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第2話 初対面

「——あれ、痛くない……?」


 授業中の一瞬の居眠りの様な感覚で目を覚ました柊斗は、何よりも先に全身から消えている痛みと違和感が消えている事に安堵した。


「っ、なんでこんな所にいるの……!」


 そして急に聞こえてきたのは、少女の声と思われる苛立ちを含んだ悲痛な叫びだった。


 自分以外に意識を向ければ、苦痛で涙が滲んでいた視界には見慣れた自宅の一室ではなく、膝を付いた少女の背中が映った。

 恐らくこちらには気づいていない。


 そして自分がひびの入ったコンクリートの上に寝ている事に気づき周りを観察すると、そこは大地震が起きて数年たったと言われても納得できるほど崩壊した街の道路だった。

 倒れているビルもあれば何か巨大な何かに踏まれたように潰れている廃車もある。


 そして、そんな崩壊した光景には似つかない綺麗な銀髪が広がる少女の背中。

 少し観察して分かった事と言えば、その少女の履いている軍服の様な迷彩柄のズボンから血が出ている事ぐらいだ。


 そして周囲の状況の中でひと際異常なのが、少女の背中越しに見える影のようなモヤモヤが集まってできた狼型の謎の生物。


(マジでなんだったんだ、さっきの頭痛……それに、あの生物はなんだ? この少女に関係があるのか? それにさっきまで家にいたはず……)


「……うん。訳が分からん」

「っ! 誰っ、いつからそこにいた!」


 柊斗の呟きに少女の意識がこちらに向いた一瞬で、狼が襲いかかってきた。


 ――目の前の少女ではなく、その後ろにいる弱っていそうな柊斗《獲物》の方へ。


『グラァァァ!!!!!』

「なッ、逃げて!!!」


 少女は柊斗と狼の間に入ろうと、立ち上がろうとしたのだろう。

 しかし、足を怪我しているからか「ぐッ」とうめき再び膝を付いた。


 その声の意味を頭では分かっていても、先ほどの痛みのせいで鈍くなっている体では素早く反応出来ない。

 それに加え、狼の動きが明らかに普通の生物より速かった。


 それでも目の前から迫ってくる化物も避けようと、体を右へそらす


 ――グチャ


 そして、何かが噛みちぎられたような音が聞こえた。


「いっ…!!!」


 その音と同時に左半身に走る鋭い痛み。


 痛みの発生源を確認すると、そこにあったのは肩から先を失い、血をドバドバと流し制服にへばりついていく血と、ペッと自分の腕をゴミのように吐き出す狼の姿だった。


 それを見て、何が起きたか理解出来た。

 自分の腕がこの生物に噛みちぎられたのだ。


 本来、痛みで気絶したり、混乱と恐怖で叫んだりするだろう。

 腕1本無くなって平気で居られる人間なんて普通居ない。


 だが――


「痛くない?」


 柊斗は大した痛みを感じなかった。


 先程感じた頭痛に迫るどころか、噛まれた瞬間はかなりの衝撃が来たが、その後はそこに異常があると分かる程度の痛みしか無かった。


「腕が……!」


 ただ、どれだけ本人が平気でも周りから見たら片腕を失って呆然としている人間に見える。

 銀髪の少女が悲鳴の様に声を上げるが、柊斗はそれを手で宥める。


「大丈夫だ。それより、あいつがまだ見てる」


 柊斗の腕を噛み千切った狼の形をした黒い塊は、柊斗とその柊斗に駆け寄った銀髪の少女を油断なく見ている。


「大丈夫じゃ無いに決まっ……もしかして、あなたも『異能力者』? どこかでゲートが開いたの?」

「なんのことを言ってるかわからないが、知ってそうだから聞くぞ。アレは何だ。絶対自然の生物じゃないだろ?」

「え? 『害獣アンノウン』を知らないの? なんで?」

「不明という意味のアンノウンなら知っているが、あの化け物の事を言っているなら全く知らん」


 さっきからこの少女と話しているが、俺も少女も狼に視線を向けたままだ。


 柊斗は話しながらなんとか平静を装っているが、この状況を抜け出せる未来が見えず少し焦っていた。


「因みに、ここから逃げれたりあの狼を撃退する方法は? 片方しか逃げ切れないとかなら俺が囮になれるうちに逃げて欲しいんだけど」

「囮になんかしない……。もう大丈夫。距離も取れたし、私が何とかできる」


(この子が何とかする? この狼を?)


 ぱっと見た様子だと、この2~3m以上ある狼に対抗できる道具を持っている訳でも無さそうに見える。


「こいつの対抗策があるのか?」

「うん。私も異能力者だから。装備も付けてなくて足を怪我したから焦っただけ」


 また異能力者という単語が出てきた。色々気になるが、聞くのは後だ。

 強がっている雰囲気も感じないし、相手のことも詳しいようだ。ここは従おう。


「何とかできるなら助かる。俺にできることは?」

「何もしなくていい。少し下がって。でも、離れすぎないで」

「わかった」


 銀髪の少女は先ほどのように急いで立ち上がろうとせず、怪我した足を庇う立ち方で、尚且つ狼から視界を外さずにゆっくりと立ち上がった。


 何をするのかは分からないが試しに1m程離れてみて、それでも少し嫌な予感がしたので2mほど離れた。


 そしてそのタイミングで気づいたことがある。


「血が、止まってる……?」

「その反応、やっぱり覚醒したばっかり。それにしても止血が早いね。腕を取られて痛くないのも……。まぁいっか、せっかくだし、よく見てて」


 数秒前に千切れた左腕の出血が止まっていた。

 この少女の言い方的に、これも『異能力者』とやらの特性なのだろう。


「これが『異能』の力。――おいで」


 少女の声にこたえるようにして、少女の周囲から六本の鎖が生えてきた。

 鎖は二本だけ少女の付近にフワフワと漂い、残りの四本は蛇のような動きで狼へと迫っていく。


 突如出現した鎖を少女が操っている事はその場の状況を見れば明らかだったが、柊斗はそのうちの傍を漂っている二本にその少女以外の意志が関わっている様に感じた。

 その違和感について思考を巡らせる暇も無く、状況が簡単に変化した。


『グルゥ……!!』


 その鎖は鞭のように狼を殴ったり四肢を絡めとろうと動いたりと慌ただしく動き、それを狼は鬱陶しいそうに避けたり弾いてたりしている。


 狼が避けた鎖はコンクリートの地面を大きく削り取り、その威力の高さが一目で分かる。

 それにどれだけ狼が鎖を避けようが弾こうが、その衝撃を無視して直ぐに方向を変え狼の方へ襲い掛かる。


 そして遂に、鎖が狼の後ろ足に絡みつき、動きが一瞬止まった隙に、他の動いていた鎖が首や胴体に巻き付きついた。


「これで終わり」


 そのまま巻き付いた鎖が、少女の静かな声と共に狼を呆気なく絞め殺した。

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