相談してみようと考えていると、ちょうど良く通話を終えたらしい銀髪の少女が近寄ってきた。


「ごめん。お待たせ」

「いや、大丈夫だ。迎えは来そうか?」

「うん。分かりやすい場所に出た方がいいから少し移動する」


 それを聞いた柊斗はさっさと出発しよう、という様に歩きだそうとするが、その前に少女の訝し気というか心配そうな声が聞こえてきた。


「……その腕、辛くない?」

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